2011年8月31日水曜日

軽井沢の放射能汚染:プリンス通り

噂に聞くプリンスショッピングプラザでの測定を予定していたのだが、有料駐車場に入れるのが面倒だったので、プリンスホテル近くの雑木林で測定することにする。プリンス通り沿いにある別荘地がある場所だ。まあ、モールから一キロ程度しか離れてない場所だから、同じような値が出るはず。

この当たり、別荘地と商業地が混じり合っていて、別荘地になっているところでも、建物が建っていないところがちらほら見受けられる。そういう場所は、雑木林風になっていたり、夏草が覆い茂って薮となっていたりするので、セシウム137の測定場所としては適格だ。

いつものように測定する。その結果は、予想通りの0.18μSv/h、補正値にして0.15μSv/h弱といったところだろう。(JB4020の数値は高めに出ることに注意。)離山の東側としては、典型的な値といえよう。(ちなみに早川先生の測定では、プリンスショッピングプラザのイーストで0.179μSv/hとなっている。)

ちなみに、御代田町の雪窓公園の林で測定したところ、0.11μSv/hだった。これは佐久市中心部や南佐久のレベルと同じ程度。この公園の標高は800mほど。ここが大丈夫ということは、汚染が西(つまり小諸、上田方面)に広がるとしたら、標高1000m以上の場所を伝っていくしかないだろう。

測定場所の様子

御代田の雪窓公園


さて、今回の測定結果をさっそく汚染地図に取り込んでみよう。修正後の地図は次のようになった。
軽井沢周辺のセシウム137汚染マップ
軽井沢周辺が、長野県でもっともセシウム汚染がひどい地域となっているのは、もう間違いないだろう。ところどころ、0.2-0.3μSv/h程度の線量の高いところもある。(軽井沢地域の自然放射線量は日本でもっとも少ない水準だっただけに、関西などと違って、この線量値は明らかに福島から飛んで来たセシウム137による汚染であることを意味しているのは間違いない。)特に、落ち葉や苔むしたところは注意が必要だろうし、軽井沢の野山で採れた山菜、キノコ、木の実なんかは食べない方がいいだろう。また、南軽井沢は湿地が多いので、場合によってはセシウム137の沈殿が問題になるかもしれない。(実はこのあたりは2万年ほど前には湖だったのだが、堆積物がだんだん積もって湿地へと変化していった場所といわれる。)

軽井沢の放射能汚染:雲場池の再測

前回の雲場池での測定は、湖畔の縁で行った。その結果は、予想を覆すほど低い線量となっていたが、周囲の測定結果と比べるとちょっと異常な値に思えた。実は、早川先生によると、「土の上では測ってはいけない」のだという。そこで、雲場池の再測定をしにいってきた。

台風の接近する中、軽井沢は黒雲が広がり、小雨混じりの天気だった。雲場池も暗い感じで、人は少なかった。観光客が減ったせいもあり、静かな軽井沢にようやく戻った感じがした。(とはいえ、ツルヤにはまだまだ県外ナンバー車がたくさん停まっていたが。)

前回は、水辺で測定したので、大雨が降った際セシウム137が流れ出てしまった可能性がある。また、観光客の歩く小径だったので、掃除をしていたかもしれないし、人間によって踏み散らされたかもしれない。そこで、今回はなるべく林の中になるように測定場所を選んだ。他の人の測定ポイントも参考にして、レストランのある入り口近くにある、公衆便所がある林の中で測定することにした。落ち葉が降り積もり、そこから真っ白なドクツルタケ(英名Death Angel!)がたくさん生えている場所にガイガーカウンターを置き、30秒間隔で20回測定、最後に平均値をとるいつものやりかたで測定を実施した。その結果は、納得(以上?)の0.27μSv/hだった!(注意:JB4020は高めの数値がでる傾向有り。)やっぱり雲場池は汚染されていたのだった。流れがあまりないこの池の底にはセシウム137が堆積していることだろう。また、周辺の大きな別荘もセシウム137による汚染が同様に広がっているはずだ。

今回はっきりしたのは、土の上のセシウム137は流れてしまってもうないということ。逆に、落ち葉にはセシウム137がくっついていてなかなか無くならないということだ。軽井沢の別荘地で、落ち葉や苔に埋もれている庭、雨樋、屋根などは線量が結構高いはずだ!

そして、「離山の東西で軽井沢の汚染レベルは二分される」という仮説は復活した。次は、「噂の」プリンス通りで測定してみた。この地点は、離山の東にある。

2011年8月30日火曜日

射手座の星雲:M8(干潟星雲)とM20(三裂星雲)

久しぶりに、本当に久しぶりに、「夜」晴れた。
そこで、久しぶりに天体観測を行った。今夜は天の川がよく見えたのだが、あえて射手座の2つの星雲の撮影に挑んでみた。

実は、射手座(南斗六星)の形をまだマスターしていないので、どこに何があるのか、今ひとつハッキリしなかったのだが、偶然うまい具合にファインダーに入ってくれた。CD-1を起動し、色々な感度で撮影を行ったが、今晩はiso12800で30秒露出が可能だった。そこで、30秒を二枚と、20秒を3枚の、合計2分の露出をgimpによるコンポジット画像で処理することにした。30秒の2枚をまず合成し、次に20秒の3枚を合成する。そして最後にこの2枚を合成するやり方を採用。(これがベストなやり方かどうかは、まだチェックしてない。)最後にiPhotoで色彩をいじって終了。その成果が次の写真。

いて座の2つの星雲(M8とM20)。左下がM8の干潟星雲で、
右上がM20の三裂星雲。M20の斜め左上にあるのはM21散開星団。
M8: 干潟星雲と呼ばれる。3900光年(天の川銀河の半径は5万光年だから、明らかに銀河系内の天体だ)。赤いガスは水素ガス。

M20:三裂星雲と呼ばれる。赤いガスが暗黒物質によって3つに分割されていることから、この名がついたのだろう。拡大版の写真で見るとよくわかる。実は、コンポジットのお陰で、暗黒物質の構造がよく見えるようになっている。その上には青いガスもみえる。どちらも恒星が誕生している場所のはず。5600光年(やはり銀河系内の天体)。

M21:散開星団。4350光年。

gimpのコンポジット処理で、初めてまともな写真が合成できたので、ちょっと嬉しい。デジタル撮影は、高級な赤道儀を使って長時間露出するより、カメラの感度を上げて短時間露出のものをたくさん撮影し、最後にコンポジット処理するのがいいと感じた。安い機材で、なかなかの品質の画像が得られるからだ。

M20(三裂星雲)とM21:
RAW画像をトリミングしてからコンポジット。
CD-1の極軸調節は難しく、ちょっと像が流れてしまった。

物見岩の野草:Agrimony

皮肉なことに、高原の放射線測定をするときれいな野草がたくさん目につく。前回の離山でもそうだった。今回は動物にはお目にかからなかったので、植物だけのメモを残しておく。

まずは、英国に住んでいた時、自宅の庭でよく見かけた野草。Agrimonyだと思う。(日本では多分キンミズヒキというはず。)シュロソウと花の付き方が似ている。
Agrimonyだと思ふ

その他、マツムシソウ(Scabious)、アキノキリンソウ、ワレモコウ、ツリガネニンジンなどを見かけた。どれも、夏の終わりを告げる花だ。
これはなんだろう?

アキノキリンソウ

マツムシソウ

信州のセシウム汚染の度合い:佐久山地の汚染地図

さて、佐久山地周辺の測定結果を地図にまとめてみた。
県境が、文字通り「フロントライン(前線)」となっている。群馬から迫り来る放射性プルームは、この山々でブロックされたように見える。若干信州側にも「染み出し」が見られるものの、県境から2、3キロも離れると、線量レベルは「緑ピン」のレベルまでグッと落ちているのがわかる。一番左の緑ピンは佐久市立図書館の位置。今回の結果をまとめると次のようにようなる。単位はμSv/h.また、JB4020は若干高めの線量が表示されることに注意。括弧の中の数字は大雑把な校正値。

(1)物見岩                                                0.26 (0.22)
(2)神津牧場まで3.5kmの下仁田三叉路 0.21 (0.17)
(3)内山牧場標式                                       0.17 (0.13)
(4)荒船登山道(荒船神社側)               0.17 (0.13)
(5)荒船登山道(上の入り口)               0.16 (0.12)
(6)スエトシ牧場の更に下                       0.09 (0.05)
...........................................................................................
(7)佐久市立図書館                                   0.11 (0.07)

面白いのは、県境を文字通り境にして、放射線量の値が二分されることだ。群馬側は0.2以上、そして信州側は0.2未満となる。峠のある嶺を繋いで県境が設定されたのが理由だろう。

信州のセシウム汚染の度合い:佐久山地の測定(内山牧場と物見岩)

