2011年5月31日火曜日

Canon EOS X4による天体観測:M81,M82,NGC3077,NGC2976の場合

Canon EOS Kiss Fを中古で購入し、昨年より天体の写真観測を行って来た。(最初の観測写真は木星だった。)iso1600が最高感度で、なかなかいい写真が撮れるため、気に入って使って来た。

しかし、どうも巷にはもっといいカメラがあるらしい。その中でも、EOS Kiss X4は、Fを購入する際も検討したが、値段が高く(中古でもそれなりの値段がついていた)、今までなかなか手が出なかった。しかし、新型のX5が登場したおかげで、値段が下がって来た。この機にアップグレードしてみようと思い立った。その理由は値段以外には次の通り。

  • 感度が最高12800とFの8倍!(ただ、これでとると、ノイズが乗りやすくなるという噂もあった。)
  • 上の理由と実は関連しているが、現在持っている赤道儀はCD-1。シビアな極軸合わせがやりにくく、経験上、2分以上回すとブレが目立って来てしまう。そこで、高感度のカメラを導入し、短い時間で写真を撮り終えたい、と考えた。
  • 化石採集や登山の時などは、結構ハードな扱いをカメラにする。天体観測用と、フィールドワーク用で写真機を分けて使いたい、と感じ始めていた。
など。

さて、さっそく新しいカメラで天体写真をとってみた。iso12800の最高感度で挑んだのは、おおぐま座のM81,M82の銀河団(前回の観測はこれ)。今日は台風の後ということもあって、大気の状態は良好。本当は、iso1600とかiso800程度に落として、長時間露光を掛けたいところだろう。が、CD-1の設定は手間がかかるし、所用のため時間がなかったので、一気に高感度、短時間露光で撮りまくってみた。
M81(左)とM82(右)
最初の写真は、M81というよりはM82に注目して画像処理したもの。露光時間はわずか20秒。しかし案の定ノイズがつよく出た。背景を暗く抑えて処理したので、M81の光の広がりは小さくなってしまった。が、そのかわりに、M82のスーパーウィンドと呼ばれる、赤い電離水素ガスがなんとか見える程度に処理できた。

M81に重力で引き寄せられているM82。そこに含まれる天体はM81の強大な重力によって活性化される。その結果、天体は水素ガスなどを激しく放出するようになる。それらは次第に集積し、M82の銀河中心から銀河円盤面に垂直方向に吹き出しているらしい。それがスーパーウインドと呼ばれる、写真で赤く見える領域だ。

が、私の写真では、ガスの吹き出しの様子までは映っていない。ただ、銀河中心がぼんやり赤くなっている程度だ。それでもEOS Fでは撮れない写真だ。もっと綺麗に撮るには、別のテクニックが必要になろう。(フィルターとか、合成など。これらは勉強中。)


2011年5月30日月曜日

太陽の投影観測

来年は日食(金環食)がある。それまでに、太陽の撮影法をマスターしておく必要がある。失敗は許されない。

もちろん、日食だから、ギンギラギンの太陽を撮影する訳ではないが、いちおう一通りのことは練習しておく必要があると思う。NASAもミッションを計画するときは、ありとあらゆる事態を想定して臨むと聞いた。

ということで、まずは投影板を購入した。A80Mfに取り付けて、太陽の黒点などを観測する機器だ。しかし、梅雨入りしてしまい、このところ星も太陽もまったく観測するチャンスがなかった。その上、昨日熱帯低気圧となった台風2号は、今朝まで大雨を降らせていた。が、それも今日の昼過ぎにようやくやんでくれた。とはいえ、まだまだ雲が多く、なかなか太陽が出てこなかった。

こんな悪条件の中、少ないチャンスを生かして、なんとか太陽の初観測を試みた。まだ、太陽の探し方に手間取ったり、写真をとってもピンボケだったり、投影板の位置をどのあたりにすべきか、などなど課題は山積みだ。しかし、それでもなんとか黒点の様子を記録することができた。

大きなのが、右端にひとつ。その上に3つの小さなものが列島状に。さらに、逆側の縁にも小さいのが少し観測できた。ほんとうは、連続的に測定して、太陽の自転速度などを観測すべきなのだが、今日のところはこれでよしとした。あくまで、目標は金環食なので。

黒点が記録できた。雲が流れている様子もみえる。

2011年5月29日日曜日

javaで大きなサイズの画像ファイルを扱う時:OutOfMemoryError

大きなサイズの画像ファイルを扱う時、OutOfMemoryErrorが出て、プログラムが落ちることがある。先日書いたPlanetFollow.javaも、4枚以上の画像を解析すると、エラーが出て落ちてしまった。Image.flush() などをやってみたが、なかなかうまく行かない。

そこで、最初からヒープの大きさを「手で」広げてやると、とりあえずはなんとか動く。たとえば、PlanetFollow.javaの場合は512MBにしてやると、とりあえずは10枚は処理できる。

実際には、
java -Xms256m -Xmx512m PlanetFollow
として実行すればよい。

土星の運動の観測のまとめ

土星運動の観測結果をkeynoteで以前まとめたが、手でつくるので精度が出ない。そこで画像解析を支援するjavaプログラムを書いてみた。(そのスクリーンショットが下の写真。)
天体の位置を測定するjava programme: PlanetFollowと名付ける
十字の目印で星の座標を測定するプログラムだが、ポリマともう一つの恒星(上の写真において、ポリマの左にあって土星の真上にある「三角星」の一番下の星)を利用して、座標を設定し、異なる写真でも共通のスケールで測定できるように工夫した。

このプログラムを利用して、土星とその衛星(今回はタイタンとリアのみ)の座標データを、画像から抽出する。そして、各観測におけるカメラ軸の角度を共通にするため、別途作ったFORTRANプログラムにより修正を行った。(javaに組み込んでもよかったが、やっぱり数値計算はFORTRANがいちばんいい。)最後に数値計算の結果をgnuplotで図表化し、それをkeynoteで加工したのが下の絵。
土星(とその衛星)の運動の観測の解析結果
(横軸と縦軸で縮尺が違う事に注意)
衛星の回転面の角度を概算してみると、黄道に対して約30度となった。結構傾いている。(どうやって概算したかというと、まずは4/25と4/29の土星の位置を用いて、2つの地点を結ぶ線を黄道に平行だと仮定する。次に、5/20のタイタンとリアを結ぶ線を公転面に平行だと仮定する。これら二本の線の角度は、ベクトルの内積を利用すれば計算できる。)が、これが本当かどうかは文献で調べる必要があろう。(川口市立科学館によると土星の自転軸の傾きは約25.33度。だいたい概算と一致しているが...)

