英国で世話になった教授が、実験のため日本にやって来た。一週間の間にできるかぎりデータを集める計画だったのだが、肝心の実験機械が壊れてしまって、なかなかうまくいかない、とこぼしていた。とはいえ、彼は無為に時間を浪費するタイプではないことはよく知っている。実際、色々な人たちと議論をして、無駄に時間は過ごしていないようだった。私の大学にも一日やってきて、有益な議論をすることができた。特に、彼がドイツの研究所でおこなった実験では、新しい発見があったようで、たいそう興奮した様子でその実験内容の説明をしてくれた。
議論の後、野田岩に行った。夏にイタリア人たちと行ったときは、うなぎづくしのコース料理を頼んだのが、今回はいつも出前で食べている、うな重を頼んだ。イギリス人にとって、ウナギは「ゲテもの」食いだから、なるたけ抵抗無く食べられそうなものを選んだ。最初はおっかなびっくり食べていたが、5口も食べると「これはいける」とバクバク食べだして、けっきょく平らげてしまった。喜んでもらってなによりである。
休日は、自宅に招いていろいろと話をした。日本に戻ってきてからの、こちらの生活の様子を主に伝えた。この客人、以前来日したときには、水筒代わりに丸々スイカを一つ担いで登ってしまった健脚で、英国にいた時も、「そういえば、この休みは大学時代の友人とキリマンジャロに登ってきたよ」とさらっと言ってのけ、私はのけ反って驚いたものである.今回も、渋滞の骨董通りでタクシーを降りたところから出発し、表参道を南下して明治神宮を参拝し、その後、渋谷経由で246沿いに西麻布まで、ずっと徒歩で巡ってしまった。この長い散歩の後の夕方、西麻布の、とある居酒屋にいった。ここは「いらっしゃいませ」を店員が一斉に叫ぶような、ちょっと騒さいタイプの店なのだが、店内の日本風の内装が案外居心地よく、今回で2回目となる。料理がいまひとつなのが問題なのだが、まあそれは居酒屋ということで目をつぶることにした。とにかく、ここは外国人をつれてくるにはもってこいの場所だ。そう思う人は少なくないようで、客の40%近くは外国人であった。
店を出ると、しとしと雨が降っていた。天気予報から少しずれたようだ。首都高を飛ばして、客人の宿まで送る。「今度はバークレーで会おう」といって別れる。来年の夏は、久しぶりにカリフォルニアで国際会議があることを教えてもらった。なんとか都合をつけて、参加したいものである。
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