2013年5月27日月曜日

太平洋のマグロのセシウム汚染

英紙The Guadianの1年前の記事に、「California Tuna connoisseurs shy away from Sushi over Japan radiation fears」というのがあった。カリフォルニアの寿司好きの人たちが、福島の原発事故のせいで、太平洋のマグロを敬遠している、という記事だ。この新聞記事で引用されている論文に興味深いことが書いてあった。

それは、アメリカの科学アカデミーの発行する学術誌PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA)に載った論文だ。この学術誌には、以前に名古屋大学を始めとする日本の研究者たちがセシウム汚染分布のシミュレーション結果が載ったこともある。

今回の論文は、アメリカのスタンフォード大学などに所属する海洋学者たちが書いた論文で、"Pacific bluefin tuna transport Fukushima-derived radionuclides from Japan to California"という題が付いている。「福島原発事故に由来する放射能物質で汚染されたクロマグロが、太平洋を横断しカリフォルニアまで回遊していること」についての研究で、今から一年前に発表されている(2012年3月)。
太平洋を西から東へ移動するクロマグロ(Pacific bluefin tuna)の回遊の概念図。
丸いグラフは、放射能汚染が確認された個体におけるセシウム同位体の内訳を示す。
赤がCs-134、黒がCs-137に対応。円の大きさは、セシウムの総量を表す。
矢印は新陳代謝の度合いを示す。(論文の図1Aより引用
福島第一原発から漏れ続けている汚染水によって太平洋が放射能で汚染され、その影響を受けた回遊魚や渡り鳥が、太平洋全域の生態系に放射能汚染を拡散している:そんな危惧を、世界中の人々、特に「対岸」にいるアメリカの海洋科学者たちは強く感じている。この研究グループもそんな研究者の集団であり、広大な海洋領域の放射能汚染の可能性について調査を行った。そして、その結論は「北太平洋のクロマグロは、全域で福島由来の放射能物質で確実に汚染されている」というものだ。

回遊魚や渡り鳥の移動概念図。論文の図1Bより引用
福島第一原発から汚染水を垂れ流しにしてはいけない理由の一つが
ここにある。
「福島由来」と言い切っているのは、セシウム134が検出されたからだ。カリフォルニア海岸の沖合で捕獲した15匹の検体から検出されたセシウム134の平均は約4ベクレル/キロ(誤差の程度は±1.4ベクレル/キロ)。測定器は、ゲルマニウム半導体を用いたγ線検出器だから、この数字は信頼に足る精度を持っている。セシウム137も、当然ながら検出され、その汚染レベルは約6ベクレル/キロだった。つまり、トータルでおおよそ10ベクレル/キロ程度のセシウム汚染が、クロマグロに及んでいることになる。この値は、福島原発の事故が起きる前年の2010年の測定値のおよそ10倍に及ぶという(福島の事故以前のデータがちゃんと取ってあるというのは素晴らしい)。

しかしながら、これらの値は、カリフォルニア海岸の沖合にいたクロマグロに対するものであることを忘れてはならない。つまり、海水の放射能汚染が強い日本列島付近ではもっと魚の汚染は強いはずで、太平洋を横断するにつれ、体外に排出されたり、汚染の少ない食物を食べ始めることで、マグロの汚染が次第に軽減されていく効果を忘れてはならないということだ。放射性崩壊の影響も考慮に入れて、この論文の研究者たちは数値モデルを構築し計算を行ったところ、マグロが日本近海にいた頃の汚染は、カリフォルニアで検出された値の1.5倍から15倍ほど高かっただろうという結果を得た。すなわち、日本近海のクロマグロは、73-140 ベクレル/キロほどの汚染があるということだ。実際、日本政府(農林水産省)の調査結果を見ると、マグロは60-170 ベクレル/キロ程度に汚染されているそうで、ほぼ計算値と一致する。日本の法律では100ベクレル/キロ以上に汚染された食物は口にしてはいけないことになっている。日本近海で取れるマグロはこの禁止レベル程度に汚染されているということを、この論文は示唆している。