また、観測頻度が粗いため、衛星の運動の様子はさすがに「振動」とはまだ呼び難い。梅雨に入ってしまったので、さらに観測が難しくなってしまった....天体観測の泣き所だ。さらなる観測が必要と思われる。

それにしても、6月の上旬には、土星の逆行が始まるというのに、この雨空では大事な部分のデータが欠けてしまう恐れ有り...困った。


2011年5月28日土曜日

5月で梅雨入り:まさにアノマリー

5月27日で梅雨入りするとは、まさにアノマリー。台風2号が接近してる?ほんとにこれは日本の5月なんだろうか?

地球温暖化による、気候の極端化、激変化はついに現実になってしまったかも、と恐怖を覚える。石油もだめ、原子力もだめ、となれば、お日様と風しかない。革命が必要だ。

2011年5月26日木曜日

季節の長さ:太陽のアノマリー

春夏秋冬、それぞれの季節の長さは同じだと思っていた。これって、紀元前に生きた人々の知識にも劣ることだと最近知った。まずは、単純にカレンダーを使って計算してみよう。

それぞれの季節をどう定義するかは諸説あるだろうが、天文学的には、春分、秋分、そして夏至に冬至を使うのが一番適切だろう。例えば、「春」は春分から夏至まで、などとして、それぞれの季節の長さを計算してみよう。

2011年の場合、春分は3/21、夏至は6/22、秋分は9/23、冬至は12/22。また2012年は閏年で、その春分は3/20とカレンダーにはある。これを使って、春夏秋冬を計算してみたら次のようになった。

春:10(3月の残り)+30(4月)+31(5月)+22(夏至までの6月)= 93日。
夏:8(6月の残り)+31*2(7、8月)+23(秋分までの9月) = 93日。
秋:7(九月の残り)+31(10月)+30(11月)+22(冬至までの12月)=90。
冬:9(12月の残り)+31(1月)+29(2月:閏月)+20(春分までの3月)=89。

合わせて、93*2+90+89 = 365日。

つまり、冬は夏より4日も短い!これって、夏が好きな人にはいいが、冬が好きな人には気の毒な話。暦を設計するときに、夏が好きな人が多かったのか、というと、たぶんそういうことではなくて(南半球では季節は逆になる....)、本当に北半球の冬になると、地球の運動速度は上がるのだろう。

この理由は、ケプラーの法則によって説明できる。特に、面積速度保存の法則。確かに(ケプラーの第二法則を学んだ後に)よく考えたら季節の長さが同じ分けない。大学一年の力学の授業で、季節の長さが違う事を一応は教えてくれても良さそうなもんだが、教えてくれなかった....そのせいで、今頃やっと気づいたという始末。まあ、これでなんとかメソポタミア文明レベルまでは昇ることができたかな、と思う。

アリストテレスは、天体の等速運動に固執したので、この季節の不等はアノマリーといって、謎とされた。(まあそうだろう。私もついこの間までアリストテレスと同じように等速を仮定していたので...さすがに天動説ではないが。)アノマリーを解くために苦労したのは、その弟子たちで、ヒッパルコスやらプトレマイオスの離心円や周点円が発明されることになった。

2011年5月25日水曜日

ssh攻撃

大学のマシンが、sshを使ったrootへのパスワード総当たり攻撃などを受けた。恥ずかしながら、2ヶ月近くも攻撃を許してしまった。地震の後、ちょっと管理が手薄になっていた。反省しきり。

慌てて、hosts.allow, hosts.denyでブロックをかける。ファイル読み込みの順番は、allowそして denyなので、denyの方にはとりあえず、ALL:ALLを記述する。その上で、自分が日頃通信したいマシンのアドレスをallowに書き込んでいく。こうすると、攻撃マシンからのアクセス要求にたいしては、sshdが起動する前に通信が遮断される。

昨年も、違うマシンが攻撃されたのだった。今回のは新規に導入されたマシンで、うっかり制限を設定するのを忘れていた。最近、あちこちでこういうssh攻撃が増えているそうなので、要注意だ。

参議院行政監視委員会:ガンジー七つの社会的罪

原発に関して警鐘を鳴らしてきた人たち、それから原発から抜け出して新しいエネルギーを開発しようとする人たちが、一同に会して、参議院で発言した(左のリンクにいって、5/23をクリックするとインターネット中継の記録が閲覧できる)。招集したのは参議院行政監視委員会。委員長は、おもしろいことに自民党の議員だ。自分の党が推進してきたことを批判する人たちを呼んだのは、「自分たちには火の粉は舞ってこない」とたかをくくったか?まあ、でもよい委員会だったと思う。

発言する人たちの言葉は非常に力強かった。小出さんの紹介したガンジーの言葉は勉強になった。

7つの社会的罪:

1. 理念なき政治(これはまさに...)
2. 労働無き富 (そもそもは搾取のことだったろうが、最近では株取引や投資、犯罪のことか?それとも、例の社長と会長の役員報酬、約1億円のこと?)
3. 省略(世界中が今これに溺れている。)
4. 人格無き学識(研究費をかき集めるのが得意で、出世が得意な、件の学者たち。)
5. 道徳なき商業(効率/利益優先主義の、件の会社のこと?)
6. 人間性なき科学(原発や核兵器、生物兵器などなど。)
7. 省略(日本人には高度すぎる。)

2011年5月24日火曜日

久しぶりのJAVAプログラミング

土星の運動を記録しているのだが、やはりkeynoteを使った手作業は時間も手間もかかるので、少し作業を自動化したいと思い始めた。そこで、javaを使ったプログラミングを久しぶりにやってみようと思い立った。

appletにして公開するのはまだ先の事として、まずは自分で使うアプリケーションの開発をやることにした。いつもは数値計算だけしかやらないので、画像処理やGUIに関してはかなり記憶が不確かになっていて苦しんだ。

たしか、富士山の画像を動かして遊んだのは修士にいた頃だった。FMVにSlackwareを入れて、Blackdownでやった記憶がある。DOOMの攻略に燃えていた記憶もよみがえって来た。

それはともかく、あのとき使った教科書は古くて、動く事は動くのだが、「推奨されません」とエラーメッセージがたくさん出て面倒くさい。ネットで情報を集め、なんとかがんばって、EventListener関連をマスターする。(新しい教科書を買ってきたほうがいいかも。)最初の洗礼はmouseExitedがオーバーライドできません、というエラー。調べると、いちいち手で全部定義してやらないといけないとのこと。mouseExited, mouseEntered,などなど全部書かされるはめに。この辺りなんとかうまく回避する方法がきっとあるんだろうが、今は早く画像処理プログラムを完成させるのが目的なので、しぶしぶ云われた通りにして、エラーメッセージを消す。

次の問題が、画像処理に関する事。まず困ったのが、getImageがappletのみのメソッドだということ。なんとかToolkitクラスの発掘にたどり着き、addImageで画像データを読み込めるようになった。

そして、更なる問題が....Imageクラスのメソッドの一つ、getWidth()の戻り値が-1となってしまう問題。つまり、プログラムは動いているのの、画像が読めませんよ、という結果になってしまうのだ。画像の幅が−1になったんでは、表示のしようがない....ほとほと困ってしまった。もしかすると、ハッシュとか局所メモリの破壊とか、そういう感じの問題かな、と思って、2、3度同じ命令を繰り返させてみた。すると、ときどき640とか320とか、ちゃんとサイズを読み取ってくれる。おもしろいのは、実行によって結果が変わる事。−1に戻ったりもする。なんじゃこりゃ???

