2015年3月16日月曜日

「原発標語の作者本人が原発PR看板撤去に反対」というニュース

先日の私のブログで取り上げた「原発PR看板の撤去」という東京新聞の記事だが、その後に動きがあった。

朝日新聞の記事によると、「原子力明るい未来のエネルギー」という標語を(たぶん子供の頃に)提案した作者本人が、その標語を使った原発PR看板の撤去に反対している、という。私と同じ意見の人がいたんだ、と嬉しく思った。しかも、作者本人だ。

原発を未来のエネルギーだと聞かされた少年時代、その標語をあっさりと裏切った原発事故、放射能汚染や避難生活に苦しむ福島県民を助けず、窮状の訴えに耳を傾けない東京電力、汚染水は完全にブロックされているとしらを切る政府....何度も何度も騙されて、本当に悔しい気持ちだと思う。

そして、今度は都合の悪い看板をそおっと外して、自分たちのミスを隠そうとする態度。その反省のない態度に、ついに堪忍袋の緒が切れたのだと察する。署名活動を展開するそうだから、ぜひ協力して行きたいと思う。あの看板は世界遺産になりうる!絶対に!

追記:作者本人による、撤去反対に関するページ

2015年3月13日金曜日

PX-M650Fを購入した:これからの機器はWiFi接続

今までレーザープリンターしか持ってなかったのだが、EPSONのカラーインクジェットプリンターPX-M650Fを購入した。

価格は2万円を切っていて、今年度の予算枠にぴったりと収めることができた。このプリンターはWiFiでローカルネットワークに接続されるので、置く場所を選ばない。また、Fax,コピー/スキャン機能なども兼ね備えていて、10年前のプリンターと比較すると隔世の感がある。
EPSON PX-M650F(エプソンのホームページから引用)
これでデジカメをWiFi化することができれば、データの管理/ハードコピーが自宅のベランダからでもできるようになる!狙いはCanon EOS M2だが、まだちょっと値段が張るので、購入は来年以降かも。でも、SDカードの差し替えなしで、データの転送やプリントアウトできるのは便利!
Canon EOS M2 (キャノンのホームページからの引用)
そういえば、ちょっと前にubiquitousという概念が流行ったが、このようなWiFi接続の機器が増えてくれば、ubiquitousという概念は自然と生活の中に入り込んでくるだろう。

東京新聞3/11の記事より:「封じられる言葉」

「太平洋戦争の反省」とかいって、「あのときどうして戦争を止められなかったのか?」とか、「戦争に反対すればよかった」とか、そういう言葉をよく聞くし、いままでも度々聞いてきた。「戦争の反省を未来につなげる」とかそういう話しもよく聞く。

しかし、現代の日本において(とりわけ福島を中心とする)、この反省は虚しい「建前」にすぎないと心の底より感じた。つまり、今、「戦争をやろう」という話しになれば、ほとんどの日本人は大正や昭和初期の日本人同様に、戦争を止める事はできないだろうということだ。こんな風に感じたのは、東京新聞の記事「こちら特報部(東日本大震災4年特集)」を読んだからだ。

3月11日の記事に、「放射線の影響話しづらい」という見出しの記事があった。一部抜粋してみよう。

「友だち同士でご飯を食べに行っても、放射線のことなんか話題にできない。『これの産地はどこ?』と聞いただけで白い目で見られてしまう」...途中略
「『放射線が心配』という話題を出すと、避難がどうのという話になる。自主的に避難した人は裕福で、かつ故郷を見捨てたと見られがち。ねたみや疎外感を感じる中で、放射線を話題にするのはつらい」
息子が通う保育園では除染していない道路を散歩したり、福島県産の米を給食に使っている。ただ、いじめを懸念して声を上げられずにいる。「弁当を持たせたりすると、自分の息子だけが浮く。何をどこまで訴えたらいいのか...」  
放射線の影響を怖がる人は、自分の意見や主張を貫けず、全体に迎合してしまう。また反対に、放射線の影響を気にしない人は、意見の違いを尊重できず、「仲間はずれ」を徹底的に叩く。これは、かつて「非国民」というキーワードによって、日本国民を全体主義に引きずり込んだ、先の戦争時の状況と瓜二つではないか?

