高木仁三郎著、「原発事故はなぜくりかえすのか」を読んだ。岩波新書2000年。
高木さんは、高木学校の創立者であり、原子力資料情報室の元代表で、2000年に大腸癌で亡くなられた。この本が最後の執筆。東海村のJCO臨界事故や、福井にある高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れの事故などを分析している。彼の警告は、福島のような大事故がかならずいつかは起きる、という「正しい』予言になってしまった。死の直前に口述筆記して作った本だというので構成が粗く思えるところもあるが、よい本だと思う。いろいろ勉強になる。
この本を読んで初めて気がついた点がいくつかある。
(1)原子力政策を導入したのは、中曽根康弘氏(元総理大臣)だったということ。戦後直後の1954年に、最初の予算がついたという。財界では正力松太郎氏(元読売新聞社長、元日本テレビ社長、プロ野球巨人軍創立者、など)が、この予算の成立に協力したという。1954年と言えば、敗戦から10年も経っていない。どうしてこの時期に?不思議に思って、Wikipediaを見てみると驚きの記述があった。
まず、正力氏は、戦前の警察官僚としてそのキャリアを始めている。関東大震災の朝鮮人虐殺のきっかけとなった噂を流した張本人だったというし、敗戦時はA級戦犯と認定され投獄されている。つまり、彼は先の大戦の戦争犯罪者だ。
ところが、投獄されてわずか二年で不起訴処分となり、釈放される。なにかおかしい、と思ったら、どうもCIAのスパイになるというアメリカとの取引に応じたらしい。もしそれが本当なら、「アメリカの犬」になって、私利私欲のために日本を売ったことになる。日本テレビの社長になれたのは、CIAへの情報の見返りなのかもしれないし、アメリカの日本における情報統制の目的があったのかもしれないし、詳しいことはわからない。そして、この直後に中曽根氏をサポートして、日本に原子力を持ち込んだ。マンハッタン計画で消えた大量の資金を回収するため、アメリカ政府は原子力発電で金儲けしようと考えていたはず。その植民地として日本を選んだのではないか?どう考えても大学で法学を専攻し、警察官僚やマスメディアの社長を経歴として持つ人間が思いつくような内容じゃない。CIAの手引きで中曽根氏と引き合わされたんだろうか?
一方の中曽根氏も軍人あがりであり、かつ高崎の豪商の出身だったから、警察上がりの財界人と話が合ったんではないだろうか?この辺りから、中曽根氏はアメリカと裏取引できるようになっていたんだと思う。(彼の「不沈空母」発言はこういう文脈から発生したのかもしれない。)
(2)高木氏は化学者だった。この本で、物理学者の問題は物質一つ一つに対する「人間レベルの感覚」が希薄なことだ、と指摘されていたが、結構正しいかもしれない。物理実験家が果たしてそうかどうかはともかく、物理の理論家としてはおおいに反省す。例えば、セシウムの化学形態については最近までよく知らなかったし、今でも実際に見たことがないので「感覚」としての存在が希薄だ。まず、常温(常温付近も含む)で液体の金属はこの世に3種類しかないことや、セシウムは揮発性が高いことなど、人間の感覚でわかる化学的な性質について、ほとんど知識や経験がない。
高木さんは実験室でセシウム137を直接扱っているので、現実に存在する物質としての認識が強い。あれが汚染物質だ、と目で見て知っている。こういう、五感で知っている知識/認識は本物だ。もしかすると、原発で働く技術者の中には、私と同じレベルの感覚/経験しか持たない人が結構多いのではないか?大学の物理実験ではセシウム137はプラスチックのケースに入っているので、それをビーカーに移し替えたり、熱してみたり、水に溶かしてみたり、などといった実験はやらない。物理の学生も、化学の実験をやった方がいいのではないか?定量分析などではとにかくコンタミ(汚染)に対してすごく慎重に考えるので、大雑把な近似ばかりを用いて「本質」を狙う物理とはちょっとアプローチが違うのかもしれない。(ちなみに、化学性質は放射性/非放射性に関わらず同じなので、セシウム137の化学特性を見たければ、その安定元素のセシウム133で練習しておけばよい。)
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