内山牧場に至る。霧が濃くなって来た。牧場を見下ろす岩の丘、物見岩に登って観測することにする。ここが本日の「メインイベント」的目的地となる。
物見岩に至る山道
日暮れも近くなってきたし、こんなところで遭難するのも割にあわないので、急いで登る。5分程度で尾根道の開けたところまで来ることが出来た。物見岩というのは、この付近の山々と同じで、溶岩堆積物の浸食されてできた丘だ。頂上は溶岩のごつごつした岩が露出し、見晴らしがよい。それが山の名前ともなっている。隣にある山は溶岩の露出が少ない為に、物見山と呼ばれている。今回は時間がないので、物見岩だけで測定を行った。物見岩山頂は1315mだが、測定地点は分かれ尾根のピークなので1280mの辺りとなる。ほぼ離山と同じ標高だ。

測定場所は、溶岩の峰から少し森の中に入ったところ。岩石の上に積もったセシウム137はすでに雨で流されてしまっただろうから、なるべく草地の上で測定したかったのだ。(雲場池での測定失敗の記を参照

測定地点の様子
尾根より測定地点を望む
測定結果は、この日最高の0.26μSv/hが出た。やはり、佐久山地のセシウム137による汚染は、早川地図の通り、現実のものだったようだ。非常に残念だ。


次に、信州側に戻り、汚染がどの程度改善するか確認する。今までの経験だと0.15μSv/hレベルまで落ちるはず。物見岩を急いで下山し、内山牧場に戻る。ちなみに、ここの標高はちょうど1200m程度で、離山と同じ高さにある。


荒船妙義国定公園(内山牧場)の標のところで測定。
国定公園の標のところで測定すると、0.17μSv/hだった。予想通りだ。やはり、セシウム137は斜面の裏側には溜まりにくい性質があるのだろうか?

さらに標高を下げて測定してみた。内山牧場から、スエトシ牧場へと下り、さらに下って、標高700mの所で車を停める。そこで付近の林の中に入って測定した。その結果は、0.09μSv/h。物見岩の1/3、そして内山牧場の半分まで線量が下がった。補正を掛ければこれは、ほとんど自然放射線量の水準まで落ちているといえるだろう。

しかし、これはセシウム137がこの地に来なかったのではなく、通り過ぎたということなんだろう。雨が降らなかったということなんだろう。汚染のある場所からわずか数キロしか離れていないのに、セシウム137が県境周辺に閉じ込められたなんてありえないからだ。つまり、信州に(少なくとも北佐久地方)にセシウム137もヨウ素131も、確実にやってきて、それは群馬の県境周辺に降り積もった。幸いなことに、全国的に見ても降水量の少ない佐久地方では、その日雨は降らず通り過ぎていってしまったのだろう。

南佐久の汚染はほとんどなかったが、それは放射性プルームが来ていないことに対する必要条件であって、十分条件とはなっていない。必要十分を示すのは困難だが、少なくとも南佐久と群馬/秩父を境にする山岳地帯の汚染を調査すれば、その答えは得られるだろう。

また、佐久地方を抜けたプルームは、上小地域そして諏訪地方へと流れていったはずだ。蓼科も可能性がある。果たして、これらの地域にセシウム137は残っているのだろうか?次の課題だ。

信州のセシウム汚染の度合い:佐久山地の測定(荒船登山道から神津牧場近くまで)

内山トンネルをくぐらず、旧道の峠道を登る。もうひとつの荒船登山口に至る。ここは駐車場があるので、荒船に登るときはもっぱらこちらを使うことが多い。登山道に少し入ったところと、駐車場の両方で測定をおこなった。校正無しの生データでみると、前者は0.15μSv/h、後者は0.16μSv/hとほとんど同じだった。ここも旧軽井沢の汚染レベルとほぼ同じだ。

測定の様子登山道入り口付近
ここで、サルナシらしき木の実を発見する。もし、この実を二つに切ってみて、キウイフルーツのような形をしていたら、間違いなくサルナシということになるが、このときは採集する気がなかったので、今となっては確かめようがない。(参考文献はこちら
サルナシの実?

ここより、わずかに進んだところが県境で、群馬県の下仁田となる。神津牧場もすぐ近くにある。ここの牛乳やアイスクリームは美味しく、人気があるだけに、汚染の度合いが気になる。


測定地点の三叉路測定の様子
峠を越えて県境を越えると、霧が巻いてきた。ここも碓氷峠と同じように、雲が山の斜面に当たって湿度が高くなりやすく、雨の多いところなのかもしれない。測定結果は0.21μSv/hとなり、まさに碓氷峠と同じ水準であった。神津牧場の汚染が憂慮される...

ここの様子はまさに軽井沢地域と同じで、県境(碓氷峠と下仁田)で高く、信州側(旧軽井沢と内山)で若干少なめという関係だ。

最後に、本日の採集測定地点の内山牧場へと向かう

2011年8月29日月曜日

信州のセシウム汚染の度合い:佐久山地の測定(内山峠から荒船登山道まで)

まずは、内山峠へ車を走らせた。内山層が広がるこの辺りは、フォッサマグナの海が引いた後、第三紀後半頃に大きな湖ができた場所だ。そこに八ヶ岳などからの溶岩堆積物が溜まって埋め立てられ、それが更に風化して奇岩絶壁をもつ奇妙な低層の山岳地域を形成している。内山や駒込の奇岩、荒船、兜岩、妙義、高岩山などは、中国の山水画を彷彿させる。
兜岩山(火山ではなく、火山堆積物が風化した岩山)
兜岩層と呼ばれる湖水層からは蛙や蜻蛉の化石が産出することで有名。また、フォッサマグナの海に堆積してできた内山層からは、貝の化石がたくさん産出する。

まずはこの内山峠に架かる内山大橋の袂の谷で測定した。ここから、内山牧場の方へ登りつつ、数カ所で測定してみる。

ここは荒船神社を経由して荒船山へと向かう登山道の入り口になっている。(荒船山に登る登山道はもう一つある。)数年前に臼井義人が転落死した絶壁がある、あの荒船山である。荒船山は激しく浸食を受けているが、火山である。八ヶ岳や浅間山より古い時代の火山で、戸隠などと同じ部類らしい。今回は、測定箇所を南北方向に稼ぐ必要があるので、荒船には登らない。

この辺りの標高は800mある。道すがら、植生が高山のそれになっているのに気づいた。涼しく気持ち良い。ゲンノショウコやシシウド、ギボシなどが目に留まる。

シシウド

ゲンノショウコ
ついでに、内山層の化石も採集する。この貝は砂岩に入っていたので、フォッサマグナの海の浅いところに住んでいたのだろう。たぶんLucinoma(ツキガイ)だと思う。
Lucinoma?
歩きながら、測定地点を探す。林の中の湿地帯に決める。付近に別荘がちらほらあるが、どこも住人の姿は無い。バブルの頃に開発したものの、打ち捨てられたか?たしかに涼しいことは涼しいのだが、ちょっと湿度が高くて居心地悪い感じ。

測定はいつものように、30秒間隔で20回行い、その平均値をとる。使用ガイガーカウンタは中国製のJB4020。ちょっと線量値が高めにでる癖があるので要注意。校正については以前考察したのでここでは割愛する。最近汚染地図の作成を始めたので、絶対値は必要ではなく、相対値だけで十分となった。したがって、以降の測定では生データをそのまま引用する。

この場所の測定値は0.17μSv/hとなった。ちょっと高めだ。離山の西の旧軽井沢の周辺の線量に近い感じ。佐久市の中心部(市立図書館)での測定は0.11μSv/hだった。早川地図によれば、この辺りが汚染されている可能性は高いわけで、つじつまが合いそうな気配となってきた。これから標高を上げていくと、線量は上がってくるのだろうか?また、群馬側(下仁田)に出ると、信州側より汚染はひどくなっているのだろうか?

