2012年3月24日土曜日

ストレステストはGIGOでしかない

「ストレステスト」などという名称がついているが、所詮はシミュレーションだ。シミュレーションをやったことがある人なら誰でも知っていること、それはシミュレーションは想定内の事しか扱えないということ。しかも、モデリングに問題があれば、出てくる結果は惨憺たるものになる。

ネズミの頭数を計算する「ねずみ算」を考えてみればよくわかる。最初のうちは指数関数的に増えるだろうから、現実のネズミの「人口」も、「シミュレーション」でよく予言できるはずだ。しかし、このシミュレーションに空間の有限性や、食料の有限性、ネズミの精神安定性などなど、数えきれないほどの条件を入れておかないと、シミュレーションと現実の結果はやがて乖離する。だからといって、増えすぎたネズミが海を渡って隣りの島に旅立つシナリオ、洞窟の中に潜るシナリオ、殺し合って個体数を減らしてしまうシナリオ.....いろんなシナリオはあるだろうが、その全てをシミュレーションに取り込む事はできない。結局はプログラマーが「考えつけることだけ」を取り込むだけとなる。

福島第一原発の事故が「想定外」だったとするなら、シミュレーションで安全性を「きっちり」議論することは不可能だ。津波の高さを想定し間違えただけで、「絶対安全」なものが3つもメルトダウンし、水素爆発するわけだから。ファインマンが言ったように、シミュレーションというのはGIGO(ギーゴ)に過ぎない。GIGOすなわちGarbage in, garbage out (ゴミを入れて、ゴミを出す)というのがシミュレーションの正体だ。この本質を知り抜いた者だけが、シミュレーションの結果をうまく利用できる。

数値計算をやったこともなければ、原子力発電のことなんかさっぱり知らない文系出身の総理大臣が、シミュレーション(ストレステスト)の結果を見て政治判断する、という報道が最近あった。この「政治判断」は「破滅的判断」になる可能性がある。論理的、科学的な判断こそ求められているのに、(近視眼的な)経済的/政治的な判断など無意味というよりは、害悪を及ぼすだろう。

(原子力ムラ以外の)計算機科学の専門家が判断するなら、必ず「安全とは言い切れない」と結論づけるはずだ。シミュレーションの性質を知っていれば、その計算結果なんか見なくても必ず同じ答えに収束する。1+1が2になるのと同じくらい自明な話だ。

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