学部3年のとき、半導体の伝導現象の実験をやった。半導体に電極がハンダ付けできず、夜中まで実験室に居残って頑張った記憶がある。秋風が冷たくなって来た頃で、定食屋のコロッケ定食のみそ汁が温かくて、体に染み渡った。
あの時に配布された実験ノートを見返してみると、書いてあったのはDrude方程式ではないか!ノートには、Drudeに関することはなんの説明もない。この方程式は1900年にドイツのDrudeが発表したもので、電気伝導現象に対する最初の微視的模型だ。電子が1897年(20世紀直前)にJ. J. Thomsonが発見されるが、その直後の理論であり、賞賛すべき業績ではないかと個人的には思う。
この方程式は完全に古典力学に基づいているが、その結果は排他原理などの量子効果によって正当化され(Sommerfeld-Bethe)、現代物理の観点から再導出しても、同じ結果となるところが面白い。ラザフォード散乱の公式と同じように、古典力学と量子力学の偶然の一致が見られる。
ところで、このDrude方程式は一見して、空気抵抗がある場合の自由落下の問題とか、LCR回路の減衰問題などに出てくる微分方程式と似たような形をしているので、同じようにして解くのかと最初思ってしまう。しかし、ちょっと違うことがやがてわかる。とはいえ、摩擦にあたる項が登場し、緩和時間の概念が導入されるなど、よく似ていることは確かだ。
緩和時間を過ぎ、電流が平衡状態(定常状態?)に収束したとき、そこで成り立つのはオームの法則だ。電流、電圧、電気抵抗の簡単な関係が、電子の運動学の観点から導かれ、さらに電気抵抗の微視的な解釈が与えられるという素晴らしい内容だ。ただ、金属の結晶構造を証明したのが、LaueやBraggによるX線回折による分析だから、Drude模型が提案された1900年よりもずっと後の1911年頃。Drudeが、電気抵抗の正体を、正イオンの格子構造と見破るに到った道すじをもう少し詳しく知りたいと思った。(原子は電気的に中性だから、必ず正負2種類の粒子が伝導現象にも関わるはず、と考えるのはわかる。しかし、正電荷をもつイオンが結晶構造を成して整然と並んでいるという発想はかなり飛躍している気がする。実際J.J.Thomsonはジェリウム模型にハマったわけだし。)
ところで、Slater-Frankの古典的な教科書「力学」を読むと、このタイプの2階の微分方程式が「基礎」であると主張されているように感じる。「力学とは振動である」というロバートフックの信念を肯定するかのように見えて、とてもおもしろい。
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