欧米で成熟している「市民」とか「民主主義」という概念が日本人の心のなかにはまだまだ染み渡っていない。江戸時代かそこらの古い封建主義、全体主義や連帯責任なんていう、徳川が編出した古臭いが極めて効果的な支配法にいまだに洗脳されている感じがする。

一方で、ヨウ素131による甲状腺癌の問題に関しても、事実を隠蔽、矮小化しようとするやり方が目立ってきている。戦時中、米軍にこっぴどくやられた日本軍の惨敗ニュースを隠すため、都合のよい新しい言葉を生み出しては(例えば「敗北、退却」を「転進」と言い換えたように)国民の目を欺いた。東京新聞によれば、30万人が癌の検査を行い、109人が癌あるいはその疑いが強いと診断された。子供の甲状腺癌の発症率は2011年以前には「100万人に数人」と言われていたが、2011-2014年の福島県の検査データをまとめれば、「100万人中363人」という結果となった。これは通説の40倍近くの発症率ということになる。通常の科学者ならば、これは「有意な値で、放射線の影響を福島の子供たちは確実に被っている」と結論しなくてはならない。ところが、検査を実施した福島県立医科大学は、いまだに「原発事故とは無関係」と言い切っている。

たしかに、チェルノブイリの原発事故では、甲状腺癌が激増したのは事故から5年後だった。しかし、それは網羅的に検査した結果ではなく、5年目くらいから「あれ、なんかおかしい」と気付き始めた患者が増え始めたということだ。精密検査でみつかる癌は、自覚症状がない場合が多いだろうから、もし福島と同じように早期から精密検査を行っていれば、チェルノブイリのケースだって5年よりも前に子供たちの甲状腺の異常が見つかっていた可能性は高い。

事故から4年が過ぎたが、甲状腺癌との闘いに関してはこれからが本番だ。しかし、関係者の中には、逆に、もう闘いは終わりつつあるかのような態度で事態に対処している人もいるらしい。なんでも、この大事な時期に、検査の対象地域や年齢層を減らそうとすらしているそうだ。「あんまり一生懸命調べたら、たくさん癌患者が見つかってしまって困る」と言っているように聞こえる。

2015年3月12日木曜日

3/11の東京新聞の広告欄にあった本

引き裂かれた「絆」―がれきトリック、環境省との攻防1000日(青木泰著、鹿砦社)

水圏の放射能汚染―福島の水産業復興を目指して(黒倉寿著、恒星社厚生閣)

2015年3月11日水曜日

「原子力明るい未来のエネルギー」が撤去される件

東京新聞の記事で知った。ここは、4年前、満開の桜に看取られて一匹の犬が死んだ場所だ。「原発とはなにか」を理解するためには、この光景はぜったいに忘れてはならない。その意味では、この朽ちた看板は未来永劫このまま朽ちたままにしておかねばならないと思う。願わくば、ここで死んだ犬の像も桜の木の下に建ててもらいたい(本郷なんぞにハチ公の銅像作っている場合じゃない!)。

4年経ったが、手賀沼の上流ではまだ...

セシウム134の、特に606keVのピークが小さくなってきている。きっと今年中にバックグランドに消えて行って見えなくなる地点が続出するだろう。しかし、東京を中心とする関東地方の多くでは、セシウム137のピークと、セシウム134の796keVのピークは依然としてそびえ立っており、まだ数年は土壌汚染の調査は可能だろうと思う。それほど、関東平野の放射能汚染は強かったのだろう。

今日の東京新聞に、手賀沼の上流の土壌汚染の結果が報告されていた。私も手賀沼では2年ほど前に調査していて、だいたい結果は一致している。昨年の3月に測定した結果は、4500Bq/kgだった。採取地点は手賀沼の西岸脇の湿地(東京新聞は川底の土を測定し、1000強の結果が出ている)で、近くの湖岸でフナ釣りに興じる人が数人いたのを覚えている。
Mar. 25, 2014に測定した手賀沼付近の土壌
柏にある(株)ベクミルで聞いた話だと、柏市内を流れる川にはかなりの高線量地帯があって、それが洪水の度に移動するのだという。本日の東京新聞にも、手賀沼に流れ込む大堀川の上流にある防災調節池の土手で、10,000 Bq/kg近くの放射能をもった土がある場所があり、その付近ではいまだに線量が0.5-0.6μSv/hもあるそうだ!信じられない。

2015年3月9日月曜日

Pb-214とBi-214 (III): 広島の場合

広島市の公園で採取した土壌のガンマ線スペクトルを見てみると、次のようになった。
放射能レベルは96Bq/kgだから、およそ100Bq/kg。これはちょっとした「セシウム汚染」地域と同じ程度の値に見える。しかし、スペクトルをよくみると、Cs-137の662keVのピークは影も形もないし、Cs-134の796keVも同様だ。見えるのはBi-214(609keV)とCs-134(606keV)が混ざりあう辺りのピークが一つ、Pb-214の352keV、それにK-40の1460keVだ。つまり、これらの事実から演繹される結論から言うと、「この土はセシウムを含んでいない」ということになる。