この論文の結果は少し前のデータに基づくものだが、農林水産省が発表するデータは、現在も更新され続けていて、とても役立つ情報となっている。それによると、東日本の広い範囲でマダラや川魚などの汚染が顕著になってきているのがわかるし、福島沖の魚は軒並み高い汚染が見つかっている。東京湾に注ぐ川に住むウナギの汚染も最近発覚した。これに加えて、マグロがやられているとなると、日本人(とりわけ東京の人間)の食生活は大きな影響を被るのは必至だ。(食生活を顧みない人はしばらくは影響を受けないかもしれないが、数十年後に健康を害して深く後悔する人も中には出てくるだろう。)

大きな生態系のつながりが海にはあるということを考えれば、東電が外国から訴えられる日が来ても不思議ではない(某関西の中核都市の市長のように)。現代の日本人は国際感覚が麻痺してきていると言われても反論できないだろう。

2013年5月26日日曜日

2013年5月25日土曜日

水星、金星(そして木星)の観測

去り行く木星とすれ違いに、水星と金星が西の空に帰って来た。3つの惑星は接近していて、非常にきれいな夕空となっている。5月27日にはもっとも接近し、きれいな三角形を形作るそうだ。とはいえ、梅雨の気配が濃くなって来たこの頃は、水蒸気が多く、たとえ晴れだとしても視界が悪い。さらに、西の低空にちょっとでも雲がたなびこうものなら、これら宵の明星たちは隠れて見えなくなってしまう。特に水星は観測が困難なことで有名で、天文学者でも肉眼で見たことがない人は大勢いるようだ。

水星は今までに一度しか肉眼観測に成功していない。天候の問題もあるし、金星ほど明るく輝かないので、夕焼けの明るい空で星座の目印無しに探し出すのは結構難しいからだ。これは、パンスターズ彗星がなかなか見つからなかったときと似たような状況かもしれない。とはいえ、パンスターズ彗星に比べれば、現在の水星はずっと明るいので、チャンスは十分ある。

さらに、今なら金星と木星が目印となってくれるため、水星の位置を同定しやすい。水星を観測するなら今が絶好のチャンスだ!

ということで、日没直後の7時から7時半にかけて観測を行ってみた。金星がよく光っているのがすぐにわかる。夕焼けに輝いて、とてもきれいだ。そのちょっと右横に、小さいけれど、しっかりと輝く星を見つけることができた。水星だ!高度も結構高く、パンスターズ彗星を見た時と同じ程度の角度、あるいはそれよりちょっと高いところに光っている。金星の左上には木星が少し離れて輝いているのも、容易に確認できた。そして振り返れば、満月直前の月と、土星、そしてスピカの輝きが見えた。間もなくすると、直立した双子座も見えて来て、素晴らしい景色となった。天頂にはアークトゥルスの赤い輝きもある。今宵の空はほんとうにきれいだったと思う。

望遠レンズを使ったので、木星を同一視野に入れることはできなかったが、初めて水星を撮影することができた。6月に入ると、水星は地球にどんどん接近してくるので、形が三日月状に欠けてくるのが観測できるはずだ。梅雨の晴れ間の、限られたチャンスを使って、なんとか水星の欠けた姿を捉えてみたいものだ。

初めて捉えることができた水星の輝き。

2013年5月21日火曜日

スペインの友人にメールを書く

スペインの友人にメールを久しぶりに書いた。その返事が「I am very glad to hear from you, because I had an impression that you left the field...」だった。ヨーロッパにいないと忘れられてしまうらしい。論文は結構まめに出してるのに...

