2014年10月5日日曜日

「X線からクォークまで」を読む

エミリオ・セグレ著
みすず書房(1982年)、久保亮五、矢崎裕二訳

反陽子の発見でノーベル賞をとったセグレによる科学史、というか、彼自身、そして彼の友人たちの伝記というべきか?間近で見ていた世界の記述には、やはり迫力がある。セグレ本人が撮った写真には、マリーキュリーや湯川秀樹なども含まれ、「当事者」感がひしひしと伝わってくるだけに、その記述の信憑性はとても高いと思う。安心して読むことができ、没頭できる。

黒体輻射の章はとても勉強になった。電磁場の量子化はプランクが最初かと思っていたが、アインシュタインと言うべきだと思い直した。プランクがやったのは、黒体の壁のエネルギー(壁が多数の共鳴子からできている、というモデルになっている)の量子化。しかも、それは本心から量子化したわけではなく、エントロピーの計算をボルツマンの統計熱力学に従って行うための、数学テクニックとして導入しただけ。最後にはε→0の連続極限を取ろうとしたのだが、物理的な要請からそれをやると理論が破綻するため、仕方なくε=hνとしたのであった。

このエネルギー単位εは共鳴子、つまり壁のもつエネルギーであって、肝心な輻射(つまり電磁場)のエネルギーの量子化ではないことに注意する必要がある。プランクはあくまで、黒体輻射のエネルギー分布関数を導いただけ。壁の成分は、現実には原子であるべきだが、当時は原子構造がわかっていなかったため共鳴子モデルで記述したのだ。単振動する電荷は、時間変化する電磁場、つまり電磁波を発生させる。周波数の異なる共鳴子について、作られる電磁波の強度を計算すれば、黒体輻射の強度スペクトル関数を得ることはできるはず。しかし、多数の共鳴子ひとつひとつについて計算し、それを束ねることは不可能だから、統計熱力学のアプローチを採用してエネルギーの周波数分布を計算した方がやりやすい。とりわけ有用なのは、エントロピーとエネルギーの関係で、エントロピーの統計力学的な計算を共鳴子に適用することで、プランクは分布関数を手に入れた(と思う)。

プランクのエネルギー分布関数が、電磁場の量子化に対応していること(そしてそれはプランクの共鳴子モデルのエネルギー単位と等しいこと)を示したのは、アインシュタインであったと、セグレの本には書いてある。アインシュタインは、このことを証明する具体例として光電効果を選んだだけだった、とも書いてある。

古典論文を直接読むことはなかなかないし(しかもそれがドイツ語だったりフランス語だったりする...)、現代の教科書は、この辺りはかなり省略してしまうか、孫引きで知った内容を適当に(つまり嘘を)書いてしまったりするので、本当の成り行きをなかなか知り得ない。セグレの本を読んだとしても、それは孫引きみたいなものだから、やはり最後は論文を直接読んで確認する他は無い。果たして、できるだろうか?

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