日本物理学会5月号(2015)に、太陽黒点の増減についての論文があった。なかなかおもしろかったので、記録しておこう。
太陽の活動レベルは、約11年周期で変動していることが知られている。ガリレオらによる黒点観測が始まったのが17世紀初頭であり、それ以来4世紀近くに渡り人類は黒点の数を数え続けてきたが、この11年周期の変動は常に確認されてきた。たった一度の例外を除けばだが。
太陽黒点がガリレオらによって観測されてから間もない、1645年から1715年にかけての70年だけは、この11年周期が完全に崩れた。黒点がまったく太陽表面に現れなくなってしまったのだ。この期間は「マウンダー極小期」と呼ばれる。この時期、地球は氷河期に陥ったことが知られている。400年間に渡る太陽観測の歴史の中で、マウンダー極小期のような状態が発生したのは只の一度のみである。どうしてそうなのか、まだ誰も答えを知らない。
2001年に太陽活動のレベルは11年周期の極大期を迎え、2008年の極小期に向けて穏やかに活動を減速させていった。しかし、2008年が過ぎても、太陽の黒点数は今まで通りには回復せず、活動レベルが停滞したままの状態を続けていた。「マウンダー極小期の再来かもしれない」と関連する科学者たちは緊張感に包まれたらしい。
そんな緊張感を尻目に、太陽は2009年に活動レベルを活発化させ始め、2013年には予定された通りの極大期を迎えた。しかし、観測された黒点数は、前回の極大期2001年の半分程度にしか満たず、やはり2008年に長引いた極小期には、なんらかのメッセージが込められているのかもしれないと考える科学者は多いようだ。
実際、過去のデータを見ると、これに似た状況が、マウンダー極小期が発生する22年前、つまり「2周期前」に発生している。とすると、今から22年後に、2度目のマウンダー極小期がやってくるかもしれない。氷河期だ!
太陽黒点の増減が、なぜ地球の気候に影響を与えるのか、その直接的な理由はまだはっきりはわかっていないようだが、今回の論文の筆者は、「銀河宇宙線」から地球を守っている「太陽圏磁場」が関係していると考えている。極小期が長引くと、太陽圏磁場が防いでいた銀河宇宙線に被曝する期間が増え、地球上で雲が発生しやすくなるのだという。
銀河宇宙線というのは、超新星爆発などによって加速された素粒子(主に陽子)である。太陽は銀河系内を回転移動しているが、銀河系の渦巻きのうち、「腕」と呼ばれる領域、つまり恒星密度の高い領域に突入すると、超新星との遭遇確率が上がって、銀河宇宙線のフラックスが大きくなる。私たちの住む天の川銀河において、太陽が「銀河腕」を通過する間隔は約1.4億年と見積もられていて、それは地球物理の測定(深海底の地層データから推測される海水温の変動など)により確かめられているそうだ。
銀河の超新星に由来する、高速で飛来する陽子が地球の大気中で、水やその他の分子と衝突することによって、雨粒の種(雲核)の発生が活発化する、という説を筆者は提唱していて、実験的にもその仮説はよく支持されているようだ。
そうだとすると、太陽の活動レベルの低下によって太陽圏磁場が弱まり、そのタイミングで銀河腕に太陽系が突入すると、地球は大量の銀河宇宙線を被曝することになる。その結果、大気中で雲の発生が活発化し、天気が悪い日が増える。太陽からの日射しが地表面に到達する日が減れば、太陽エネルギーの恵みをうけて巡回する地球表面の環境システムは打撃を受ける。その端的な影響としては、太陽光エネルギーの低下による冷温化が起きるだろう。氷河期の到来である。