たしかに、毎日新しい論文をチェックするのは骨が折れる仕事だというのはよくわかる。論文をたくさん書いても、読んでもらえなければ存在感は示せない。やはり、直接会って話したり、食事をしたり、手紙(メール)のやりとりをしたりなど、「普通の」コミュニケーションをしていないと忘れてしまうというのは、(日本にいても)音信不通の知人友人たちの存在感がまったく感じられないのと同じことだ。

ちょくちょくヨーロッパに帰って、あちこちでセミナーでもやらないと、そのうち「死んだのかと思ったよ」などと書かれかねない。

日本はかくも「地球の果て」にあるのかと思い知らされる。

ところで、最近、日本の政治家の多くが、世界中の人たちが眉を潜めるようなひどい歴史認識を持ち、また女性の人権に対して無理解であることがばれてしまったが、これは逆に日本の外の世界があることを、彼らは忘れ去ってしまったのではないだろうか?

ところで、件のスペイン人とは、近々ヨーロッパのとある街で、ひさしぶりに会うことになった。

2013年5月19日日曜日

江戸前のウナギのセシウム汚染

福島の原発が事故を起こして半年も経った頃、東日本、特に関東周辺のセシウムによる大地の汚染が明らかになり出した。柏、取手、三郷周辺や日光や那須、そして赤城、榛名、妙義(さらにはその裏の軽井沢まで)の山々などに、ホットスポットが点在していることが一般の人の努力によって発見され、それを文科省が追認する形で、放射性物質による関東平野とその周辺の山岳地帯の汚染が公式のものとなった。豊かな自然に恵まれたこれらの地域では、美味しい野菜や果樹が穫れ、牧畜や観光も盛んで、「美しい日本」の代名詞のような場所だった。これらの地域が、東京電力がまき散らした「死の灰」によって、一夜にして呪われた場所になったのは、皮肉にも、その豊かな土壌や美しい森が原因だった。セシウムは、粘土や、多孔質の植物表面/内部(稲藁とか、大木の表面など)に吸着しやすいからだ。雨水などで洗い流されることは少なく、豪雨や大規模な土砂災害がない限り、降り積もった場所を100年の単位で汚染し続けることになった。

関東平野の都市部にも放射性物質は大量に降った。東京中心部も例外ではない。自分の国の首都を、日本人(東電と政府の関係者というべきか)は自らの手で放射能物質により汚染し、死の灰にまみれさせた。これは世界に恥ずべきことだろう。(今後、日本が掲げて来た「技術立国」の肩書きは、世界の人々から嘲笑をもって、ジョークの種にされるだろう。)

関東の自然豊かな山林や農地と異なり、東京の中心部などの首都圏の都市部に降り積もった大量の放射性セシウムは、沈着する量は少なく、アスファルトやコンクリートの上を雨水などによって流れていく。そのため、「天然の除染となるだろう」と科学者たちは予想した。それを聞いた一般の人(つまり科学者ではない人たち)は安堵した。「東京は大丈夫なんだ」と。しかし、流れていったセシウムは、川が流れていく先のどこかに「移動するだけ」であって、消滅するわけではない。物理でいう、質量保存の法則、あるいは粒子数保存の法則だ。東京湾が、東京を含む首都圏の都市部に降り積もった莫大な「死の灰」を引き受ける「最終の地」であることは、科学者でない人たちにだって、よく考えれば明らかなことだったはずだ。

原発が爆発した直後、京都大学のある研究グループがシミュレーションを行った。首都圏の放射性セシウムがコンクリートの上を流れて、どのように下水から河川に侵入し、それがどんな具合に一級河川に集合し、そして、どの程度の時間で最後は東京湾に注ぎ込まれ堆積していくか予測を行った。その結果は、NHKの番組で報道された。東京湾が最大限に汚染されるのは2014年の春頃から、という結果だった。
NHKスペシャル「知られざる放射能汚染:海からの緊急報告」より。
(2012年1月15日放映)
京都大学のグループによる東京湾のセシウム汚染のシミュレーション結果
あれから一年ほど経過したが、東京湾の汚染に関する報道はほとんど無くなってしまった。浅草海苔、あさり、穴子、ウナギなど江戸前の魚介類にはおいしいものが多い。だからこそ、影響を考慮して(影響といっても食べる人の健康への影響ではなく、売る人のお財布への影響だが)報道を「控え」たか?などと思っていた。

