2013年3月15日金曜日

日経サイエンス4月号を読む

「首都直下地震」というタイトルに釣られて、日経サイエンス4月号を購入した。

肝心の地震の記事は長い上に内容も難しく、理解がなかなか進まない。一方、別の記事にいくつか面白い内容があったので、まずはそちらを読む事にした。

1:ストレスと精神疾患の関係について。

結局は、特定の遺伝子の変異が効いてくるらしい。つまり、「生まれつき精神病になりやすい人」というのがあるらしい。「あの人は神経が細やかだから」とか、「あいつは生まれつき図太い神経の持ち主で...」とか言う表現は、遺伝子の型のことを指していたのかもしれない。とはいえ、まだ実験ネズミの遺伝子の話であって、人間そのものの話ではない。

マウスの中にはDISC1という遺伝子に変異がある個体は、思春期(ネズミに思春期があるかどうかは知らないが、要は「若いマウス」ということ)に強いストレスを受けると、精神疾患に似た症状を示すことがわかったという。変異がないマウスに同じようにストレスを与えても、まったく問題は生じないらしい。つまり、「生まれつき図太いマウス」や「生まれつき繊細な神経を持ったマウス」というのが実在するということだ。実は、DISC1という遺伝子は人の神経組織(大脳など)にもあるということで、これに変異がある人は、精神病になりやすいという。

興味深いのは次からだ。いったん発症したマウスを、快適な環境に戻してやっても、「精神病」はなかなか改善しなかったというのだ。これは、精神疾患が治り難い厄介な病気であるという一般認識と合致する。

このような状態が起きる機構として上げられているのが、「コルチコステロン」というホルモンの作用だという。このホルモンは、ストレスを受けると分泌されるらしいが、特にDISC1に変異があるマウスでその分泌量が多くなったという。このホルモンの役割は、ドーパミンを合成するための遺伝子を不活性化することだ。生化学的には、この遺伝子に付随する「抑制領域」と呼ばれるDNA部にメチル基をくっつける働きをする。メチル基が付くとそのDNAは「スイッチがオフになる」のだという。受精卵の細胞分裂が、いつしか異なる臓器へ分化する際は、このメチル基結合による不活性化が効いているそうで、心臓になる予定の細胞では、たとえば眼球をつくるDNA部分にメチル基がくっついてしまい、スイッチオフする。このため、心臓には眼球が現れないというわけだ。これをエピジェネティクスというらしい。

環境によって、特定の(不都合な)エピジェネティクスが生じてしまい、それがもとで病気が発症するというわけだ。特に、スイッチオフされてしまう遺伝子が、感情や精神をコントロールする脳内物質の分泌に関わるDNAであれば、ことは重大だ。

2:助け合う知覚

ご飯を味わうとき、「目で味わう」とか、「食感で味わう」とか、「匂いで味わう」とかいうことがあるが、どうも舌で味わう、いわゆる「味覚」だけで人間は「味」を感じているわけではないようだ。五感すべてを動員して、「味覚」を感じているらしい。そして、これは「味覚」だけに限らず、すべての知覚において、器官同士で「情報」を交換しているらしい、という記事があった。

おもしろいと思ったのは、ポテトチップスを食べる時、あの軽快な「パリパリ」という音から、若干ずらした音をヘッドフォンで聞かせながら食べてもらうと、同じポテトチップスなのにあまり美味しく感じなくなる、という実験。ぜひとも試してみたいものだ。つまり、耳でも「味」を感じているというわけだ。

脳という器官は、知覚器官である舌、耳、目、皮膚などを独立したセンサーとしてつかっているわけではなく、それこそ「有機的に結合したセンサー体」として、相互通信しながら、一つの感覚を実感するようになっているらしい。人間の機能を単純な機械と見なすのは、再考の余地があるということだろう。少なくとも、もう少し高級な「機械」でないと、脳の機能は真似できないのだろう。

3:ファージの力。

20世紀の後半あたりから、それまでの抗生物質の乱用により、MRSAなどの耐性菌が誕生してしまった。これにより、抗生物質は万能薬としての地位を失いつつある。その結果、我々人類は、ペニシリンが発見される以前の恐怖の世界に、引き戻されつつある。それは、結核など特定の病気になったらもう助からない、という中世の時代の価値観に戻るということを意味する。抗生物質の開発には、時間と金が大量にいる。ところが、乱用する事で、細菌はいとも簡単に進化してしまい、時間と金があっという間に水泡と化す。それだけでは済まない。この進化した細菌に効く抗生物質が開発できるかどうかは、ひとえに運にまかされることになる。もちろん、再び大量の金と時間が必要となるのは言うまでもない。

この絶望的な状況を救うために、最先端で進められているのが、ファージを使った「抗生物質」だ。バクテリオファージというのはウイルスの一種で、生物とも非生物とも言いきれない、奇妙な「もの」だ。DNAを保持しているが、代謝がなく、結晶化できる。そして、ファージは自分で動く事はない。ただ、鉱物のように、風に乗り、水に流されて、流浪するのみ。ファージを使った薬ができれば、それは間違いなくノーベル賞に値するだろう。
バクテリオファージの例。
Wikipediaより転載。


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