2011年6月30日木曜日

松本で大きめの地震:牛伏寺断層

先ほど(8:20am)、松本(震源138.0E,36.2N)で大きめの地震があった。(追記:気象庁によるこの震源位置は、最近の詳しい分析により訂正されるべきだと聞いた。どうも、実際の震源域は、牛伏寺断層の西側のようだ。気象庁の発表地点は、牛伏寺断層の東にある。)震度5強。マグニチュードは5.5。ここは、牛伏寺(ごふくじ)断層の位置に一致している。(ここにより詳しいレポートあり。)下の写真を見ると、震源の左下にある山の東斜面が不自然に切り立っている感じがする。牛伏寺断層そのものかどうかはよくわからないが、何らかの断層地形だろう、と思われる。

今回の地震震源と牛伏寺周辺の松本地域。

実は今月の始めに、「今年3月11日の東北の大地震によって、牛伏寺断層は活動し始めるのではないか」という予想が、政府の研究機関によって報告されたばかりだった。

この断層は、もちろんフォッサマグナの西縁、すなわち糸静線に位置し、この断層による大地震は「1000年周期」で起きるとされていた。前回の地震は約1200年前の841年の地震だ。この間買ったばかりの地震の本にも、その様子が書いてあった。(この本、ちょっと今手元にないので、後で読み直してみる。)松本城の塀が崩れたとか、そういう話だったような記憶がボンヤリある。

さて、今回の松本地震は、その1000年周期のものなのか?それとも本震がまだ待ち構えているのか?要注意だ。この1000年周期というのは、東北の地震の周期と同じで、たぶん偶然ではないんだろうと思う。

現在は、東海や南海地震、さらにはこれらが同時に発生するという、東南海地震という巨大地震などに特に注目すべきだと思う。たしか、上の本にもいろいろその辺りの議論が書いてあった。それによると、東北の大地震(貞観地震など)の約20年後におきる確率が高いらしい。これが起きると、津波によって名古屋の南半分が水没し、大阪にも津波がやってくるという。

(追記:7月8日の信濃毎日新聞を参考に作成した、震源域の位置を下図に示す。牛伏寺断層の西側にあり、国道19号と長野自動車道に囲まれた南北に細長い領域だという。その方向はほぼ牛伏寺断層と平行。この地域では、気象庁の発表した「震度5強」よりも大きく揺れたそうだ。)

信毎の記事を参考に修正した、震源域の図

2011年6月29日水曜日

帰国す:この暑さでまだ梅雨

帰国する。暑い...湿気も。これでまだ梅雨明けしてないとは。だいたい、まだ6月だ。この時期に普通は梅雨明けしない。

ヨーロッパに到着したとき、空港でTシャツ短パン姿だったのは自分一人だった。ひどく場違いな格好をしていて恥ずかしかった。ウィーンも冷んやりした感じだった。学会会場は高山だったこともあって、夜はセーターを着、毛布をかぶって寝ないと、寒くて途中で目が覚めた。

逆に、成田では、長袖長ズボンで居るとなんか場違いな感じ。だいたい、蒸し暑くてたまらない。すぐにTシャツ短パンに着替える。自宅に戻ると蒸し風呂状態。しかし、これだけ日中晴れ渡っても、日が暮れると雲が出て来て、土星も見えやしない。不満足。

(追記:ヨーロッパのO111騒ぎは収まった感じ。ドイツの研究者たちは何も言ってなかったし、食事の席でこの話で盛り上がることはなかった。福島の話は多いに盛り上がったが....今回、ウィーンで生っぽいソーセージをかじったり、サラダを機内食で食べたりしたが、結局お腹を壊すことはなかった。これだけ涼しければ、まあ安全なんだろう。むしろ、出発前に成田空港で食べた「成葉軒」という中華の方が危なかった。五目ソバと餃子を頼んだのだが、エビがちょっと生っぽかったかも...確かに、ちょっとお腹が痛くなった感じが直後にあった。やっぱり、安食堂はこの時期危ないかも。)

ドナルド キーンがNHKのインタビューに答えていた。高見順日記に感銘を受けた、といっていた。同感する。自分の場合、確か高校の教科書で習ったが、高見順日記にはいろいろ影響受けたと思う。奥の細道も紀行文とはいえ、日記だと思う。日本には「日記文学」というジャンルがあって、独自の発展を見せたとよくいわれるが、外国にもクオレとかアンネフランクとか皆無という訳じゃない。日常が淡々と綴られるなかに、時折訪れるクライマックスには迫力がある。やっぱり日記文学はおもしろい。

ちなみに、今日紹介された高見順日記の行(くだり)は、東京大空襲直後の上野駅の描写だった。混乱の中、静かにじっと列車に乗り込む順番を待っていた人々に、高見が感動する、という部分だ。今回の東北の人々の姿に重なるという解説だった。こういう当たり前だが、高潔な精神を大事にしたいと思う。(現代の東京のラッシュアワーでのこづきあいや、順番抜かしは、見ていて醜い。が、それをやらないと、いつまでたっても列車に乗れないのは、確かに現実だとは思う。問題は、いざという時、高い精神性が発揮できるかどうか、か?)

明日は講義があり、週末は東京で開催される国際会議での発表。招待講演ではないが、主催者の一人に頼まれて話すことになった。ヨーロッパではkeynoteを使ったが、今度はpowerpointを使ってみる。両者の使いやすさ、使い難さを後で比べてみようと思う。

ヨーロッパの研究会では、共同研究者と議論した結果、アイデアがひとつポシャった。ちょっと「うーむ」である。次のアイデアを早急に練らないと。

2011年6月28日火曜日

国際会議での発表

45分の発表を終える。アメリカでポスドクをしているチェコ人、南アフリカに移住したイギリス人などと議論する。やはり、物理でも偶然の発見は大事だ、という話になる。同感す。でも、偶然を拾い上げられるかどうかは、日頃の努力によると思う。日々鍛錬して準備してないと、チャンスは素通りして行ってしまうから。

