2013年12月28日土曜日

福島のあんぽ柿

福島のあんぽ柿を3年ぶりに出荷」という報道が少し前にあった。気になる人はたくさんいると思う。茨城出身の友人は、同県の特産である干芋のセシウム汚染を気にしていた。たしかに、果物などは、乾燥させ水分を抜くことでBq/kgの値は上昇する。(とはいえ、乾燥の前だろうと後だろうと、柿一つ、芋一つに含まれるセシウムの総量は変わらないわけで、よく考えるとこの数字を気にするのはおかしな話だ。果物の場合は、Bq/個という単位にした方が意味があるような気がする。)

検索して調べた人もたくさんいると思う。私も遅ればせながら検索してみたら、あんぽ柿を専門につくっている大武農園のサイトに行き当たった。「緊急時環境放射能モニタリング」という制度があり、福島県がゲルマニウム検出器で測定を行っている(例:10月の測定結果)。大武農園もこの制度を利用して、今年収穫した柿の測定を行ってもらったようだ。干し柿やあんぽ柿にしたときに抜ける水分を考慮して、セシウム汚染の程度を見積もっているが、その結果は100Bq/kgを越えている。しかし、この値は前年の測定と比べると大幅な減少となっていて、そのこと自体は喜ばしい結果だ。ただその主な理由は、半減期が2年のセシウム134の減衰によるものだと思われる。だとすると、これからはセシウム137(半減期30年)が汚染のメインとなるので、来年は今年とほととんど変わらない結果となり、落胆する可能性がある。

いずれにせよ、報道では出荷のことばかりで、実際には汚染のレベルが100Bq/kgを上回る干し柿やあんぽ柿があることにはあまり触れていない。ただ、「検査」に合格したものだけを出荷しているという説明はしていた。しかし、映像でその検査の様子を見ると、ちょっと不十分のような印象を受ける。出荷する商品をそのまま直接測定できる機械を開発したようだが、全量検査を目指して「安全」をアピールしたいため、測定時間を2分程度に大幅短縮している。デジタル体温計で利用されているような、外挿アルゴリズムを使って推測値を出していると思うのだが、「外挿」は誤差が大きくなる傾向が強く、科学者の間にはよく知られている「危険な推測法」だ。誤差の少ない測定を目指すなら、測定時間は長く取るべきだ。特に、今気にしている汚染のレベルが100Bq/kg程度であるならば、10分から20分の測定はした方がよいと思う。今年は慎重を期して、量をさばくのを目的にせず、少量でも安全性の高いものを売って、信用を回復するのを目標にすべきだと思う。

そういう意味では、上記の大武農園の姿勢には頭が下がる。検査結果を正直に公開し、今年の生産は難しいという判断をしている。こういう農園の生産物なら、「(ゲルマでの5分の)測定結果の平均値が20Bq/kgでした(ただし、平均値の算定に使ったのは100個の柿)」などと詳細を書いて出荷すれば、「基準値」以下のものが出ればちゃんと買ってくれる人は出てくると思う。もちろん、買いたくないという人も大勢いるだろうが、それは消費者の判断だ。(今、ふと思い出したのだが、確か原発事故の直後に値札の横に放射能値を添えたスーパーがあった。しかし行政の強い介入があって、このサービスが潰されたことがあった。このような「行政指導」のために、皆やりたくてもやれないのかもしれない。)

国がお墨付きを無理につけて、形式だけ「白黒」つけてその結果を消費者に押し付けるやり方は時代遅れだと思う。現代の農業/商業の進むべき方向とは、正しい情報を正直に開示し、その情報を基に消費者が独自に購入を判断する、という形だろう。行政による「販売中止命令」でもなく、行政に依る「販売促進キャンペーン」でもない。生産者と消費者が、政府や行政の介入を受けること無く、直接「会話」しながら物事が進むようにすべきだと思う。政府や行政が真にやるべきなのは、偽装や偽造といった「情報」に対する犯罪を見張ることだけだろう。

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