次に、もう一つの荒船登山道に向かう


信州のセシウム汚染の度合い:早川地図で気になるところ(佐久山地)

まずは早川地図を見てみよう。群馬と長野の県境に注目する。
長野群馬の県境周辺の早川地図
群馬側から見ると、碓氷峠、横川、下仁田、そして群馬の南牧(なんもく、と読む。信州のみなみまき、と同じ漢字を使うが、異なる読み方かつ異なる場所だ)に至る南北に真っすぐに列を成す荒船妙義を含む佐久山地が「汚染地域」だという。

信州側から見れば、碓氷峠(軽井沢)、内山峠(佐久市)、荒船を挟んで十国峠(佐久穂町)まで「汚染されている」可能性があるという。

前回の軽井沢地域の測定で、離山の一部がひどく汚染されていることが判明した。つまり、県境を越えた軽井沢地域にも汚染地域が(点状に)広がっている可能性がある。しかし、弱い汚染が旧軽井沢周辺に広がっているものの、早川地図と測定結果は「おおよそ」一致している。また、南佐久の測定、および佐久市周辺の測定では、佐久平から野辺山高原に至るまでの、千曲川上流地域はほとんど汚染されていないことも明らかとなった。これはまったく早川地図と一致した結果だ。つまり、早川地図は大域的には正しいが、詳細に見ると(マイクロホットスポット?)見逃しているところもあるということだ。「正しくて、正しくない」と認識を持ちながら、早川地図は利用するべきだろう。

大域的には正しいということは、軽井沢の南に帯状に広がる0.25μSv/hの領域も実際に存在する可能性が高い。そこにあるのは八風山、物見山、そして荒船といった佐久山地、そして荒船妙義の山々だ。妙義山は登るのが大変なので、今回は信州側の山々の汚染を調べてみることにした。果たして、そこは0.25μSv/hの領域になっているのか否か?

2011年8月27日土曜日

昨日の夕立:東京にて

お昼過ぎ、嫌な暗さになった。街灯が点いてしまうほど。湿度も高い。これは、一雨来るなと思った。

それから数十分して、ついにポツポツ降って来た。ものすごい大粒。30分くらいは、このポツポツ状態だったのだが、いきなりザーっと降り出した。この段階でドライブに出発する。

甲州街道で仙川を渡る。左右の支流から滝のような水の流れが、あっちでもこっちでも流れ込んでいた。ものすごい量。とはいえ、野川が氾濫するまでにはまだ余裕があったと思う。甲州街道はあっと言う間に水浸しになる。走行車線は下水処理がパンクしたと見え、10センチほど水没していた。どの車も怖かったらしく追い越し車線へ逃げたため、大渋滞が発生。

がら空きになった「水路」に突入。水しぶきを数メートルほど上げながら、走り続ける。さすがにちょっと不安になった。その間も、滝のような豪雨が降り続けた。どうも、甲州街道が一番低くなっているようで、周辺の道路や溢れた水路などすべての水が流れ込んでくる。濡れまいとするのをあきらめた禿親父が、傘もささず、白シャツを水に透かせ、背筋を伸ばして悠然と自転車で走っていった。

久我山で神田川を越える。ここはまだ余裕有り。雨は小雨になったと思ったら、いきなり降って来た。

その次は善福寺川。ここは氾濫地域で有名なところ。誤って水たまりに突っ込まないように慎重に走る。遠目に大丈夫だと思ったが、橋を渡る際、川を覗き込んでみたら、かなり水量が上がっていて驚いた。これはいつ溢れてもおかしくない。

最後が石神井川。雨は小止み状態で、水位も大丈夫だった。環八の井荻トンネルは怖くて通らなかった。あそこで水没したら、ドブネズミと一緒に泳いで逃げなくては。っていうか、逃げ出せるんだろうか?

夜報道番組を見ていたら、羽田空港の周回道路のトンネルが水没して、乗用車が数台はまっていた。井荻トンネルに想像した風景。羽田のトンネルも環八を南下してよく行くところだけに、一歩間違えたら自分もああなったんだろうか、と冷や汗が流れた。今回は北上して助かった。

内部被曝の調査:(3)基準値目一杯食べたらどうなるか?

現在3500Bqの放射能を内部被曝している人がいた、という報道が最近あった。この事実を参考に、食物摂取によるセシウム137の内部被曝の影響について考えてみたい。

まず、3500Bqの内部被曝を現在被っているということは、現在セシウム137が体の中に入り込んでいるということを意味し、その原因はおそらく、放射性プルームを吸い込んでしまったことだろうと思われる。このプルームの中には、セシウム137とほぼ同量のヨウ素131も含まれていたはずで、それ相応の量のヨウ素131をも吸い込んでしまったということになるだろう。先の計算の結果、ベント時に吸い込んだと思われるヨウ素131の量はおおよそ5×1012個であることが分かった。この量が、チェルノブイリ事故と同じ水準だと仮定すれば、これから10年の内に甲状腺癌にかかる子供が数千人単位で現れることになる。

ヨウ素131にせよ、セシウム137にせよ、ベータ線とガンマ線を放出してDNAを傷つけるという意味では、その内部被曝における役割はほぼ同じで、放射線をたくさん受ければ受ける程、発ガン率は上がるはずだ。ただし、セシウム137は半減期が長いので、ヨウ素131に比べて大量に摂取しなければ、一定時間に出てくる放射線の量は少ないから、比較的「害がないように見える」。(そういうことを強調して、セシウム137を危険視しない専門家も結構いる。)

また、セシウム137に汚染された食物を何十年も食べ続けた場合の影響についても前に議論した

今回は、暫定基準値とされる値まで目一杯汚染された食べ物を食べた場合について考察する。暫定基準値は次のようになっている:水、牛乳はそれぞれ200Bq/Kg、野菜、肉類、穀類はそれぞれ500Bq/Kg。

さて、宮沢賢治のアメニモマケズよりはいい暮らしをすると仮定して、一日に水3リットルと、200ccの牛乳、肉100gに、野菜200g、そしてご飯1合を食べるとする。それぞれが、600Bq、40Bq、50Bq、100Bq、そして75Bqとなる。合計で865Bq。少し、これより少なめにしてセシウム137を500Bq/日だけ摂取するとする。これは、7×1011個のセシウムを毎日摂取することに相当する。(福島に住むとある人が吸い込んだ)プルーム中のヨウ素131の14%に相当する。これはかなり多量だと思われる。

以前の計算を利用すると、この調子で食べ続けていくと、3年足らずで(プルームを吸い込んだときの)ヨウ素131の影響と、同程度の内部被曝量に追いついてしまう。そして、10年経つと400%近くにまで到達する。つまり、政府の基準値を守った農産物、水産物、飲料水を食べ続けていると、プルームを通じてヨウ素131を吸い込んだ場合に比べて、4倍のリスクがあるということだ。(なおこの計算では、セシウム137の崩壊に伴って、食物中のセシウム137が年々減少する効果は取り込んである。)暫定基準値は、したがって、1年程度で撤廃する必要があると思われる。

上の結果は、水3リットルから来る600Bqが主な原因だ。現在東京の水はというと1Bq/Kg未満だから、これを3Bqに変更してみよう。すると268Bqとなる。だいたい250Bqということだから、半分のn0/N0=7%となる。それでも5年でヨウ素131のリスクに追いついてしまう。10年だとヨウ素131の場合の2倍のリスク。30年で6倍だ。ということで、実質的には水の汚染が解消されていることから、他の食品に関してだけ暫定基準値を当てはめる場合は、せいぜい2年程度で暫定基準値を改める必要があるだろう。(それでもかなりの内部被曝、だいたい40%のリスクに相当、をしてしまう。)

ここで、WHOの基準値に変更してみよう。だいたい日本の暫定基準値の1/50くらいに設定されている。(飲みものは1/200)上の試算では250Bqだったから、その1/50というと5Bq/日となる。これだとヨウ素131のリスクと同程度になるまでに30年ちょっとかかるから、中年以降の人間には影響が出難くなってくるだろう。(もちろん、少年以下の世代には大きなリスクになるが。)そして、このWHO値はまさに、前に私が仮定したn0/N0=1%のラインに匹敵する基準値になっている。(それでもまだ安全とは言い切れないが。)

結論はこうだ。暫定基準値ぎりぎりで出荷されているものはかなり危険だ。高齢者だとしても、なるべく避けた方がよいだろう。どうしてもというなら、せいぜい一年程度なら食べ続けてもいいかもしれないが、かなりのリスクを負うのは確実だ。暫定基準値がWHO値に変更されるまでは、「放射能入り」食材は極力避けるべきだろう。

仮に、あの日福島の人々が吸い込んだヨウ素131の量が、チェルノブイリ周辺で被曝した人たちと同じ程度だったとすると、ベラルーシと同じ規模の都市の場合、10年間で400人程度の小児甲状腺がん患者が発生するはずだ。セシウム137の影響は出ていないという報告もあるが、それはソ連が食品基準値を厳しく決めたからかもしれない。日本のような甘い基準値のまま行くと、ヨウ素の影響に遅れること数年、たとえば今から15年後あたりから日本人全体の癌罹患率が上がり始めるだろう。そしてそれは、若年性の癌の増加(甲状腺に限らない)という形で最初に顕在化すると思われる。そのときは、同じ数の成人もセシウム137で癌を発症しているということになる。

内部被曝の調査:(2)放射線医学総合研究所の内部被曝量測定

放射線医学総合研究所(放医研)という国立研究所(形式上は独立行政法人)がある。天下って来ている理事の経歴をみると文科省管轄の機関らしい。ここが、保安院(経産省)の以来を受けて実施したという、ホールボディカウンタ(WBC)による内部被曝線量の測定結果が公表されている。

