2012年5月28日月曜日

「ヨハネス•ケプラー:近代宇宙観の夜明け」を読む

ヨハネス•ケプラー 近代宇宙観の夜明け


アーサー•ケストラー著(小尾信彌、木村浩訳)
ちくま学芸文庫(2008)


ケプラーの研究内容、研究の発展史、人柄などを詳細にまとめた良書。躁と鬱の間で振動し、矛盾するケプラーの性格が、どうやって偉大なケプラーの法則へと結実していくかが、省略なしに記述されている。ハンガリー人である著者は、おそらくドイツ語とラテン語が読み書きできるはずだ。つまり、ケプラーのメモや著書、手紙などといった第一種の文献に直接アクセスしているはずだ。したがって、孫引きばかりの日本人の科学史の本とは違って、細部にいたるまで丁寧な取材がしてあって、ケプラーの知られざる一面をよく知る事ができる。


実は、周転円のpostscriptプログラミングは、この本にあった「卵形軌道」の再現を確かめるために行った。最初ケプラーは、重力と慣性の効果を、離心円上を回る周転円の中心と、周転円上を回る惑星とが、互いに逆向きに回転することで取り扱った。その結果出てくるのが、卵形軌道だ。面積速度の法則をすでに発見していたケプラーは、この卵形軌道でもその有効性を確認しようとするのだが、いかんせん卵形の面積積分は難関で近似的にやらざるをえなかった。このときの近似に使った曲線がなんと楕円だった。ケプラーは「ああ、この卵が楕円だったらいいのにな」と泣き言をいっていたらしい。が、その泣き言の願望こそが真理だったというオチがついている。それに気付くのに1年ほどかかったらしいが、それをノロマといえるだけの自信は私にはない。なぜなら常人ならば、何年経っても気付かずに、単にあきらめてしまうだろうから。


ケプラーは間抜けでかつ緻密であるという、まさに双極性の複雑な人格だったことがあちこちの逸話に垣間見えるが、いちいち突っ込んでいたら話が先に進まない。ケプラーネタは、ディラックネタにも匹敵する程おかしいはず。研究する価値ありとみた。


第三法則は奇跡だと、高校の頃から思っていた。公転周期Tと楕円の長半径aの関係が2/3乗に比例しているなんて、誰が思いつくだろう?と脱力に近い驚きを感じた。この本を読んだところ、この法則は「果てしない試行錯誤」の結果発見されたと書いてあった。安心したというか、驚いたというか、実に複雑な心境だ。その執念を支えたのは、たぶん宇宙の構造は数字にあり、と思い込んでいた強迫性の精神構造だったかもしれない。なんにせよ、ケプラーは史上最高の間抜けで執念深い天才であることは、万人の認めるところだろう。

2012年5月26日土曜日

金環食の全行程のまとめ

天文ファンがよくやる方法で、金環食のデータをまとめてみた。まずは前半部分のサマリー。ほぼ5分おきに撮影したデータをgimpで合成していく。色合いの均一化は面倒だったのでやってない。

May 21, 2012の金環食。
信州にて観測。

postscriptで周転円を扱う

「周転円」の概念は、古代ギリシアのヒッパルコスが天文学に導入したものだ(もともとは幾何学としてアポロニウスが発明)。その後数百年に渡って弟子らによって磨きがかけられた後、紀元2世紀頃、プトレマイオスによってついに完成された(それが正しいかどうかは別にして)。しかし、周転円というのは、複雑な惑星の運動を、「地球中心」かつ「等速円運動」という宇宙観(建前)を壊さずに説明するための「テクニック」にすぎない。小手先のテクニックを使い続けても、やがて観測とのズレは無視できないほど大きくなってしまう。そのため、この「テクニック」は真理を語っていないと、歴史は見切ることになる(それをやったのはケプラー)。

一般に誤解されがちだが、コペルニクスの理論は全ての解決をもたらしたわけではない。(たしか、中学くらいの教科書ではコペルニクスが全てを変えたと教えていると思う。)彼自身も、太陽を宇宙の中心にもってくるだけでは観測とのずれを解消することができないことを知っていた。そこで、結局は「コペルニクスの理論」では、周転円のテクニックを利用してしまっている。(実は、このことは、つい最近知ったばかり...コペルニクスの「天球の回転について」の日本語訳(岩波文庫)では、周転円の部分の議論が省かれてしまっていて、つい見逃してしまうが、英訳本を最近購入したら周転円がちゃんと載っていた。しかも、コペルニクスは周転円に周転円を重ねるという「暴挙」もやってしまっていた。なぜ「暴挙』かというと、コペルニクスは、プトレマイオスの天動説の理論があまりにも複雑なのが気にくわなかったから、地動説をつくったのに、周転円を重ねて理論を複雑にしてしまったら、どっちもどっちになってしまうからだ。実際、計算値はプトレマイオスの理論も、コペルニクスの理論も似たような精度しか出なかったそうだ。)

とはいえ、周転円は自分で描いてみると意外に面白い。正直はまる。postscriptを使うと気軽にきれいな図形をたくさん描けるので、ちょっと遊んでみた。(とはいえ、これは講義で使うためにやっているんだが。)

少しパラメータを変えてみると、花のような図形が出来た。まずは梅から。
ωは周転円(C')に沿って回る「惑星」(P)の角速度。
Ωは円Cの周りにまわる、周転円の中心(E)の角速度。
ωの値を負にしたり、2つの周波数の比を割り切れない整数比にしたり、といろいろ試すことができる。半径の比を変えてみても面白い結果が得られる。ところで、ω/Ω比を1にすると楕円が出てくる。実は、ケプラーが楕円を思いついたのは、周転円に頼ったかららしい。もちろん、楕円における「焦点」の概念を正しく導入するから、単なる周点円がつくる楕円ではない。それにしても、歴史は思いの外つながっているものだ、と思った。

