2012年5月26日土曜日

postscriptで周転円を扱う

「周転円」の概念は、古代ギリシアのヒッパルコスが天文学に導入したものだ(もともとは幾何学としてアポロニウスが発明)。その後数百年に渡って弟子らによって磨きがかけられた後、紀元2世紀頃、プトレマイオスによってついに完成された(それが正しいかどうかは別にして)。しかし、周転円というのは、複雑な惑星の運動を、「地球中心」かつ「等速円運動」という宇宙観(建前)を壊さずに説明するための「テクニック」にすぎない。小手先のテクニックを使い続けても、やがて観測とのズレは無視できないほど大きくなってしまう。そのため、この「テクニック」は真理を語っていないと、歴史は見切ることになる(それをやったのはケプラー)。

一般に誤解されがちだが、コペルニクスの理論は全ての解決をもたらしたわけではない。(たしか、中学くらいの教科書ではコペルニクスが全てを変えたと教えていると思う。)彼自身も、太陽を宇宙の中心にもってくるだけでは観測とのずれを解消することができないことを知っていた。そこで、結局は「コペルニクスの理論」では、周転円のテクニックを利用してしまっている。(実は、このことは、つい最近知ったばかり...コペルニクスの「天球の回転について」の日本語訳(岩波文庫)では、周転円の部分の議論が省かれてしまっていて、つい見逃してしまうが、英訳本を最近購入したら周転円がちゃんと載っていた。しかも、コペルニクスは周転円に周転円を重ねるという「暴挙」もやってしまっていた。なぜ「暴挙』かというと、コペルニクスは、プトレマイオスの天動説の理論があまりにも複雑なのが気にくわなかったから、地動説をつくったのに、周転円を重ねて理論を複雑にしてしまったら、どっちもどっちになってしまうからだ。実際、計算値はプトレマイオスの理論も、コペルニクスの理論も似たような精度しか出なかったそうだ。)

とはいえ、周転円は自分で描いてみると意外に面白い。正直はまる。postscriptを使うと気軽にきれいな図形をたくさん描けるので、ちょっと遊んでみた。(とはいえ、これは講義で使うためにやっているんだが。)

少しパラメータを変えてみると、花のような図形が出来た。まずは梅から。
ωは周転円(C')に沿って回る「惑星」(P)の角速度。
Ωは円Cの周りにまわる、周転円の中心(E)の角速度。
ωの値を負にしたり、2つの周波数の比を割り切れない整数比にしたり、といろいろ試すことができる。半径の比を変えてみても面白い結果が得られる。ところで、ω/Ω比を1にすると楕円が出てくる。実は、ケプラーが楕円を思いついたのは、周転円に頼ったかららしい。もちろん、楕円における「焦点」の概念を正しく導入するから、単なる周点円がつくる楕円ではない。それにしても、歴史は思いの外つながっているものだ、と思った。

ところで、この方法で作ったちょっと複雑な周転円による軌道をepsにコンバートし、LaTeX文書に埋め込んで使おうと思ったら、変なエラーが出てdviが作れない。もちろん、エラーを無視してpdfまでもっていっても全然だめ。散々苦労していろいろ試したが、次の方法で切り抜けることができた。

まず、ポストスクリプトのプログラムをopenで開く。Mac OS Xは自動的にpdfに変換してくれるから、acrobat readerでスナップショットを撮って、previewで画像ファイルに直す(たとえば、pngなど)。注や座標軸を書き込むなど、ちょっとした修正を行うため、いったんkeynoteで読み込む。そしてpostscriptとして書き出す。

この出力ファイルは、うまくLaTeXで読み込んでくれるときもあるが、失敗することもある。失敗したときは、ps2psを行う。どうして、psからpsに変換するのか不明だが、扱いやすいpsファイルというのがあるらしい。理由はともかく、この方法でLaTeXが処理しやすい形にしてからLaTeXを走らせると、うまくdvi、そしてpdfまでコンパイルすることができた。大切なポイントはps2psだと思う。

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