最近、ニュートリノの研究をやろうかと思っていたが、今回話を聞いてみたところ、あまりおもしろそうじゃない。ちょっとやる気が削がれた。

実は、今回の会場は海抜1500mの高山にある。天体写真をとる良いチャンスとみて、カメラをもってきた。今夜は寒いくらいで、セーターを着ての撮影となる。CCDのノイズを抑えるにはもってこいの環境だ。しかし、雲がなかなかとれず、よい写真がとれなかった。なんとか天の川の一部の撮影するので精一杯。カシオペアが大きかった。久しぶりにみた。

2011年6月26日日曜日

ウィーンに来た

乗り換え中継のため、現在ウィーンに滞在中。この空港には無料のWiFiサービスがあって、とても便利。4時間の待ち時間があるが、ネットが使えるので退屈しない。といっても、空港だけに居るだけではつまらない。初めてのウィーン観光(正味はわずか2時間...)に挑戦してみた。

まず、パスポートコントロールを抜け、携帯電話を海外用にセットし、空港でタクシーの名刺(電話番号)を集める(といっても、2、3社しかないが。)これはあくまで緊急用。次に列車の情報集め。在来線と、CATと呼ばれる直行列車と、二種類あるらしい。パンフレットに16分でウィーン中心部まで行くことができるとあったので、ちょっと料金は高いがCATを使うことに決めた。往復で18ユーロ。(券売機で、うっかり英ポンド立てのカードで買ってしまった。円高の今、日本円を今使わずどこで使う?)パンフレットに中心街の地図が付いていたので、これを頼りに街歩きすることにする。バスに関しては、最初から検討せず。最安だったが、見た感じ多くの客で込んでいたし、時間がものすごくかかるらしい。

国際空港とは思えない程の小さな空港だが、小回りが効いて便利だと思う。空港の外に出ると、青空が広がる。振り返ると管制塔が夏の光に輝いている。目の前にCATへの地下通路があり、そこを下るとすぐにプラットフォーム。改札というものはない。二階建ての列車なので、景色のよい2Fへ登る。客車には一人の客もおらず、独占状態。列車は定刻に出発し、定刻に到着した。途中、だだっ広い小麦畑が地平線まで続いている風景が現れる。久しぶりのヨーロッパなり。気温17度。夏の風が心地良い。(こんな初夏のいい時期に、雨期にぶち当たる地域は本当に気の毒に感じる。)

街に出て、まずStadtparkへ行く。大きめの公園。ヨハンシュトラウスの金ぴかの像があった。腹が減ったので、公園内の食堂でSausage+potato+サワークラウトを食べる。O111が怖いので、サラダは残す。ソーセージは真ん中に火が通ってない。冷蔵庫の冷たさ。はっきりいって不味い。揚げたポテトはまあまあいけた。これで腹ごしらえできた。
公園の中の高級(?)レストラン付きの屋敷(ホール?)。
正面の花時計の後ろにシュトラウスの像。今回の不味いレストランは、
実はこの左の(写真に写ってない)安いところ。)

次に、街の中心部にあるStephansdomという巨大な教会まで徒歩で行く。公園から歩いて15分弱。この付近の広場や通りにだけ人がたくさんいる。ウィーンのその他の地域はゴーストタウンのように人も車も少ない。人口の圧力というものが、この街には感じられない。不思議なところだ。(後で合流したドイツの教授によると、今週はヨーロッパ中の中学校や高校で学期末だったそうで、来週より夏のバカンス移動が本格化するとか。そうなると、この街も観光客で溢れるのだろうか?)

Stephansdomの遠景。とにかく、いい天気。

2011年6月24日金曜日

太陽黒点の観測の仕方

梅雨の「晴れ間」だと思ったら、梅雨明けみたいな天気が続いている。関東地区の電気消費量も連日90%超だそうで、晴れたら晴れたで大変だ。

この機会を利用して太陽黒点の観測を連日行っている。しかし、3日目にして困ったのは、太陽の極軸をどうやって見つけるか、という点。2つ以上黒点がある場合は、なんとかなるのだが、運の悪いことに、現在はめぼしい黒点が一つしか見当たらない。これでは、後で観測データを重ねて比較するときに、どの向きに太陽が自転しているのかわからない....方程式を立てて検討したところ、太陽の自転速度を理科年表などからカンニングしてくれば、一応は傾きが計算できることはわかった。が、それよりなにより、ずっといい方法を同僚の地学の先生に教えてもらうことができた。

黒点の位置を観測していったん記録したら、そこを基準に(地球の自転によって動いていく)黒点の移動位置を連続的に記録するとよい、というのだ。こうすると、黒点の移動点を結んだ時、東西方向のラインが引ける、という訳である!これなら、太陽の向きが決まり、後で比較できる。素晴らしい。

2011年6月23日木曜日

メルトスルーを巡る見解の相違:またもや

福島原発の事故はすでにメルトスルーに達している、というのは周知のことだが、ここにきて再び見解の相違が生じている。東電(政府を含む)と専門家の間の意見の相違だ。

東電のメルトスルーは、どろどろに溶けた核燃料が格納容器で止まっているとするもの。一方、他の専門家たちは、格納容器どころか、コンクリートの土台も突き破って地下水まで燃料棒は溶け落ちてしまった可能性あり、という解釈。後者である証拠として、発電所敷地外からプルトニウムが検出されていることを挙げていた。(このプルトニウム検出も、東電ではなく、大学の研究者による調査で判明したもの。)

地下水脈に落ち込むと最初に予言したのは、京大原子炉の小出先生だ。そうなるとどうなるかという議論は今まであまりなかったが、ここに来て出て来たのが「冷却のための放水は無駄、というよりむしろ害悪」という議論。

現在、一生懸命(命がけで)水をかけているのは、崩壊熱で溶ける可能性のある燃料棒を冷やし、メルトダウンやメルトスルーを避けるためだが、その燃料棒がすでに地下水脈に落ちているならば、もう原子炉はもぬけのからになっている。(立てこもり犯人が既に脱出し、誰もいなくなった銀行に一斉射撃を行い続ける、間抜けな警部みたいなものだ。)この観点からすると、放水や冷却循環システムの構築は無意味な作業だ、ということになる。