測定は福島県浪江町、飯舘村、川俣町の住民122人。測定日は6月下旬から7月初旬にかけて(つまり、被曝からおよそ3ヶ月後)。

この計測に関しては、詳細なデータは示されておらず、最高値のみが記されているだけだ。それによると、Cs-137/134の内部被曝量は、それぞれ最高で3800/3100ベクレルだという。誤差幅(エラーバー)が書いてないので、測定精度が良いのか悪いのか不明。(おそらく精度は悪いんだろう。)一方、ヨウ素131は検出されなかったという。

まず、ヨウ素131から。検出されなかったのは当然で、以前の計算によると、プルームなどを吸い込むなどしてヨウ素131を体内に取り込んでしまった場合、90日経つと体内におけるヨウ素131の放射能はほぼゼロになる。理由は2つあって、(1)代謝によって対外に排出されたから、および(2)半減期を大きく過ぎているので崩壊し尽くして消滅してしまったからの両方である。主に(1)の理由で少なくなっているならば健康被害は少ないが、(2)の理由であるならば甚大な健康被害を被った可能性がある。そこで、90日間に浴びた内部被曝を計算してみると、なんと吸い込んだセシウム131の数の90%以上にもおよぶ。つまり、(2)が主な理由であり、吸い込んでしまったヨウ素131はほとんど放射線を出し切ってしまい、そのほとんどが細胞に向かって放射されてしまったということだ。放射する前に運良く排出できたものは10%足らずであるから、内部被曝の観点から見て、ヨウ素131の放射能がいかに強烈かわかる。

今までの計算では、放射性プルームを吸入したとき、どの程度の量の放射性物質を吸入してしまったかのデータがなかった。今回の経産省の発表のおかげで、おおよその検討をつけることが可能となった。

ヨウ素131、セシウム134、セシウム137の3つの核種は、おおよそ同じ質量だから、ウラン235の核分裂による、それらの生成量はほぼ等しいだろうと仮定する。現に、WBCの結果によるとセシウム137と134の内部被曝の最高値はほぼ同じだ。(3800および3100ベクレル)。これらの数値の平均値に近い値3500ベクレルを、以下の計算では採用することにする。

次に、セシウム137の半減期が長いことを利用して、プルームに含まれていたセシウム137原子核の数の推定を行う。ベクレルというのは、一秒間に放出する放射線の数だから、要は放射能の強さだと考えてよい。時間tまでに放出した放射線の総数はNrad(t)=N0(1-2-t/τ)で与えられる。ここでτは半減期を表す。セシウム137の場合、半減期は30年だから、946,080,000秒に相当する。この値は3ヶ月に比べて随分大きい値なので、Nrad(t)のテイラー展開の1次までとってtで割り算すると、放射能の「強さ」が得られる。それは、ln2N0/τ(定数)となる。これが、セシウム137の内部被曝に由来する放射能3500ベクレルに等しいと置けば、プルームに含まれ体内に摂取してしまったセシウム137の量が推定できる。計算すると、それは約5×1012個となる。

最初の仮定に従えば、プルーム中のヨウ素131とセシウム137の数は同じくらいだと思われるから、ヨウ素131の数も5×1012個程度だっただろうと推定できる。(追記:保安院のデータを参考にすると、上記のように1/10となるから、5×1011個と修正される。)

3ヶ月の間に吸い込んだ内、おおよそ90%のヨウ素131が体内で放射線を出してしまったと考えられるから、浴びた放射線の総数は0.9×5×1012=4.5×1012個ということになる。

ここで、久しぶりにベクレルからシーベルトへ変換してみよう。計算を簡単にするため、ベータ線の影響は無視し、γ線だけを考慮する。またガンマ線の放射エネルギーは0.66MeVということで統一する。(これまでの考察が「凡そ」のデータに基づいているので、この程度の精度で十分だろう。)すると、この3ヶ月間で体内に放射されたガンマ線の総エネルギーは4.5×1012×0.66×(1.6×10-13) [単位はジュール]となる。成人男性だと考え、彼の体重を60キログラムだと仮定すると、7.92×10-3(単位シーベルト)、つまり約8ミリシーベルト(!)となる。 年間許容量の凡そ8倍の放射線をわずか3ヶ月で浴びてしまったことになる。大雑把な計算だし、ベクレルからシーベルトへ変換するのは不定性がつきまとうから、8倍という数字は不正確だとしても、おそらく年間許容量の数倍程度の放射線を、3ヶ月という短期間で大量被曝してしまったと思われる。つまり、6月末にWBCで測定して不検出だとされたヨウ素131は、すでに福島の人々の遺伝子を深く傷つけてしまった「後の祭り」だったということだ。(被曝してから数日以内に安定ヨウ素を服用してもらえば、ヨウ素131の甲状腺への沈着率が低く抑えられ、DNAの損傷も少なかっただろう。)

計算によると、ヨウ素131と一緒に放射性プルームに含まれていたセシウム137は、3ヶ月経った段階で吸い込んだ量の0.3%程度しか放射線を出していない。これは2.6μSvに相当する(3ヶ月間の被曝量)。この先2年間は放射線を出し続けるが、それでも全部で1%に届かない(0.9%)。つまり2年間で約5μSv、平均すると一年で3μSv足らずしか被曝しないことになる。汚染された食物を食べていなければ、3年もすればセシウム137は体から排出されてしまうので、ほぼ影響無しで切り抜けることが可能ということになろう。

つまり、WBCで測定すると、数百ベクレルの値がでるセシウム137のほうが、ヨウ素131より怖く感じるが、実際には逆で、既に無くなってしまったものほど恐ろしいということになる。とはいえ、セシウム137が2年ほどで体外に排出されていくかどうかをキチンとモニターしていく必要があると思う。二年経っても放射能を持ち続ける場合は、セシウム137をプルーム以外の経由で摂取してしまっていることを意味する。それは、おそらく食物や水の汚染が原因のはずだ。低レベル長期被曝の影響については、ここで考察してある


内部被曝の調査:(1)Whole-body counter(ホールボディカウンタ)

内部被曝を測定する機械があるらしい。ホールボディカウンタという名前だそうだ。福島の住民たちはこれを使って測定された。また、なかには自分から願い出て(たぶんお金を払って)、この機械で測定してもらった人がいるという。その検査結果の通知書がネットに出ていた。

この結果の数字がとても面白い。まずは、個人で検査してもらった新宿の会社員のデータは次のように書いてある。

Cs-137:   868.5 ± 11,561.1 (Bq)
Cs-134:  6,373±33,747.0 (Bq)
K-40:     16,554±70,203.6 (Bq)
I-131:     0.0000±0.0 (Bq)

普通±の後ろに置かれるのは誤差。この測定値はどれも誤差が異様に大きい!

たとえば、セシウム137の場合、誤差の方が2桁も大きな数になっている。身長測定に例えていうなら、「あなたの身長は163±12000センチです」といわれているようなものだ。あなたの身長の誤差が±120メートルもあったら大変なことだ。っていうか、ガンダムも、ゾウリムシも全部この誤差範囲に入ってしまう。率直にいって、こういう計測結果が意味するのは「この機械は測定能力がありません」ということだ。

南相馬市の酪農家の測定結果はNHKのニュースで紹介されたようだ。おそらく上の件と同じ装置だと思われるが、やっぱり面白い数値が出ていた。

Cs-137: 129,746±580,492.5 (Bq)
Cs-134: 122,676±570,312.9 (Bq)

こちらは多少はましに見えるが、それでも4−5倍ほど誤差の方が大きい。例えていうなら、「優勝賞金は12万±60万!」といってるようなものだ。文字通り解釈すれば、優勝賞金は—48万円から+72万までの差があるから、株の取引みたいなものか?優勝しても48万円払わなきゃならない(かもしれない)写真コンテストには、ちょっと応募できない...(Bqというのは「放射」だけで、「吸収」は本来は無いはずだから、-580,492.5という数字の意味がかなり不明だ。が、そこを追及するのは可哀想だからやめておく。が、一つだけ許してもらうとすると、「吸収してくれる物質があったら、まさにイスカンダル文明のレベルに到達できる!」)


前の投稿でちょっと述べたように、この数字自体が「内部被曝の測定に関しては未解決」ということの証明だと感じた。

2011年8月26日金曜日

内部被曝の調査:(0)未解決の問題らしい

最近、内部被曝に興味を持っている。医学、化学、そして物理学が絡む非常に面倒くさいテーマだが、これから100年間は避けて通れない道だと思う。

政府や役所の見解はいつも「ただちに問題はない」というやつだ。もはや、この発表を聞いて安心する人間は少ないだろう。しかし、科学者でない彼らを責めるのはちょっと酷なところもある。というのは、医学者や科学者の間でも、内部被曝の影響についてはコンセンサスがないようで、「よくわからない」というのが正直のところのようだ。