この結果をもとに、ネットサーチをかけると、あったあった。なんと、javaの実行速度と、画像の読み込み速度のミスマッチから来る問題だったのだ。たまたま、キャッシュなどにデータが置かれ、画像の読み込みが早くなると、640とかちゃんとした値が出るのだが、SSDなど外部の記憶装置などからデータがくる場合は、時間的に遅くなってしまうため、プログラムが先に行ってしまって「画像がない」と文句をいうのであった。このシンクロを行わせるクラスがあることを見つけた。MediaTrackerというらしい。こいつを挟んで、画像処理させると、ちゃんとした値が確保されることが判明した。

こうして、なんとか画像データのサイズを取得し、それを画面に表示させる「部品」プログラムが完成した。久しぶりにやると、結構楽しい。

2011年5月23日月曜日

霧ヶ峰はまだ初春:ショウジョウバカマ

庭に植えたレンゲツツジが開花したので、霧ヶ峰もそろそろ初夏かな、などと勘違いしてしまった。

山道を登る途中、白樺湖の近くで山桜が満開なのを見て、これはまだ春の盛りかな、と多少の修正はしたものの、車山の斜面で浴びた冷たい西風に、自分の認識の甘さを深く反省させられたのだった。霧ヶ峰は、まだまだ春の初めにいる。

その証拠に、斜面に咲くのはショウジョウバカマのみ。春は始まったばかりということだ。実際、車山には残雪が残り、その雪解け水が川となって流れ出していた。
草原に点在していたショウジョウバカマ。
夏に来るといつも一杯の車山の駐車場も今日はがらがら。車をそこに停めて、信濃自然歩道を使って、車山乗越(1818m)まで歩いて登った。それでも、往復一時間くらいはかかった。

そこから、茅野の平の方を眺める。写真によく映っていないが、向こうに南アルプスの峰峰が見える。左に連なるのが八ヶ岳連峰。かつてのフォッサマグナの海にそびえ立つ、「西日本島」の断崖を想像した。そこに突如と現れた火山(八ヶ岳)。溶岩や噴出物で、海を埋め立てたことだろう。ここ霧ヶ峰も実は火山に他ならない。

車山の斜面より、八ヶ岳の裾野を見る。
平の向こうには南アルプスがみえた。
帰り道、いつもの牧場に寄る。ピザはオーダーストップになっていたが、ソフトクリームを注文した。女神湖下まで下ってきただけで、もう空気が暑くなる。霧ヶ峰の風の冷たさが嘘のように思えた。


2011年5月21日土曜日

フォッサマグナの海の研究

前回下見をした場所で化石採集を試みた。山桜は散ってしまったが、山吹が満開だった。

今回も下見ではあるが、化石の確認はしてみようと思い、薮を掻き分け沢に降り立ってみた。なかなか綺麗な渓流が流れていた。



川底は黒色できめの細かい砂岩となっているが、その上の崖は緑色っぽい色をした粗い砂浜系の砂岩となっていた。この緑色の砂岩に化石があった。今回見つけたのはホタテらしきものと、普通の二枚貝(おそらくハマグリの仲間。Callista hanzawai?) ホタテということは、やはりここは海だったと思われる。フォッサマグナの海だったんだろうか?(フォッサマグナの海は約1600万年前から1500万年前頃。)
ホタテだと思う。(Chlamys nisataiensis=ニサタイニシキ?)
調べてみると、この辺りの地層はおよそ2000万年前の第三紀(中新生=Miocene)に属するものらしい。Mioceneということは、英国のBrakleshamやHighcliff(これらの地域はEocene=始新生、約5000万年前)よりも新しい地層だということだ。とはいえ、千葉の沼珊瑚は第四紀(約200万年前)だから、それよりはずっと古い。なにより、フォッサマグナの海が広がっていた年代と一致している。


2011年5月19日木曜日

蛍光灯はどういう仕組みなのか?:放電

ということで、LED電球の発光の仕組みと、そのスペクトルパターンの成因がわかった。蛍光灯と随分ちがうわけだが、では蛍光灯はそもそもどういう仕組みで光っているのか?

蛍光灯は、絶縁破壊の実験の延長で発明された「製品」といえよう。

小学校の理科では、電流が流れるものを導体、流れないモノは絶縁体という具合に、世の中の物を2つに分類しようと頑張った。落雷を防ぐ時、ゴム長靴を履いていれば安全とか、そういう話もこの関連で聞いたような気がする。しかし、19世紀の終わりには、すでに導体、絶縁体なんてものはそもそもなくて、全ての物質は導体になりえる、ということが判明した。つまり、ゴムだって電流は流れるのである。ただし、流す時にはものすごく高電圧を印加してやらないといけないのだが。

絶縁体に高電圧をかけて電流を無理矢理流すことを、「絶縁破壊」というが、この言い回しは、その昔、物質を導体と絶縁体に分けた名残りにすぎない。20世紀になって、半導体(そもそもは、導体でも絶縁体でもないもの、という意味だろう)とか、超伝導体(特に高温超伝導体の多くは、常温では絶縁体なのに、超低温で超伝導となる)が発見されるや、導体/絶縁体の区別は昔程きれいにはいかなくなった。

19世紀の絶縁破壊の実験で、もっとも興味がもたれたのが、空気の絶縁破壊だった。つまり、空気中に電気を流そう、という実験である。実は雷がそれである。(ちなみに、絶縁破壊の臨界電圧はゴムの方が空気よりも低い。つまり、空気の絶縁破壊である雷は、簡単にゴムを絶縁破壊できるということだ。簡単にいうと、ゴム長を履いている人も、落雷で簡単に死ぬことができる、という意味。よく水田の見回りで農夫が落雷を受ける事故があるが、水田に行くときはたいてい長靴を履いてでかけるものだ。)空気の絶縁破壊を「放電」という。

