2012年4月21日土曜日

武谷三男の「原子力発電」より:濃縮ウラン炉

1964年頃、軍事機密として濃縮ウランの取り扱いに慎重だったアメリカは、方針転換をする。一転して、濃縮ウランを世界に売り込み始めたのだ。これには裏がある。

マンハッタン計画(原爆の開発計画)で財政に空いた大きな穴を塞ぐためか、それともプルトニウムが余ってしまったためか、いづれにせよ、原子炉をつかってお金を儲ける必要がアメリカに生じたのだ。石油を産出する中東の国々が独占的な商いをして突然大金持ちになったように、濃縮ウランの技術を独り占めしていたアメリカは、石油による火力発電から濃縮ウランによる原発へと世界中を(無理矢理)「技術革新」させることで、第二の「石油王」ならぬ「濃縮ウラン王」を目指すことにしたのだ。

目の敵にしたのは、発電効率の良い(石油による)火力発電所だ。無理矢理、「火力発電の時代は終わった」と宣言するために、無理な効率追求が始まった。もちろん、そのメインはウランの濃縮度合いを高めることだったわけだが、あまりやり過ぎると原爆へと転用されてしまう。(実際、インドの核爆弾は「平和利用」のものが転用されてしまったため、欧米各国はショックを受けたらしい。)したがって、濃縮以外の工夫も必要になった。燃料棒の皮膜を薄くしてみたり、燃料棒を密集させてみたりと色々な改良を加えた。

燃料棒の皮膜というのはジルコンの合金で、薄膜の燃料棒というのはメルトダウンした福島第一原発でまさに使用していたタイプだ。その暑さは1ミリを切る0.9ミリ!予想外の高温が続くと、すぐにぼろぼろになって崩れてしまうという欠点があったが、中性子を効率よく透過しウラン235の連鎖反応を活性化するためには有効だった。また、燃焼効率を上げてウラン235に「燃えかす」がないようにするため、燃料棒を密着させた。しかし、余り密着すると熱が溜まって溶けてしまう危険(つまり炉心溶融)があるので、冷却水を高速で無理矢理流し込む必要があった。その流速は秒速3mにも及ぶという。しかし、これはちょっとでも流速が衰えればあっという間に熱が溜まって、ただでさえ華奢なジルコンの皮膜が破壊/溶融する可能性を上げてしまう結果になった。つまり、全ての「効率改善」は、メルトダウンしやすい構造への「改悪」でもあったわけだ。

濃縮ウランを使ったこのような『効率性の高い原子炉」は、面白い事に、実は効率の悪い炉であってもいいことを意味する。それは燃焼効率ではなく、中性子捕獲の効率だ。原子力発電の要の連鎖反応は、結局は中性子捕獲反応のことだ。しかも、この中性子は「遅い中性子」でなくてはならない。(遅い中性子についてはこちらを参照。)核反応で飛び出してくる中性子の「速度」はかなり大きいので、反応断面積は小さくなってしまって、ウラン235にうまく中性子は当たってくれない。そこで、早い中性子を何か別の原子核にぶつけて減速する必要がある。これを減速剤というが、もっとも適しているのは重水素からなる重水、あるいは炭素や酸素、そしてヘリウムなどの元素だ。しかし、これらの元素は高価だったり、生産が面倒だったり経費がかかりすぎたりと、問題を抱えている。一番安くやるためには、普通の水(これを、重水に対して、「軽水」と言うことになっている)を減速剤として使いたいと思う訳だ。重水も軽水も「水」なんだから、なんとかなりそうな気がするわけで、実際やってみると減速効率は重水に比べて落ちるが、なんとか使えないこともない。そこで、この「効率の悪さ」を、皮膜の薄さや燃料の密集によって埋め合わせようということになったのだ。

さらに「燃焼効率」を上げておけば、もうひとつの問題も回避できる。それは原子炉の大きさだ。天然ウランは反応効率が悪いので、なるべく中性子が原子炉から逃げないように、分厚く巨大な燃料棒を作ることになる。その結果、原子炉も巨大化してしまう。船に載せたり、潜水艦に載せたりするのは無理がある。しかし、濃縮ウランを使って、効率性を上げればある程度、中性子が逃げてしまっても、反応が速く進むので喪失したマイナスを補うことができる。つまり、小型化することが可能となる。しかし、これは小型の原子炉からは中性子がたくさん漏れてくるということを意味しており、放射能の観点からすると非常に危険な原子炉ということになるだろう。(中性子線で「焼かれた」人が、いかに惨めな死に方をするかは、東海村のJCO臨界事故を見ればよくわかるはずだ。)

これが、濃縮ウランをもちいる原子炉の概要だ。そして、メルトダウンした福島の原発がまさにこのタイプ、すなわちアメリカのGE社が開発した小型軽水炉マークIだった。天然ウラン炉の失敗の後、日本政府はアメリカからこの「無理な」原子炉をたくさん購入する。「濃縮ウラン」帝国を築こうと画策していた米国は、喜んで「濃縮ウラン中毒の植民地の人々」に軽水炉を安く提供した。(MSがIEをただで配り始めたときと同じやり方だ。)濃縮ウランは、まさにかつて中国が苦しんだアヘンであり、現代文明にとっての石油のように、その資源を独占支配する国(つまり米国)によって、日本(だけでなく世界)に売り込まれようとしていた。

この後「核拡散防止協定」がアメリカの提案によって世界各国との間に成立することになるが、それは「自分勝手にウランを濃縮してはいけない」という内容だった。(北朝鮮も、イランも、今まさにこれに引っかかっているわけだ。)これは原爆の悲劇を繰り返さないための「拡散防止」というよりもむしろ、アメリカが濃縮ウランを独占するための「拡散防止」であった。(少なくとも当時は。)

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