2012年5月6日日曜日

太陽黒点の比較暗合成:長所と短所

gimpを用いて太陽黒点の合成写真を作ってみた。これが意外に面倒くさい。

まず、太陽の方向を決めないと合成しても訳がわからない結果となる。地球の自転のせいで、測定時間に応じ黒点の見かけの位置が回転してしまうからだ。地球の自転の効果を抜いて、黒点自体の運動だけを見るには、太陽の「向き」を決めないといけないが、クレーターとか、輪っかとか形状の特徴を持たない太陽では、この「向き」を決めるのが一苦労だ。もっともよく使われるのが、(皮肉なことに)地球の自転を利用する方法。地球の自転方向(東西線)を利用して、太陽の「方角」を決定する。カメラの水平座標と、自転方向とが成す角度を測り、その角度分だけ太陽画像を回転させればよい。時間に依らず、常に「東西」に平行な写真が得られるので、合成したときに黒点移動が直線に乗るようになる。

投影板を使った観測では、望遠鏡を固定して、しばらく黒点をじっと眺めていれば、黒点が次第に板上を動いていくので、数秒間隔で位置を記録していけば自然と「東西線」が得られる。しかし、フィルターを使って写真撮影するときは、この方法は直接は使えない。投影板での知見を生かせば、デジカメ観測の場合は次のようにやれば簡単に東西線が得られる。まず、黒点の写真を撮る。望遠鏡は固定する。30秒待ってから、再び写真を撮る。2枚の写真をPCで比較すれば、自転の分だけ移動しているから、東西線が決まると言う訳だ。投影板と全く同じ方法にするならば、いったん2枚の写真を合成することになる。このとき、対応する黒点を結べば、それが東西線になる。

しかし、この方法だと数値処理がやりにくいので、いっそのこと太陽の中心を画像解析して計算し、それをもとに東西線を決める方法を今回は採用してみた。円の中心は3点の座標がわかれば、簡単な代数幾何で(連立一次方程式の解)計算することができる。時間をずらして撮った写真で、太陽の中心座標をそれぞれ算出する。これから移動ベクトルが得られ、「東西線」の方向の情報を得る事ができる。ベクトルの成分の比は東西線の角度の情報を持っているから、三角関数の知識を利用して(arctanを使う)角度を求める。gimpなどの画像処理ソフトで、この角度分だけ元の画像を回転させれば、常に地球自転の軸(つまり北)に整列した画像が手に入るから、この画像を合成して黒点の連続写真が得られることになる。

黒点の位置の座標は、gimpやgnuplot(今回はgrabを使用した...)などにあるマウスの矢印の座標を教えてくれるソフトを用いれば測る事ができる。この座標を太陽中心からの相対座標に変換し、さらに回転させればよい。相対座標と回転変換のプログラムは、今回javaで書いた。まだGUI化してないが、そのうち、回転と重ね合わせまで一体化したGUIソフトでも開発してみたら、黒点観測がもっと楽しくなるだろう。

右:gimpで比較暗合成したもの。黒点の移動の様子が分かる。
左:画像解析した結果をまとめたもの。
並んだ黒点を結ぶと、太陽の自転方向が分かる。地球の自転軸とずれているのがわかる。国立天文台のホームページに、その日の太陽自転軸の角度を計算してくれるページがある。知らなかったのだが、いつも同じ角度ではなく、時間によってぶれるらしい。上の観測に対応する期間で計算してみると、だいたい23から24度程度。
地球から見た太陽自転軸の傾斜角度の計算。
国立天文台のホームページより.
(http://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/cande/sun_spin.cgi)

重ねた時、黒点の列が微妙に直線からずれるのは、この揺らぎのせいかもしれない(もちろん測定誤差や数値誤差もあるだろうが)。

次に気付くのは、太陽の周縁部における黒点の(見かけの)移動速度よりも、中心部の移動速度の方が圧倒的に大きいことだ。これはガリレオとシャイナーの論争で決着した有名な現象だ。シャイナーは黒点を「惑星」だと考えたが、ガリレオは「太陽の模様」と考えた。2人は、天動説と地動説でも論争を繰り広げた、因縁のライバルだったようだ。どちらの論争もガリレオに軍配が上がった(だから、シャイナーの名前は歴史の片隅に消え、ガリレオの名前は明るく輝いたのだろう)。今年は、金星の日面通過があるから、黒点の移動の様子と比較することで、惑星/模様の比較研究を行う事が同時にできる!

最後の考察ポイントは、(写真によく現れている)周縁減光の現象だ。比較暗合成すると、よくわかるようになる。つまり、太陽の周縁部の方が、中心部よりも暗くなる現象だ。これは太陽の厚みによるもので、詳しい理論的説明はシュバルツシルトによって与えられたという。シュバルツシルトはブラックホールを最初に予言したドイツの天体物理学者だ。減光のプロファイルの関数系を数値的に読み取れればいいのだが、それにはより高度が画像解析のテクニックを学ぶ必要がある。こちらはまだ勉強中。

gimpで初めて比較暗合成を使ってみた。黒点が一列に並ぶのは見事だ。しかし、画像が全体的に暗くなってしまうのが難点だ。最後に輝度を上げたらいいのだろうか?(うまくいくことはいったが、黒点の構造が見難くなってしまった。)

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