19世紀の物理学者は、減圧すると放電電圧が下がることに気がついた。空気の存在自体が放電と関係あることに気がついたのだった。究極は「真空」であるが、真空中を電流は流れるのかどうか?この問題が解ければ、電流の正体がわかるというおまけつきの「懸賞問題」だった。

LED電球の発光の仕組み

これで準備万端となった。私が購入した安いLED電球、つまり「青色LED+黄色蛍光体」タイプのLED電球がどうやって白色光を作っているか、これで理解できる。

まず、光源は、青色LEDから出る、波長が450nm程度の青色光。このまま使えば、青色の電球になる。青色光は、光の三原色の中では最も波長が短いので、蛍光体に当てることで、波長の長い緑や赤の光を作り出すことが出来る。黄色を中心に、幅広いスペクトルで発光する蛍光物質を見つけ出せれば、青色LEDと組み合わせることで、白色光がつくれる(といっても疑似白色)、というからくりだ。

その黄色を中心に発光する物質としては、セリウムを混入したイットリウム—アルミニウム—ガーネット蛍光体(YAG:Ce)がよく利用されているらしい。サイアロン(SiAlON)というセラミック系の発光体を利用したものもあるらしい。これらの蛍光体は青色を吸収して、黄色を発光する性質をもつ。

つまり、LED電球の光をスペクトル分解したとき、青色とそれ以外に分離したのは、前者が青色LEDから出た光の成分で、後者は蛍光体(おそらくYAG:Ce)から放出された、黄色を中心とする緑と赤の光成分、ということになるだろう。

こうやって、うまい具合にLEDで白色に光る電球をつくることができるのだが、その成功の原因は単衣に「青色LED」の発明によるものだ。青色LEDのみならず、白色LEDも日亜化学が最初に開発した、というのはうなずける。それにしても、一つに勝つと全てに勝ってしまう、というのが、まさにこの世だと感じた。(勝ち組は全てを独占する、といった感じか。)

2011年5月18日水曜日

蛍光発光のしくみ

蛍光発光を理解するのに、量子力学が必要になるとは思わなかった。やっぱり、光に関するものはたいてい量子力学に関係する、と改めて感じた次第。

固体物質中の、電子の量子準位は、バンド構造を成す。これは大雑把にいって多体系であることに由来する。複数のバンドが縞状に量子準位をつくっているとイメージするといい。蛍光物質は、高エネルギーの光子を吸収して、基底状態にあった電子を高励起準位まで叩き上げることができる。高励起準位は不安定なので、すぐに脱励起する。このとき、光子を放出するのだが、いきなり基底状態までストンと落ちないような準位構造をもっているのが、蛍光体。つまり、途中にある励起状態(バンド)を複数回経由しながら基底状態まで落ちる。

したがって、途中で放出される光子の各エネルギーひとつひとつは、最初に吸収した光子のエネルギーよりも小さくなる。つまり、波長は長くなる。(当然ながら、長い波長をもった放出光子のエネルギー総和は、入射光子のエネルギーに等しい。)このように、放出光子の波長が、入射光子の波長よりも伸びる、というのが蛍光体の特徴だといえる。

狭義の蛍光では、入射光を切ると発光も止まる。燐光というのは、入射光を切ってもしばらく自発的に光るもの。これは、蛍光体に不純物を微量に混ぜてやり、その微量元素の量子構造の選択則から生じる長寿命励起状態を利用したものである。寿命が長いため、しばらくはエネルギーを溜め込むことができ、入射光が切れてもしばらくは光り続けるのである。(しばらく前までは、ラジウムなど放射性同位体も利用していたそうだ....) 広義には、燐光も蛍光といってよいだろう。

さて、LED発光の仕組みにもどる

蛍光発光体

蛍光灯で利用されている「蛍光体」。以前から、なんだろうそれは?と疑問に思って来た。

LED電球の多くも蛍光塗料を利用しているとは知らなかった。赤、緑、青の3つのLEDを組み合わせて白色にしていると思っていたのだが、それはもっとも高価な製品タイプだという。このタイプのLED電球の光をスペクトル分解すれば、3本の輝線が赤、青、緑のところに見えるはずだが、私が買った1500円程度のLED電球から出てくる光のスペクトルは随分この予想と異なっていて驚いたのであった。

まずは、蛍光体の化学成分を調べようと思って、ネットサーチを掛けたり、百科事典を調べてみたのだが、まったく書いてない。それでも粘って調べを進める(太陽にほえろ!の聞き込みの音楽が頭の中で流れる)と、青色発光ダイオードで有名な日亜化学が、実は発光塗料の大手メーカーであることが判明。そこに化学式がのっていたのであった。

様々な用途に応じて、様々な蛍光体があるのがわかったが、一番知りたかったのは、白色をだすための蛍光灯用のもの。蛍光灯では紫外線を吸収して発光する蛍光体が必要になるが、日亜化学の製品としてはCa10(PO4)6FCl:Sb,Mnを使っているという。カルシウム、燐、フッ素、アンチモンなどを含む実に複雑な化合物で、ちょっと驚いた。


さて、モノが分かったところで、蛍光発光の仕組みについて調べてみた。

LED電球のスペクトル

LED電球のスペクトルを見てみた。驚いたことに、一見して連続スペクトルに見えた!まずは、その写真を下に載せる。
LED電球のスペクトル
最初見たときは、連続スペクトル(リンク先の写真は月光のスペクトル)かと思ったが、写真に撮ってよく観察してみると、青とそれ以外の部分が分離しているように見える。青色以外の部分は、緑と赤の領域が大きく目立ち、その間に黄色の領域が僅かに見える。明らかに蛍光灯の線スペクトル(あるいはここをみよ)の様子とは異なっている。つまり、蛍光灯とは違う仕組みで光っている(白色光をつくっている)と思われる。興味が湧いたので、少しネットで調べてみることにした。

最初は随分苦労したが、まずはここに辿り着いた。パナソニックによるLED電球の仕組みについての説明だ。ここで目に留まったのがこの図。まさに得られたスペクトルとそっくりのスペクトルが左に描いてある。波長500nm領域が暗くなる、という説明は、まさに上の写真とそっくり。説明を読んでみると、大雑把にいってLED電球は3種類あるらしいが、私が購入したのは一番安いタイプの「青色LED+黄色蛍光体」式だということがわかった。この説明の意味を理解するには蛍光発光の仕組みを理解しないといけない。