ところで、この方法で作ったちょっと複雑な周転円による軌道をepsにコンバートし、LaTeX文書に埋め込んで使おうと思ったら、変なエラーが出てdviが作れない。もちろん、エラーを無視してpdfまでもっていっても全然だめ。散々苦労していろいろ試したが、次の方法で切り抜けることができた。

まず、ポストスクリプトのプログラムをopenで開く。Mac OS Xは自動的にpdfに変換してくれるから、acrobat readerでスナップショットを撮って、previewで画像ファイルに直す(たとえば、pngなど)。注や座標軸を書き込むなど、ちょっとした修正を行うため、いったんkeynoteで読み込む。そしてpostscriptとして書き出す。

この出力ファイルは、うまくLaTeXで読み込んでくれるときもあるが、失敗することもある。失敗したときは、ps2psを行う。どうして、psからpsに変換するのか不明だが、扱いやすいpsファイルというのがあるらしい。理由はともかく、この方法でLaTeXが処理しやすい形にしてからLaTeXを走らせると、うまくdvi、そしてpdfまでコンパイルすることができた。大切なポイントはps2psだと思う。

2012年5月23日水曜日

iMovieを使って編集:ベイリービーズの映像

iMovieを使ってみた。今まで使う機会がまったくなかったのだが、ベイリービーズのビデオにタイトルとエンドロールを入れてみた。Core2duoのMacbook Airでは、しかし、さすがに映像編集はきつい処理と見えて、たった数分の動画を作るのに数時間も要した。これは、新型のMacbookを買う必要があるかもしれない。こんなに大変なんでは、日常的な作業とはなり得ない!

使い方はよくわからないが、GUIなので直感でいじってみる。まず起動すると目につくのが画面左上のセクション。プロジェクトライブラリとある。「新しいプロジェクトを始めたいなら、ここに動画/画像をもってこい」と書いてある。iPhotoを開いて、動画(.mov形式)をdrag+dropする....が、跳ね返されてしまう...何度やっても同じ。動画を受け入れてくれない。ここでまず挫折しそうになる。いろいろ試してみたが、結局答えは、(1)新規プロジェクトではなく、新規イベントを作る。(2)右下に新しいイベントの見出しが出てくる。(3)動画ファイルは、このイベントの見出しに向けてdrag+dropする。

これで、ようやくビデオの編集ができるようになる。音声を消去し(ごちゃごちゃ一人言をいいながら撮影していると、全部記録されてしまう....)、タイトルとエンドロールを付けてみた。作業はもの凄く重い。やはりcore2duoではキツいのか?

最後に共有のセクションから、movで書き出し、を選ぶ。ここで一番驚いた。書き出しには一時間以上もかかる!!!この段階でMacを付けっ放しにして寝た。翌朝見てみると、うまい具合に.movファイルができていた。

さっそくyoutubeに投稿してみる。

やっぱり、ベイリービーズは動画でみないとね。予想もしない場所に突如現れて、はかなく消えていくのが、本当にすばらしい。(youtubeにはワイド画像で投稿したので、このブログ内の映像として見ると、右端の部分が切れてしまいます。画像内の左上のリンクをたどって、フルサイズで見るといいです。)

2012年5月21日月曜日

金環食の観測:ベイリービーズ

晴れた。快晴だった!神様ありがとう。

食が9割を越えた所で、辺りが知らないうちに薄暗くなっていた。色はたしかに青いのに、なんとなく「黒くて青い」空となる。強いコントラストを効かせた写真のようだ。そして寒い!息が急に白くなって驚いた。まるでエクソシストの化け物が出てくる時のよう。金環食は明るいから結構普通の感じ、と聞いていたが、そんなことない。不思議な体験だった。

ベイリービーズは一瞬の勝負。カメラで5秒おきに細切れで撮影したものより、ビデオで流して撮影したものの方がいいのがあった。だいたい、ビーズが形成される順番がすばらしく綺麗。順番に端から出てくると思ったら、出てくる順番はランダム。まるで宝石が輝くように現れた!

静止画にしてしまうと、その醍醐味がなくなってしまうが、ビデオ映像を切り取ってみた。それなりにきれいだと思う。
現れたベイリービーズ。ビーズの出る順番が
バラバラなのが美しい。


2012年5月20日日曜日

金環食への最後の準備:シミュレーション2

これまでは、NDフィルターの性能確認。次に、stargazeから購入したND1E5相当のソーラーフィルターの性能確認をしてみた。
左がケンコートキナーのNDフィルターで、
右がSTARGAZEのソーラーフィルター。
フィルターの性能は可視光に関してはほぼ同じで
100000分の1の減光。それ以外の撮影条件は同じ。

Stargazeの方が暗い。晴天時には、目を保護するという意味ではいいのだろうが、明日のように曇り空が想定される場合は、望遠鏡の視野に太陽を入れるのがかなり難しくなりそうだ。天候によっては、A80Mfによる観測は取りやめて、望遠レンズのみの観測にしてもいいかもしれない。