放水作業は「無駄」であるだけでなく、「害悪」だというのは、汚染水をただ増やしてしまうからだ。もう燃料棒は地下深くまで落ちてしまっているから、人間の手の届かないところに行ってしまった。だから、放水の水は何に向かってかけているのかさっぱり意味不明。なにもないところに、大量の水を流し続け、それが今までに放出された放射性物質を溶かし込んでどんどん汚染されていけば、汚染水をただ増やすだけの間抜けなことになる。そして、その汚染水はタンクに入りきらないから、といって太平洋に捨てることとなろう。地下水脈へのメルトスルーを確認できれば、放水は今すぐにでもやめることができ、これ以上汚染水を増やすことはなくなるだろう。

しかし、地下水からの汚染は長期間に渡って続くことになる。これが本当なら、福島周辺の水環境、海洋環境は100年では済まない長い期間に渡って汚染され続けることとなるだろう。

2011年6月21日火曜日

梅雨の晴れ間

東京に「梅雨の晴れ間」がようやく訪れた。

まず午前中は、太陽の黒点の観測を大学にて行う。同僚の先生も初めて見る黒点にはしゃいでいた。今日は、震災後初めて、エアコンが研究室で使用許可となるほどの蒸し暑さ。

夜は、久しぶりに見えた「東京の土星」を観測。撮影中、蚊にさされれながらも、逆行データを増やす。今夜は東京の都心でも、アークトゥルス、ベガはもちろん、スピカ、そしてアンタレスなどが見えた。北斗七星もよく見えた。ただ、夏至直前(明日がそう)とあって、講義中には星は見えず、学生に教えることは能はず。夏至ということは、地球は太陽からもっとも離れた地点にやってきているということ。

夕方、神田の古い洋食屋にいってみた。漱石が時々食べに来たと、新聞記事に書いてあったので、そのおすすめ料理を注文してみた。が、うーむ。いつもの中華の方が美味しいかも。カボチャのスープは美味しかった。

京はパソコンじゃありません、スーパーコンピュータです。

毎日新聞の記事に、「次世代スーパーコンピューター「京」を構成する8台のパソコン」という写真説明があった。大笑いしてしまった。「パソコン」じゃありません。スーパーコンピュータです...


つい最近まで中国の「天河」が世界一だったが、これはアメリカのCPUをたくさん繋いだだけのもので、「お金持ち」なら、まあ誰でもできること。日本の「京」は、基本的に独力で開発したマシンで勝負して、一位となったのが大きい。もちろん、ソフトウェアの部分など、アメリカに助けてもらったところはたくさんあるとは思うが。とにかく、いいニュースだと思う。次は、このマシンを使って、地震予測や津波予測など、素晴らしい計算をどんどんやってもらいたい。


ちなみに、毎日新聞が間違えた「パソコン」は、「ノード」と呼ばれるもので、もちろんノード一台でも、かつてのスーパーコンピュータ並みの性能をもっている。近年は、スーパーコンピュータを数千台繋いだグリッド(あるいは並列)マシンにするのが主流。その全てを展示ルームに持ってくることは不可能だから、8台のノードだけ選んで持って来た、というだけの話。


(追記:毎日新聞は冒頭の記事を削除した模様で、リンク切れしてます。政府の委員会でも、京のことをパソコンと読んだ政治家がいたそう。再度笑わせてもらいました。)

2011年6月19日日曜日

今年の初蛍が、庭にやってきた。そろそろかな、と思っていたところ。多分、来週辺りは乱舞状態になるはずだが、残念ながらヨーロッパに出張。なんとか、帰ってくるまで待っていてください、お願いします。

土星の観測:ついに逆行す

梅雨空が続く。今日の観測も厳しいものであった。北極星が出なかったので、追尾撮影はできなかった。高感度(iso12800)にして1秒撮影を何度も試みる。雲の切れ間に土星が顔を覗かせた瞬間を狙う。

努力の甲斐あって、なんとか位置の観測だけは行うことができた。露出が足りず、衛星の撮影には失敗した。が、ついに逆行が始まったのを確認することができた!とにかく、留の直前に観測できたのは大きい。綺麗なカーブだと思う。
土星の逆行(2011年夏)
見るに耐えないかもしれないが、一応記録として、今日の土星(とポリマ)の写真を置いておこう。
土星雲中(逆行後):iso12800,露出一〜二秒

2011年6月18日土曜日

「太陽系はここまでわかった」を読む:太陽の章

リチャード•コーフィールド著(文芸春秋2008年)

昨年購入したまま、時間がなくて本棚に入れっぱなしだった本。忙しいときに限って、こういう本が読みたくなる。まあ、今日は、部屋の掃除をやりはじめなかっただけましかも。

最初の「太陽の章」を読んだ。この本は訳本だが結構おもしろい。英国風のふざけた感じの文体が妙になじむ。(著者はイギリス人。)なかでも、太陽の黒点を巡るガリレオの研究の話が特に興味を引いた。黒点を最初に見つけたのは誰かはっきりしないらしいが、古代中国の王朝ではすでに黒点の存在は知られていたようだ。西洋では、古代ギリシャのアナクサゴラスという自然哲学者の観測記録(紀元前467年ごろ)が残っているとか。

ところが、黒点の正体についての研究は、17世紀まで待たねばならず、またもやガリレオが活躍する。1611年にシャイナーという学者は教会の権威、すなわちアリストテレス風の「天界は完全である」という教条を証明するため、太陽の「あばた」は、実は他の惑星ではないか、という説を提唱した。(つまり、太陽にはシミもあばたもない、ということを言いたかった。)

ガリレオはこれに反論し、黒点は太陽の表面にある、太陽自身の特徴物だと考えた。そして、それを証明すべく観測を始めた。このとき発明されたのが、投影板。この間の観測で使用したのは、ガリレオの弟子がすでに17世紀に発明していたものだったとは。しかし、この発明によって太陽の観測が長時間行われるようになったのだから、大発明だ。この発明以前は、太陽を直視して観測していたので、目を潰してしまう人が多くいたらしい。恐ろしい....