2011年5月16日月曜日

月光のスペクトル

安い回折格子が手に入ったので、月光のスペクトルを記録してみた。固定器具無し、手で回折格子をレンズの前にかざし、もう一方の手でラフにピントを合わせただけの試し撮り。(手が3本欲しい...)まあまあ、きれいな連続スペクトルが撮れた。
左の白くて丸いのが月、右が月光のスペクトル分解。
シャッタースピード1/40秒での手取り。
回折格子は手でレンズの前に置いただけ。
(これは合成写真ではなく、本当にこういう風にファインダーに映る。)
回折格子は、月光に対して45度くらい傾けると、スペクトルが中心から外れたところに現れる。上の写真も、丸い月が見える箇所は、回折格子をそのまま真っすぐ通り抜けた光の成分に対応する。つまり回折せず、レンズにそのまま直進入射した月の光の成分。一方、右側のスペクトルは、回折格子で回折し、干渉した成分。ファインダーの中に、この二者を入れ、ピントを合わせたらシャッターを切るだけ。

月を撮影しないときは、右側を覗き込むようにレンズを向けるとよい。拡大したスペクトルを撮影することができる。
月のスペクトル。
残念ながら、暗線の構造までは見て取れない。これは多分ピント合わせの問題。

ちなみに、蛍光灯の光を分解すると、輝線スペクトルになっているのがよくわかる。メーカー毎、製品毎に色の混ぜ方が異なるそうだから、カタログをつくっておくと役に立つかもしれない。
ある蛍光灯の輝線スペクトル
白熱灯のオレンジ色を模した発色になっている。
そのため、赤系統の成分が多く含まれている。
この後、恒星のスペクトル分解に挑んだ。月が明るいので、東の空に輝くベガを見てみた。まず、月と同じように、レンズの前に回折格子を置いてみたが、これは失敗。対称が小さすぎるのである。そこで、A80Mfを持って来て、接眼レンズの像にかざしてみた。すると、細くて長いスペクトルが対物レンズの左右に広がった。しかし、これを撮影するのは大変で、焦点が合わなかったり、像がファインダーに入らなかったりで、うまく撮影できなかった。作戦を立てる必要有り。


2011年5月15日日曜日

土星の運動の観測

ここ二ヶ月ほど、土星の観測をしてきた。

惑星とは「惑う星」、つまり、そもそもは星座(恒星)の間を縫って動き回る星という意味だから、その位置変化はやっぱり調べてみたい。そこで、keynoteをつかって、今まで撮りためた写真を重ね合わせ、その位置がどのように変わってきたか調べてみた。今のところ、うまく線形近似できそうなほど直線的な動きを見せていて、逆行や回転など「派手な」運動の気配は見えない。ポリマ(乙女座のγ星)目掛けて次第に接近しているように見えるが、これも6月10日を境に、次第に離れ始めていくらしい。逆行観測のチャンスはそれより後のことになろう。

位置を調べるだけではなく、せっかく作ったkeynoteのファイルに、色々な観測結果をまとめてみた。
2011年、春の土星観測


上の図における右下と左上の囲みに、異なる撮影方法による、同じ日の土星の拡大写真をおいてみた。右下のものは、望遠レンズでISO800で30秒露出(CD-1使用)したもの。月齢10日の月が明るくて背景が灰色になってしまったが、左にタイタン、右に(微かながら)レアと、数ある土星の衛星のうち代表的なものが2つ写っている。

一方、Vixenの屈折望遠鏡A80Mfをつかって、コリメート撮影したのが左上の囲み。輪の存在や、土星の色合いなどがわかる。ISO1600で1/40秒露出というやりかたなので、この場合には衛星は写らない。

右上の囲みは、土星が(見かけ上)近づいている乙女座のγ星(ポリマ)の拡大写真である。ポリマは実は二重星で、現在かなり接近した位置にある。A80Mf程度の口径をもった望遠鏡で、なんとか分解することができる。毎年、取りためていけば、これも回転軌道の様子が研究できるはずだ。

(追記:javaやFORTRANを使って、もう少し丁寧に天体の位置を数値解析してみた結果はこちら)。

2011年5月14日土曜日

水位計の場所

東電の「プラントパラメータ」には、AとBと二つの値が書いてあるものがある。水位もその一つ。たとえば、今現在のデータによると、領域Aはダウンスケールで、領域Bは-1700mmだという。これはどういう意味なのか?今問題になってる「空焚き」はAがダウンスケールだ、ということだから、実際にはAだけ追っていけばよい、ということになるのだろう。じゃあ、Bの値はなんだろう?

東電の水位測定の説明を、写真に取った図がこれ。H0とH1の二つの値が「水位」だという。H0は原子炉内の水位を測ったものだが、おそらく絶対値で出ないので、なにかと比較して絶対値を出している、という説明だとおもう。その比較するべきものがH1で、こちらは原子炉の外にあるから、実測できるわけで、それをH0を測ったものと同じ計器で見たときに、どんな数字を出すか調べれば、H0の数字の意味が修正、つまり較正できるということだろう。この較正をちゃんとやらないと、H0がトンデモナイ値になる。学生実験なら「不合格」ということになる。東電はこういう「不合格」を何度もしているから、注意しないといけない。

また、学生レポートで点数を落とす要因になるのが、「グラフの定義」「表中の数字の定義」をやり忘れることである。定義してないものは、いくら見せられても意味不明のままであるから、判断がつかない。領域A,領域Bがどこを意味するのか定義せぬまま、発表する東電の「レポート」はハッキリいって「不可」しか出せない。

メルトダウンの意味

福島原発の一号機のメルトダウンの意味を巡って、意見が割れている。

まず、東京電力の見解では、圧力容器の中でドロドロに溶けたウラン燃料が、「水の中に浸って留まっている」という。つまり、穴はあいてない、と考えている。主要なテレビ局や新聞でも、東電の解釈をそのまま信用している。

一方、videonews.comで見解を発表した小出先生は、「溶融した核燃料は圧力容器を突き破って、格納容器まで落ちている。そこで水に浸ってアンパンのあんこのようになっている」と説明した。

一号機の下部からは大量の漏水があって、地下などで見つかった溜まり水は放射能汚染がひどいことは前から分かっていた。その出所が、原子炉であることは自明だが、どのように放射能物質が漏れているかが、わかっていなかった。今回の東電の説明では、圧力容器の底にある配管周辺などに隙間/割れ目ができて、そこから漏れているらしい、という。一方、小出先生の説明だと、圧力容器の底は文字通りメルトダウンしてしまって抜け落ち、大きな穴が開いている。つまり、圧力容器の中には、水はもう溜まらない。

後者が「いわゆるメルトダウン("the" meltdown)」であり、前者は「燃料の溶融(melting of fuel rods)」だが、どちらも報道ではメルトダウンといっている。(東電の説明は、分かり難かったが、両者ともにメルトダウンと呼びつつも、チャイナシンドローム(映画)型のメルトダウンではない(つまりthe meltdown)ではない、と説明した。