広島の土壌が96keVもあると「誤判定」された原因は明らかにBi-214だ。Pb-214のピークの高さから推測するに相当量のBi-214が含まれていると思われる。その寄与をさっ引けば、Cs-134の606keVのピークは存在していないと思う。

広島市は、昨年大規模な土砂災害の被害を受けた。大雨が降ると、花崗岩が風化してできたあの赤い土は保水できず崩れてしまうかららしい。古い地塊が広がる西日本の岩盤は花崗岩でできているところが多く、天然の放射性鉱物を多く含む。U-238系列であるBi-214やPb-214のピークが強く観測されるのは、このせいだろう。

とすれば、セシウム汚染がない状態で、広島地域のBi-214の放射能レベルは常時100Bq/kg程度はあるということだ。外部被曝だけを気にするならば、この程度の放射線を浴び続けても大きな問題はないということなのかもしれない。

2015年3月8日日曜日

鉛214とビスマス214 (II)

Cs-134の606keVのガンマ線と、Bi-214の609keVが重なってしまったと思われるケースをみてみよう。長野県の野辺山(南牧村)で採取した土壌のスペクトルが下図に示す。
野辺山のスペクトル
Cs-137の662keVのピーク、およびCs-134の796keVのピークがわずかに確認できるから、福島原発から放射能プルームが野辺山にも来たことは間違いない。しかし、算出された放射能レベルは65Bq/kgとなっているし、スペクトル中のピークの高さも低いから、その汚染度合いはかなり低いとみてよいだろう。注目すべきは、Cs-134の606keVとBi-214の690keVが重なっていると思われるピークだ。このピークの高さはCs-137の662keVのピークよりも高くなっている。もし、このピークが606keVのCs-134のみの寄与によるものだとすると、このピークの上下関係が説明できない。福島原発では、Cs-134とCs-137の比率は1:1であり、事故から4年経った現在、半減期2年のCs-134は事故直後の25%にまで減衰しているはずだからだ。つまり、606keVのピークは、662keVのピークよりも低くなっているべきだ(理論的には1/4程度に)。これは、Cs-134とBi-214のピークが混合しているから、と解釈すべきだろう。LB2045のROIは、この混合ピークを含んでいるので、算出された65Bq/kgはoverestimateのはずで、Bi-214のピークの高さから推測するに、このスペクトルの放射性セシウムの放射能への寄与は、だいたい10Bq/kgから20Bq/kg程度だろうと思われる。

この図を見ると、352keVのところに綺麗なピークが一つ見える。鉛214(Pb-214)の出すガンマ線が作るピークだ。

Bi-214とPb-214は共にウラン238(U-238)の崩壊系列に属する。つまり、半減期45億年(アルファ崩壊)のU-238を出発点として生成される崩壊生成物(放射性)の系列ということだ。U-238はα崩壊するとトリウム234(Th-234)になる。これがさらに崩壊を繰り返し、つまりアルファ崩壊やベータ崩壊などの核反応が連続して生じると、ラジウム226(Ra-226)にたどり着く。

Ra-226は半減期1600年で、天然鉱物や温泉などに含まれていたりするのを知っている人は多いだろう。ラジウム226がアルファ崩壊してできるのがラドン222(Rn-222)だ。Rn-222は半減期が4日弱と崩壊までの期間が短い上、常温で気体となる性質がある。つまり、岩石や温泉中に含まれる微量の(ウラン系列の)放射性物質はラドンにたどり着いたところで、空気中に浮上していくのだ。空気中のラドンは降水のタイミングで地表に帰ってくる。ラドン(Rn-222)はアルファ崩壊して、ポロニウム218(Po-218)になる。

Po-218は半減期3分でα崩壊し、Pb-214となる。Pb-214はベータ崩壊と電磁崩壊(つまりガンマ線を放出する)を起こして、Bi-214となる。Pb-214もBi-214も半減期が30分程度だ。つまり、Pb-214とBi-214から放出されるガンマ線はペアで出てくることが多いと考えてよいだろう。実際、セシウム汚染がない地域のスペクトルをみると、Pb-214とBi-214のピーク高は同じ程度だ。だとすると、上図のスペクトルに見られる野辺山の場合、Pb-214のピークの高さを考えれば、606/609の混合ピークのほとんどはBi-214だとみてよいだろう。したがって、先に述べたように、実際の放射能レベルは10-20Bq/kgではないかと推測したというわけだ。