定期的かつ重点的に黒点を観測して、その移動速度を調べたガリレオは、黒点のスピードが太陽の縁で遅くなることに気づく。もし、太陽の周りを回る惑星が、たまたま太陽面を通過する惑星であるならば、このような速度の変化はないはず。(まっすぐ通り過ぎるだけだから。)速度が遅くなるのは、太陽の表面に黒点があるためで、太陽球面の曲がりに沿って視線方向の速度が小さくなり、鉛直方向(つまり地球から遠ざかる方向)の成分が大きくなるからだ。(つまり、球の曲がりに沿って後ろに周りこむ、ということ。)このことから、黒点は太陽の表面にくっついて回っている、ということがはっきりした。

この観測は自分でもやることができる。梅雨が明けて、お日様が戻って来たら真似してやってみようと思う。ちなみに、太陽の自転周期は二週間だそうだから、最大一週間あれば、黒点は端から端まで動いてくれることになろう。

この他、ストーンヘンジの話(さすがにイギリス人だけあって、ここからスタートする)にまつわる、文系の考古学者をおちょくった話も面白い。アンドーバー(ストーンヘンジ直近の町。昔教えた学生の一人はこのひなびた町の出身だった)を走るA303が走り屋のメッカだったとは知らなかった。(訳本にはA303は「ハイウェイ」だと書いてあるが、A303は単なる国道だ。もちろん、日本人が見たら高速に見えるかもしれない。結構広いから。イギリスの高速はMotorwayといって、メシア天体と同じMで識別する。M1というのはロンドンから北に伸びる高速で、ケンブリッジや、ヨーク、シェフィールドに旅行するときにつかう。蟹座とは特に関係ない。ちなみに、M25はロンドンの環状線で、片側4車線あるかなり大きい高速。ヒースローにいったり、ウェンブリーのスーパーに行く時、よく使った道だ。)

また、ストーンヘンジのある、だだっ広い平原はソールズベリー平原というが、本に書いてある通り、ここはチョーク(石灰岩)の白い大地だ。ドーセット方面への化石採集からの帰り道、M27とM3が交わるサウザンプトンが工事中でよく渋滞した。こういうときは、ソールズベリーに迂回して帰るのがいい方法だ。RingwoodからA338でSalisbury、そしてA303に乗り換えて、この真っすぐな道をひたすらぶっ飛ばして帰るのである。実は、この平野自体もいいアンモナイトがたくさん出るので有名。(でも私有地が多いのでなかなか取りにくいのが難。ストーンヘンジの周辺でほじくり返しているのを見られたら、その日は留置所で寝ることになるだろう。)

2011年6月16日木曜日

下水処理による汚泥(およびその焼却物)の放射能

福島原発の事故直後、炉心の圧力上昇を抑えるためにベントを行った。このとき、飛び散ったヨウ素131やセシウム137は気化した状態で空気中の水分にとけ込み、降雨とともに地面にバラまかれた。

東京を含む関東一円は、これにより、広く薄く汚染された。もちろん、ホットスポットは複数あって、その地域の汚染はさらにひどい。広く薄いものも、集積されて濃縮すれば、強い放射能をもつのは当然だ。下水処理施設の汚泥が、今、強い放射能を持ってしまったというのは、ある意味当然のことだろう。多くの地域で放射能物質が洗い流され、ある程度除染された代わりに、下水の中に溜まっていったわけだ。

前橋や東京で測定したところ、焼却した汚泥は、一キロあたり数万ベクレルの放射線を放っているという。はたして、どのくらいの放射性物質がまぎれているんだろうか?

例の如く、半減期の公式に対して、テイラー展開をして一次近似する。すると、半減期τ(秒)の放射性物質の放射レートはN ln2 /τ(ベクレル)で与えられる。Nは紛れ込んでいる放射性物質の「数」(原子の数)。従って、Bベクレルの汚泥の中に含まれる放射性物質の数はN = (B/ln 2)τで与えられる。B=104、τ=30(年)×365×24×60×60 [秒] (>> 1秒)を代入すると、N=1013となった。これをアボガドロ数で割って、セシウム137の分子量137をかけると、質量に換算できる。その結果はなんと汚泥1キロあたり約0.3ナノグラム!

下水処理場を、放射線レベルにして1μSv/h以上に汚染し、一般人が入ることのできない「放射線管理区域」にしてしまったセシウム137の量は、人間からみるとほんの微量だ。しかし、これが、核エネルギーの恐ろしいところ。こんなわずかな量でも、人間の生活を破壊できる。

果たして、人間はこの物質を使いこなすだけの資格/能力/心構えがあるんだろうか?

月食:東京では見えず

早起きした。今朝(というか現在)は皆既月食なのだ。が、西の空は雲が立ちこめていて、まったく見えなかった。東の空に見えるはずの、木星、金星、そして火星も、雲の向こうに。

いまの時期、梅雨明けしているのは沖縄だけ。しかも低緯度地方ほど今回の月食はよく見えるとか。(沖縄に行けばよかったか?)東京だと、月食中に沈んでしまうほど高度が低いと聞いた。そもそも丹沢に遮られて見えなかったか?これって、Sour grapesだろう、きっと。

(追記:2012年の皆既月食はこちら

2011年6月15日水曜日

MacBook AirにIntel Fortran Composer XE for Mac OS Xを導入する。

よくよく考えてみると、MacBook AirはCore2Duoを積んでいる訳だから、Intel Fortranがフルパワーで動くはず。調べてみると、お試し版が無料で使えることがわかった。インテル太っ腹てる。

新しいIntel FortranはIntel Fortran Composer XE for Mac OS Xと言うらしい。名前はともかく、実行コマンド名はifortのままで以前と同じ。実はこのコンパイラはAVXに対応しているので、早くi7-2600Kで動かしてやる必要があるのだが、今回は4倍精度の計算をOS X環境で構築するためだけにインストールしてみた。

インテルのホームページに行き、アンケートに答えると、ダウンロードの仕方が書かれたメールが送られてくる。そこに張られたリンクをクリックするとソフトウェアのダウンロードが始まる。メールに添付されてくるファイルの名前が登録IDとなっているので、それを打ち込んでactivateする。30日限定お試しを選べばIDは不要だが、再度インストールするのは面倒なので、1GBのディスク容量はあるものの、ちゃんとインストールすることにした。言うことをきちんと聞いていけば、インストールは簡単に終了する。