一番良いのは人体実験をやることだが、今までにそれをやったのはアメリカ軍のみ。しかし、彼らはそのデータを機密扱いにしていて、その内容を知ることが難しい。したがって、科学者コミュニティで自由に議論することができない。

数少ない「臨床データ」である広島と長崎の被爆者のカルテも貴重なデータだ。しかし、アメリカの植民地だったころの日本で広島長崎の被曝者に関する医学データは大量に記録されたものの、アメリカ占領軍政府(GHQ)は、カルテの破棄あるいは厳重隠蔽を医者たちに強要したといわれている。このため、内部被曝の詳細なデータは公に出て来てないし、日米両政府の対応は「内部被曝などない」という立場に近いらしい。

チェルノブイリのデータが、おそらく一番科学者に開かれたデータだと思われる。そして、そのデータはもっとも福島の事故に役に立つだろう。同じ原発事故だ。しかし、事故から25年しか経っておらず、内部被曝に関してはまだ「未完のデータ」と考えるべきだろう。少なくともあと50年近く待たないと、本当の意味をデータから読み取れないと思う。というのは、セシウム137の半減期は30年だからだ。(90年経っても、最初の1/8、つまり12.5%にしか減らない。)

2011年8月25日木曜日

放射性物質の健康への影響:セシウム137による食物汚染の影響

次に、セシウム137による長期間にわたる食物汚染の影響をモデル化してみたい。半減期が30年のため環境中に長く残るセシウム。今ではよく知られているように、土壌や飲料水、そして動植物を広く汚染しており、この影響は100年以上続く。とはいえ、関東周辺の汚染は、福島ほど高くはない。すなわち、低レベルの放射能を長期間にわたって浴びることになる。そして、この被曝は食物摂取等による内部被曝である。

セシウム137は、多少筋肉中に蓄積する率が高いそうだが、それほど際立っている訳ではなく、基本的には体中を動き回る(とEPAのホームページにはある)。そして、尿によって排出される。したがって、医者の中には、膀胱癌の可能性を疑う人もいるようだ。平均的な排尿回数は5−7回程度と言われており、仮に6回だとすると4時間に一度ということになる。セシウム137は半減期が長いため、これだけ短い時間内に出す放射線の数はごく少ない。しかし、出しても出しても、年がら年中次から次へと体内に入り込んでくるとすれば、膀胱は常に被曝し続けることになるだろう。

(もちろん、体全体で考えれば、必ずどこかで被曝することになるが、場所が散らばっていれば、特定のDNAが損傷する確率は下がるため、癌のリスクは随分下がるはず。甲状腺に溜まるヨウ素131に比べて、セシウム137をあまり危険視しないのは、こういう理由があるからなのかもしれない。しかし、最後は必ず膀胱に来るはずだから、医者の中には膀胱癌のリスクが高くなると考える人も居るのだろう。)

以上の考察より、セシウム137は特定の部位に沈着しないので、ある器官の癌化する確率を計算するのは懸命ではないだろう。ということで、体全体の内部被曝量を計算するに停め置き、その結果が医学的に何を意味するかは医学者に聞いてみるしかないだろう。

対応する微分方程式は非同次になるので、特殊解と同次解の線形結合が一般解となる。(大学3年の物理数学!)特殊解は定数変化法を用いて探す。同次解は自明。これにより、体内に蓄積するセシウム137の量が計算できる。

今回のモデルは次の2つの仮定によりなる:(1)関西に住んでおりプルームを全く吸わなかった人が対象で、(2)日本全国の農畜水産物が汚染され、関西の食材にも低レベルのセシウム137が混じってしまった場合である。このとき、一日に摂取するセシウム137の量をn0と表すことにする。

面白いことにt=tbln2(tp/teff)まではセシウム137の体内蓄積量は増加し極大値をとる。これ以降は次第に減少し、t=∞で0に収束する。セシウム137のデータを使って、極大値となる時間を計算すると約2年弱である。

「国産」というラベルが張られた福島産、栃木産、茨城産などの野菜や肉、そして福島産、宮城産、千葉産、茨城産などといった海産物は、現在日本の市場に流通している。これらが、低レベルのセシウム137を含んでいる可能性は大きい。また、政府の設定した「基準値」以下であれば、セシウム137が含まれていても合法的に出荷できる。「国産」原料を用いてつくられた加工食品(ケーキ、ドーナツ、ヨーグルト、肉まん、餃子、コンビニ弁当などなど)ともなると、セシウム137が入ってないものを探す方がいづれは難しくなるだろう。このような状態が、例えば3年で生じると仮定する。そして、関西の人々といえども、日常的に「薄められたセシウム137入り食品」を食べる時代が訪れるとする。そうすると、その2年後には、彼らの体内に蓄積したセシウム137は最大値をとるというわけだ。

プルームを吸い込んだ関東人のケースはというと、最初はもちろん関西人よりも多くのセシウム137を体内に持っている。が、それは次第に減ってくる。この場合については別の機会に検討することにしよう。

さて、放射能の強さを計算したいが、基本となるのは、放射能の強度は放射性物質の量に比例するという考え方である。しかし、セシウム137の場合は体中に散らばってしまうので、単体の場合と違って、随分密度の薄い放射性物質を考えることになる。したがって、基本的な考えが成立するかどうかは不確かだ。とはいえ、あまり難しい理論をつくっても理解するのが大変なので、ここではナイーブに基本的な考えに従って放射能を計算することにする。結果は過大評価になるはずだが、そこで得られる情報は無意味ではないだろう。

微分方程式を解くと、時間tまでに浴びる内部被曝の線量(ガンマ線)は次の式で与えられる。

このままでは理解するのが難しいので、ヨウ素131の場合と比較することにする。

前の計算でわかったのは、ヨウ素131のプルームを吸い込むと2ヶ月でその9割が放射線を出す、ということである。このとき吸い込んだヨウ素の量をN0と表すことにしよう。

福島に住む小学生が吸い込んだヨウ素131プルームの影響と、大阪に住む小学生が汚染された食材を食べ続けることで受ける低レベル内部被曝の影響が同じ程度になるのは、いったいどのような場合だろうか?それを調べてみることにする。そこで、Nrad/N0という比を考えることにする。たとえば、この値が1になったとき(100%)、大阪の小学生の長期間にわたる体内被曝の総量は、2ヶ月間で福島の小学生が浴びたヨウ素131からでる放射線の量とほぼ一致することになる。まずは、その時間を計算してみよう。

もし、大阪の小学生が毎日摂取するセシウム137の量が、福島の小学生の吸い込んだヨウ素131の量の1/100だったとするとどうなるか?(これはn0/N0=0.01に相当。)計算すると、そうなるまでに必要な時間は55年弱という結果となる。つまり、10歳の小学生が65歳となって会社を退職する頃には、福島の小学生と同じ程度のリスクを負う可能性があるということだ。

ただし、セシウム137が体全体に広がることや、モデルの仮定などを考慮すれば、そのリスクはヨウ素131よりは随分小さくなるはず。(たとえば、1/10。)だとすれば、70歳、80歳くらいまでは、リスクを引き延ばせるかもしれない。しかし、医療の進歩によって、彼の寿命が120歳まで伸びたすれば、セシウム137のせいで110歳になった頃病気になるかもしれない。とはいえ、ヨウ素131の恐ろしさに比べれば、格段にその脅威は落ちると言えよう。

もし、毎日のセシウム137摂取量が0.1%に抑えられたとしたらどうだろう。その場合は、福島の小学生と同じ被曝をするまでに550年弱かかることになる。いくら医学の進歩が急だとはいっても、100年後の世界の人間の寿命が600歳なんてことはちょっと難しいだろう(不可能とは言わないが)。とすると、セシウム137の低レベル内部被曝というのは、抑えれば抑えるほど効果があるということになる。摂取量が1/10に減る度に、10倍安全になる。逆に10倍増えると、10倍危険になる。もし、セシウム137の摂取量が、ヨウ素131の10%程度にまで跳ね上がるとすると、わずか5年半で福島の小学生と同じリスクを抱えることになってしまう。これは、大阪の小学生が高校を卒業する頃に、最初の癌が発症する可能性があるということだ。

次は、n0/N0=1%に固定して考えてみる。この値を上の公式に入れると、Nrad(t)/N0のグラフは次の図の用になる。
汚染食品から、福島のヨウ素131プルームの1%に相当する
セシウム137を毎日摂取したときに浴びる内部被曝の総量。
縦軸の単位は%。横軸は日。