そこへ先日、江戸川で捕獲したウナギが150 Bq/kgほどの放射性セシウムに汚染されているという報道が突然現れた。ついにきたか、と思ったが、実は研究者による調査結果はもっと前に判明していたのに、その通報を半年近く行政は無視/放置していたらしいことも伝えられた。やはり、隠していたのだ。ここにきて、良心の呵責に耐えきれず行政内部の誰かが情報をリークしたか、それとも「おかしい」と思った研究者がしびれを切らして報道関係に直接データを持ち込んだか、そんなところだろう。

今回の調査では、調べたのがたまたま鰻だったというだけで、東京湾全域が放射性セシウムで汚染されたとみるべきだろう。アサリなどの貝類、穴子、鰻などの魚、そして海苔などの海草類、すべての江戸前の魚介類の汚染調査を緊急に行う必要があろう。そして、調査が確定するまでは、これらの食品を口にするのは避けておくのがいいだろう。もちろん、食べたい人は「自己責任」で食べてもいいし、年齢の高い人たちは「影響が低いだろう」から気にしなくてもいいのかもしれない。しかし、疑いのある状況では、まずは「やめておく」というのが、「健康の観点」からは必要だと思う(経済の観点からではないことに注意)。

確かなことは、原発というのは、かくも経済的にも健康にも割にあわないものだ、ということだ。このことを、骨身に沁みて「日本人」は噛み締める必要がある。

5月17日の朝日新聞の報道から。

2013年5月18日土曜日

ボロボロの「もんじゅ」と活断層真上の敦賀原発:ついに廃炉か

北陸の海は青く、澄んでいて、とても美しい。福井周辺の海もその中に含まれる。本当にきれいだと思う。
美浜の水晶浜。この美しい海の広がる浜の後ろ側には、
信じられないことだが、美浜原発がある。
FukuiShell.exblog.jpより。
福井に住む人、そしてその近隣に住む人は、この海の美しさがずば抜けていることを知っているはずだ。沖縄や小笠原にも匹敵するような青さに、身も心も透明になるような気持ちを感じている人は多いはずだ。この海の美しさは世界的にも稀有なものであり、この美しさを今の今まで維持できたのは奇跡に近いことだと思う。どんな宝石よりも、素晴らしく美しい日本の本来の自然がここにはある。世界の宝だといってもいいだろう。

信じられないことに、この海には原子力発電所が何台も何台も建設され、稼働している。そして、その排水は海を放射能物質(トリチウムほか)で汚染し、温水をまき散らして環境を破壊してきた。この素晴らしい風景に、どうして原発の灰色の建物を置けるのか?芸術を解し、教養と知性のある人間だったら、到底そんなことはできないはずだ。
水晶浜と美浜原発の位置関係(google mapより)
写真を撮る時、南側に向いて撮るわけだ。
もんじゅの点検がずさんでボロボロだったことが指摘され、さらに敦賀原発の直下には活断層があることが認定され、福井にあるこの2つの原発は廃炉の可能性が一段と高まった。廃炉になるまでは油断してはいけないと思うが、ひとまずは、活断層の専門家である原子力規制委員会の島崎委員に拍手を送りたい。

福島の海も、福井の海に劣らず素晴らしかったことを知っている。しかし、その海は放射能で汚染され続け、魚や海辺の動植物は多大な影響を被っている。福井の原発銀座が爆発すれば、世界の至宝であるべきこの素晴らしい海も、一夜のうちに福島の海のようになってしまうだろう。人間は「神」ではないから必ずミスを犯す。完全なシステムを人間は作り出すことはできないし、不完全なモノを使い続ければ、それいつかは必ずは壊れる。壊れたときに永遠に失われるものを考慮すれば、壊れる前にその使用をやめるというのが賢明というものだ。

2013年5月17日金曜日

黒点が多い

5月16日、午後に雷雨が予報されていたので、太陽が出ているうちに黒点の観測を行う。

黒点の数が多い。今年で一番ではないだろうか?大きいのも、小さいのもまんべんなく、表面に散らばっている。

左上に、小さい黒点が4、5個固まって集まっている場所があるが、ここから巨大なフレアが吹き出したという報道があった。今年は太陽活動がピークになるはずの年だが、いままでずっと低調で、「異様だ」と思われて来た。これがきっかけとなって、活発な状態にやっと戻るのだろうか?

