videonews.comの肥田舜太郎氏へのインタビューは非常によかった。とにかく、このお医者さんは被爆者であり、広島で死んでいった人たちをずーっと見て来ているだけに、その言葉には迫力がある。実は、前に読んだ
この本の筆者(「内部被曝の脅威」)でもある。彼は、被曝し原爆で苦しむ人たちをリアルタイムで1945年8月6日以来ずっと診察してきた。
当然、8月6日後の最初の数週間は、熱線(いわゆるピカ)と爆風(ドン)による「熱力学的かつ力学的な損傷」を負った人たちの手当に追われたそうだ。こういう直接的な損傷を生き延びた人たちも、しかし、やがて原爆症を発症して死んでいった。その最初のショックは、口内の悪臭だったという。それは、単に口が臭いのではなく、腐敗臭だったという。生きながらにして、口内が腐っているというのだ。放射線で細胞が「焼き尽くされて」しまったのだ。だるま落としのように、外形を残して組織は死ぬ。さらに脱毛、紫斑、下血など、今では有名になった原爆症の数々が発症し、最後は体中の穴という穴から血を垂れ流して死に至る。血管の細胞が壊れて、体中の血が「漏れて」くるわけだ。
更に恐ろしい問題がこの後しばらく経ってから出て来た。それは、原爆炸裂時に広島に居らず、直接「ピカドン」にやられていない人たちが死に始めたことだ。彼らは、8月6日の午後とか、その数日後とかに、家族や親類を探して広島に入った人たちだ。「わしゃ、ピカにもドンにもおうとらんのじゃ」といって、体中から血を吹いて死んでいく姿は、ピカドンを生き延びた人たちの末期症状とまったく同じだったという。いわゆる「入市被曝」というやつで、世界最初の「内部被曝」と思われる。
数年たって、内部被曝はどんどん深刻になるが、その原因が原爆とどう関わっているのかが、まったくわからなかったという。その理由の一つは、米軍が被曝自体を軍の最高機密として扱ったからだという。日本が占領されたとき、マッカーサーが日本人(「植民地」の人民)に対して命令した数十にもわたる事柄があったという。その最後の命令が「原爆による被害規模の状況や、被曝者の医療データなど、原爆被害に関するあらゆる情報は米軍の機密情報であり、その記録や研究、公開をいっさい禁ずる」というものだった。これに反するものは「厳罰」に処されたという。必然、広島の被爆者は日本中の医者から疎まれ、その症状をまともに調べてもらえなかった。写真もカルテも残らず、研究もできず、学会も形成されず、医者自体が罰を恐れて被爆者を診療してこなかったのでは、内部被曝の理解は進まないだろう。日本が独立を「許された」後もこれは続いてきた。
そんな逆風に立ち向かい、闘い続けて来たのが肥田医師だ。仲間はもともと少なかった。そして今、彼は内部被曝とは何かを知る最後の医者だ。
その肥田氏がいう内部被曝の症状とは次のようなものらしい。
下痢、鼻血、口内炎、全身の倦怠感。最後の症状は、長崎の人たちの間では「ぶらぶら病」と呼ばれている。
福島の人たちにこの症状はすでに出始めていると言っていた。福島から「疎開」し、福岡で避難生活をしていたが、しばらく経って福島に戻ったある家族は、小学生の子供が福島に戻って生活を始めたとたんに下痢が止まらなくなり、広島に住む肥大医師に相談にきたという。また、長野や青森に疎開した人々の中には、広島まで医師を訪ねてやってきたのはよいが、診療室の椅子に座り続けることができず、「疲れたから」といって床に寝ながら診察を受けたという。肥田医師にとって、この情景は、被爆者診察の記憶を蘇らせるものだったという。
肥田氏によれば、こういう症状はたいていの場合改善するといっていたが、放射線の影響を受けてしまったという烙印はDNAに焼き付いてしまっていると思う。後々、どんなひどい病気になるかはわからない。
そのひどい症状として、つい最近判って来たのが、
セシウム137による心筋梗塞だという。いままでは、乳がんとの弱い関連以外、セシウム137の害はあまり議論されてこなかったという。セシウムはアルカリ金属の一種だから、ナトリウムやカリウムと同じような化学性を持つ。こういう物質はイオンとして水に溶けやすく、体内の電気的機能を担っている。神経信号の伝達とか、筋肉の収縮とかだ。心臓の収縮には間違いなくカリウムやナトリウムのイオンが利用されいるから、こういう場所にセシウム137が代わりに到達すれば、放射線によって心筋はダメージを受けるのは容易に想像が付く。
そういえば、5月に
福島原発の作業員が心筋梗塞で死んだという報道があった。肥田医師も最初は「偶然」と思ったらしいが、チェルノブイリでの内部被曝についての論文が最近発表され、そこにセシウム137と心臓病との関連が報告されていたのを見たとき、「もしかして」と思ったという。そういえば、
除染をしていた男性が突然死した件が最近もあった。ニュースにならないこういうケースは福島周辺には結構あるのかもしれない。