さっそく数値計算用ベンチマークソフトであるfMarkを走らせてみることにした。基本的にはCore2Duoの値が出るはずだ。

-O3 -xSSE4.1 -fastのオプションでやってみると、結果はfmark=20となった。これは、以前のCore2Duoの結果とほぼ同じ。満足なり。

このMacBookAirも、これで計算マシンの一員だ。



2011年6月14日火曜日

土星の観測:留前日

いよいよ今日、土星は留を迎える。これまで乙女座のポリマの方角に一直線に(東から西へ)動いて来たのが、今日の午後1時を境に逆方向に移動し始める。いわゆる「逆行」と呼ばれる現象で、プトレマイオスら天動説派が、かつてその説明に苦労した現象だ。

写真による観測では、先週既に移動速度が低下し、逆行に向けて「お辞儀」が始まったのを確認した。

梅雨の最中なれば、今週も雨や曇りの日が続き、留直前の観測データが取れるかどうか、やきもきしていた。しかし、先ほど久方ぶりに夜空が晴れ渡り、見事な月夜となった。善光寺さんのお陰に違いあるまい。さっそく土星の観測撮影を「行わせていただいた」。北極星も見えたため、CD−1による追尾撮影もできた。おかげで、タイタンの観測撮影もできた。(ほんとうは、M51の超新星の撮影にもチャレンジしたかったのだが、さすがにそれはあきらめた。明日は会議が目白押しで、かつ学会発表の準備もやらねばならぬ。)

本日の土星とタイタンの様子:
タイタンは先週と逆の側に見える。
iso1600で5秒露出(CD-1は起動)。
タイタンの公転周期は約二週間なので、先週とは反対側にあるのがわかる。レアは今日は土星の光の中に入ってしまった。(これを分解するにはもっとよい望遠鏡が必要。)

土星の位置を測定し、コンパイルしたデータと比べてみると、留の様子がよくわかった。来週はいよいよ逆行となる。楽しみなり。
留前日(6/13)までの土星運動の分析。



2011年6月13日月曜日

Intel Fortranを使うもう一つの理由:qatan

現在、かなりシビアな精度での数値計算を実行中。零割が頻発して、計算が止まる事象が続発。問題は差分計算。微分公式 limd→0 ( f(x+d) - f(x) ) / dは、数値計算で実行すると、ある程度dが小さいところまではよいのだが、あまりにもdが小さくなると、小さくなればなるほど答えが狂っていく....(微分の定義と正反対の結果)。もちろん、これは浮動小数点計算に特有のマシンイプシロン、つまり相対誤差εのせい。

そこで四倍精度にしてみることにした。

練習のため、まずはMacBook Airにインストールしたg95で円周率πを計算してみた。F77風にかくと、real*16 pi_quadと宣言し、
pi_quad = 4.0q0 * qatan(1.0q0)
とやってみた。するとqatanがありません、というエラーメッセージが出た....調べてみると、1.0q0という表現自体は使用できるようだ。しかし、4倍精度の三角関数が無いんでは、実際問題プログラミングするのはかなり難しいだろう。g95に取り付けるライブラリとか調べてみたが、どうもまだなさそう。バージョンアップを待つしかない。

しかたないので、Fedora12に移り、そこでifortで試してみることにした。すると、今度は一発でコンパイルが通った!そして、その答えは少なくとも33桁まで正確に計算されていた。
π=3.14159265358979323846264338329750
あっぱれ。これからは、quadratic precisionの時代に突入することとなろう。

2011年6月12日日曜日

ガイガーカウンタの使い方:環境放射線の場合(実測そして時間平均)

さて、実際に測定した結果を解析してみよう。場所は東京城西地区の木造建物内。測定時間はトータルで90秒(天体撮影なら「30秒と60秒の2枚のコンポジット」ということになろうか...)全カウント数は19だった。それぞれのカウント時に読み取った針の値はどれも0.2μSv/h(メモリは0の次が1μSv/hで、その中間値は目分量で読んだ)。

まず、CPMを計算する。CPMは一分間あたりのカウントレートということだから、19*(60/90)=12.7となる。ガイガーのそもそもの役割はここまで。まあ、環境放射線としては普通のレベルだろう。

次に問題の線量の読み取りの分析にとりかかる。一回一回のカウントの値は、当然0.2μSv/hということになるが、実際には90秒で0.2×(0.24/3600)×19=0.00025μSvの線量しか積分値としては来てないので、その時間平均は0.001/90=0.00000281μSv/秒、つまり0.01μSv/時と計算される。つまり、一時間この部屋にいたら0.01μSv被曝するのである。一年では87.6μSv、つまり約0.1mSv/年ということになる。(これは国による最初の制限値「1mSv/年+環境放射線」の10%にも到達しないから、まー安全でしょう。)

上の手計算を公式の形にまとめると、次のようになる。
<D> (μSv/h) = (ΣiSiNi)/Ns × (60/T)
もちろん、この公式の適用範囲は、ガイガーカウンタによる測定で、環境放射線のように離散的にカウントが入る場合のみ。計算される量は、測定時間内の時間平均<D>で、単位はガイガーカウンターの目盛りの単位と同じもの(DX-2ではμSv/h)。

公式の中に出てくる変数について説明する。まず、Siはガイガーカウンターの針の値。Niはその値が出た回数となる。たとえば、5回カウントがあって、その際0.2,0.2,0.4,0.6,0.2(μSv/h)とそれぞれ針が振れたとしよう。i=1,2,3を0.2, 0.4, 0.6に対応させて、S1=0.2, N1=3; S 2=0.4, N2=1;  S3=0.6, N3=1と割り振られる。

また、Nsはガイガーカウンターの感度。DX-2の場合は一分に250カウントまで識別できるから、Ns=250とする。

最後にTは測定時間(の合計)で、単位は秒とする。60という数字があるのは、感度が一分あたりのカウント数で与えられている場合を今は想定しているからであり、Tが秒の単位なので、「60秒」を使用している。この値は観測条件によって適宜変更すればよい。

この測定では、標準偏差がとても大きなる(ほとんどの場合0μSv/hが「観測」される、と見なされるので)傾向がある。つまり、ポツポツ離散的にしかガイガーカウンタが鳴らないときは、だいたい「安全」と考えてよいと思われる。