(つづく)

鉛-214とビスマス-214(I):エネルギーの近いガンマ線の測定

不勉強のせいで今まであまり気にして来なかったガンマ線がある。鉛214(Pb-214)の352keVのガンマ線だ。事故直後に検出されるヨウ素131(I-131)の364.5keVのピークと混じることで知られているそうだ。最近、三重大学の奥村晴彦教授のホームページを読んでこのことを知った。

I-131が消え去ってからこの調査を始めた私は、セシウムばかりを気にしていて、Pb-214はぜんぜん注目して来なかった。しかし、放射性セシウムの汚染限界について調べ始めると、Pb-214が大事になってくることがわかった。それは、ビスマス214(Bi-214)の609keVのガンマ線が、Cs-134の606keVのガンマ線と、NaI型のスペクトロメータでは、混じってしまうことに原因がある。

エネルギー分解の高い、高性能のスペクトロメータ(例えばゲルマニウムを利用したもの)で、たとえば662keVのガンマ線を測定すると、ちゃんと「662keV」という値を返してくる。「あたりまえのことだ」と思った人は、実験家としては落第だ。

機械、特に測定器というのは、人間が作ったものである以上、理論通りの値を返すことはそうはない。期待される値、あるいは理論値からのズレが測定したときに小さくなるものほど「高性能」「高精度」の機械ということになる。スペクトロメータははガンマ線のエネルギーを測る機械なので、その測定のズレは「エネルギー分解能」という言葉で表現される。つまり、ズレが小さいものほど「高分解能」を持つと言われる。

NaI型のスペクトロメータは、ズレが大きいので、662keVのガンマ線を測っても、測定値として「664keV」を返したり、「658keV」という値を返したりと、662keVの値(真の値)の周りに揺らいでしまう。

「真の値」の周りに揺らぎをもって測定値を返す機械は、何度も何度も測定を繰り返して平均値を計算し、それをもって「測定値」とすれば、より信頼度の高い測定器となりうる。先日の「長時間測定」で米のセシウム汚染は調査するべき、というのは、まさにこのことだ。揺らぎのある場合、その測定値をヒストグラムにまとめると、ガウシアンと呼ばれる釣り鐘をひっくり返しにしたような形になる。ガウシアンの幅が狭いものほど、分解能が高い、つまり高精度の測定器とみなせる。(ガウシアンがピークを持つところは、平均値に対応する。)

もし分解能の低い測定器で、接近する2つのガンマ線を測定したらどうなるだろうか?例えば、Cs-134の606keVとBi-214の609keVのガンマ線のような場合だ。この状況をモデル化すると次のような絵となる。
「分解能の低い測定器」に相当する場合。
赤いガウシアンを606keV、緑のガウシアンを609keVだと見なす。
Peak 1と名前をつけた赤いガウシアン(ガウス型のカーブ)を606keVのガンマ線の測定結果、Peak 2を609keVの測定結果とみなそう。両者共に、真の値(つまりピークの位置)からの揺らぎが大きい。そのため、これら2種類のガンマ線を同時に測定すると、青いガウシアンのようになり、一つの大きなガウシアンのように見えてしまう。つまり、2つのピーク構造を「分解」できないということだ。NaI型スペクトロメータで、Cs-134とBi-214を測定すると、こういう具合に2つのピークはくっついて、混じってしまう。そのため、Cs-134がもたらす放射能は実際には赤いガウシアンの面積だけをもとに算出すべきなのに、青いガウシアンの面積、つまりBi-214の寄与も含めて放射能を算出してしまうため、放射能が強めに算出されてしまう。

一方、分解能の高い検出器を使って、同じように606keVと609keVのガンマ線を同時に計測するとどうなるかというと下の図のようになる。
分解能の「高い」測定器に相当する場合。
揺らぎ(つまりガウシアンの幅)が小さいので、赤いガウシアンと緑のガウシアンの重なりは少なく、同時に測定した状況に相当する青いガウシアンをみても、ほとんど赤と緑のガウシアンの形と同じ形状を保っていることがわかる。つまり、2つのピークが「分解」できているわけだ。これならば、誤って609keVのBi-214に相当する部分を積分せず、606keVのCs-134のピークだけを積分するから、正しい放射能の値が算出できる。

