2012年4月8日日曜日

瓦礫処理の「安全性」:簡単な割合計算

がれきの広域処理を巡って、「感情的に受け入れを拒否するのはけしからん」という意見がある。この意見の根拠にあるのは、「がれきは安全だから」という主張。

しかし、この「安全性」の主張の根拠がぐらついていることは、既にいろいろな人が科学的な立場から指摘している。(このブログでも、以前東京新聞の記事をとりあげた。)放射能物質だけでなく、重金属やアスベストなどの有害物質が瓦礫にはこびり付いている、という指摘もある。また、政府が制定する、放射能を帯びた廃棄物の埋め立て基準が、震災前は100Bq/kg以下だったのに、瓦礫の問題が出て来たとたんに8000Bq/kg、つまり80倍に引き上げられたことは、基準値自体が既にうさん臭いのでは?という人々の疑いを生んでいる。そして、この疑いは論理的に正しいと思う。8000Bq/kgが大丈夫だというなら、最初から、つまり50年前からそうしておけばよいのに、つい2年前までは8000Bq/kgの放射能廃棄物を埋め立てた人は逮捕されていたのだから、日本政府はそもそも8000Bq/kgは科学的に見て問題があるレベルだと認めていたわけだ。

さまざまな矛盾がある中、今回はもっと簡単な算数で、この安全性について考察してみたい。それは割り算、もっと言えば比率の問題だ。簡単に言えば、木材に付着した放射能物質が焼却されて灰となったときに、どのくらい濃縮されるのかという問題だ。

この資料の6ページによると、広葉樹の木材の組成のだいたい1.6%(コンパスとものさしを使って画面を測ってみた結果の数字)が灰になる成分だという。また針葉樹の木材はもっと比率が低い。この資料を作ったのは、京都大学農学部の名誉教授の方で、森林研究の専門家だから、この数字はそうは間違ってないと思う。組成の比率だから、質量の比率とは限らないけれど、仮にそうだとすると、広葉樹からなる木材1キロは焼却後16グラムの灰になるということだ。針葉樹ならばもっと少ないことになる。目分量でだいたい1/10だとすると1.6グラムとなる。

キロあたり100ベクレルの木材がれきを焼却してみよう。セシウムなどが蒸発して環境に飛び出してしまうとか、煙突にこびり付いてしまうとか、そういう複雑な要因は無視して(だいたいそういう事が起きたら大問題だ。特殊な焼却場を使わないといけないわけだから。)、とにかく全量が焼却灰に残ると仮定する。すると放射能の強さはそのままとなり、放射能の「濃度」が変化することになる。つまり、残った汚染物質、つまり灰の質量で換算した放射能が問題となる。

広葉樹でできた木材の瓦礫の場合、質量は1.6%に減少するから、簡単な割合の計算をすると、100 Bq/kgだった木材の焼却灰が持つだろう放射能は、キロ辺り6250ベクレルへと跳ね上がる。ちなみに、現在の暫定基準値8000Bq/kgに到達するの場合を計算すると、120Bq/kg強の放射能を帯びた瓦礫に相当する。

針葉樹の木材の場合は、さらに濃縮されるので、キロあたり100ベクレルの瓦礫を燃やした後の灰は62500 Bq/kg程度となろう。暫定基準値でみても約8倍の放射能だ。当然、この灰は埋め立ててはいけない。(やったら法律違反で逮捕。)

こんな計算をやってみなくても、柏や東京の下水汚泥の焼却処理施設の問題を見たら分かるように、燃やして濃縮した灰は放射能がもの凄く強くなることは、もう皆知っているはずのことだ。ちなみに、人間が食べられる食品の基準は現在100Bq/kgだから、当然100Bq/kgの木材がれきは「安全」だと政府はいうだろう。その瓦礫は食べたっていいくらいなんだから。

瓦礫の受け入れを表明してしまった自治体のお役人や議員の先生たちでも、小学5年生で習った割合の計算くらいはよくできただろう。「どうしてこの算数を習わなければいけないのか」と疑問に思いながら宿題を解いていたかもしれないが、その答えは今ここにある:瓦礫は燃やすと放射能が強くなる、ということを計算するために勉強していたのです。

残念ながら瓦礫処理の受け入れを認めてしまった自治体は、なるべく木材の瓦礫は引き受けないようにするべきだろう。針葉樹から作った木材の瓦礫の焼却は、特に気をつけたほうがいいと思う。松とか杉とか檜とか。

瓦礫の量を減らすために「焼却」して量を減らしたい、というのが政府のお役人たちの考えだろう。しかし、原発事故がリンクしてしまうと、焼却処理自体をやってはならないのである。広域だろうと、局所域だろうと。前にも書いたが、最初にやらなくては行けないのは「分別」だ。燃やしてもあまり濃縮しないものは燃やしてもいいからだ!(「しかし、それでは燃やす意味がないのでは?」と思うでしょう。その通りです。)

つまり、原発から放射能物質が飛び散ってしまうということは、こういう問題に直面するということなのだ。焼却は、半減期の4倍程度まで待ってから(つまり120年)、行うべきだろう。焦った「復興」は更なる悲劇を生むだけだ。役人達は復興で名を上げ、功を成したいのだろうが、2年前の日本に戻す事はしばらくは無理だと腹をくくるべきだ。(原発をやめておけば、千年に一度の英雄になれたかもしれないのに、残念だったね。)

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