危ないのは、カウントに切れ目がなく、針が上がったきり0に落ちないような場合だ。そのときは、目視測定を基に、上の公式で計算することは困難となる。パソコンなどを利用して、自動計測しなくてはならいないだろう。しかし、知り合いの実験家によると、最近のデジタル式ガイガーカウンタにはそういう機能が入っているものもあるそうだ。(中華製やらウクライナ製のものはちょっと怪しいとか、そういう噂も言及していたが。)説明書をよく読んで、どんな仕組みが組み込まれているかをよく理解するのが大切と言えよう。

そもそも、一般人が、一般の環境で放射線測定やるなんて状況がおかしい。ガイガーカウンタは専門家や科学者など訓練された者が使うだけの道具だった。だから、一般の人が測定を始めて、いろいろ問題が起きてくるのは当然のことだろう。

このことが意味するのは、破局的な状況に我々日本人はいる、ということだろう。「まあまあ、大丈夫ですよ」と無責任には言えない世界になってしまった。だれもが科学の知識を身につけ、闘っていかなければならない。ナウシカ風に言うと「火の七日間」の後の世界に我々は生きていて、「腐海の森」は福島を中心に広がりつつある。そして日本各地に点在する「巨神兵」をみな化石にしない限り、腐海はまだまだ広がる可能性がある。そして、「腐海」で汚染された生物が溢れ出た時、大海嘯がやってくるかも。(王蟲みたいな昆虫の突然変異は起きませんように。)

2011年6月11日土曜日

ガイガーカウンタの使い方(環境放射線の場合):較正と実測の相違

DX-2の場合、セシウム137で較正が成されている。較正には放射性物質の標本が必要。もちろん、放射線技師が管理区域でやる作業となる。(大学の物理実験のときも、許可証をもらって線量バッジを胸につけてから、管理区域に入って行った。あのときはコバルト60を実験に使用した。)

放射能物質のサンプルだけあって、環境放射線とは比べ物にならないくらい強い線量を出す。これは、一個一個の放射線のエネルギーが高いという意味ではなく、カウントとカウントの間隔が短い、という意味での「強い」だ。サンプルの量にもよるが、137グラムのセシウム137をもってくれば、そこに含まれるセシウム原子核の量は膨大な数になる(アボガドロ数程度、つまり6×1023個)。一個のセシウム137が、だいたい30年に一度しか放射線を出さないとしても(つまり半減期が30年ほど)、これだけ数が多ければ、かなりの数のセシウム137が放射線を出すことになる。その数は一秒間にだいたい6.0×1023 ln2 /(30×12x30x24x60x60) = (約)5×1014個、つまり一秒間に100兆個のガンマ線が出てくる!セシウムの量を1/100にして、1.37グラムに減らしたとしても約1兆個のγ線がサンプルからは飛び出してくる。こんな状態にガイガーカウンターをかざせば、ビービービービー鳴り続ける。つまり、環境放射線の測定と違って、針が0に戻ったりすることはまずない。

サンプルからの距離を離せば、単位面積あたりの線量が少なくなるので、針の振れも、カウントの割合も減ってくる。線量の落ち方はだいたい逆二乗則に従うから、その理論値を目安に実験を繰り返し、針の読みとサンプルからの線量が一致するよう較正を進める。注意すべきなのは、カウントを線量に変換するやり方は、較正のやり方や放射性物質のサンプルの質や量によっても変わってくるということだ。

環境放射線をガイガーカウンタで測る時は、離散的にカウントが入り、針が振れる。この針の読みは、実際にはその強さの放射線が(理想的には)一時間、もしくは(現実的には)少なくとも一分間放射され続けた場合の読みに相当する。時速1000キロで1秒走っても、1キロも移動できない(実際には280メートル弱)というのに似ている。(一時間後に1000キロ移動するためには、一時間ずっとこのスピードで走り続ける必要があるということだ。)

ガイガーカウンタの使い方(環境放射線の場合):被曝量の概算

久しぶりにガイガーカウンタで測定してみることにした。使ったのはSCNINICSのDX-2.

冷やかしではなく、真剣に測定しようと思うと、実はガイガーカウンタの値を解釈するのは案外難しいことがわかった。

ガイガーカウンタというのは、そもそもは放射線の数を測定するものだから、線量(つまりシーベルトで表されるもの)を測定する機械ではない。しかし、安いガイガーカウンター(DX-2を含む)は、カウントではなくシーベルトで表示する。これは、特定の原子核の出す放射線を想定し、一秒あたり(あるいは一分あたり)のカウントレート(=計測割合)を線量に変換しているのである。これを較正(カリブレーション)という。DX−2の場合はセシウム137のガンマ線(エネルギーは0.662MeV)で較正してあるから、原発事故から3ヶ月経った東京で、セシウム137の影響を調査する目的にはそれなりに適している。しかし、この較正には大きな誤差がつきもので、DX-2の場合には少なくとも±20%の誤差があると説明書に書いてある。

東京でガイガーカウンタのスイッチを入れると、ポツッ......ポツッ.....と離散的にカウント音がなる。一回のカウント時の「線量」をみると0.2μSv/h程度の針の振れがあるが、その値は小刻みに変化する。例えば、一分測定したときに20回カウントがあったとしよう。最高値が0.4μSv/hで、最低値が0.1μSv/h、そしてこの20回の平均値0.2μSv/hだったと仮定する。果たして、どの数値を採用すればよいのか?