ちなみに、NDフィルターの説明書によると、50%欠けたところで光量は約半分になり、今回の金環食(表面の90%覆われる)では約1/10になるという。

もし、今日のような曇り空となるならば、既に晴天時の10分の1の暗さになっているので、金環食のピーク時には、さらにその10分の1、つまり晴天時の1/100となるだろう。とすると、欠け始めがND2.56E4で丁度よかったとすると、ND16を外して、ND400x4のND1600相当のフィルターにする必要があるだろう。ということは、フィルターを重ねる時、一番外側にND16を付けておいた方が便利だろう。こうすれば、シャッタースピードをいじらなくても、フィルターを外すだけでうまく撮影できるかもしれない。

最後に絞り値の調整。いろいろ試してみたが、はっきりはその効果を確かめることはできなかった。曇り空なので、f/8.0くらいでいいような気がする。それより小さな値にすると、後光がさしてしまうので、止めておこう。またND400一枚だけだと、曇り空とはいえ、さすがに太陽は明るいのでオーバー気味になる。やはり、フィルターは組み合わせて使うべし。
絞り値の確認、および低倍率のフィルターの効果の確認。
右下の赤い太陽は、画像処理して黒点を見やすくしたもの。

金環食への最後の準備:シミュレーション

ちょっと寝坊してしまったが、明日の金環食に合わせて午前7時頃の太陽の高度や、明るさなどの確認を行った。tenki.jpでは現在の天気は「晴れ」となっているが、アメダスの日照量を見ると「0」。多分、明日の朝の「曇り空」というのに多少は似ているだろうと思われる。(もしかすると、もう少し雲が厚いかもしれないが。)そこで、このチャンスを生かして、曇り空で太陽がどんな風に撮影できるか試してみることにした。

まず全景から。通常の広角レンズを使っての風景写真。iso800, 1/500secで撮影。画像処理で露出を抑えて太陽の位置をはっきりさせたもの。
金環食前日の朝の天気。7:30amころ撮影。
肉眼で見ても「曇り空」の状況。雲の向こうに太陽が光っているのは分かるが、青空に輝く眩しい太陽という姿からはほど遠い。白い太陽だった。

まず説明書通りの設定で撮ってみる。ND100,000(ND1E5)フィルターを用いて、iso100, 1/2000sec, f/8.0。これと同じ設定で、快晴のときの太陽を撮ったのは昨日のこちらの写真。一方、薄曇りではどうなるかというと、下の写真のようになった。
ND1E5, iso100, 1/2000sec, f/8.0
真っ暗(でも微かに太陽は写っている)。ファインダーに入れるのを最初は諦めてしまったほどだった。画像処理してもどうにもならないレベル。ただ、どのくらい欠けてきたか程度だったらなんとか記録できるかも。とはいえ、この設定で記録するのは間抜けなので、少し設定を変更してみた。

ND1E5, iso100, 1/100sec, f/8.0
だいぶ良くなってきた。少なくとも、金環食で一番大切な「太陽の形」がわかるようになった。黒点に関しても、画像処理すればなんとかなる感じ。1/100秒だとちょっと長過ぎるようで、露出オーバー気味。1/200秒くらいが丁度よいような気がする。つまり、薄曇りの日は、ND1E5を使った場合には1/10程度まで光量が落ちるということだろう。ということは、ND10,000を使って1/2000秒でとってもいいということになる。しかし、フィルターで暗くしすぎた光を画像処理でなんとかするよりは、もともとの光の持っている情報をうまく利用した方がいいような気もする。

残念ながらND10,000は手に入らなかった。が、幸いなことに、ND400 x ND16 x ND4の組み合わせで、ND25,600(ND2.56E4)を作ることができる。さっそく撮影し、ND1E5の場合と比較してみた。
フィルター以外は、同じ条件(iso100, 1/1000sec, f/8.0)で撮影した
5/20朝の太陽の様子。左がND2.56E4、右がND1E5。
やはり、25600分の1の方が明るくかつ、きれいに撮れる。黒点の滲みなんかもちゃんとわかる。明日の朝、もし同じように雲がかかっていたら、ND2.56E4でやってみようと思う。一応、今晩は試す撮影条件のリストを徹底的に書き出しておいて、当日は考える事無く「これがだめなら、あれを」と言った具合に淡々と試していく体勢にしておこう。

一番大切なのは「欠け具合」であって、黒点の観察ではないことを忘れそうであった。太陽さえ空に出て来てくれたら、とにかくそれで満足だ。(神様お願いします。)

2012年5月19日土曜日

金環食の観測準備

金環食が迫ってきた。1年かけてゆっくり準備しようと思っていたら、あっと言う間に月日は流れてしまった。

この一年で準備したのは、まず投影板。Vixenの純正で約1万円した。結構高い。投影板の観測で一番勉強になったのは、太陽の軸決め。正確に言えば、地球の回転方向を利用して、太陽の上下を定義する方法。しばらく流して(地球の自転のこと)、黒点の動く方向を見極めてから、黒点の位置を記録する。地球の回転は意外に速いし、投影板は触れるとぶれてしまうし、手書きの黒点記録はとても大変だった。そこで、カメラでバシャッと撮ってしまう方法に切り替えたが、投影板の撮影では必ず像が斜めになってしまうから、記録した画像の座標変換が必要になる。計算が案外ややこしくて、未だに解いてない....投影板の観測は、でもそれなりに楽しくて、結構長い事やってしまった。おかげで、ファインダーを使わず、影の面積が最小になるように望遠鏡を太陽に合わせる方法も身につけることができた。

