2012年5月10日木曜日

豪徳寺と渋谷のセシウム汚染:線形仮説は崩壊

以前予想した東京西部のセシウム汚染分布に関する「線形分布仮説」を確かめるべく、豪徳寺(世田谷区)と代々木公園(渋谷区)の土壌を採集し、ベクミルで検査を行った。

豪徳寺は、世田谷区役所の近くにある。共にレベルC(500Bq/kg程度)の汚染を記録した、北の丸公園と川崎の丁度中間地点にある。汚染分布の対称性を仮定すれば、豪徳寺駅周辺がセシウム汚染が最小(予想では130Bq/kg程度)となるのではないか?と仮説を立てたわけだが、果たしてどうだったのか?

まず、豪徳寺周辺の道端で線量測定を行う。いつものJB4020のRAMI値(30秒間隔でそれまでの平均値を計算し、収束したところの値を採用するやり方)は0.12μSv/hだった。一方、新しく導入したDoseRAE2では0.11μSv/hを記録した。今までの経験からすると、この値だと結構な土壌汚染があるはずだ。たしか、東大本郷は0.12μSv/hで2000Bq/kg程度だった。次に、線量を測定した場所で泥を採集した。

せっかく来たので、豪徳寺にお参りする。豪徳寺の様子はこんな感じ。
豪徳寺の様子
豪徳寺は招き猫の発祥の地らしいが、それはともかく、境内の新緑の緑が美しい。その林の木々を縫って、隼が一羽、目の前の梢にとまった。至近距離に5分も止まっていた。こんなに野生の隼を間近でじっくり見たのは初めてだ。東京24区内とは思えない、すばらしい景色だった。原発事故の醜さとは、まったく正反対の世界に思える。が、現実は、ここですら醜悪なセシウム汚染があるかもしれないのだ。

一方の代々木公園だが、こちらは渋谷区にある。渋谷の駅をハチ公口から出て、有名な交差点を渡ってしばらく歩くと坂道になる。この坂道を登りきったところにあるのが、NHKの本店。そこをさらに抜けて突き当たったところにあるのが、代々木公園だ。駅から歩いて30分もないだろう。この距離なら、代々木公園の汚染は、ほぼ渋谷の汚染と考えていいと思う。

代々木公園はとても広いので、もしかすると場所によって汚染具合が違うかもしれないが、今回は時間がなかったので、NHKホールに対面する公園の入り口付近で採集するだけにした。この場所の線量を測ってみると、JB4020で0.11μSv/h、DoseRAE2で0.12μSv/hだった。豪徳寺と似たような線量となった。ここは、木々に覆われて、林のようになっている場所だ。昼間でも薄暗い。かなりセシウムが沈着していそうな雰囲気だが、線量はそれほど高くなかった。しかし、東京でこの程度の線量が出るときは、概して土壌汚染は結構ひどいはずだ。
代々木公園入り口。木々の向こうは(道路を挟んで)NHKホール。

さて、今回の土壌測定は初めてのベクミル柏での測定となった。勝手がわからず、あちこちで手間取って随分到着までに時間がかかってしまったが、無事なんとか測定することができた。その結果が、次のスペクトルだ。
代々木公園と豪徳寺のγ線スペクトル
今までの測定結果と比べると、レベルBの汚染地帯に属すると判断できる。レベルBの汚染は、だいたい1000Bq/kgの放射能汚染に相当する。代々木公園、豪徳寺ともに町田のスペクトルによく似ている。上野と比べると若干低い。

この結果から、渋谷も世田谷区中心部も、土壌は意外に強く汚染されていることが判明した。つまり、以前立てた仮説はまったく間違っていたということだ。豪徳寺周辺は汚染が最も弱いどころか、東京の中でも結構汚染が強い部類に属している。(なぜか、成城や砧、そして川崎の周辺だけが、汚染が弱くなっているようだ。)町田、世田谷、渋谷、そして上野が同じ程度の汚染だということは、東京のほとんどは実は強い汚染があって、例外的に多摩川周辺の地域だけがなんらかの理由で汚染が弱まっているのかもしれない。あるいは、東京の汚染は斑模様になっているのかもしれない。いずれにせよ、この結果からわかるのは、安易な仮説を立ててもなかなか当たらないということだ。セシウム汚染の分布図は意外に複雑で、頭が痛い。

それでも、これまでの結果をなんとかまとめてみることにしよう(ちょっと強引だが)。今回は、皇居からの距離(キロメートル)を横軸にとって、最小二乗法に従って4次曲線でフィットしてみた。
東京西部のセシウム汚染の分布。4次曲線で無理矢理フィットしてみた。
右部分の曲線の落ち込みはこれほど急ではないだろうと思う。
奥多摩がホットスポットになっているという噂もあるので。

その精度は高くないが、見えてくるのは多摩川を中心にした「ふたこぶ」構造だ。なにか地形との関連はあるのだろうか?二子玉川や田園調布の方に今度いってみよう。また、多摩川の河原沿いには局所的にものすごい線量の場所もあるようだし、雨水で流れて多摩川にセシウム汚染土壌が流れ込んでいる可能性もある。多摩川の河原の汚染が気になる。

地図上に結果をまとめてみるとこんな感じ。
東京西部のセシウム汚染分布。
黄色ピンがレベルB、青がレベルC、水色がレベルD、
緑がレベルF。桃色はレベルA.


2 件のコメント:

TheNextWhiskeyBar さんのコメント...

KUZZILA様 初めまして。

多摩・軽井沢に縁あり、いつも興味深く拝見しております。
この地形断面図、地形説の参考になりませんでしょうか?
(便利なサイトを見つけたので試してみました。)
多摩川と以西の高低差約30mがセシウムの分布に影響しているのかどうか?大いに気に掛かるところです。

kuzzila さんのコメント...

TheNextWhiskeyBarさん、

これはとてもおもしろいですね!渋谷が興味深いと思いました。というのは、駅があるのは渋谷川のある谷底、代々木公園は丘の上ですから。断面図にも渋谷川の谷がよく表れてますね。地形説が正しければ、駅周辺にはセシウム汚染があまりないはずです。(多摩川の地形に似た「マイクロ河岸段丘地形」という訳です。)今度調べてみます。ありがとうございました。

多摩丘陵の効果については、今度重点的に調査してみようとおもってます。果たして、この30mの差が意味をもつのかどうか?