いちばん頭が悪いやり方は、最高値と最低値を引用するだけの分析だろう。でも、この数字を聞かされた人たちは、おそらく最高値だけを記憶にとどめるはずだ。すると、「この地域は0.4μSv/hあるのか!」などと反応することになる。この数字が意味するのは、この測定地点に一時間立っていると0.4μSv被曝する、ということ。果たしてそうなっているか確認してみよう。

DX−2の測定感度は250CPM。つまり、一分に250カウントするのが精一杯で、それ以上強い放射能が来ると針が振り切れてしまうということ。もっといえば、一カウント検知するための時間が60/250=0.24秒必要だということだ。(放射線測定器の開発者に聞くと、彼らの最新型の測定器でも数十ナノ秒程度の感応時間が必要だという。)実際には光の速さで放射線は飛び去ってしまうので、一カウントで体が被曝する時間はほんのわずかだろう。しかし、その時間を測るのは不可能なので、ザル勘定で「0.24秒」つまりDX−2の感応時間程度と仮定する。

0.24秒は0.0000667時間だから、この時間内に受けたγ線一個による被曝量は、0.4 [μSv/h] × 0.0000667 [h] = 0.0000267 μSvと見積もれる。仮に、20回の測定値がすべて0.4μSv/hだったとしても、0.0000267×20 = 0.000534μSvである。一分間で20回カウントしたという仮定だったから、この値は0.000534μSv/minと解釈できる。これを60倍すると一時間あたりの値になるから、0.03204μSv/h。しかし、この値は針の指した最高値0.4μSv/hを使って計算したもので、実際には20回の平均値は0.2μSv/hだったから、その半分の値0.01602μSv/hとみるべきかもしれない。ましてや、ガンマ線が体を通過する時間は0.24秒なんていう「長時間」な訳ないので、実際の被曝量はもっともっと小さいと思われる。

単発のガンマ線を測定したガイガーカウンターの値「0.4μSv/h」は、実際には0.02μSv/h以下に対応している?なんだそりゃ?ここで必要となるのが、「較正がどう行われたか」だ。

2011年6月10日金曜日

3次元空間の「地雷原」を抜けること

解析接続の問題を数値的に解いている。3次元空間中に、ある複素関数が与えられている。しかし、この関数は、この3次元空間中に無数の特異点を持っていて、単純に接続することはできない。つまり特異点に当たらないように接続する経路を選ぶ必要がある。これは、一種の3次元地雷ゲームみたいなものである。

もちろん、数値的に解くので、関数の微分情報は利用する。ステップを細かくとって、二次近似で接続を行うが、残留項が小さくなるかどうかをチェックして、このテイラー展開が発散しない方向にだけ接続を行う。

おもしろいことに、離散化メッシュを粗くするとうまく解析接続できるのに、細かくとってテイラー近似をよくしようとすると、計算が途中で止まってしまうケースが増えてきた。結果を解析してみると、メッシュを細かくすると展開の精度はよくなるのだが、特異点にぶつかる確率が高くなり、どこを向いても展開が発散、という八方ふさがり状態に陥っていた。

地雷原を突破するときは、大股で、思い切りよく走り抜けるのがよい、ということか?(ちょっと違うかも。)

2011年6月9日木曜日

青色レーザーポインタ

赤色と緑色のレーザーポインタを購入したのは去年のこと。それぞれ、3000円および20000円程度した。波長の短いレーザーはやっぱり高価になるんだな、と思った。緑で2万円なら、青色レーザーなんてちょっと手が届かないはず。確かに調べてみると、10万円近くもする。

先週の講義で、青色レーザーポインタは高嶺の花です、と説明したら、講義中に手持ちのパソコンで検索した学生がいて「先生、アマゾンなら5000円で青色レーザーポインタが買えますよ」という。この学生の検索能力には恐れ入ったので、「来週までに購入して、皆さんにお見せしましょう」と約束してしまった。

注文の品がさっそく今日届いたので、講義で使ってみた。が、学生の失笑を買ってしまう。色が薄くてまったく見えないのだ。スクリーンまで10センチの距離まで近寄ってようやく薄紫(本当の青色ではない!)のスポットが浮かんでくる。しかし、こんなに近寄ったんでは、ポインタには成り得ない!この製品は欠陥品だろうか?たぶん、部屋をまっ暗にしたら、それなりに見えるのかもしれない。しかし、それではやっぱり使い物にならない。

「ただほど高いものはない」ほどではないが、「安物にはそれなりの理由がある」ことを思い知った一品となった。

2011年6月8日水曜日

Fedora12にEPSON LP-S300Nをつなぐ

計算用として使って来たi7-875Kマシンだが、計算結果を直接印刷できれば便利かなと、ふと今日思ってしまった。

そこで、白黒レーザープリンタのEPSON LP-S300Nをネットワーク経由でつないでみることにした。ちょっと手間取ったが、次のホームページに助けてもらった。この会社よく見たら上田のIT会社。そういえば、エプソンはもともと諏訪だし、信州つながり、ということのようらしい。

対応するPPDをダウンロードし、Fedoraのプリンタ設定ウィザードを呼び出してインストールする。一応は成功するものの、foomaticをインストールしないと使えませんよ、という警告がでる。foomaticというのはフリーなプリンタドライバの管理プログラムのようなものらしい。今回初めて知った。早速yum install foomaticとすると、foomaticの最新版がインストールされ、プリンタが印刷可能となった。

さっそくテストプリントしてみる。日本語は出ないものの、計算結果を印字するという目的は達成される。文字化けを眺めるよりは、ロケールを英語にしてしまった方が問題ないだろう。いまのところは、計算結果をenscriptでepsにして、それをevinceから印刷するだけなので、特にこれといった問題はない。次はグラフでも印刷してみようかと思う。

ちなみに、今日の計算(3次元積分)では、計算精度を上げようと思い、離散化メッシュ数を8倍(23)に増やしてみた。しかし、実行時間は2倍しか増えなかった。すごい。i7-875Kのベクトル化モジュールのお陰だろう。皮肉なことに、計算精度自体はわずかに0.3%しか向上しなかった。ちょっとがっくり。まあ、もっとシビアな物理条件の場合は、細かいメッシュでやった方が安全だろう。そのご利益の確認は明日やることにする。

2011年6月7日火曜日

アークトゥルスの固有運動

東京の梅雨空でもなんとか見えるアークトゥルス(Arkturus)。調べてみると、全天で3番目に明るい恒星だった。一番はシリウス、2番は日本では冬に地平線ギリギリに見えるカノープス。そして、3番目がアークトゥルスだった。

2011年4月のArkturus.