次に購入したのが、ソーラーフィルター。つい最近、Stargazeという天体観測機材の専門店から購入したばかり。5000円ほど。A80Mfの口径に合わせてフィルターを加工してくれるのは嬉しい。でも、それが厚紙のソケットなので、はっきり言って消耗品。せめて、薄手のプラ板か何かにしてくれたら、もう少し長持ちすると思うのだが。それでも、フィルターを使って望遠鏡で観測する黒点は、投影板と違って黒点の滲みなんかもよく写る。このフィルターの安全性はなかなか高く安心して使えるのもいい。性能は可視光は10万分の1減光。赤外線に関しては、テレビのリモコンの赤外線を使って透過実験をやってみたところ、まったく透過しない。OKだ! 電話で問い合わせてみると紫外線もよく遮断するようデザインされているそう。安全第一で設計されているとのこと。さて、フィルターを使うと「黒点流し」の方法で太陽の座標を決めることができない。最初はどうしたらよいのかちょっと困ったが、ネットサーチしてある方法を知った: 30秒間隔でペア写真を撮っておけばよいのだ。得た画像をPCで解析して、太陽の座標を数値的に決める事ができる。javaで書いたプログラムを使って、回転角度の計算をしたりした。軸を揃えた画像を比較暗合成して、黒点の移動の様子を調べたり、太陽の自転軸の角度を調べたりした。フィルターのお陰で、ずいぶん黒点観測の解析が進んだように思う。やっぱり、楕円から円への座標変換をしなくても、最初から丸い太陽で写ってくれた方が解析はやりやすい。ただ、このフィルターは10万分の1に減光するので、ちょっとでも雲がかかると像が写らなくなってしまう。快晴のときしか観測できないとなると、機会が限られてしまう。黒点観測は毎日やるのが基本なのでこれは不利だ。何より肝心の金環食本番で、ちょっとでも太陽が雲に入ったり、薄雲がかかったりしてしまうと、肉眼では見えるのに望遠鏡で見つからない、なんていう恐ろしい事態だってありえる。Stargazeに「もう少し減光度合いの弱いものも作らないのか?」と聞いてみた所、その予定はないとのこと。10万分の1の製品を作るだけで手一杯というのが理由。残念。

そして昨日、ついにNDフィルターが手に入った!品薄で、入手困難だと噂されていたので、あまり期待はしていなかったのだが、間際になってなんとか手に入れることができた。(ちょっとした奇跡かも。)これはカメラの望遠レンズに付けて利用する。ケンコー•トキナーのND100,000で、15,000円足らず。結構値は張るが、stargazeのソーラーフィルターに比べれば、割安なのは明らか。肉眼で覗いてみると、太陽が白く見えた。説明書に依ると、iso100, f/8.0で1/2000secにするとよく撮れるというので、さっそく手撮りしてみた。1/2000秒なら意外に手ブレは目立たない。
快晴の正午頃に、真上を向いて手撮り。手ブレがあまり目立たない!
今日は快晴だったので、ND100,000で丁度うまく撮影できた。しかし、金環食の本番では、曇り空の可能性が高いらしい。ND10,000を手に入れておきたかったが、こちらはさすがに売り切れ。まあ、金星の日面通過の観測のためには買っておいたほうがよいだろう。その代わり、ND400とND8を手に入れることが できた。それぞれ、8000円と4000円程度の値段。このフィルターはねじ込みで組み合わせが効くので、合わせて1/3200にすることができる。これなら、霧や曇り空などの様々な状況にも対応できると思う。

これで、機材の全ては準備できた。明日一日使って、高度の確認や露出のテストなどをやってみようと思う。CD-1を使って大まかにでも追尾できれば、撮影は楽になると思うので、夜の間に極軸合わせをやっておいてもいいだろう。

天気予報だが、一週間以上前の予報でみた絶望的な状況から、改善しつつあるように思える。(一週間で予報がころころ変わるということは、天気予報は当たらないということを暗示しているのだろうか。)
JWAによる金環食当日の天気予報。
左から、5/11, 5/16, 5/19に発表されたもの。
金環食は、意外にコースから外れた所で観測した方がおもしろいかも。角度がつけば、なんらかの天文量の計算ができるかもしれない。





2012年5月14日月曜日

獅子座の3つの銀河:M65, M66, NGC3628

春の銀河撮影のもうひとつが獅子座のM65, M66。これにもう一つNGC3628を加えた三つどもえの銀河団を撮ってみた。昨年の手ブレ写真よりも進歩しているが、いまひとつぱっとしない。
獅子座の銀河団
ポイントはNGC3628の暗黒帯。辛うじて今回の写真には写っているが、もうすこし綺麗にとりたい。夜空が真っ暗にならないのも気に入らない。やはりCD-1ではこのあたりが限界なのか?それとも、自分の極軸合わせの技がまだまだなのか?

M104(ソンブレロ銀河)に再挑戦

せっかくの暗い夜空だったので、今年もM104ソンブレロ銀河に挑戦してみた。からす座は高度が低く街の明かりと被る。おまけに低緯度の天体は回転(地球の日周運動による見かけのもの)も早いので、像がぶれやすい。ソンブレロは銀河平面の細い暗黒帯がポイントだけに、像がぶれるとコントラストが落ちて見難くなってしまう。

感度を落として長時間撮影したいところだが、CD−1の極軸合わせは意外に難しいので、感度を上げざるを得なかった。コンポジット処理して、ザラツキを軽減すればよいが、時間がなかったので、とりあえず一発撮りのものを。iso12800で20秒の露出。

M104ソンブレロ銀河
昨年よりはぶれが少ないが、それでもまだ流れている。辛うじて暗黒帯は浮き出ている。コンポジット処理でどこまでクリアにできるかが次の問題。

2012年5月13日日曜日

強風の中のM101:超新星爆発SN2011fe?