2013年5月8日水曜日

だまされた:朝日新聞の「ベテルギウスに爆発の兆候」の記事

星ナビ2月号に「ベテルギウスの超新星爆発」という記事があった。この雑誌を買った当初は「ああ、朝日新聞が報じたあれか」程度の認識しかなかったので、同じ内容を繰り返し読むのは時間の無駄と、高をくくって読まなかった。

新しい年度が始まり、講義のネタにと思い、本棚からこの雑誌を引っ張り出して、よく読んでみて驚いた。記事の執筆者は九州大学の有名な天文学者、山岡均さんだった。この記事は朝日新聞の報道の2番煎じどころではなく、その報道がガセネタであることを指摘していたのだった!

朝日新聞の記事を読んだ時、「生きているうちにベテルギウスが超新星爆発を起こすかも」と淡い期待をもっただだけに、素人の科学記者がでっち上げた話としってがっくり。もしベテルギウスが爆発すれば、1年程はまばゆいほどに輝くはずで、壮大な天文ショーとなる。しかし、2年もすれば次第に暗闇へと消えていく。何千年も人間の歴史に刻まれて来た「オリオン座が永遠に終焉」する、と考えたら、人類の歴史の一ページがめくられる音が聞こえるようで感銘深い気持ちになった。

それがすべて、素人の独断記事だったとは!NASAやESAが記録した、それらしい観測データをペタペタと張り合わせて、最後の結論だけは(科学に素人の)記者のものだったらしい。こういうのが本当に困る。まるで、発音がめちゃくちゃな外来語のようだ。

英語版のwikipediaには、この類いの「ガセネタ」にだまされないように、という説明文が載っている。日本語版には無いので、訳してみよう。


Due to misunderstandings caused by the 2009 publication of the star's 15% contraction,[46][75] Betelgeuse has frequently been the subject of scare stories and rumors suggesting that it will explode within a year, leading to exaggerated claims about the consequences of such an event.[119][120] The timing and prevalence of these rumors have been linked to broader misconceptions of astronomy, particularly to doomsday predictions relating to the Mayan calendar.[121][122] In their 2012 study, physicists at the Space Sciences Laboratory point out that the apparent contraction in the star's diameter may be due to the complex dynamics in the star's surrounding nebula and not the star itself,[48] reconfirming that until we better understand the nature of mass loss, predicting the timing of a supernova will remain a challenge.
2009年に発表された「ベテルギウスの大きさが15%縮小」という記事の内容を誤解した人たちにより、「ベテルギウスは1年以内に爆発するだろう」などという噂が広まった。(その可能性がゼロという訳ではないけれど)これは「15%の縮小」という観測結果を、科学的に正しく受け取っていない大げさな解釈だ。この噂が広まった背景には、天文学に対する一般大衆の誤った認識があり、特に、マヤ文明の暦が予言する「滅亡の日」なるものが影響している。2012年に、物理学者や宇宙科学の専門家は、ベテルギウスの見かけの半径が15%縮小したという現象は、この星を取り巻く星雲がもたらした複雑な力学によって生じたものであり、ベテルギウス自身の構造変化ではないと指摘した。そして赤色巨星(ベテルギウスのようなタイプの恒星のこと)に見られる質量損失のメカニズムをもっとよく理解するまでは、超新星爆発がいつ起きるか予言することはなかなか難しいのだ、という従来の立場を再確認(するよう一般大衆に促)した。

ちょっと訳しすぎのところもあるが、だいたいこんな感じの内容だ。 つまり、ベテルギウスだろうが、リゲルだろうが、アルデバランだろうが、アンタレスだろうが、アークトゥルスだろうが状況は同じで、夜空の星がいつ爆発するかなんて、現代の人間にはまだ予言できないのだ。(あー。ちょっと安心した。)

