I-131が消え去ってからこの調査を始めた私は、セシウムばかりを気にしていて、Pb-214はぜんぜん注目して来なかった。しかし、放射性セシウムの汚染限界について調べ始めると、Pb-214が大事になってくることがわかった。それは、ビスマス214(Bi-214)の609keVのガンマ線が、Cs-134の606keVのガンマ線と、NaI型のスペクトロメータでは、混じってしまうことに原因がある。
エネルギー分解の高い、高性能のスペクトロメータ(例えばゲルマニウムを利用したもの)で、たとえば662keVのガンマ線を測定すると、ちゃんと「662keV」という値を返してくる。「あたりまえのことだ」と思った人は、実験家としては落第だ。
機械、特に測定器というのは、人間が作ったものである以上、理論通りの値を返すことはそうはない。期待される値、あるいは理論値からのズレが測定したときに小さくなるものほど「高性能」「高精度」の機械ということになる。スペクトロメータははガンマ線のエネルギーを測る機械なので、その測定のズレは「エネルギー分解能」という言葉で表現される。つまり、ズレが小さいものほど「高分解能」を持つと言われる。
NaI型のスペクトロメータは、ズレが大きいので、662keVのガンマ線を測っても、測定値として「664keV」を返したり、「658keV」という値を返したりと、662keVの値(真の値)の周りに揺らいでしまう。
「真の値」の周りに揺らぎをもって測定値を返す機械は、何度も何度も測定を繰り返して平均値を計算し、それをもって「測定値」とすれば、より信頼度の高い測定器となりうる。先日の「長時間測定」で米のセシウム汚染は調査するべき、というのは、まさにこのことだ。揺らぎのある場合、その測定値をヒストグラムにまとめると、ガウシアンと呼ばれる釣り鐘をひっくり返しにしたような形になる。ガウシアンの幅が狭いものほど、分解能が高い、つまり高精度の測定器とみなせる。(ガウシアンがピークを持つところは、平均値に対応する。)
もし分解能の低い測定器で、接近する2つのガンマ線を測定したらどうなるだろうか?例えば、Cs-134の606keVとBi-214の609keVのガンマ線のような場合だ。この状況をモデル化すると次のような絵となる。
「分解能の低い測定器」に相当する場合。 赤いガウシアンを606keV、緑のガウシアンを609keVだと見なす。 |
一方、分解能の高い検出器を使って、同じように606keVと609keVのガンマ線を同時に計測するとどうなるかというと下の図のようになる。
分解能の「高い」測定器に相当する場合。 |
ゲルマニウム型検出器で測定すれば、数keV程度の差があれば十分にピーク構造を分解して調べることができるが、分解能が低いNaI型検出器ではガンマ線のピーク構造が幅の広いガウス形になるため、わずか数keVしか離れていない2つのピークは重なり合って一つになってしまう。放射能の強さを算出するときは、ガウス関数の積分をするだけなので、高い精度で測定したいのならば、Bi-214の寄与がどの程度あるか見積もる必要がある。
(つづく)
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