連休が終わって、いつもだったら初夏の陽気が気持ちいい季節のはずなのに、ヒンヤリを通り越して冬のような寒さになった。手袋をはめ、強風が時折吹く中、春の星座の観測をした。今晩は月の出が遅く、久しぶりの暗い夜になったので、普段は撮影が難しい暗い銀河にチャレンジすることにした。思い切って北斗七星のM101を選んでみた。

風に揺られないように、露出時間は短くした。そのかわり、感度を上げないと暗い銀河は写らない。しかし、感度を上げすぎると粒子が粗くなってしまい、細かい銀河の構造が見え難くなってしまう。今回は構造のことを気にするより、とりあえず久しぶりのM101を見てみようと思い、感度を一気にiso12800に上げて撮影した。

とりあえず、撮った写真の内8枚を選んでcompositeをgimpで行った。合計9分強程度の露出時間。予想通り、粒子が粗くなって、銀河腕の構造がわかりにくくなってしまった。しかし、昨年の撮影よりクッキリ撮ることができたと思う。



そういえば、昨年の8月に超新星爆発(SN2011feと呼ばれる)がこの銀河で見つかっている。超新星爆発はだいたい一年くらいで暗くなってしまうが、今ならまだ間に合うかもしれないと思い、拡大して調べてみると、それらしい場所に星が見つかった。これは多分超新星爆発だと思う。来年の観測結果と比べてみれば、はっきりするだろう。
SN2100feらしき星。

2012年5月12日土曜日

学生たちの反応

学生達に「原発は必要か?」と聞いてみた。8割の学生が「必要」と答えた。

聞いてみると、小中学校の社会や理科で、「原発は安全だと習った」とか、「石油が枯渇する以上、原子力しかない」とか、どこぞのお役人や電力関係の人たちが言ってることをオウム返しのように言う。政府によって、義務教育の場がうまく「活用されている」と感じた。国策として原発を進める、という意味が今日よくわかった。小中学校で習うべき事はあんまり習って来てない割には、こういうのだけはよく心に刻まれるようだ。

てっきり、60歳以上の自民党支持世代だけが原発容認かと思ったら、新しい世代も同じだった。子供は親の鏡ということか?自分で考え判断する「本当に新しい世代」はまだ生まれてない。

2012年5月10日木曜日

豪徳寺と渋谷のセシウム汚染:線形仮説は崩壊

以前予想した東京西部のセシウム汚染分布に関する「線形分布仮説」を確かめるべく、豪徳寺(世田谷区)と代々木公園(渋谷区)の土壌を採集し、ベクミルで検査を行った。

豪徳寺は、世田谷区役所の近くにある。共にレベルC(500Bq/kg程度)の汚染を記録した、北の丸公園と川崎の丁度中間地点にある。汚染分布の対称性を仮定すれば、豪徳寺駅周辺がセシウム汚染が最小(予想では130Bq/kg程度)となるのではないか?と仮説を立てたわけだが、果たしてどうだったのか?

まず、豪徳寺周辺の道端で線量測定を行う。いつものJB4020のRAMI値(30秒間隔でそれまでの平均値を計算し、収束したところの値を採用するやり方)は0.12μSv/hだった。一方、新しく導入したDoseRAE2では0.11μSv/hを記録した。今までの経験からすると、この値だと結構な土壌汚染があるはずだ。たしか、東大本郷は0.12μSv/hで2000Bq/kg程度だった。次に、線量を測定した場所で泥を採集した。

せっかく来たので、豪徳寺にお参りする。豪徳寺の様子はこんな感じ。
豪徳寺の様子
豪徳寺は招き猫の発祥の地らしいが、それはともかく、境内の新緑の緑が美しい。その林の木々を縫って、隼が一羽、目の前の梢にとまった。至近距離に5分も止まっていた。こんなに野生の隼を間近でじっくり見たのは初めてだ。東京24区内とは思えない、すばらしい景色だった。原発事故の醜さとは、まったく正反対の世界に思える。が、現実は、ここですら醜悪なセシウム汚染があるかもしれないのだ。

一方の代々木公園だが、こちらは渋谷区にある。渋谷の駅をハチ公口から出て、有名な交差点を渡ってしばらく歩くと坂道になる。この坂道を登りきったところにあるのが、NHKの本店。そこをさらに抜けて突き当たったところにあるのが、代々木公園だ。駅から歩いて30分もないだろう。この距離なら、代々木公園の汚染は、ほぼ渋谷の汚染と考えていいと思う。

代々木公園はとても広いので、もしかすると場所によって汚染具合が違うかもしれないが、今回は時間がなかったので、NHKホールに対面する公園の入り口付近で採集するだけにした。この場所の線量を測ってみると、JB4020で0.11μSv/h、DoseRAE2で0.12μSv/hだった。豪徳寺と似たような線量となった。ここは、木々に覆われて、林のようになっている場所だ。昼間でも薄暗い。かなりセシウムが沈着していそうな雰囲気だが、線量はそれほど高くなかった。しかし、東京でこの程度の線量が出るときは、概して土壌汚染は結構ひどいはずだ。
代々木公園入り口。木々の向こうは(道路を挟んで)NHKホール。

