さて、今年は力学の講義を担当する事になったので、ここひと月ほど講義ノートの作成に時間を割いてきた。実は力学を教えるのは初めてなので、意外に準備は手間取っている。もちろん、学生のレベルにもあわせて行かなければならないので、やりながらの修正はこれからも続くだろう。来週は、TAをやってくれる大学院生とのミーティングもあるので、彼の意見なども聞きながら、直前の微調整を行う予定。
さて、今年の力学の講義で参考にした教科書は次の通り。
- J.C. Slater and N. H. Frank (柿内賢信訳)「力学」丸善
- R.P. Feynmann, "Feynman Lectures on Physics" (Wesley and Sons)
など。スレーターの教科書は絶版になってしまったようだが、原書ならネットで読む事ができる(ここ)。スレーターの教科書は、MITでの講義ノートが元になったようだが、アメリカの大学らしく、実用に焦点が絞られている。この教科書では、力学のエッセンスは微分方程式の解法に他ならない、という認識に基づき、徹底的に練習問題を解く。解法も実用的なアプローチを採用することが多く、数学的に微妙なところなどを細々と議論したりはしない。
一方、ファインマンの教科書には、数学の細かい技法に関する記述もあったりするが、物理的な考え方を「くどくどと」書いてあるところが特徴だ。しかし、この「くどくど」感こそがファインマンの素晴らしいところで、ここが味わえるようになれれば、もう力学はマスターしたと思ってよいだろう。
大学における力学の学習では、数学の技巧/技術の習得と平行して行う必要があるので、そこが初年度の学生にはもっとも辛いところだ。線形代数で習うベクトル空間や一次独立の概念、解析学で習う偏微分や線積分など、一朝一夕ではなかなか習熟できない概念が当たり前の道具にように力学では登場するから、初めて見た時は相当困惑する。まずは、あまり深く考えず、テイラー展開や微分方程式の解法など頻出の数学の道具立てが出てきたら、赤ん坊のように「ただただ受け入れる」姿勢が必要だろう。その後で、「どうして」とか「なぜ」の部分を、数学の講義に出席して、埋めて行けばよいと思う。
また、ニュートンのプリンキピアの英訳もここで閲覧することができる。ニュートンによってまとめられた、力学の3つの法則のオリジナルな定義や、運動量の定義などを確認するときに役に立つ。現代の力学の講義では、慣性の法則などはあっさりスルーする傾向があるが、実はそれはとても重要かつ難しい概念であるから、後々でゆっくり噛み締める時間も必要であろう。プリンキピアの最初の方は簡単に目を通しておいても無駄ではないと思う。
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