2013年5月7日火曜日

久しぶりの野鳥観察

野鳥の観察を久しぶりにやった。きっかけは啄木鳥。やっぱりあの「コツコツ」という音が響くと、春の到来を感じる。思わず望遠レンズを音の方角に向けてしまった。コゲラの雌が写っていた。(赤い色は雄の模様らしい。)
コゲラの雌
別の日、今度は見たことの無いフィンチ系の鳥が庭木の枝に止まっていたので、シャッターを切ってみた。調べてみるとシメという鳥だった(英国ではHawfinchというらしい)。のど元の黒い模様が特徴的だ。
シメ
信州は野鳥の種類も豊富なので、バードウォッチングに凝り始めると、かなりハマってしまうだろう。鶴はこないけれど...

そういえば、先日NHKでヤツガシラの番組をみて感動したが、ヤツガシラも時々信州に迷い込むことがある。家にこないかな。


2013年5月6日月曜日

富士見町から清里へ

富士見町からは富士山がよく見える。信州で、もっとも富士山に馴染みをもっている場所だろう。いつもよく使う道(鉢巻道路)は森の中にあるのでよく見えないが、ある区間だけ真正面に大きな富士がそびえ立つのがよく見える場所がある。いつも撮ろう撮ろうと思っていて忘れてしまうのだが、今日はなんとかギリギリで間に合わせることができた。

富士見町の富士
八ヶ岳の裾野の向こうに、釜無川や富士川が流れる甲府盆地があるため、うまい具合に信州からでも富士が見えるのだ。実はこの低地はフォッサマグナの西縁にある、(有名な)糸静線という大きな断層に対応している。つまり、富士見町から富士山が見えるのは偶然ではないということだ。そして富士と八ヶ岳(そして浅間)が一列に並んでいるのも、おそらくは偶然ではないのだろう。

この道は小淵沢で八ヶ岳高原道路に突き当たる。そこから清里まで回り込み、野辺山経由で佐久甲州街道を北上して信州に戻るのがいつものルート。清里や小淵沢は甲州、つまり山梨県にある「お隣さん」だ。山梨に出ると、富士山は圧倒的に見やすくなるし、迫力も増す。
甲斐大泉あたりから見た富士山。
静岡で見る富士と違って、裾野が見えないのが甲州からみた富士の特徴だろう。遮るのは御坂山地だ。そこから眺める富士はきっと絶景に違いない。

清里の天女山入り口の近くに、(俳優の)柳生さんが経営する有名なレストランがある。
息子さんは有名なガーデナーで、このレストランにも大きな庭(というより森)があって、散策することができる。今はカタクリが満開の状態。ここのレストランのパンはちょっと柔らかめなので残念なのだが、パスタやハンバーグなどはとても美味しい。今回はアラビアータと花豆のスープを注文した。アラビアータはちょっと辛めだったので、ボロネーゼにしてもよかったかもと多少後悔したけれど、スープもアラビアータも素晴らしかった!いつもこのレストランに来ると、柳生さん自身がテーブルに陣取ってたくさんの人と会食している。この日もそうで、親戚の人たちが大勢集まって、レストランの真ん中の大きなテーブルを囲んで、長い食事を楽しんでいた。犬と一緒にレストランに入れるので、この場所にも店の人たちにもとても好感がもてる。

2013年5月5日日曜日

連休の天体観測2013:大きめの黒点のその後

連休も後半に入った。5月1日に現れた大きめの黒点がその後どうなったか、確認してみた。
大きめの黒点
夕方や朝方など、光が弱い時間帯なら肉眼で見えるかもしれない、と言っている人もいるようだが、そのタイプの観測はちょっと遠慮しておこう。ガリレオが晩年に失明してしまったのは、肉眼で太陽を見過ぎたからという噂があるので...(投影板による観測を発明する前は、肉眼で見ていた可能性はあると思う。)