さて、今回の土壌測定は初めてのベクミル柏での測定となった。勝手がわからず、あちこちで手間取って随分到着までに時間がかかってしまったが、無事なんとか測定することができた。その結果が、次のスペクトルだ。
代々木公園と豪徳寺のγ線スペクトル
今までの測定結果と比べると、レベルBの汚染地帯に属すると判断できる。レベルBの汚染は、だいたい1000Bq/kgの放射能汚染に相当する。代々木公園、豪徳寺ともに町田のスペクトルによく似ている。上野と比べると若干低い。

この結果から、渋谷も世田谷区中心部も、土壌は意外に強く汚染されていることが判明した。つまり、以前立てた仮説はまったく間違っていたということだ。豪徳寺周辺は汚染が最も弱いどころか、東京の中でも結構汚染が強い部類に属している。(なぜか、成城や砧、そして川崎の周辺だけが、汚染が弱くなっているようだ。)町田、世田谷、渋谷、そして上野が同じ程度の汚染だということは、東京のほとんどは実は強い汚染があって、例外的に多摩川周辺の地域だけがなんらかの理由で汚染が弱まっているのかもしれない。あるいは、東京の汚染は斑模様になっているのかもしれない。いずれにせよ、この結果からわかるのは、安易な仮説を立ててもなかなか当たらないということだ。セシウム汚染の分布図は意外に複雑で、頭が痛い。

それでも、これまでの結果をなんとかまとめてみることにしよう(ちょっと強引だが)。今回は、皇居からの距離(キロメートル)を横軸にとって、最小二乗法に従って4次曲線でフィットしてみた。
東京西部のセシウム汚染の分布。4次曲線で無理矢理フィットしてみた。
右部分の曲線の落ち込みはこれほど急ではないだろうと思う。
奥多摩がホットスポットになっているという噂もあるので。

その精度は高くないが、見えてくるのは多摩川を中心にした「ふたこぶ」構造だ。なにか地形との関連はあるのだろうか?二子玉川や田園調布の方に今度いってみよう。また、多摩川の河原沿いには局所的にものすごい線量の場所もあるようだし、雨水で流れて多摩川にセシウム汚染土壌が流れ込んでいる可能性もある。多摩川の河原の汚染が気になる。

地図上に結果をまとめてみるとこんな感じ。
東京西部のセシウム汚染分布。
黄色ピンがレベルB、青がレベルC、水色がレベルD、
緑がレベルF。桃色はレベルA.


2012年5月6日日曜日

連休の天体観測: M51 渦巻き銀河

連休の前半は、月も無く晴れた夜空が広がっていたので、久しぶりにCD-1を使って銀河の撮影を試みた。昨年compositeの技術が無かった頃に撮ったM51は、CCDの熱電流の斑模様で覆われていたが、渦巻きの形が見えただけでとても感動した。今度はコンポジット処理して、より品質の高い画像を目指した。しかし、時間がなくて微妙な調整をおろそかにしたため、あまり品質のよい写真が撮れなかった。が、練習だと思って最後まで処理をしてみた。確かに、斑模様はあまり目立たなくなった。しかし渦構造が思った程鮮明にならない。やはり一枚一枚の精度を上げないといけないようだ。また、残念ながら超新星は写ってない。既に暗くなってしまったのだろう。残念。


太陽黒点の比較暗合成:長所と短所

gimpを用いて太陽黒点の合成写真を作ってみた。これが意外に面倒くさい。

まず、太陽の方向を決めないと合成しても訳がわからない結果となる。地球の自転のせいで、測定時間に応じ黒点の見かけの位置が回転してしまうからだ。地球の自転の効果を抜いて、黒点自体の運動だけを見るには、太陽の「向き」を決めないといけないが、クレーターとか、輪っかとか形状の特徴を持たない太陽では、この「向き」を決めるのが一苦労だ。もっともよく使われるのが、(皮肉なことに)地球の自転を利用する方法。地球の自転方向(東西線)を利用して、太陽の「方角」を決定する。カメラの水平座標と、自転方向とが成す角度を測り、その角度分だけ太陽画像を回転させればよい。時間に依らず、常に「東西」に平行な写真が得られるので、合成したときに黒点移動が直線に乗るようになる。

投影板を使った観測では、望遠鏡を固定して、しばらく黒点をじっと眺めていれば、黒点が次第に板上を動いていくので、数秒間隔で位置を記録していけば自然と「東西線」が得られる。しかし、フィルターを使って写真撮影するときは、この方法は直接は使えない。投影板での知見を生かせば、デジカメ観測の場合は次のようにやれば簡単に東西線が得られる。まず、黒点の写真を撮る。望遠鏡は固定する。30秒待ってから、再び写真を撮る。2枚の写真をPCで比較すれば、自転の分だけ移動しているから、東西線が決まると言う訳だ。投影板と全く同じ方法にするならば、いったん2枚の写真を合成することになる。このとき、対応する黒点を結べば、それが東西線になる。

しかし、この方法だと数値処理がやりにくいので、いっそのこと太陽の中心を画像解析して計算し、それをもとに東西線を決める方法を今回は採用してみた。円の中心は3点の座標がわかれば、簡単な代数幾何で(連立一次方程式の解)計算することができる。時間をずらして撮った写真で、太陽の中心座標をそれぞれ算出する。これから移動ベクトルが得られ、「東西線」の方向の情報を得る事ができる。ベクトルの成分の比は東西線の角度の情報を持っているから、三角関数の知識を利用して(arctanを使う)角度を求める。gimpなどの画像処理ソフトで、この角度分だけ元の画像を回転させれば、常に地球自転の軸(つまり北)に整列した画像が手に入るから、この画像を合成して黒点の連続写真が得られることになる。