果たして、どちらが正しいのだろうか?崩壊熱で溶けた燃料は数千度(2から3000度)はあると言われている。圧力容器は鋼鉄製で、厚さが15−30センチ程度の圧力釜。ちなみに、鉄の融点は1500度ちょっと。容器の底に水が多少溜まっていたとしても、3000度の高温物質が落ちてくればあっと言う間に蒸発する可能性は高い。たとえ、水が液体のまま残っていたとしても、激しく沸騰しているはず。注水して次から次へと水を入れてやらないと、圧力容器の中を水で満たすどころか、若干でも貯めるのは不可能なはず。

一日何トンも注水しながら、結局ほとんど残ってないのは、漏れ出てしまった分も多いだろうし、蒸発してしまった分もあるだろう。現在の炉心内の圧力はだいたい4、5気圧だから、窒素の分を考慮したとしても、相当な蒸気量だと思う。(窒素を入れても実はなかなか圧力は上がらなかった。穴が既にあいていたからだろう。)

水が干上がったとすると、鉄容器の上に居座った核燃料は、容器の壁を溶かし続ける。そして最後には、ボコッと穴を開けて下に落下するだろう。つまり、The meltdownしている方が確率が高いと思う。

こうなると、格納容器へと落下し、そこで水を瞬間的に蒸発させるはず。これが爆発的におきると水蒸気爆発を起こして、原子炉を壊し、大量の放射性物質を外界にバラまく、という可能性があるのだが、面白いことに、そうはなっていない。なんとか、爆発を切り抜けて、格納容器の水の中に沈んでいるようだ。というのは、格納容器の温度が90度を切っているからだ。1気圧における水の沸点以下、つまり液体の水になっている可能性が高い。京大の小出先生は、以上を持って一号機の水蒸気爆発の可能性はなくなった、と述べている。ただし、東電のここまでの発表が正しいと仮定して、と付け加えていた。

たしかに、東電の技術者のデータ管理/分析能力は多くの人が指摘しているように、著しく劣っている(あるいは意図的にそう振る舞っているのか?)と思うので、まだ安心はできない。

ここまでの、東電のデータが正しいとすると、日本初のメルトダウンは「幸運にも、何事もなく収束した」ということだろう。しかし、原子炉の解体/廃炉に携わる作業員は、この後、命がけの作業をして、高温でドロドロに溶けた燃料を取り出し、処分しないといけない。これは大変なことだと思う。

一号機の「メルトダウン」

昨日は一日、Bloggerで文書作成ができなかった。バグ処理をしていたらしいが、このところ、似たような状況が続いていた。これで、データが全部消えていたら力抜けしていたところだが、なんとか復旧されたようで、ほっとした。

この数日は、福島第一原発の一号機の報道に注目していた。きっかけは、同僚からのメール。「どうも、ずっと空焚きだったようだぞ!」

まずは、早野先生のTwitterを確認する。私は、一号機に人間が入ったのは知っていたが、水位計のリセット(正確には較正やり直し)をやろうとしていたのは、迂闊にもリアルタイムで追っていなかった。Twitterには、早野先生らがこの作業に注目していた様子が記録されていた。原子炉内の計器は、水素爆発の際に壊れたり、高温、高線量の環境で動作不良になったとか、いろいろ問題があって、その信頼性が今ひとつだった。原子炉の中で何が起きているかみるための「科学の目」が半分潰れているようなものだった。その「目」を治すというのだから、科学者がこの作業に注目するのは当然だ。これでようやく、中で何が起きているか、やっと「見る」事ができるからだ。

その結果は、空焚きだった。水はもう圧力容器の中にほとんど残っていなかった...毎日毎日、今までに何万トンも注水しておきながら、その水は中に残っていなかったのだった。水で冷やさない核燃料はどうなるか?崩壊熱で数千度にまで熱せられ、燃料棒は溶融して崩れ落ちる。まさかのメルトダウンが、もうとっくに起きていたのだった!

2011年5月11日水曜日

桜井均氏の主張

朝日新聞で桜井均氏の文章を読んだ。NHKの元プロデューサーだという。色々な大学で客員教授をやったりもしているらしい。こういう人がどんどん意見をいって、若い人たちに言葉を届けてほしい。

日本のメディアが一斉に「がんばれ日本/東北」を掲げるとうさん臭く感じる、という意見には考えさせられた。「助けて」と、すがる人々を、「お前が頑張れ」と突き放しているように見える、という。はっとした。

原発で現在格闘している人々を英雄扱いするのも、恣意的なプロパガンダの気配を感じる。よくよく調べると、ただ単に東電に騙されて福島につれてこられてしまった日雇い労働者たちも結構いるらしいから驚いた。

NHKの報道には「時の権威者」がいつも呼ばれて、「地動説なんて間違ってますよ。天動説でいいんです」みたいな解説を、うんざりするほど繰り返すだけのことが多い。が、ときどきいいのもある。例えば、NHKに内橋克人氏がよく登場するのは、桜井氏のような人がNHKにも少しはいる(いた)からなんだろう。

2011年5月8日日曜日

「宇宙創世 はじめの三分間」を読む

Steven Weinbergの一般向け書籍の名著。この本に啓蒙されて、宇宙論/素粒子論に進んだ科学者はかなりの数にのぼると思う。和訳は小尾信彌(天体物理学者)で、ダイヤモンド社から1977年に初版本が出ている。原著も1977年出版なので、そうとうなスピードで翻訳したと思われる。(最近知ったのだが、1993年にWeinberg本人による改訂版が出版されている!これは是非買って読まねばならぬ。こちらの方はまだ翻訳がないようだ。)

もう何度もこの本は読んだ。最初に読んだのは学部時代(確か3年のとき)。一応読み通したものの随分苦労した。(実はずっと後になって気づいたのだが、和訳にちょっと難があって初心者にはわかりにくいのだ。)次は大学院に入ってから。物理の基礎が随分固まって来ていたので、なんとか理解できたが、それでもまだ浅い理解だったと思う。英国の大学に就職してからは2回程読んだ。このころになると、素粒子論の理解が随分進んでいたので、和訳のおかしいところなども含めてかなり深いところまで理解できた。そして、今、再度読み直しているのは、実は教科書執筆のため。

今回読んで理解を深めたのが、膨張宇宙論の意味だ。

人間は元来定常宇宙論が好きで、古の宇宙模型はたいてい定常型。その究極の例は、アインシュタインが相対論に付け足した宇宙項だろう。これは、自分のつくった一般相対論が膨張宇宙解を出さないように、「人為的に」付け足した項だ。後年「人生最大の失敗」といって取り下げると同時に、ひどく反省したという。アインシュタインですら、最初は定常宇宙論の虜であったということだ。