黒点の中心部の濃い部分と、その周辺部の色が薄い部分とに領域が分かれているのがわかる。なぜこのようになるのかは、まだ解明されてないそうだ。

2013年5月4日土曜日

久しぶりの高峰

高峰に久しぶりに登った。大部融けたけれど、先日の雪がまだ深く積もっている場所があちこちに残っていて、雪に足を滑らせながら尾根道を歩くことになった。天気は上々で、5月の初めの青い空がきれいだった。とはいえ、空気は冷たくて、さながら冬の山を歩いているのではと錯覚する場面もあった。

雲に隠れ気味ではあったが、富士が甲武信の向こうに見えた。富士の高嶺に雪は降りつつ...といった感じの真っ白な嶺だった。
富士、甲武信、そして茂来山(車坂峠より)
高峰から望んだ、富士山の拡大図
八ヶ岳、そして木曽駒の中央アルプスはよく見えた。八ヶ岳の裏に南アルプスが隠れているのが見えた。赤石岳、それとも甲斐駒?そして佐久平が広がっていた。この地に放射能を帯びた焼却灰を、関東やらあちこちから持ち込むなんぞ愚の骨頂だと誰も思わないのだろうか?
八ヶ岳、蓼科、そして佐久平。
写真中の矢印は、放射能を帯びた焼却灰の最終処分場がある場所。
高峰高原は、高崎や前橋などから見て、浅間山の「裏手」にあたるため、セシウムによる汚染は低いと思われる。DoseRAE2を用いた簡易測定を今回やってみたが、0.05μSv/hから0.10μSv/hの間の数値を示した。低めの値が出る場所は、浅間山の影になっている場所で、東側の遠景が望めない場所。一方、高めの値が出る場所は、浅間山の影から南側に少し抜け出ている場所で、軽井沢や御代田が見える場所。今回は雪が深く、高峰山自体にいくことはできなかったが、途中までの尾根線で調査することができた。車坂峠付近の高峰高原全体の平均値は、だいたい0.07μSv/h程度だった。

高峰高原ホテルの裏手にある山の山頂にて。
0.05μSv/hだから、かなり低い。
高峰高原ホテルのスカイレストランで昼食をとった。ビーフカレーを頼む。辛めの味付けだが、とてもおいしい。ハンバーグや信州牛のステーキなんかもおいしそう。なによりも、ここの丸パンは絶品だ。お土産用に包んでもくれたので、たくさん買い込んでしまった。クロワッサンを家に戻ってからカマンベールと一緒に食べたが、やっぱりおいしかった!

そういえば、久しぶりにここの温泉にも浸かった。ナトリウム塩化物系の成分で、肩こりや筋肉痛に効く。実際、首周りが随分軽くなった。貸し切り状態で、一人で広い湯船と、佐久平と信州の山々の絶景を楽しむという贅沢を味わうことができた。

2013年5月3日金曜日

連休の天体観測2013:パンスターズ彗星

最後にパンスターズ彗星を観測したのは3月末だから、まだひと月ちょっとしか経っていないというのは、ちょっと信じられない気持ちもするが、季節は冬から春へ移り(まだ寒い日はあるけれど...)、パンスターズ彗星も夕暮れの西の空から、夜の北天へ移動した。夜半過ぎにカシオペアの近くでよく見えるらしいが、真夜中の観測は苦手なので、夜9時頃にちょっと無理をして、浅間山の上に見え隠れするカシオペアの位置をなんとか割り出して、5月のパンスターズ彗星を狙ってみることにした。

「W」の右側の「V」の少し上のあたりにいるらしいので、その辺りをスキャンしながら撮影を繰り返していくと、あっさり見つかった。やはり星座があると位置は決めやすいのだと実感した。夜中だから撮影しやすいと思ったら、かなり光度が落ちているのと、高度が低く街の明かりが邪魔して、なかなか撮影は難しかった。太陽の近くで輝いている方がずっと撮影は簡単だったと思う。今日は、CD1を使って30秒程度の露出で撮影を繰り返し、gimpでコンポジットする方法を試してみることにした。iso3200で20秒露出した6枚を合成したのが次の写真。
5月の連休のパンスターズ彗星
尾が広がっているのが辛うじてわかる。しかし、せっかくCD-1を使っているのだから、もっとクッキリと尾を写したいものだ。