黒点の位置の座標は、gimpやgnuplot(今回はgrabを使用した...)などにあるマウスの矢印の座標を教えてくれるソフトを用いれば測る事ができる。この座標を太陽中心からの相対座標に変換し、さらに回転させればよい。相対座標と回転変換のプログラムは、今回javaで書いた。まだGUI化してないが、そのうち、回転と重ね合わせまで一体化したGUIソフトでも開発してみたら、黒点観測がもっと楽しくなるだろう。

右:gimpで比較暗合成したもの。黒点の移動の様子が分かる。
左:画像解析した結果をまとめたもの。
並んだ黒点を結ぶと、太陽の自転方向が分かる。地球の自転軸とずれているのがわかる。国立天文台のホームページに、その日の太陽自転軸の角度を計算してくれるページがある。知らなかったのだが、いつも同じ角度ではなく、時間によってぶれるらしい。上の観測に対応する期間で計算してみると、だいたい23から24度程度。
地球から見た太陽自転軸の傾斜角度の計算。
国立天文台のホームページより.
(http://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/cande/sun_spin.cgi)

重ねた時、黒点の列が微妙に直線からずれるのは、この揺らぎのせいかもしれない(もちろん測定誤差や数値誤差もあるだろうが)。

次に気付くのは、太陽の周縁部における黒点の(見かけの)移動速度よりも、中心部の移動速度の方が圧倒的に大きいことだ。これはガリレオとシャイナーの論争で決着した有名な現象だ。シャイナーは黒点を「惑星」だと考えたが、ガリレオは「太陽の模様」と考えた。2人は、天動説と地動説でも論争を繰り広げた、因縁のライバルだったようだ。どちらの論争もガリレオに軍配が上がった(だから、シャイナーの名前は歴史の片隅に消え、ガリレオの名前は明るく輝いたのだろう)。今年は、金星の日面通過があるから、黒点の移動の様子と比較することで、惑星/模様の比較研究を行う事が同時にできる!

最後の考察ポイントは、(写真によく現れている)周縁減光の現象だ。比較暗合成すると、よくわかるようになる。つまり、太陽の周縁部の方が、中心部よりも暗くなる現象だ。これは太陽の厚みによるもので、詳しい理論的説明はシュバルツシルトによって与えられたという。シュバルツシルトはブラックホールを最初に予言したドイツの天体物理学者だ。減光のプロファイルの関数系を数値的に読み取れればいいのだが、それにはより高度が画像解析のテクニックを学ぶ必要がある。こちらはまだ勉強中。

gimpで初めて比較暗合成を使ってみた。黒点が一列に並ぶのは見事だ。しかし、画像が全体的に暗くなってしまうのが難点だ。最後に輝度を上げたらいいのだろうか?(うまくいくことはいったが、黒点の構造が見難くなってしまった。)

2012年5月3日木曜日

DoseRAE 2を購入する

同僚が昨年購入したDoseRAE 2は、CsIを使ったシンチレータ式の線量計で、JB4020やRD1503などのガイガーカウンタに比べると、動作がとても安定していて「いいな」と思っていた。でも、値段が張るのでなかなか手が出せなかった。しかし、ここに来て随分値段が落ちてきたので、やっと購入できるようになった。Air Counter Sには非常にがっかりさせられただけに、DoseRAE 2には期待している。

しかし、購入してまもなく、2、3の問題点が発覚した。この点については別の人も気がついていたようで、この機械の特徴のようだ。DoseRAE 2の表面には+印が印字されている。おそらくここに検出器があるのだろう。ここを手で軽く叩いてみると、線量が突然跳ね上がり、とてつもない値が表示される。(頑張って叩き続ければ、20μSv/hも夢ではない。)衝撃に弱く、誤作動を起こしやすいようだ。これは故障というよりは「バグ」だろうと思われる。ぶつけたり、落としたりしないよう、注意して使用した方がいいだろう。

同じような問題が、ポケットに入れておいて取り出したときにも生じる。多くの場合、2から3μSv/hという大きな値が表示されていて、とても驚く。実は内部被曝していて、体内から大量の放射線が飛び交っているんじゃないか、と不安に思ってしまうかもしれない。が、よく考えればそんな訳はない。これも「バグ」の一つだろう。静電気に弱いのではないか?と考える人もいるようだ。

そこで、+印のところを軽くこすってみた。60秒程こすってみると、たしかに若干値があがった(例えば、0.08から0.09へ)。でも、叩いた時に比べればたいした変化ではない。また、ポケットから取り出したときと比べても随分低い値だ。数分も経つとまた元の値へと戻る。いろいろ試してみて分かったのは、ポケットに入れておくと歩く度に揺すられて、一緒に入れてある鍵とか小銭が+印のあたりにぶつかり、その衝撃で誤作動を起こしてしまうということだ。つまり、叩いたときと同じような状況になって、高い線量の値が表示されてしまうのだ。こんなときは、ポケットから出して、数分「安静」にしておくと正しい数値に数分で戻る。

もう一つの問題は、高線量時における不安定性だ。高い線量といっても0.3から0.5μSv/hの範囲の汚染だ。これは、柏だとか、軽井沢などで比較的線量の高い場所に相当する汚染地域に相当するだろう。(私の場合は、軽井沢でこの問題に気付いた。)いつものJB4020との比較を通じて、もうすこし詳しく見てみよう。

