2012年3月9日金曜日

LAの原発事故

毎日新聞の3月9日の記事に、ロスアンゼルス近郊にあった原子力発電所周辺のセシウム汚染の記事があった。驚いた点は2つ。LAの中心部から目と鼻の先に原発が建設されており、そして事故を起こしていた事。もう一つは、アメリカの汚染許容基準はだいたい10Bq/kgだということだ。日本の埋め立て基準値は8000Bq/kg!!!

まず、最初の点。事故を起こしたのは、Santa Susana Field Lab.という研究所にあった原子炉。ここで、米国最初の商業用原子炉が運用された。1950年代から1970年代まで10基の原子炉が稼働したようだが、現在は廃炉解体されて残ってはいないという。1950年代の後半に事故が相次ぎ、1959年には商業炉としては世界初のメルトダウン事故を起こしたようだ。しかし、この事故の存在はは米国政府によって機密扱いされ、事故事実や関連データは隠蔽されてしまった。事故の存在を認めたのは最近のことで、付近住民の健康問題が浮上し、ついに今年になってセシウム汚染の検査が行われたというわけだ。

放射線は人間には見えない。匂いも色もない。しかも、健康に害が出てくるのは、被曝してから何十年も経ってから。さらに悪い事に、確率論的な発生をするので、被曝した全員が必ず被曝症状を発症するとは限らない。つまり、悪魔のくじに当たってしまった運の悪い人だけが、いわれのない責め苦を負うことになる。こういう性質から、事故直後に事実を隠蔽するのがとても容易だ(必ずいづれはバレるけれど)。

この原子炉のあった場所が驚きだ。地図を見てみると、LAにあるサンタモニカ山脈(いわゆるHollywoodの文字看板がある山)の北側だ...LA中心部から見てこの山の裏手の街Van Nuysからサンタモニカに向けて101(Ventula highway)という高速が走っているが、途中にVentulaというちょっとした町があって、LAからサンタモニカへ行くときの中間地点だ。

夜LAに戻ってくる時は、このあたりから山岳地帯となり山道をぐんぐん登る道程となる。赤いテールランプが線状に連なっていたらその日は運悪く渋滞。しばらくは寒いこの場所で我慢する必要がある。この辺の感じは、山梨の勝沼から笹子トンネルに入るまでの風景に似ている。この山岳地帯の北側の谷(Simi valley)に、件の原子炉はあった。
Santa Susanaの原子炉があったSimi Valleyの位置。
Simi valleyから、サンタモニカ山脈の南にあるLAのダウンタウンまではちょっと距離はあるが、それでも車で40から60分程度(もうちょっとあるかも)。海岸にあるサンタモニカだったら、もっと近い。なにより、マリブやトパンガの「すぐ裏側」にある訳で、ビバリーヒルズやベルエア、ウエストウッドなんかには「とても近い場所」だと個人的には思う。こんなところに、「もんじゅ」と同じ液体ナトリウムで冷却するタイプの原子炉があったとは!

そして、案の定、液体ナトリウムは事故を起こしやすいこと、そしていったん事故ると人間の手に負えなくなってメルトダウンまでいってしまうことを、最初に実証して見せてくれたわけだ。地域住民の命と健康という高い代償を払って。メルトダウンすると燃料棒の温度は数千度に上がるから、連鎖反応の分裂砕片核物質(fission fragments)のうち、揮発性の高いヨウ素131やセシウム137などがガス状になって、溶けてしまった炉心内部から逃げ出してしまう。電源がキチンと確保され、冷却機能が保持された状態でも、メルトダウンしてしまうわけだから、福島のように電源喪失、冷却機能停止と、警告音声が鳴り響く状態になってしまったとき、液体ナトリウムで冷やす原子炉を冷やす手だてはもう無い。(水をかけたら、ナトリウムと反応して爆発炎上してしまうから。)

驚いたことの二点目:封印され隠蔽されてきたこのSanta Susanaの原発事故だが、事故から50年近くも経てば、健康被害も目立つようになってくる。さすがに隠しきれなくなった米国政府は、ついに土壌の放射能レベルを測定するはめになった。その結果が7300Bq/kgで、アメリカの基準の1000倍近い「汚染」があるという....

ちょっと待て。この「汚染レベル」は日本政府が「安全だから埋め立てていいよ」といっているレベルと同程度ではないか?日本政府が出した「お達し」では、「8000Bq/kg以下の焼却灰は通常どおりの埋め立て可能」となっている。この「法的」根拠(科学的、医学的な根拠ではないことに注意)に基づいて、佐久のフジ・コーポレーションだとか、信州中野の飯山陸送、さらには政府の瓦礫処理キャンペーンに乗っかって、伊勢崎(群馬)だの、房総(千葉)だの、その他もたくさんの地域で、放射性物質の埋め立てを行っている。米国の「法律」に基づけば、これの埋め立ては、法定基準値の1000倍近い汚染を奨励促進しているという,まさに愚行。これを驚かずに何を驚けというのだろう?

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