2018年9月4日火曜日

シムライノデについて(2):発見の経緯

シムライノデについて、もう少し学術的な面を調べてみた。参考にしたのは、この論文である。

芹沢俊介「日本産イノデ類の新種および雑種」植物研究雑誌(1979年)
Shunsuke Serizawa, "New species and hybrids of the Japanese Polystichum polyblepharum group", Journal of Japanese Botany, Vol.54, No.5 (1979)

この論文によると、発見は1965年である。つまり人類がその存在に気づいてから、わずかに半世紀をちょっとだけ上回っただけである。

発見者は志村義雄氏とある。おそらく静岡大学教育学部生物学教室に所属していたお方である。ネットで見つかるシダ類に関する出版物の豊富さから推測するに、日本のシダ研究の第一人者のお一人であったと思う。シムライノデの「シムラ」というのは発見者の名前であった。

シムライノデが最初に見つかった場所は静岡県御殿場市との記述であるが、現在静岡県では「絶滅した」と報告されている。志村氏が発見した場所には10株ほどがあったそうだが、その場所には現在一株も残っていないのだろう。環境省が2000年に発表した「維管束植物レッドリスト」では絶滅危惧IA類(CR)に記録されている。もし今回の伐採で自然生息が消滅するならば、次回の改訂版には「野生絶滅(EW)」に 分類されてしまうのではないだろうか?

志村氏の発見の後、渡嘉敷裕氏(この文献によると、旧「東京都高尾自然科学博物館」の学芸員のお方のようである) によって東京都多摩地域の山間地で群生地が発見された。この群生地というのが今回伐採されてしまった場所だと思われる。つまり、その後の研究/探索にもかかわらず、他の群生地は見つからなかったということだろう(あるいは見つかっても機密にされた可能性が高い)。

発見地 で採取された標本をみると、葉長が70cmにもなるものがあり、大型のシダと思われる。その後、神奈川県と中国浙江省でも発見されたという。この二箇所に現在も生息しているかどうかは不明である。神奈川県の個体の一部は標本にされ、東京大学農学部に所蔵されているそうである。

面白いことに、多摩のこの群生地で、シムライノデによく似たもう一つの新種が1970年に発見されている。これはトウキョウイノデと名付けられた。このシダも今回の伐採で絶滅の危機に瀕しているはずであるが、国立科学博物館の海老原氏の記述にはトウキョウイノデに関しては全く触れられていない。もしかしたら、こちらは後に広範囲に発見されているのかもしれない。




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