定常宇宙論は非常に心が安らぐ。宇宙は不変で、過去も未来もずっと同じ世界が続くことが補償されているからだ。(実は、日本の戦後60年も、似たような感じがあったと思う。この平和がずっと続くと勘違いしてしまった。しかし、変化はある日突然やってくるもの。大地震、大津波、大噴火、大竜巻、大雨、などなど、自然が大きく変化すると人間の心の平安は粉々に砕かれてしまう。)

哲学的あるいは宗教的には、膨張宇宙論は確かにそれなりの意味がある。しかし、物理的な意味はもっと深くて単純だ。それは、膨張宇宙を認めると、宇宙の「温度」が必ず時間と共に下がるということだ。(これはつまり、宇宙の歴史は、時間に沿って記述しても、温度に沿って記述しても、どっちでもよいということ。)温度が下がると、相転移が起きる、粒子の生成消滅の様子が変わる、多体束縛系(原子核や原子)が出来る、星ができる、銀河が出来る、と行った具合に、様々な「構造変化」が可能になる。つまり、宇宙の多様性の源は膨張宇宙にある、といってもよいだろう。一様で不変な宇宙は、きっと飽き飽きするような簡単な構造(いわば地平線の続くアメリカ中西部の景色のようなもの)で、三陸海岸や英国海岸のような多様性は生まれないはず。

もちろん、ビッグバンは劇的な現象で、それ自身が興味深い。しかし、そのエネルギー密度が無限大で、そこから全てが生まれることを約束するのは、単衣に膨張する宇宙という事実に他ならない。いわば、ビッグバンは二次的なものであり、膨張宇宙の方が本質だ、という意味だ。

2011年5月7日土曜日

浜岡原発の停止!

どう考えても矛盾だらけだった浜岡原発に、やっと運転停止要請が出された。総理大臣の政治判断だ。ぐじゅぐじゅ言ってる産業界は問題外。やっと民主党に投票した見返りがあったと思う。こういう政治をどんどんやってほしい。

昔から皆んな知ってたのは、御前崎は東海地震の予想震源域のど真ん中にあること!
独立行政法人防災研究所(要は国立研究所のこと)の予測地図。
今後30年の間に震度6強以上の大地震が
起きる確率の高い地域は赤く塗られている。

この予想は政府機関(文科省)のものだから、浜岡原発は30年以内に大地震に遭遇する、と国は認めている訳だ。にも関わらず、今までの自民政権は「安全です」キャンペーンをずーっとやってきた。論理が壊れてる。(「巧みな言葉で一般庶民をだまそうとしても、ほんの少しバレてるその黒い腹。」という歌があった。寮の仲間と、下北沢のレコード屋に行って、みんなで買ったのを思い出した。)今回の原子炉停止命令は、政権交代したおかげだ。

これからは、人間の幸せを犠牲にして、モノを売りさばく「豊かさ」の追究ではなく、北欧のように知的で質の高い「幸せ」を追究すべきだと思う。

さて次は、柏崎の原発だ。フォッサマグナの活断層の真上に原発つくるなんて、「なにいってんだーやめときなーいくら理屈をこねても、ほんの少し考えりゃ俺にもわかるさ」ってなもんだ。

坂本龍一がこういう活動やってるのは、やっぱりRCサクセションの影響があるからなんじゃないだろうか?

2011年5月5日木曜日

連休の地学散歩

フォッサマグナはかつて海峡だった。そのど真ん中にあった大きな島が、現在の関東山地だという。その西の縁に当たるかつての「浜辺」は、現在、信州の山奥にある。八風山近くのとある山に今日は出向いてみた。珊瑚の化石がでると聞き、浮き足だったのだが、今日は採集せず現地の様子見をするだけにした。

小さな渓流に沿って谷をつめていく。谷が分かれ、山に囲まれる。露頭を見ると凝灰岩、特にこの辺りはグリーンタフ(緑色凝灰岩)が目立つ。この岩石は火山灰等の堆積物だが、特に海に降り積もったものと言われている。海水のミネラル成分によって色が緑色になったのだろうか?軽石風の凝灰岩や、大谷石などと違って、ここのグリーンタフは結構固い。キメも細かく、薄い緑色がとてもきれいだ。

凝灰岩の上にあるのが砂岩の地層で、ここから海の生物の化石が出るらしい。今日は、真っ黒で固い砂岩が川沿いに転がっているのだけを確認した。しかし、この砂岩は固すぎて、化石は含んでいる様には見えなかったが。

砂岩の地層の上が溶岩。節理が進んでおり桂林に似た奇岩風景を形成していた。(もっとも、桂林の山は石灰岩で、かつての珊瑚礁だと思うが。)いつか登ってみたい。


写真からも分かるように、木々の新芽が芽吹き始めている。谷川の入り口にあった小さな村は桜が満開だった。時折花びらが流れの方へ、はらはらと散っていく様は、夢の中のよう。遠くで鶯が鳴いた。

鶯や 散り落つ川の山桜

2011年5月4日水曜日

蟠桃(ばんとう)

蟠桃(ばんとう)を初めて食べたのは、10年程前、北京の市場で。絶品だった!学会の合間に、中国人の友人に連れらて、北京大学の近くにある市場にいった。彼が北京大学の学生だった頃、よくここで買い物をしたそうで、隅々までよく知っていて感心した。そこには、ひまわりの種やら、細長いメロンやら、見た事もないような食材が広大なスペースに並べられていて圧巻だった。その中から、友人が食べてみろと選んでくれたのが蟠桃だった。この平たい桃の旨い事!後で調べると、孫悟空が天界で盗み食いした「桃」とはこの蟠桃のことだった。納得だ。この「桃」最近では日本でも栽培しているという報道を信濃毎日新聞で知った。

欧米でよく食べるブドウを元に改良した品種「マニキュアフィンガー」もおいしそう。この種のブドウは皮ごと食べるのだが、私の好物の一つだ。初めて訪米した時、友人宅で食べたのが最初。蟠桃ほどの強烈さはなかったが、現地のスーパーに行く度に購入したものだ。英国に住んでいたときは日常的によく食べた。ただ、英国のスーパー(WaitroseやM&Sですら...)のものは品質が悪く、入荷直後(たいていは木曜の夜)でないと購入する気がしなかったが。

まだ、日本のスーパーに日常的に並ぶ程には普及していない両者。農家の皆さんにはがんばっていただきたい。

2011年5月3日火曜日

フォッサマグナの東縁(=柏崎)

先日、川中島の博物館でフォッサマグナの勉強をした。博物館にあった参考書を買ったり、町の図書館で本を借りたりして読んでみた。驚いた事に、昔、中学や高校で習った事は誤りであることがわかった。ここにメモしておこう。

