2015年3月8日日曜日

鉛214とビスマス214 (II)

Cs-134の606keVのガンマ線と、Bi-214の609keVが重なってしまったと思われるケースをみてみよう。長野県の野辺山(南牧村)で採取した土壌のスペクトルが下図に示す。
野辺山のスペクトル
Cs-137の662keVのピーク、およびCs-134の796keVのピークがわずかに確認できるから、福島原発から放射能プルームが野辺山にも来たことは間違いない。しかし、算出された放射能レベルは65Bq/kgとなっているし、スペクトル中のピークの高さも低いから、その汚染度合いはかなり低いとみてよいだろう。注目すべきは、Cs-134の606keVとBi-214の690keVが重なっていると思われるピークだ。このピークの高さはCs-137の662keVのピークよりも高くなっている。もし、このピークが606keVのCs-134のみの寄与によるものだとすると、このピークの上下関係が説明できない。福島原発では、Cs-134とCs-137の比率は1:1であり、事故から4年経った現在、半減期2年のCs-134は事故直後の25%にまで減衰しているはずだからだ。つまり、606keVのピークは、662keVのピークよりも低くなっているべきだ(理論的には1/4程度に)。これは、Cs-134とBi-214のピークが混合しているから、と解釈すべきだろう。LB2045のROIは、この混合ピークを含んでいるので、算出された65Bq/kgはoverestimateのはずで、Bi-214のピークの高さから推測するに、このスペクトルの放射性セシウムの放射能への寄与は、だいたい10Bq/kgから20Bq/kg程度だろうと思われる。

この図を見ると、352keVのところに綺麗なピークが一つ見える。鉛214(Pb-214)の出すガンマ線が作るピークだ。

Bi-214とPb-214は共にウラン238(U-238)の崩壊系列に属する。つまり、半減期45億年(アルファ崩壊)のU-238を出発点として生成される崩壊生成物(放射性)の系列ということだ。U-238はα崩壊するとトリウム234(Th-234)になる。これがさらに崩壊を繰り返し、つまりアルファ崩壊やベータ崩壊などの核反応が連続して生じると、ラジウム226(Ra-226)にたどり着く。

Ra-226は半減期1600年で、天然鉱物や温泉などに含まれていたりするのを知っている人は多いだろう。ラジウム226がアルファ崩壊してできるのがラドン222(Rn-222)だ。Rn-222は半減期が4日弱と崩壊までの期間が短い上、常温で気体となる性質がある。つまり、岩石や温泉中に含まれる微量の(ウラン系列の)放射性物質はラドンにたどり着いたところで、空気中に浮上していくのだ。空気中のラドンは降水のタイミングで地表に帰ってくる。ラドン(Rn-222)はアルファ崩壊して、ポロニウム218(Po-218)になる。

Po-218は半減期3分でα崩壊し、Pb-214となる。Pb-214はベータ崩壊と電磁崩壊(つまりガンマ線を放出する)を起こして、Bi-214となる。Pb-214もBi-214も半減期が30分程度だ。つまり、Pb-214とBi-214から放出されるガンマ線はペアで出てくることが多いと考えてよいだろう。実際、セシウム汚染がない地域のスペクトルをみると、Pb-214とBi-214のピーク高は同じ程度だ。だとすると、上図のスペクトルに見られる野辺山の場合、Pb-214のピークの高さを考えれば、606/609の混合ピークのほとんどはBi-214だとみてよいだろう。したがって、先に述べたように、実際の放射能レベルは10-20Bq/kgではないかと推測したというわけだ。

(つづく)

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