ゲルマニウム型検出器で測定すれば、数keV程度の差があれば十分にピーク構造を分解して調べることができるが、分解能が低いNaI型検出器ではガンマ線のピーク構造が幅の広いガウス形になるため、わずか数keVしか離れていない2つのピークは重なり合って一つになってしまう。放射能の強さを算出するときは、ガウス関数の積分をするだけなので、高い精度で測定したいのならば、Bi-214の寄与がどの程度あるか見積もる必要がある。

(つづく)

2015年3月6日金曜日

福島県の米のセシウム汚染の状況:軽微な汚染の測定法

福島の農産物、特に米のセシウム汚染が2014年はなかった、という報道が昨年の秋頃にあった。正確に言えば、「基準値を越えるような汚染はなかった」というべきだが、人々の頭には、微妙な表現は丸められ削られて入る傾向がある。

NHKでも先日「福島の農産物の売り上げを回復するためには」という内容の番組が流れていた。もう福島の農産物は汚染されていないから、どんどん食べましょうということだと思う。NHKの今の会長はかなり政府寄りの考えをもった人だというから、この手の番組が出てくる度に、政府のプロモーション番組かなと見なしてしまう人は結構いるかもしれない。(そういえば、NHKの9時のニュースのキャスターは、反原発の立場をとっているらしく、それが元で3月末で降板してしまうとかいう噂を耳にした。)

福島県のホームページには、米の放射能検査の結果が公表されている。ほとんどの検査が「測定下限値未満」となっているが、2014年の10月13,16,18日あたりの結果を見ると、ちらほらと「下限値以上」の結果となった検体が報告されている。だいたいが30Bq/kg程度の値で、検出限界値25Bq/kgと同じ程度だ。ということは、福島産の米は、だいたい25Bq/kg前後の平均値でまんべんなくセシウムに汚染されているのでは、という推測をしてもいいだろう。この「推測」を許してしまうのは、下限値と平均値がだいたい同じ程度にもかかわらず、下限値を下げる努力をせずに、測定を25Bq/kgで切ってしまっているからだ。福島県は、100Bq/kg以下だから大丈夫、と高飛車な態度を取るのではなく、1検体でもよいから、徹底的に高精度で測定を行って、消費者の疑問に真摯に答える努力をするべきだろう。

福島県の測定ではゲルマニウムを使った検出器も利用しているようだが、ほとんどの検査に用いられた主力機種はNaIをつかったシンチレータだ。ということは、測定下限値が25Bq/kgというのは、測定時間が20分程度しかないということを意味する。このレベルの測定がどういう測定なのか、今日は考察してみたいと思う。

私が使えるガンマ線スペクトロメータは、ドイツBerthold社のLB2045という機種で、NaIを利用しているので、福島県の主力機種と同等の性能を持っている。この器械の測定時間は、最長で18時間。

そこで、同じ検体を18時間と0.25時間(15分)の2種類の測定時間で行い、その精度の違いを比較してみた。測定に利用したのは、信州東南部にある松原湖付近の山林で採取した森林土(採取は2014年8月、測定は2015年2月)。測定結果は、69Bq/kg(18時間)と73Bq/kg(15分)であり、だいたい70Bq/kgという結果となった。お役人の方々が、「放射能のレベルを知るだけなら、15分でも十分な精度が出る」と考えたとしても無理はない。無駄な仕事を嫌う人なら「18時間なんて測定したら時間と労力と金の無駄」と考えるだろう。果たして本当にそうなのか?

検体土壌を採集した場所は山梨県との県境に近くに位置し、八ヶ岳の東斜面、千曲川の西岸にある。千曲川の東向こうは県境の山岳地帯で、埼玉県の秩父山地に接している(実は群馬県とも接していて、その昔日航機が墜落した御巣鷹山が近くにある。御巣鷹山は群馬県に属する)。この場所には、セシウムのプルームはやってきたが、かなり薄まっていたようで、それによる汚染は軽微であると考えられる。LB2045が算出した約70Bq/kgという値が、「軽微な汚染」を意味するかどうかは、ガンマ線スペクトルを見て判断する必要がある。
18時間で測定した検体のスペクトル。
ピークAはPb-214、BはCs-134とBi-214の混合ピーク、CはCs-137、
Dはほとんど無くなっていて見えないがCs-134に相当するピーク。
EはK-40のピーク。Pb-214, Bi-214,K-40は天然に存在する核種。

