2012年3月19日月曜日

武谷三男の「原子力発電」を読む:死の灰

飛行機の中で何冊か新書を読んだ。ケプラーの伝記はおもしろかった。高木さんの「プルトニウムの恐怖」も良かったが、ちょっと話が脱線気味で読み難かった。そして、武谷先生の「原子力発電」は思わず没頭して読み切ってしまった。


武谷先生の「原子力発電」は岩波新書から1976年に発行されている。武谷三男博士は、東大話法の安富氏による「三聖人」の筆頭に上げられた物理学者であり、反原発論者だ。


原子力発電に反対するこの「三聖人」は、実は皆、専門が異なる。高木さんは核化学、小出さんは原子力工学、そして武谷さんは物理学だ。自分が物理学者であるせいもあろうが、この本は他の「聖人」の著書と比べても格段に読みやすい。物理学は、複雑な現象を細かく分解し、その基本原理を探り出す学問だが、そのやり方が貫徹された表現が心地よい。

一言だけ感想を書くとすると、この本は名著であり、今年巡り合えた本の中で一番である。それは、日本陸軍に命じられて原子爆弾の開発に身を置き、その内実のすべてを知り尽くした科学者が暴露しているだけに迫力がある。そして、原子力発電の弱点の全てが書かれている。原発推進/反対に関するすべての議論は、この本を読んでから始めるべきだろう。

ところで、この本では「放射能物質」のことを、端的に「死の灰」と呼んでいる。昔のNHK特集なぞ(例えばチェルノブイリ原発事故の番組)でも、「死の灰」を採用していた。(外国人は、その番組内でradioactive materialsと言っているが、それを死の灰とわざわざ訳している。)原爆とか、ビキニ環礁の被曝事故とか、チェルノブイリの放射能汚染など、外国のやることに関しては「死の灰」と呼んでおいて、自分の国がまき散らしたものは「放射性物質」と呼び変えるのは、非常にずるいことだ。NHKなどは、今まで通り「死の灰」を採用するべきだ。私も、武谷先生に倣い、これからは出来る限り「セシウム137などの死の灰は...」などと書くよう努めることにする。

1 件のコメント:

Mont Saint-Michel さんのコメント...

内部被曝症状ご参考ください。