10年後(3600日)の内部被曝量は30%に達する。100%よりは随分低いものの、結構大きな値である。20年後には50%にもなる。このことは、ヨウ素131を吸い込んだ福島の小学生よりもリスクは小さいものの、低レベルに汚染された食品を毎日食べつづけると、病気になるリスクが結構な割合で生じてしまうだろう、ということである。ただし、多くの仮定が置かれており、その数字自体が信頼できるものとはいえない。しかし、摂取が少なければ少ない程よい、と主張する医者たちの意味することが、この図を見ると分かるような気がする。高をくくっていると思わぬしっぺ返しを受けることになる予感がある。

2011年8月22日月曜日

放射性物質の健康への影響:ヨウ素131のプルームを吸い込んでしまった場合

ヨウ素131の半減期は8日、生体半減期は120日、そしてこの化学物質は甲状腺に溜まる。甲状腺というのはホルモンを分泌する器官だから、吸収と排出は結構頻繁に、つまり連続的に起きていると考えてよいだろう。

吸い込んだヨウ素131は分子I2である。この分子N0/2個が甲状腺に蓄積したとする。(つまり原子核の数でいうとN0個。)単位時間あたりに放出されるガンマ線量は次の式で与えられる。
dNrad(t)/dt = log2(N0/tp)2-t/teff
ここで、tp=8日(放射性崩壊の半減期)、tb=120日(代謝による生体半減期)、そしてteff=tptb/(tp+tb)が、二つの半減期を考慮した場合の有効半減期と呼ばれるもの。

これをヨウ素131の場合についてプロットしたものが次の図。
ヨウ素131の崩壊速度(単位は割合にしてあるが、
吸い込んだヨウ素の総数を掛けるとベクレルになる。)
最初に全体の12%の割合で、放射線(ガンマ線)が飛び出てくる。例えば、5万個のヨウ素131分子が甲状腺に沈着してしまった場合(これは約10-15g=百万分の一ナノグラムに相当)、1日あたり1万2千個のガンマ線が甲状腺を攻撃するということ。原子核崩壊と代謝によって、甲状腺に溜まったヨウ素131は次第に減少するので、放射能の強さもだんだん減ってくる。しかし、ひと月経っても1%(つまり上の例だと千個)程度の放射能が残っている。60日、すなわち2ヶ月も経つと、ようやく放射能は消える。これは、一回の吸い込みで起きることである。(すなわち、複数回ヨウ素131を吸い込んでしまった場合は、これよりもひどい結果となる。)

次のグラフは、上の結果をもとにして、吸い込んでしまったヨウ素131の何%が「総量として」体内で放射線を出すかを計算したものである。
ヨウ素131の全放射線放出量。ほんの2ヶ月で、
吸い込んだヨウ素131の9割が放射線を出してしまう。

崩壊半減期に比べて、代謝されて排出されるまでの時間(生体半減期)が長いため、体の中に取り込まれたヨウ素は、排出される前に、ほとんど放射線を出し切ってしまう。つまり、内部被曝は大きくなる傾向がある。放出が終わるまでわずか2ヶ月しかない。(2ヶ月目と3ヶ月目で値がほとんど同じ、ということは、体からヨウ素131が抜けてしまい、放射能がようやく無くなったことを意味する。)計算すると、最終的に、甲状腺に沈着したヨウ素の93.75%が体内で放射線を出してしまう。ベントの際のプルームを大量に吸い込んだり摂取してしまった人は、この「2ヶ月間」のせいで、甲状腺のDNAが損傷を受けてしまう。そして、この先30年間にわたって、甲状腺がホルモンをつくったり、細胞分裂を起こす度に、癌化した細胞を作り出してしまう可能性につきまとわれるのである。

一方、同じように吸い込んだセシウム137はどうだろうか?こちらは、崩壊半減期が30年と長いが、生体半減期は100日とやや短めである。こういう場合は、崩壊する前に体から放出されてしまう率が大きい。計算したものが次の図である。

セシウム137の全放射線放出量。3年(1080日)かけても、
吸い込んだ量の1%弱が放射線を出すのみ。ほとんどが、
放射線を出す前に対外に排出されてしまうからだ。
ヨウ素131の場合に比べて、圧倒的に放射能が弱いことわかる。一年経っても0.8%しか放射線を出さない。そして、2年ほどでようやく収束値の0.90%に到達する。2年目以降は放射線の影響はほとんどない。つまり、影響は長期に渡るものの、放射線を出す前に、どんどん体からセシウム137は排出されてしまうのである。ヨウ素131に比べて、その内部被曝の影響は1/100しかないことがわかる。

注意すべきは、この「弱い内部被曝」というのは、プルームを一回吸い込んだ場合だけの結論である。セシウム137は崩壊速度が遅いので、環境に残ってしまう。そのため、汚染が長期にわたり、食物や水によって、100年以上もの間、「長期の低レベル被曝」をすることになるのが問題となる。すなわち、別のモデルで分析しないと、正しい結果を導くことはできない可能性が高い。

ちなみに、「セシウム137による健康被害は、チェルノブイリでは認められなかった」と主張する医者や科学者がいるが、まだチェルノブイリの事故から25年しか経っていないことを、彼らは忘れてしまったのだろうか?その影響に対して結論を出せる程、まだ十分時間が経っているとはいえないのではないだろうか?

たしかに、一回の吸い込みだけを考えれば、セシウム137の影響は、ヨウ素131の1/100である。チェルノブイリの周辺のベラルーシで、甲状腺がんにかかった子供たちは、90年代半ばまでの10年間の合計で約400人だったという。単純計算で考えれば、セシウム137によって癌になった子供は多くて2、3人ということになるだろうから、「影響は無い」といえるのかもしれない。しかし、この状況は時間が経てば経つ程逆転する可能性がある。事故から200年経ったときに、被曝2世代目、3世代目の人々がセシウム137のせいで寿命が短くなる可能性は十分ある。

はたしてそうなのか?それとも、やっぱりセシウム137はそれほど怖くないのか?次の考察で考えてみたい。

2011年8月21日日曜日

放射性物質の健康への影響:プルームの正体

さて、前回の調査をもとに、原子炉のベントの際に環境中に放出された放射性プルームの性質について考察してみたい。

メルトダウンの温度は、大雑把にいって1000度。したがって、ヨウ素131も、セシウム137も、ベントの当初は気体になっていたはず。原子炉を飛び出した放射性プルームは高温だったため、ヨウ素とセシウムの混合ガス(煙=plume,プルーム)となっていただろう。

プルームの外側は外気と接触して次第に冷えてくるだろうから、次第にセシウムは液化していくだろう。液滴のまま飛び散るもの、あるいは空気中の水分と反応して水酸化セシウムと化し、固体粒子として飛ぶもの、さらには水に融解して水滴となった水酸化セシウムもあるだろう。一方、ヨウ素はガスのまま飛んでいく。ヨウ素の方が質量は軽い上に、気体の状態を保つから、その拡散範囲は広いだろう。が、それは濃度が薄まる傾向が高いことも意味する。いっぽう、セシウムの拡散距離は若干短めになるだろうが、濃縮した可能性がある。

大きなガスの塊のプルームは、その内部まで冷えるまでには時間がかかるだろうが、ベントされた放射性物質で火傷したという話は聞かないから、結構すぐに冷えてしまったと思われる。福島から200キロ離れた地域に到達したころには、セシウムは固体の化合物やその水溶物となっていたと思われる。目に見えない程度の粒子だったのだろうか?そんな粒子のかたまりが、きっとセシウムクラウド(=セシウム雲)の正体だろう。

下水汚泥や水道水の汚染、あるいは茶葉やほうれん草の汚染状態の事実から、セシウムクラウドは信州、静岡の東半分、岩手の平泉付近までは確実に飛んできた。(平泉に関しては、まだもめているのだろうか?)