最初に、低線量地帯での測定を見てみる。最近行った東京大学の駒場キャンパスを例にとろう。駒場には数カ所湧水があるが、その中でも一番大きいのが一二郎池だろう。駒場寮が壊される以前には、ここはジャングルのような状態で人が容易には寄り付けないような場所だった。現在、その頃の面影はまったく失せてしまい、よく整備されて憩いの場所のようになっている。昔の状態しかしらない人が今の一二郎池を見たら、きっと腰を抜かしてしまうだろう。この池の畔で線量測定を行った。
駒場の一二郎池
JB4020に合わせ、30秒間隔で計20回の測定を行い、後でRAMI解析を行った。その結果、この場所の線量は0.12μSv/hとなった。低線量といっていいだろう。同じ場所で、DoseRAE2でも測定を行った。同様にRAMI解析を行うと、見事にJB4020と一致し、0.12μSv/hとなった。結果をグラフにまとめたのが次の図。
JB4020とDoseRAE 2の比較(低線量地点にて)。
R1のグラフはJB4020のRAMI解析、R2はRAE2のRAMI解析。
各々の測定データを見ると、JB4020の揺らぎはいつものように大きい。一方、DoseRAE 2の方はとても安定している。面白いことに、RAMI解析すると、JB4020もDoseRAE 2も、揺らぎが少なく、安定する。その振る舞いはよく似ていて、両者ともに0.12によく収束した。

特筆すべきは、測定開始後5分を過ぎてからのDoseRAE 2の挙動で、そのRAMI値と個々の表示値が一致している点だ。つまり、RAMIの計算をしなくても、表示値を読めばいいということだ。これはおそらく、DoseRAE 2のソフトウェアのアルゴリズムは、RAMIに非常に近いものになっているからだろう。つまり、低線量地域では、JB4020のRAMI値は、DoseRAE 2の(表示値の)収束値と一致していると考えていいだろう。だとすると、計算が不要な分だけDoseRAE2は便利だということになる。しかし、その性能はRAMI解析を通せば両者共に等価だから、安いガイガーカウンターだからといって侮ってはいけない。単に計算が面倒だというだけだ。(測定時間はそれほど両者で差はないだろう。というのは、RAE2でも表示が落ち着くまで待たないといけないが、それにはだいたい5分くらいは必要になるからだ。)

次に、高い線量地点での、両者の比較を行う。例として、軽井沢にある、とある別荘地の測定結果を見てみよう。この場所の標高は比較的高く、1200mほどある。ちょうど、セシウムプルームが移動してきた高さにあるため、その汚染は軽井沢の繁華街などに比べると、かなり高い。
軽井沢(1200m)の高線量地点での測定。
JB4020とDoseRAE 2を比較してみた。
この場所でJB4020を用いてRAMI解析を行うと、0.31μSv/hという結果が得られた。軽井沢の中でも、これはかなり高い方に属する。ちなみに、この場所は昨年測ったときは0.15μSv/h程度しかなかった。測定地点の山の斜面を見ると、綺麗に落葉が無くなっていて、山肌が見えている。おそらく除染したものと思われる。皮肉なことに、落葉が食い止めていた土砂の流失か、あるいは雨水の流れ出しが除染のせいで加速されてしまい、斜面の下部に高い線量の場所を生み出してしまったのだろう。山間部の除染は非常に難しい、と感じた。

JB4020による線量測定(軽井沢1200m)
赤い線が実測値、青い線がRAMI値。
さて、この場所でDoseRAE 2を動かすと、駒場で見せたような安定した動作とは打って変わって、値が乱高下してしまい、なかなか定まらない。瞬間的には0.8μSv/hという値が出たりもして、とても驚いた。そうかと思うと、突然0.0μSv/h、つまりリセットされたような状態になったりもした。少し長めに測定を行い、極端な値が出るところを避けて、10分間分のデータを使いRAMI解析を行う事にした。すると、結果は、JB4020よりも大きめの0.38μSv/hとなった。
DoseRAE 2による線量測定(軽井沢1200m)。
赤い線が実測値、青い線がRAMI値。
測定値の乱高下はJB4020よりも激しい。
この揺らぎの問題は別の場所でも指摘されていて、どうやらDose RAE 2は、低線量地域と、超高線量地域の測定ではとても安定しているが、その中間では不安定(揺らぎが大きく)になるらしい。「中間」というのが、0.30μSv/hから2.50μSv/hに相当する汚染地域だという。まさに、軽井沢はこの範疇に当てはまる。だいたい、福島以外のホットスポットは、だいたいこの「中間」地帯に属するのではないだろうか?だとすると、そういう「高線量」地帯では、DoseRAE 2よりも、JB4020の方が適しているのかもしれない。

中間地帯における表示値の揺らぎの原因は、DoseRAE 2の仕様を見るとだいたい想像が着く。低線量の測定と高線量の測定で、異なる検出器を使い分けているのだ。低線量にはCsIを利用したシンチレータ方式で、高線量ではPINダイオードを使った半導体検出器でγ線の個数を測定しているそうだ。つまり、2種類の検出器の作動境界のところで「不安定性」が生じているのであろう。

DoseRAE 2は低線量地域(と超高線量地帯)では安定しており、とても役に立つ。そういう場所の測定ではJB4020よりも便利に使える(性能的にはほぼ等価)だろう。しかし、線量の高い場所(ホットスポット)の測定には、DoseRAE 2よりもJB4020の方が役に立ちそうだ。JB4020から卒業できると思ったが、なかなかそうはいかないようだ。これからは、最初の10分はDoseRAE 2で測定し、その収束値を採用することにしよう。しかし、動作が不安定になるような高い線量が出たときは、すぐにJB4020に切り替え、いつものように30秒間隔で20回測定を行って、RAMI解析の結果を測定値として採用することにする。