2013年5月2日木曜日

軽井沢の春

軽井沢だけ曇っている。小諸も御代田も佐久も暑いくらいに晴れているのに...でも、軽井沢の桜はいまちょうど良い。ソメイヨシノとかじゃなくて、山桜の方だが。
軽井沢の山桜。控えめなのがいい。
昨年、土壌の放射能調査をやった場所で、線量を再測した。地表面で0.2μSv/hだった尾根部分の線量は0.14μSv/hにまで落ちた。田崎さんの公式によれば、セシウム134の半減期である2年が過ぎる頃になると、事故直後に比べて線量は62%程度に減少するはず。(前回の測定は事故直後ではないので、この値よりは減少率は弱い。)今回の測定結果は70%の減少を示しているから、ほぼ理論通りだ。つまり、セシウム134のβ崩壊により、線量は理論通りに減ってきているということだ。

また、5174Bq/kgの放射能を示した土壌採集地点は0.22-0.25μSv/hという結果になった。この場所は0.35μSv/hを示していたから、63%程度の減少となった。しかし、前回は狭い地点だけが高い線量を示していたのに対し、今回は広い場所に渡って0.2μSv/h以上の値が記録された。風雨による拡散の効果だろうか?

この場所は標高1000mよりも高い場所にある。街中を車で走りながらDoseRAE2で測定すると、0.06μSv/hなど結構低い値が出ていたので、もしかすると標高の低い場所では線量がもっと弱いのではないかと思い、山を下りて測定してみた。

まずは、川の畔で測ると、地表面の値で0.14μSv/hとなった。次に、向いの山の中腹まで登り、その斜面で測った。ここは0.09μSv/hだった。この斜面は、よく考えると西向きの斜面だ。そして、地表面の線量や土壌の放射能が高く出たのは東斜面だ。プルームは群馬の方から、峠を越えてやってきたから、軽井沢の山の標高1000m程度の場所の東側斜面がもっとも汚染されている、という推測はもっともらしく聞こえる。この仮説を確かめるべく、今年は軽井沢の調査を少し詳しくやってみようと思った。

ちなみに、最初のポイントにはミツバツツジが、そして2つ目のポイントにはタチツボスミレが、きれいに咲いていた。軽井沢はもともときれいな場所なのだ!この地を汚染した連中だって、ここに別荘持ってるはずなのに...
左:川沿いに咲いていたミツバツツジ。今、軽井沢で一番きれいな花。
右:タチツボスミレ。本来は春の初めの草花。
それにしても、今日の軽井沢は寒い。日中でも、DoseRAE2の温度計を見ると、9度だった。


2013年5月1日水曜日

太陽の黒点の移動

昨日は雨だったので観測できなかったが、今日はよく晴れたので黒点の観測を行った。4/28、29、そして5/1と3日分のデータが手に入った。これを重ねて見ると、太陽の自転の様子が見えてくる。

前回と比べ、今日の太陽には大きめの黒点が現れていた。そこで、5/1を基準に画像データを重ねることにした。4月のデータは、gimpで輪郭抽出、しきい値のアルゴリズムを使って、黒点の主要部分を浮き上がらせる。これを5/1の生データに重ねる。すると、次のような画像が得られた。
左側に、本日現れた大きめの黒点のペアが目立つ。が、太陽の自転を調べるには、3日前から見えていた黒点が役に立つ。3日分のデータを重ねて見ると、明瞭な「線」が現れる。この線と水平線の成す角度は、分析してみると約22.26度だった。国立天文台の太陽の自転軸の傾き角度のデータを見ると24.11度となっていたから、まずまずの測定精度だ。

明日もきっと晴れるだろうから、大型の黒点の行く末を是非見極めたいものだ。