そして、雨雲と接触したとき、放射性物質の多くは雨と共に地表へと落ち、その土地を汚染した。関東の場合、3/15と3/21の2日、放射性プルームがやってきた。最初の方は、プルームが通過しただけ、二番目の方は降雨とともに地表に降り落ちた。

まずは、最初の3/15の場合について見てみたい。この日、戸外にいたりするなどして、高濃度のプルームを吸い込んだ人が受ける健康被害はどう推定されるのだろうか?ヨウ素とセシウムに分けて分析したい。

放射性物質の健康への影響:ヨウ素とセシウムの性質

物理学者としての専門の範疇から大きく外れてしまうが、放射性物質の健康への影響について考察してみたい。(といっても、かなり物理寄りの考察だが。)

まず以前調べたのは、ヨウ素131の化学物質の形体が、単体の気体(I2)だということ。融点は110度程度だが、昇華しやすいという。これは、アメリカの環境保護庁(EPA)のホームページでも確認できる。というか、より多くのの情報を教えてくれるので勉強になる。以下、引用(+意訳)。
ヨウ素は非金属で、(常温で)黒紫色をした結晶質の固体。気化しやすく、固体から気体に直接変化できる(液体を通らずに)。室温で気化した場合、深い紫色の蒸気となる。この蒸気を浴びると、目、鼻、喉に違和感を感じる。ヨウ素は、アルコール、および水によく溶ける
ヨウ素は、他の物質の化学反応しやすく、単体よりも化合物の形で存在することが多い。たとえば、原子炉内や核廃棄物処理施設では、他の化学物質のすぐに反応して化合物となる。しかし、原子炉から環境中に放出されるときは、単体の気体の形態をとる。 
次に、セシウムについてのEPAによる記述も見てみたい。
セシウムは銀白色をした金属である。柔らかく、延性が強い。室温で存在できる「液体金属」は3種類あって、その一つがセシウムである。(水銀[融点-39度C]; ガリウム[融点30度C]、そしてセシウム[ 融点28度C]
Wikipediaによると、金属セシウムは水と激しく反応し、水酸化セシウムになるそうである。また酸素と反応し、酸化セシウムになることもある。両者とも融点は数百度で、常温では固体の形態をとるというから、粒子状の状態国立環境研究所のシミュレーションでもそのように仮定されていた)で飛び散ってくると思われる。水酸化セシウムもまた、水によく溶けるという。(強塩基だから。)また、酸化セシウムは水と激しく反応して、水酸化セシウムになるそうである。したがって、ヨウ素131もセシウム137も、雨と一緒に地表に降ってくるのであろう。

さて次は、セシウムおよびヨウ素よりなる放射性プルームの性質について考察してみる。

放射線測定:「土の上は駄目」なのか?

早川先生のTweetに「土の上の測定はだめ。草の上でやらないと。」とあった。

雲場池の測定は、落ち葉の上でやった....早川先生の考えが正しければ、雨でセシウム137は流れてしまった可能性がある。雲場池の結果はおかしい、と感じたので、草の上で再測定の必要ありかも。

ただ、碓氷峠の茶店での測定は、店のベランダのテーブルの上にガイガーを立てて測定したのだが、見晴し台の測定(土の上で測定)と同じ値が出た。早川仮説が正しいかどうかは、確認しないといけないと思う。

ちなみに、ショーの教会と東部小学校では苔の上、離山の頂上では草の上だった。最高値(生データで0.38μSv/h)を出した離山の山頂下東側は落ち葉の上。
軽井沢東部小学校の裏門での測定

2011年8月19日金曜日

離山のFauna and Flora

離山の一部はひどく放射能汚染されてはいるものの、そこに暮らす動植物は多様であって、非常に興味深い。

猿(と熊)は写真にとれなかったが、カモシカの接近写真をとることができた。山頂から少し下ったところで、道に迷っているときに遭遇。後ろから覗かれている感じがあったので、振り返ったら、崖の陰に至近距離でこちらの様子を伺っていた。カメラを掲げると逃げたので、それを追いかけるようにして撮影した。
ニホンカモシカは、信州の県獣。
登山道が始まって間もなくのところで、キノコがたくさん繁殖していた。真っ白のDeath Angel(ドクツルタケ)を始め、すべて毒キノコだとは思うが、識別は難しい。

まずは、柄の色が紫なのに傘が薄緑色で、とてもきれいな、そしておいしそうなキノコ。特徴的なので図鑑で探せばすぐわかると思ったが、意外に難しく、結局今のところID不可。
不明のキノコ(Bolette系)

もう一つBolette系のキノコがあった。上のキノコのすぐ横にあった。おそらくドクヤマドリという毒キノコ。Bolette系のキノコに毒キノコは少ないらしいが、ヨーロッパのBoletteは毒を持つものも結構ある。リコボウと同じイグチ系(Bolette系)なのは明らかで、美味しそうなのに、虫が食ってないのはおかしい。「毒」キノコが綺麗な訳は虫食いが少ないからというのもあるだろう。
ドクヤマドリ(?)

その他、トリュフに似たキノコもあったが、あくまで「似ている」とおもっただけで、食べてみる気にはならない。ショウロというキノコだろうか?
ショウロ?(日本のトリュフ?)
次に野草。最初のものは、イギリスでもよく見かけた、黄色の花。花が散った後、ハリネズミのような独特な形の実をつける。Wood Avensと英国では呼ぶ。
Wood avens
次の花はまだ識別できてない。英国でもみたことはないが、似たようなのを霧ヶ峰の八島湿原で見た記憶がある。カモシカと分かれて間もなく、頂上からちょっと下に下ったところで見つけた。綺麗な花だと思う。葉はシランのものと似ている。縦に筋が入っている。(シュロウソウによく似ている。確かに葉は棕櫚竹によく似ている。)
未確認野草(シュロソウ?)
この花のすぐ向こうにあったのが、オレンジ色が鮮やかなフシグロセンノウ。この派手な色の野草は、かならず薄暗い森の中に咲いている。八風山、霧ヶ峰、高峰、浅間などちょっとした高山の森の中に必ず見つける野草。
フシグロセンノウ。

最後に、山あじさい。園芸種と違って、花(ガク)が小さく小振り。この地味さにもかかわらず、紫色であることに無性に惹かれる。(なんのこっちゃ。)
登山道脇の山あじさいの大株
山あじさいのアップ。紫が鮮やか。
離山のセシウム汚染の分布図を作成し、どこからどこまでがひどくやられているのか、確かめねばなるまい。さもなければ、これらのFauna and Floraを手放しで愛でることはできない。


信州のセシウム汚染の度合い:南佐久へ行く

3/15に、軽井沢の碓氷峠あたりから侵入したと思われるセシウムのプルーム。果たして、荒船妙義や秩父あたりからは侵入しなかったのだろうか?仮に、侵入したとしたら、もっとも被害を受けるのが野辺山の高原野菜だろう。また、わたしの好きな、ヤツレンポッポ牛乳も汚染されてしまうであろう。果たしてどうなのだろうか?(ヤツレンは独自の測定はやる気は無いそうで、ちょっとがっくりした。しかたがないので、自分で行って測ってみるしかない、という動機も今回はあり。)

そこで、今回は軽井沢から南下して、南佐久、特に野辺山を中心に放射線観測を行った。

まずは、前回の化石採集で立ち寄ったものの、猛暑で測定意欲を削がれてしまった海瀬で測定。この日もいみじう暑かりけれど、化石採集をせぬ分だけは余力ありて、測定に集中すること能ふ。
佐久穂町立図書館の芝生で測定。後ろにそびえるのは茂来山。
このあたりは、関東山地に属する古い地質を持つので、自然放射線量も高めになっていたとしても不思議ではない。が、測定結果は問題無しのレベル(JB4020の生データで0.13μSv/h、校正値で0.08μSv/h程度。佐久市立図書館の横で測定した値より、若干高い程度。)まずは、問題ない値が出て一安心。セシウムクラウドは十国峠は越えて来てないらしい。石堂もきっと大丈夫だろう。

野辺山までの道のりは長い。距離もあることはあるのだが、車線が少ない上に、のんびり走る車が多く、ものすごく時間がかかる。そんなこともあり尚のこと遠く感じた。

最近マスターしたGoogle mapsで結果をまとめたものが下の図。
全てのポイントで「緑ピン」となった。(ピンの色の定義はこちら)野辺山(清里も)は汚染されてないぞー!これで、ポッポ牛乳も安心して飲めるし(注意:私は、牛乳自体の測定はしていませんから、上の記述には「汚染された餌を食べず、汚染された地域から引き取った牛が野辺山にはいない」という大きな仮定が入ります。とにかく、ヤツレンは牛乳や肉類の直接測定をするべき。追記:このような情報あり。第三者による測定はこちら)、高原野菜もばりばり食べられる。(鉄道最高地点のそばに、地元野菜を売っているテントがあったので、さっそくキャベツ2個を購入し、焼きトウモロコシをかじったのであった。美味なり。)

一応、地図中の各地点の測定値(生データ)をメモしておこう。単位はすべてμSv/h。(JB4020による測定値、つまり生データ、は大きめに出る傾向があることに留意。)

地点1(キャベツ畑):0.12
地点2(千ヶ滝へ下りる道の途中):0.10
地点3(ヤツレンの芝生):0.11
地点4(筑波大学演習林の前):0.09
地点5(清里ユースホステルの近く):0.11

地点1の様子は次の通り。キャベツやレタスの収穫は、今ピークを迎えていて、どの畑にもたくさんの農家(やアルバイト)の人が働いていた。これらの野菜は安心に食べられます!
野辺山のキャベツ畑。手前右の白いビニールが測定器。
後ろにそびえるのは、八ヶ岳。「神の光」が差込んで綺麗だった。

