田崎さんの本に生物学的半減期という概念が載っている。かなり大雑把に言って、「生物学的半減期」とは、代謝によって体内から物質が排出されるまでの時間(もっと正確にいうと、体内に入った物質の量が、代謝によって半分に減るまでの時間)のことだ。
ある薬(例えば抗生物質)を定期的に服用している場合、その薬は次第に体内に溜まっていくが、代謝による排出も同時にあるので(肝臓その他の臓器で化学的に分解される分もあるだろう)、出る量と入る量の兼ね合いによって、最終的には平衡値へと収束していく。(抗生物質を途中でやめてしまうと、代謝によって血中濃度が次第に下がり、細菌を「死滅」できなくなる。かといって無力化するわけではなく、濃度がある程度下がった状態、いうなれば「スパルタ訓練」程度にまで効力が落ちる。この濃度減少の時間変化は、原子核物理と同じように「半減期」という概念で比較的よく説明できるらしい。細菌が死滅しないうちに半減期を迎えると、スパルタ訓練に耐えて生き残った細菌がパワーアップ、つまり「耐性菌」となってしまう可能性が生じてしまう。)
ICRPの内部被曝のモデルでは、放射能物質(例えばセシウム137)が体内に摂取/吸入された際、いろいろな臓器に分かれて沈着すると考えるらしい。「沈着」と言っても、臓器によっては、早くセシウム137を排出するものあるだろうし、逆に長い間保持してしまう器官もあるだろう。ICRPのモデルでは、したがって、それぞれの臓器/器官における半減期を別個に決める。どの臓器にどのくらい流れ込み、そこでどのくらいの半減期に従って排出されるかはモデルのパラメータ、つまり人間が勝手に決めることになる。もちろん、より現実的な結果を得るためには、なるべく医学的な実験、臨床データなどに即してパラメータを決める努力はなされるが、計算して算出するような類のものではない。したがって、恣意的にいじられる可能性は十分あるし、仮定や想定が甘いときは大きな誤差をだすはずだ。したがって、田崎さんもこのようなモデルは「ある程度」までの精度しかない、と注意をよびかけている。(ICRPのモデルのエッセンスは、田崎さんのメモに詳しいことが書いてある。このメモはネットで閲覧可能なので、基本的な内容はそこで確認すべき。一つ要点を書いておくとすると、田崎さんの説明には核崩壊による半減期が含まれていない。精度の悪いモデルだから、そこまで丁寧にやる必要はない、からだそうだ。これはまさに物理学者の得意な「近似」感覚のよい例だと思う。ちなみに、私も田崎さんの感覚に同意。)
ICRPのモデルでも、摂取と排出のバランスがとれた時点で平衡値に収束するという結果となる。つまり、一定量のセシウム137を長期間、摂取し続けると、体の中にセシウム137が一定の量(濃度)溜まってしまうということだ。田崎さんのメモの結論をみると、この平衡値は摂取する量に比例して増大する。
田崎さんの結論は、(自然に存在する)体内のカリウム40の放射能と同程度(つまり体重60キロの人で、凡そ4000ベクレル)に抑えるためには、一日あたりのセシウム摂取量をだいたい30ベクレル程度に抑えればよい、というものだ。
また、政府が決めた食品の放射能汚染の基準が100Bq/kgであり、基準まで目一杯汚染された食物を食べ続ければ、その人の体は、カリウム40の数倍の放射能平衡値となってしまうという結果も得ている。ただ、現実には福島のある家庭のある食事のサンプリング調査では、汚染は20Bq/dayだったそうで、これならカリウム40の放射能と同じくらいだ、ともある。
ICRPのモデルを理解するため、そして田崎さんが無視した核崩壊の半減期を考慮したらどうなるか検証するため、自分でも微分方程式を立てて解いてみる事にした。
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