先日、NHK教育にてウクライナの低線量被曝についての番組があった。基本的な内容は、いままでにこのブログで考察してきたことと同じ。特に大事だと思ったのは、汚染した食材を摂取することで生じる「低線量被曝」(あるいは「内部被曝」)が、事故から30年経って、循環器系、すなわち心臓と血管の疾患を引き起こしているらしい、という認識がウクライナやベラルーシなどで広まっていることだ。また、白内障の増加も目立つというが、これは初めて聞いた。
セシウムはアルカリ金属だから、単体で水に溶ければ一価の正イオンとなり、電気を持つ。(「アルカリイオン飲料」とかいうけれど、要は「塩水」「海水」みたいなものということ。)したがって、ナトリウムやカリウムと同じように、セシウムも血液や細胞液にとけ込んで体中に流れ込んでいく。アルカリ金属、特にナトリウムとカリウムは神経伝達システムの重要な要素のひとつであり、物理的に考えれば神経情報を「電気パルス」として伝える媒体となっている。
したがって、体液のあるところにはかならずセシウムは到達できる。眼球は涙などの水分が豊富に詰まっているから、セシウムは滞留しやすいだろう。体液を運ぶパイプである血管もセシウムからの放射線に曝される確率は高いだろう。そして、鼓動として電気パルスを必要とする心筋にもセシウムは多く運ばれるだろう。
ついひと月前にも福島原発の作業員の一人が心筋梗塞で亡くなった。今までに作業中に死んだ原因も多くが心筋梗塞だ(私が知っているのは、今年の1月までに心筋梗塞が2人、急性白血病が1人、原因不明が1人。今回のを含めると、心筋梗塞は3人となった。)。これは偶然ではないだろう。NHKでも、若い原発作業員の一人は毎日鼻血が止まらないほど出るという報道をしていた。また、2003年にベラルーシの医学研究者が発表した論文でも、セシウム137と心臓病の関連が臨床的に疑われている。
このように、低線量被曝というのは、劇的な症状を急性に起こすものではなく、生体器官を「少しずつ、そして致命的に」破壊するプロセスなのであろう。これは生活習慣病と同じだ。破壊と修復が平衡状態にあるうちはいいが、そのバランスがちょっとでも崩れると、少しずつ、しかし確実に体は病んでいく。
番組ではまた、ウクライナ/ベラルーシで最近増えて来た中年世代の甲状腺癌についての報告もあった。彼らは、チェルノブイリ事故当時、20代の若者だった。今までに発症してきた少年少女の甲状腺癌は、10代の子供たちがヨウ素131に被曝(内部被曝)してから5年から10年程度経って発症し始めるケースが多かった。子供の方がホルモン分泌や代謝が活発だからだろう。次に活発なのが20代の若者だが、30年経ってついに病魔に襲われ始めたらしい。ピークが来るのはさらに後のことになろう。
セシウムと違って、ヨウ素131の低線量被曝が恐ろしいということは、WHOなど公的機関によって認められている。それは半減期が短いからこそ証明できたとNHKは言っていた。つまり、事故から数ヶ月も経てばキセノンに変わって無くなってしまうので、それ以降に生まれた子供達はヨウ素131の影響をまったく受けないのだ。事故から数ヶ月経った前後に生まれた子供達を追跡し、その甲状腺癌の発症率を調べると明らかな差異が出た。(たとえば、事故のその日に生まれた子供は7歳で死んだ、とNHKは伝えていた。)
今40代になって甲状腺癌を発病している人たちは、チェルノブイリ原発が爆発してからわずか数ヶ月の間に摂取した、汚染されたミルクなどの食品、飲み水、そして空気などによって、殺されかけているのである。とすると、福島やその近隣で2011年3月から6月まで暮らしていた30代以下の人たちは、その30年後の運命がもう決まっている可能性があるということだ。これから、どんなに食事や健康に気を使っても変えることができない運命を背負わされているかもしれない。
最初はヨウ素131と甲状腺癌の因果関係について否定的だった世界の医学者は、短い半減期のせいで、しかたなく関係を認めざるをえなくなった。これに引き換え、セシウム137の半減期は長い(30年)。つまり、ヨウ素131と同じ方法で証明しようと思ったら、事故後300年前後に生まれた人の統計を使って、心臓病の増加の有無を検証しなくてはならいないのだ。今から300年前といったら、江戸時代だ。徳川の悪事で我々の健康が冒されてしまったとしたら、絶望するするしかない。そして、ヨウ素131と甲状腺癌の関連を間近で見てきたウクライナとベラルーシの医者たちは、心臓と血管の疾患、そして白内障の増加に関して、セシウム137との関連性を本能的に見抜いているようだ。当初国際社会が認めなかったヨウ素131の場合と同じだ、と彼らを感じている。
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