軽井沢の放射能汚染:軽井沢の放射線量地図の作成

Google mapsの機能を借りて、軽井沢を中心とした放射線量測定地図を作ってみようと思う。
まずは練習用としてこれを

今回までの測定結果を地図にまとめてみた。すべて、JB4020の生データで分類した。何度も言うが、このガイガーカウンタの値はちょっと高めにでることは考慮する必要がある。比較する場合は、軽井沢町役場が測っている軽井沢病院の値を使って校正すればよい。だいたい0.05μSv/h程度の値となっているが、JB4020だと0.11μSv/hと出ている。その他、群馬大の早坂先生のシンチレータによる測定も参考にすると、JB4020の値については凡そ次のような分類で評価できると思っている。

(1)緑ピン: JB4020の生データで0.15μSv/h以下のところ。汚染はない(かなり少ない)と言ってよい場所。

(2)青ピン:生データで0.15から0.20μSv/hのところ。そもそも軽井沢の自然放射線量は0.03μSv/h以下だから、軽井沢としては「汚染された」場所と理解すべきだが、関西の自然放射線レベル(0.10から0.13μSv/h程度)と同程度と思われる場所。「まあ問題ないだろう」と思われる領域。

(3)黄ピン:生データで0.20μSv/h以上0.3μSv/h未満のところ。汚染がよりひどい場所。年間の被曝許容量(外部被曝のみだとして)の1mSv/年を若干超すレベルと思われる場所。つまり、実際には0.1μSv/h程度の放射能汚染があるだろう、と考えられる地域。

(4)赤ピン:生データで0.3μSv/h以上のところ。関東のホットスポットと同じレベルと思われる場所(実際の値として、0.25μSv/h程度に相当するだろうと思われる場所。)

航空写真版

等高線版
今までのところ、赤ピンは、離山頂上東の一点のみで観測(生データで0.38μSv/h)。黄ピンは碓氷峠で観測。また、大雑把に言って、旧軽井沢地域を囲む谷の中は青ピンが多く、また離山の西側は緑ピンとなっている。(雲場池がちょっと例外的なポイント。ここは、追加計測が必要と思っている。)

等高線版をみると、気づくことが一つある。それは最高値を出した離山の東と、碓氷峠の標高がちょうど同じくらいで、1200mとなっていることだ。碓氷峠と離山の間は、低い山で囲まれた谷のような地形になっていて、この標高より低いところにある谷部はだいたい青ピンになっているように見える。これから、計測箇所の数を増やしていくと、いろいろ見えてくることあるだろう。


(追記:雲場池の再測定の結果、修正が必要となった。修正後の地図は次の通り。)
修正後の汚染地図
[追記2] 2012年の秋に、軽井沢の土壌の放射能強度の測定を行った。その結果はこちら。

2011年8月17日水曜日

軽井沢の放射能汚染:セシウム汚染測定の旅2(離山)

以前の測定の旅で、離山の西と東で、軽井沢のセシウム汚染の度合いは分かれているのではないか?という仮説を建てた。今回の雲場池の測定で、早くもその仮説は破れそうになっている。というのは、雲場池は離山のすぐ東にあるからだ。(もちろん、雲場池の測定値についてはまだ議論の余地があるので、即断は下せないけれど。)

とにかく離山での測定は欠かせないと思い、登ってみることにした。
離山への道...ではなかった。
涼しげな、まさに軽井沢の風景。気持ちよい。と...やっている場合ではなかった。この段階で道に迷っていたのだった。この道の行き止まりは、金髪の白人女性の別荘。ベランダで本を読んでいた彼女に睨まれて退散する。

15分は損しただろうか?別荘地立ち入り禁止の看板で、気後れしたのがいけなかったのだ。気にせず、別荘地管理棟までいくと「立ち入り禁止:ただし登山者を除く」とある。もっと早く教えてもらいたかった。

イギリスでよく見かけた黄色い花の野草が登山道の脇にたくさんあった。Wood avensにそっくり。
Wood avens (Geum urbanum)にそっくりの野草。

軽井沢はそもそもイギリスに風景や気候が似ているから、ショーが避暑地に選んだ土地だ。だから植生も似ていても全然不思議じゃない。(ちなみに、霧ヶ峰で見る高山植物の大半は、イギリスの野草にそっくり。)

などと、のんびり30分程、よく整備された山道を登っていくと、山頂付近の"Ring path"にたどり着いた。溶岩丘である離山の頂上は比較的平らで、そこをぐるっと山道が取り巻いている。山頂(最高地点)は、どちらかというと、山の西側にあるので、そこに辿り着く前に山の東側で測定する必要がある。離山の西と東、この二つの地点で差が出るかどうかがポイントだ。

まずは、東のポイントで測定する。道をちょっと離れて斜面を駆け上がると、尾根状の地形となっていた。森の中の、この一角で落ち葉の上にガイガーカウンタをおいて測定した。
測定地点1:頂上の東側(下の方に猿の群れがいた)
30秒間隔で測定値が出てくる。0.25, 0.30, 0.51,0.30...高いぞ。緊張が走る。0.39, 0.41, 0.75(!)....ついに、瞬間値の最高値が出てしまった!その後も、高い値が出るわ出るわ。0.2が出ると「落ちた」と思ってしまうほど。測定データをまとめると、生データが0.38μSv/hとなって、軽井沢地域としては、碓氷峠を抜いて最悪の値となった。(碓氷峠は生データが0.26μSv/hだった。)

JB4020はちょっと高めの値が出る癖があるので、補正計算してやれば、だいたい0.31μSv/h程度になりそう。これは関東のホットスポットである松戸や柏よりに匹敵する値、というより下手するとそれよりも、ちょっと高い値だ。離山の頂上近くの東側の汚染は結構ひどいのかもしれない。(下界の測定をする時間が今日は無かったのが残念。離山別荘地には大きな別荘がたくさんある。)

測定中、猿の群れが移動していったが、彼らの食事はひどく汚染されている可能性がある。

気を取り直し、山の西側にある離山の山頂を目指す。標高1255.9m。
離山の頂上(1255.9m)

頂上からの景色は素晴らしい。(が、今日はちょっと水分が多くて、透明度はなかった。)
浅間連峰、佐久山地の山々、荒船妙義の奇岩、旧軽の方面、そして塩沢湖のあたりなど、よく見えた。
離山の頂上から望む浅間山
山頂の測定場所は、三角点近くのベンチ。子供連れの登山客が結構多い。「実はこの山、結構放射能汚染があるんですよ」とは言えなかった。もしかすると、西側は大丈夫かも知れないし。
離山測定地点2:頂上にて
測定を始めると、0.07が出る等、東側の森の中と違って、結構低めの値が出てくる。最高値は0.30。20回の平均を取ると、生データで0.16μSv/hとなった。だいたい0.10μSv/hくらいの補正値になるだろう。信州にしては高い値で、セシウム137で汚染はされているの確か。しかし、外部被曝の観点からすると、関西の自然放射線レベルと大差ない値だ。離山の山頂は、問題ないレベルのようだ。

ちなみに、下山した麓にある、軽井沢東部小学校の裏門で測定してみた。結果は、生データで0.16μSv/hとなり、これは離山山頂(西側)と全く同じレベルだった。この小学校は雲場池まで歩いて5分くらいのところにあるから、離山の東側にある。(この地図を見ると、雲場池が「異常に」低かった、と言えるのかもしれない。)
小学校の裏門から見た離山。左手が西、右手が東となる。
今日の結果をまとめよう。予想通り、離山山頂付近のセシウム汚染は、西側よりも東側の方がひどかった。しかし、雲場池や小学校の値と比べると、まだ一概には離山が「汚染境界」になっているとは断定できない。雲場池の測定は再度試みるべきで、さらに複数の地点で調査する必要があるだろう。離山の測定も、山頂付近だけでなく、異なる標高地点で複数測定すべきだろう。

軽井沢がホットスポットになっている、というより、離山の東斜面(あるいは森の中?)がホットスポットになっている可能性が出て来た。そして、このホットスポットは、関東のホットスポット並みに汚染されている可能性が高い。(0.3μSv/hというのは、日光ともだいたい同じレベルだ。)標高の高いところにある、軽井沢の別荘地はひどく汚染されている可能性があるものの、旧軽銀座や雲場池、更には役場近くのDIYショップなど、標高の低いところは大丈夫ではないか?と今回の測定を終えて感じている。

下山するときも道に迷ってしまい、森の中に入り込んでしまった。斜面の向こうにこちらを伺う気配を感じたので、視線をむけると、カモシカが居た...彼らの食事も汚染されているのだろうか?
離山の頂上付近で見かけた、カモシカ
離山の自然についてまとめたものは、こちら

[追記]2012年の秋に、 軽井沢の土壌の放射能強度を測定した。その結果はこちら