まずは、18時間で測定した結果を見てみる。LB2045では、測定時間を18時間にすると、測定限界が2.66Bq/kgとなる。福島県の測定精度の凡そ10倍の精度に相当する。
LB2045が放射能強度を算出するとき、Cs-134のピークBに、Bi-214(ビスマス214)の寄与が混じってしまう。Cs-134から出る606keVのガンマ線と、Bi-214から放出される609keVのガンマ線を分離(区別)する事ができないのだ。これはNaIシンチレータの性能に伴うエネルギー分解能(の粗さ)に由来する(ゲルマなら分離できる)。

Bi-214はU-238の崩壊系列に属し、Pb-214と共存することが多い。この検体でもピークAがはっきり見えていて、Pb-214が相当量存在していることを示唆している。また、事故から4年経ったということは、事故直後に比べてCs-134の量はCs-137の1/4、つまりピークCの高さの25%に低下していなくてはならない。にもかかわらず、ピークBとCがほぼ同じ高さになっているというこは、ピークBはCs-134だけの寄与ではないことを意味している。この解釈を支持するもう一つの理由として、Cs-134の2つ目のピークであるピークDがほとんど目立たないことも挙げられる。

以上の点を考慮すれば、算出された放射能レベルは実際の倍程度と見積もる事ができる。つまり、Bi-214の寄与を引き、Cs-134の減衰を考慮すれば、小海町の土壌は若干のCs-137による汚染で、35Bq/kg程度であろう。Cs-134の寄与がほとんどないということは、この土壌の汚染は「軽微」であると結論してよいだろう。

さて、この検体を15分で測定したら、どんなスペクトルが得られるだろうか?
15分測定で得られたスペクトル
上のグラフが、同じ小海町の検体を15分で測定した場合のスペクトルだ。LB2045の設定では、測定限界は19.52Bq/kgで、福島県の測定精度とほぼ同じだ。グラフを見るとわかるように、統計誤差が大きく、スペクトルはガタガタだ。ピーク構造ははっきりせず、セシウムによる汚染があるのか、天然核種の寄与がどれほどあるのか、まったく判断できない。専門家が見たとしても、「目立ったピーク構造は見られず、(測定精度の範囲で)この土壌には汚染がない」と結論してしまうかもしれない。

18時間の測定では「Cs-137が主な汚染原因の軽微な汚染がある」と判断できたものが、わずか15分の測定では「汚染なし」という結論になってしまう。つまり、15分程度の測定でも検出されてしまうような汚染レベルというのは、(ゲルマで測る必要等ないほど)相当な汚染レベルであるということだ。

福島県の測定ではスペクトルを公開していないから、どんな判定をしているかはわからないが、検出限界を上回る値が出た検体に関しては、確実にセシウムが残留していると言えるだろう。幸い検出限界を下回った検体に関しては、「軽微な汚染」以下である確率が高いだろうが、Bi-214の寄与が混ざった状態で放射能レベルが算出されている可能性があり、実際よりも高く見積もられているかもしれない。長時間測定を行えば(あるいはゲルマで測れば)、セシウム(特にCs-137)のピークが立ち上がっているはずだろうが、それは10-20Bq/kgという低い値になっているだろう。このように、汚染が弱いものほどゲルマで測るべきで、福島県のやっていることは科学的にみれば「できの悪い学生」のやっていることと同じ内容といえる。

測定時間を延ばしたり、ゲルマを使った測定をして、検出限界値を1Bq/kg程度(あるいはそれ以下)まで落とせば、2014年の福島県産米はきっと平均25Bq/kg程度にまんべんなく「汚染」されていることだろう。この結果を公表するときに「検出限界値以下」と丸めてしまうとむしろ不安を煽る。「100Bq/kg以下だから、法律上は可食であって販売してもよい」というだけに過ぎず、消費者にしてみれば「汚染がある」ことには変わりはないからだ。消費者は「どんなに汚染が弱くても、どのくらいの汚染が残っているのかを知りたい」のだ。

ちなみに、福島県の測定の10月18日の結果をよく見ると、いわき市の2つの検体がNaIで異常に大きな値を示したため、ゲルマニウム検出器を使った再検査に回されたことが記録されている。その結果は、72Bq/kgと100Bq/kgだったそうだ。法律の「文言」では「100Bq/kgを越えた」検体だけが販売禁止となるので、100Bq/kgジャストな場合、「2014年のお米は全て基準値を下回った」ことになるのだ。役人の作文能力、イベント処理能力ってすごい!