BBCの人気番組の一つだった"Top Gear"は以前日本での特集を組んだ。この番組は自動車の紹介をする番組だが、新車の性能調査や、クラッシクカーの紹介だけにとどまらず、いろいろな企画に挑戦していて、それが視聴者の人気を得ていた。例えば、ロケットエンジンを積んだ車で世界最高速に挑戦したり、カーブだらけのアルプス(もちろんスイスの)山岳道路をフェラーリで下りるのが速いか、それとも直滑降するプロスキーヤーの方が速いか競争したり、などなど。(ロケットカーの方は大失敗で、バランスを崩した車が超高速で横転してしまい、ドライバーだったプレゼンテーターの一人が意識不明の重体となってしまった。この責任を取る形で番組はしばらく休止となり、番組制作者が批判された。)
日本特集では、北陸を出発して、上信越道を経由し、首都高を抜け、アクララインで千葉の鋸山へ疾走するGT-Rの方が速いか、それとも北陸本線から米原で東海道新幹線に乗り換え、横須賀からフェリーで東京湾を横断し、最後は鋸南からロープウェイで鋸山に登る方が速いか、という日本の公共交通vs. GT-Rの競争という企画だった。(この当時、日本の公共交通機関は、世界一正確で遅れがない、という認識だったから、こういう企画ができたと思う。)
ここで、GT-Rを担当したJeremy Clarksonは、日本の高速道路(特に北陸道と上信越道)の印象を次のように語った:「なぜかアルプス(スイスの)が目の前にあるぞ。----(途中省略)--- しかし、この素晴らしい眺めも...トンネルのせいでなかなか楽しむことができない。日本人はこの素晴らしい山の全ての土手っ腹に、必ずトンネルを開けてるようだ。(ここまでトンネルの暗闇の中。そしてやっとトンネルを抜けて...)あー、太陽の光!(一秒後に真っ暗になって)またトンネルだ....」
原子力発電所の事故、トンネルの崩落事故、暴走列車の脱線などなど、こういう類いのニュースばかりが報道されると、日本の施設は危険だという認識が世界に浸透してしまうだろう。
そういえば、日本が特集されるニュースにはもう一つある。それは「超高速高齢化社会としての日本」というネタだ。人間も、国の施設やシステムも、この国の全てが老化していると、世界の人は感じるかもしれない。
個人的な話だが、笹子トンネルはよく通るので、ニュースを聞いたとき、冷たいものが背中に感じた。実はそのニュースを聞いたのは、事故で首都高に足止めされていた最中だった。代官町を越えて、千代田トンネルに入る直前、2台前の車が急に停止した。4号新宿線が新宿で6キロの渋滞という電光掲示があった直後だった。たしかに4号に分岐する右レーンは渋滞気味で、スピードが落ち渋滞の兆候が出ていた。渋谷や湾岸方面に抜ける車は左レーンに寄り、それなりのスピードが出ていたし、車の数も少なめだった。だから、前の車が停車したとき、新宿線に行きたいのだが、渋滞で車線変更できずに、急ブレーキをかけた下手くそな車だと勘違いしてしまった。ついついクラクションをならしてしまった。首都高とはいえ、急停車されるとそれは怖かったからだ。ところが、前方をよく見ると何かがおかしい。千代田トンネルの中を数人の人が走り回ったり、立ち尽くしていたりと異常な感じがした。前方にヘッドライトらしい眩しい白い光が、不思議なことにこちらに向いて光っている。事故だった。
千代田トンネルの直前で立ち往生した。 トンネル内のように見えるが、窓に雨の滴がかかっている。 前の車はトンネル内にいる。そのさらに先の銀色の車が急停車した車。 その先に車はなく、事故現場まで道が空いている。 |
前方に車が一台もいない異様な首都高の風景の中をしばらく走り、あっという間に家に戻ってしまった。そして、テレビで笹子トンネルの状態を見た。トンネルの中で立ち往生する車の列と、その間を移動する警察車両やレスキュー隊といった風景は、まったく先ほどの首都高の情景と同じだった。もちろん、天井が崩落したわけではないが、首都高だって劣化は至る所で激しく生じている。いつあれと同じ事が起きても不思議ではない。
原発も日本で一番古いタイプのものが爆発した。山陽新幹線のトンネル崩落も、関門トンネルの天井崩落も、1960年代、あるいはそれ以前の古い構築物の、構造劣化や性能不足、そして想定を甘くみた設計などが原因となって、わずか30−40年程度で壊れてしまっている。雑草のようにヒョロヒョロと早く伸びる植物は、根が伸びていないから、冬を越せずに、一年で枯れてしまう(また生え変わるけれど)。一方、ブナの林は数百年の長い年月をかけて、少しずつ大きくなっていく。根をまず広く、深く張って、それから上へと伸びるからだ。どちらがいいかは、子供でもわかるだろう。
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