距離は37光年と太陽に近く、したがって固有運動が大きいことでも有名らしい。調べてみると、年に2秒以上動く。この間苦労して分解した二重星ポリマは1.7秒だったから、2年も観測すれば容易に8センチ望遠鏡でも識別可能となろう。恒星の動きを観測できるのは素晴らしいことだ。

この星は東京でも見えるのだから観測しやすい。15年も連続観測すれば、移動距離は30秒に及ぶ。これは月の約1/150の大きさに相当する。(太陽や月は約30分の角度に相当。)

2011年6月6日月曜日

土星の観測:留近し

東京は梅雨の晴れ間なり。しかし、日中に青空が見えても、夕方からは雲が広がる。夜になっては空は暗闇の黒に染まる。烏が飛んでも見分けがつかない。九段近くの牛ヶ淵にては、真上のアークトゥルスが見えるのみ。多摩郊外に出ても、ベガ一つが加わるだけ。東京では土星は見えず。

土星はもう直き「留」となる。4月の末より観測を続けて来た、土星の運動のハイライトともいえる。その一番よいタイミングに梅雨に入ってしまった。二週間も観測に穴が空けば致命的ともなりかねない。意を決して、一か八か信州へと車を走らせる。

関東平野は群馬も埼玉も似たような状況、薄雲広がり、小雨すら降りそうな気配。そういえば、夕方から雨の予報が出ていた。峠を越えても、状況に変化はなし。三日月が雲間にぼんやり光るのみ。日が暮れると、ついに小雨となる。時間もガソリン代も無駄になったか、とがっかりする。

いつもの蕎麦屋で蕎麦をすすって夕食とする。ここの蕎麦はしゃきっとしていておいしいし、量もたっぷりあっておなかが一杯になる。今日も野菜天ざる。この時期は「こしあぶら」とウドの天ぷらがおいしい。

蕎麦屋を出ると雨が強くなる。ついに観測に穴が空いたか、とあきらめる。ワイパーが雨を拭う模様は、「雨の日」以外のなにものでもない。

ところが、しばらくすると、雲間に隙間が出来始め、アークトゥルスがまず顔を現わした。次いでベガ。とはいえ、東京だってここまでは見せてくれた。風が吹き、雲の流れが早くなるのをじっと見ながら待つ。真上を見上げると、北斗七星が雲の間に輝き始めた。あとは、西の空の雲が切れることを祈るのみ。すると、ついに土星とスピカが姿を現したのであった。北極星も微かだがなんとかみえたので、CD-1を急いでセットし撮影する。なんとか、穴を開けずに済んだ!善光寺の仏様ありがとう。

信濃では星と仏とおらが蕎麦。

ポリマにかなり接近してきた土星。
今日はタイタンとレアが寄り添っていた。
(iso3200, 15sec)
さてさて、土星の位置をPlanetFollow.javaでさっそく測定し、今までのデータを合わせてみた。果たしてどんな感じになったかな。
来たー!ついに直線運動から、目に見えてずれ始めた。一週間経っても、今までの1/2から1/3程しか動いてない。まさに「留」近し。そして、来週がついにその「留」となる。善光寺の仏様、よろしくお願いします。


2011年6月5日日曜日

-lmのエラーの修復

久しぶりにFortranプログラムをLinuxで動かそうと思い、x86_64対応のFedora12にインストールしたifortでコンパイルしてみる。すると、ld:cannot find -lm というエラーが出てしまった。そういえば、以前もこのエラーが出ていたが、コンパイルオプションの-fastを取り除いたら通ったので、気にしていなかったのだった。確かに今回も-fastを取り除くとうまく行く。しかし、libm.aが見つからないというのはおかしい。そこで、今回は逃げずに、このエラーを解決することに決めた。


まず、/lib, /usr/libなどを調べると、たしかにmathライブラリはインストールされている。/etc/ld.so.confにも定義は書いてあった。念のため、ldconfigを走らせてもみた。効果はまったくない。そこで思いついたのが、これらがx86_64に対応していないのではないか?という可能性。いろいろ調べると、glibc-staticを64ビット版にアップデートする必要があるらしいことが分かった。そこで早速、


yum install glibc-static


とする。するとglibc-static.x86_64がインストールされた。ということは、今まで入ってなかった、ということだ。この後、-fastをつけてifortでコンパイルしてみると、案の定うまく通った。これで、ひとつ問題が解決。

2011年6月2日木曜日

M109とNGC3953の観測:おおぐま座のγ星周り

おおぐま座の銀河観測の続き。本当に探しやすい。ただ、だんだん遠くなったり、暗くなってきて、撮影してもハッキリ写らなくなってきた。第二次心霊現象化なり。

今回はおおぐま座のγ星に向けてiso12800で15秒露光しただけのもの。実は、この2つの銀河は上手にとると、相当綺麗な渦巻きを巻いているらしいが。

右の明るい星はγ星.その左上のぼやけがM109。γから水平左にあるぼやけがNGC3953.

2011年6月1日水曜日

M97(フクロウ星雲)とM108の観測

今まで観測した「星雲」は、銀河と星団だった。星雲にはもう一つのタイプがある。それが、惑星状星雲と呼ばれる超新星爆発のガスの広がりだ。銀河や星団に比べると、小さいし、暗いので、小さな望遠鏡で観測するのはとても大変だ。

初めての惑星状星雲として、探しやすいM97を選んでみた。これは、北斗七星のβ星の近くにある。渦巻き銀河のM108が近くにあるので同時に観測できる。M97までの距離は7500光年。一方、M108までは2300万光年。実に300万倍も近くにあるというのに、ボンヤリ度はほぼ同じ。M97は一つの星に過ぎないが、M108は星が無数に集まった銀河なので、当然といえば当然なのだが、それにしてもどれだけM108が巨大か想像できる。(もしかして300万倍?)

まずは、一緒に写った写真から。
M97, M108, おおぐま座β(メラク)
薄緑の丸いのがM97。中心には白色矮星があるらしいが、この写真では確認できない。丸く見えるのは、超新星爆発による恒星ガス(主に水素?)の拡散だろう。「フクロウの眼」の形の構造があるはずだが、それはこの写真ではわからない。

M108は渦巻き銀河で、それを斜め横から見ている感じ。

両者とも、メラクを目印にして同時に撮影できるから、便利だしお得な感じがする。

次は、X4のiso12800で撮影したもの。露出時間は20秒。トリミングして拡大している。
なんか、ピンぼけな感じがする。確かに大きくは撮れたが、くっきりしてない。でも、よーくみると、縦に「フクロウの目玉」が並んでいるのがわかる!

最後に、iso12800で30秒露光したM108。鮮明度が足りないし、ノイズが多い。要改善。