まず、中学で「フォッサマグナとは、糸魚川静岡構造線のこと」と習った。高校の地学では、プレートテクトニクスや地震のs波p波は学んでも、地域特有の事象は学ばないから、中学で教わった「フォッサマグナ=糸静線」の認識は改められぬまま今日まで来てしまった。しかし、今回の「勉強」で、この認識が誤りである事がはっきりした。(ちなみにWikipediaにもそういう記述がされている。)

まず、フォッサマグナの意味だが、これはラテン語で「大きな凹み」という意味で、ナウマンによる命名だという。糸静線一本だけでは断層とはなれど、凹みにはならない。凹みにするには、もう一つの「縁」が必要だ。フォッサマグナ(日本語で「大凹」と書いた方が誤解が少なかろう)の西の縁が糸静線。東の縁に関しては諸説あるようだが、大勢は「柏崎銚子線」と考えているらしい。

柏崎?東電の原発があるところじゃないか!しかも、中越地震とか大地震が頻発している場所である。このフォッサマグナの東縁は「生きている」ということだ。義務教育の社会科では「フォッサマグナ」を「大凹」だと強調すべきで、その東の縁が柏崎にあるということは、しっかり教えなければならないだろう。

さて、この「大凹」だが、数千万年前には、その凹みに水が流入しており、海だったそうだ。だから今でも長野県には貝とかクジラとかの化石がたくさんでる。また、千曲川の上流には、小海や海尻、海瀬なんて地名だってあるくらいだ。フォッサマグナの縁は断層になっているため、その巨大な崖が海から立ち上がり、西日本と東日本を2つの島に分けていたという。西縁の崖は今の飛騨山脈だ。

しかし、東の縁に関してははっきりとした断層が現在は見えない。たぶん、中越地震や、今回の大震災翌日に起きた長野県北部地震(栄村)などの大きな地震が起きている地域が、おそらく東縁に対応していると思われる。大震災の後、余震が関東方面を目指して南下しており、茨城、千葉でも結構大きな余震がこの一ヶ月間多発した。これはフォッサマグナの東縁の断層が(大震災に)反応しているからではないだろうか?

フォッサマグナが海だった当時の「東日本島」には「関東」は存在しなかった。この平らで標高の低い部分はまだ(フォサマグナの)海だったからだ。ただ、当時から残る「関東」もある。それが「関東山地」、つまり秩父や多摩の山々だ(甲武信岳から佐久地域に繋がる信州の山々も含まれる)。この塊は「島」だったという。つまり、東日本島と西日本島を隔てる海峡に浮かぶ、大きな島だったらしい。

兵庫や福岡で恐竜の化石が出て、福島いわきにアンモナイトや魚竜の化石が産出し、そして秩父にも恐竜の化石がでるのは、これらの地域が古い岩盤でできているからだ。一方、関東平野でとれる化石といえば、千葉でも神奈川でも新生代の貝類ばっかりで、現代の浜辺で拾える貝殻とほとんど同じ物が多いのは、これらの地域は「最近できた」新しい大地だからだ。

フォッサマグナの信州部分は八ヶ岳(や浅間山など)の火山活動で埋まっていった。また、大地の隆起もあって、次第に水が引いていき淡水化した。そこには日本最大の湖が形成され、その周りにゾウやマンモス、大型の鹿などが住み着いた。またその獲物を狙った旧人類もやってきた。信州に縄文時代の遺跡が多いのはこれが理由だろう。大和朝廷のあったところから遠く離れているにも関わらず、善光寺など古くから文化が発展したのも、昔からこの地には人が多く住んでいて、都市との交流が盛んだったからかもしれない。

この大きな湖の平らな湖底は、信州の盆地となった。ただし、八ヶ岳によって2つに分断されている。その東には千曲川が流れ、佐久上田長野の盆地がある。一方、西側には天竜川(諏訪湖)および梓川沿いに、伊那(諏訪)松本の盆地がある。信州の山奥に「平」があるのは、フォッサマグナの海/湖があった証拠といえよう。

2011年5月2日月曜日

黄砂

季節外れだと思う。連休の空が黄砂で霞むなんて参った。軽井沢では視界が7m(長野では5m)になったと報道されていた。日中はそれほどでもなかったが、とにかく周りの山が白い霞の中にすっかり隠れてしまった。

不思議な事に、こんな状態でも、夜になると星が見える。前日の強風で邪魔された恨みあって、今日こそはいい写真をとってやるぞと力んでみるも、黄砂はやっぱり空に残っていて街の光を散乱し、目には映らぬ黄色い光を写真に残してまたも邪魔される。

黄色く霞んだ連休の夜空:M104
不満足なのは黄砂の茫光のみならず、極軸のブレから長時間露光写真がことごとく失敗する。昨日は強風のせいにして極軸がずれたと言い訳したが、無風の今日も像が歪んでしまった。やっぱり極軸合わせが未熟なのであった。今日は、明るいうちに、極軸望遠鏡の微調整を再度やらないといけないと反省したのであった。

軽井沢の山は今スミレがきれいだ。ピンク色のふわふわした野草も見つけたが名前がわからない。ダンコウバイはさすがに散ってしまった。ツツジの蕾が膨らんで来ている。落葉松の芽吹きも徐々に始まっている。ここは初夏が一番きれいだと思うが、その季節に向けての準備は着々と進んでいる。落ち葉に覆われた山の斜面には、小さな木々の芽が無数に伸びて「林立」している。ウグイスが向こうの山で鳴いた。

2011年5月1日日曜日

流星と蠍座のM4の観測

今日は曇りだったので、まさか星が出るとは思わなかった。今日は極軸合わせがなかなかうまく行かず、また風が強く、空気の状態はよかったのに、いい写真がとれなかった。観測ドームが欲しいと思ったのは、今日が初めてだ。M44,51,65,66,81,82,101,104、そして土星とひと通り全て写真に撮ってみたが、全部ボツ。

それでもいろいろとご褒美はあるものだ。一つ目は、烏座と乙女座の間にあるM104(ソンブレロ銀河)を狙っていたら、流れ星が3回ほど流れた。その内の一つが偶然写真に写っていた。
M104と流れ星
また、なかなか軸が合わず困っていると、蠍座が上がって来てしまった。夏の星座がもう観測できるとは思わなかったので、下調べ無しのまま、とりあえずアンタレスを撮ってみる事にした。現像してみたら綺麗な赤い恒星は当然写っていたが、もう一つのご褒美、星団らしきものも写っていた。調べると、7200光年先にある球状星団のM4だった。

アンタレス(左)とM4球状星団(右)
写真背景の「斑模様」は木の枝の影。