話を聞いたときは信じられなかったのだが、堆肥置き場などに貯めた落葉などは、「発酵したときに限り」堆肥となる。ただ単に分解して腐ったものが堆肥だと思っていただけに、驚いた。
もちろん、発酵とは、微生物による「分解」の一種であるから、私の間違った認識でも、まあ近からず遠からずなのかもしれないが、「腐敗と発酵は異なるものである」とどこかの生物の本で読んだ記憶もある。確かに発酵した牛乳(ヨーグルト)は食べられるが、腐ったそれは口にするのもおぞましい。
もう一つ驚いたのは、発酵すると発熱する、ということだ。つまり、堆肥にちゃんと変化している堆肥置き場は高熱に発酵しているはずなのである!そういえば、英国に住んでいた頃、冬場にもうもうと湯気をあげる、山盛りになった牛糞と麦わらの混じった堆肥置き場を見かけたことがある。大学への通勤路は、放牧場の中を縫って走る田舎道だったので(30分車で走って、信号一つもなし!ただし、ラウンドアバウトは3、4あったが。)、日常の一こまであった。
昨年の秋の落葉掻きで出た落葉や、田んぼから運んできた藁、さらには精米所でもらってきた米糠などを溜め込んだ自家製の堆肥置きで、「発酵」を目指してきたが、果たしてうまくいったかどうか気になったので、ひさしぶりに様子を見てみることにした。英国の冬と違って、信州の冬は凍り付くほどの寒さのため、特別な処置なしには、冬場の発酵はほとんど期待できない。春になって気温が上がり始め、微生物の活動も活発になってきた頃合いを見計らって、放射温度計で堆肥の中の温度を測定してみた。
まずは堆肥表面を測定してみると33度C。気温は20度弱。次に、表面の藁や落葉を少しだけ掘り起こしてみると、いい感じで分解が進んでいるのがわかる。白い菌類の発生も見える。測定してみると44度!手を入れてみると、暖かくて気持ちいい。どうやら、発酵が始まったようだ。農業は科学だと思った瞬間。うれしい限り。