2013年1月31日木曜日

センター試験の数学IA:第二問

二問目は、等速直線運動する質点の分析。物理の問題といってもよいだろう。一問目と違って、背景のよくわかるよい問題だと思う。こういうのは将来も役に立つはず。

センター試験の特徴としては、説明がすべて「文章」だということ。つまり、図による手助けがない。だから、自分で図を描く必要がある。問題の要点を図示できる能力、これは必ず入試で試されるし、将来も必ず必要となる能力だから、しっかり身につけておいて損はない。この問題では、二本の直線をxy座標の中に書き込むことから全てが始まる。(-8,8)から始まるy=-xの直線上を点が速度Vx=2 (目盛り/秒)で移動することは、問題文で与えられる。

最初の問題は、(-8,8)から出発した質点が原点に到達するまでの時間を算出すること。一番簡単なのが、8(目盛り)/ 2(目盛り/秒) = 4(秒)と計算する方法。これはx方向の自由度だけに着目して計算するやり方。物理の素養がないと、この計算結果を自信をもって回答欄に書き込む事はできないだろう。

一番安全なのが、(-8)2+82 = 2×64=128...これは距離の二乗の計算で原点と始点の距離に相当する。つぎに(-2)2+22= 2×4=8...これは速度の二乗の計算(y=-x上から逸れずに動くには、-Vx = Vyの関係が成り立たないといけない)。従って、√128 / √8 = 4(秒)。この計算だと、明らかに最初の計算に比べて時間がかかってしまう。

ポイントは、xとyは独立な自由度と考えず、y=-xの拘束条件があるから、xのみの計算で事が足りると、「瞬時に」判断しないといけない点だ。

生物/化学など医学系や生物系を目指す人や、文系の人など、物理なしに入試を突破しようとしている学生は、2番目の方法で計算した人も多いかもしれない。この問題は「皆さん、物理を勉強しましょう」というプロモーション的問題なのかもしれない。大学の数学(解析学)ではεδ法など物理的な発想に近い証明方法もあるから、物理の素養は(試験を受ける受けないは別にして)高校で少しは学んでおいても損はしないだろう。

次の計算は、質点とその軌道直線、およびx軸で囲まれた三角形の面積を時間の関数で表すこと。質点は直線の上を動くから、答えは時間の2次関数になる。(座標が一次関数なら、その積である面積は二次になる。)難しいことはない。ただ、注意すべきは、0<t<4の範囲で考えよ、という条件だ。この条件の物理的な意味は、質点が原点を超えず、x軸の負の領域にいる間の状況を考えろ、ということだが、これが意味する点を吟味する時間はない。したがって、この条件はこの段階では「機械的に」当てはめるしかない。(その意味は問題を解くうちに明らかになる。)

ちなみに、面積を時間の2次関数として表した後、その最小値を計算するように言われる。平方完成を用いる手段もあるが、時間がかかるので、ここでは微分するのが最適。2次の項の係数が正値になっていることから、下に凸の放物線は極値が最小値になる。微分計算するとt=8/7のときに極値になることがわかる。これが、0<t<4の条件から外れていれば問題だが、見事に範囲に収まっているのでそのまま採用することができる。

このとき、極値を計算する際に分数の二乗とか、足し算、引き算をやることになるが、いちいち項別に計算してから足し合わせていたのでは時間がかかってしまう。なるべく計算せずに計算する必要がある(計算量を減らす工夫ということ。これは数値計算をやる時ちょっと必要になるセンスだが、コンパイラーの設計とか、厳しい科学計算のプログラムを自前で書く人以外にはまったく必要ないセンス)。英国の試験では電卓が持ち込み可能だが、日本では暗算/筆算が未だに幅を効かせているので、「上手に」計算し、時間を節約する必要がある。この問題でも、愚直に計算すると時間を浪費するようにわざわざ分数を扱うよう設計されている点が嫌らしい。はたして、こういうセンスを高校生に要求するのは意味があるのだろうか?ちなみに、この問題では分母を7に保ったまま計算するのがよい。

ここまでは、教科書の例題レベル。この先が最初の勝負の分かれ目となる。今度は、時間の範囲をa <t<a+1に区切って最小/最大を考えよ、という。ただし、aは0<a<3を満たす定数とする。

極値点を境にして、放物線を右領域と左領域に分割して考えると、右領域では単純増加し、左領域では単純減少する。だから、時間領域(a<t<a+1)が右領域にあるときは、t=aの時に最小値をとり、左領域の場合はt=a+1で最小値をとる。時間範囲が極値点を含まなければ、下に凸の放物線の場合は、当然ながら、極小値は最小値にならない。(放物線の「底」が領域の外に出てしまう、とイメージする。)すなわち、題意を満たすためには、時間範囲は右領域と左領域の両方に引っかかっていなくてはならない。

このイメージを利用して問題を解くことができる。時間範囲の「長さ」は1だから、放物線の底に釘を打って、それに引っかかるように長さ1の枠を置くようなイメージだ。これを左右に水平移動できる範囲で動かせば、aの範囲が求まる。aというのは枠の左端に相当するから、aの最小値のケースは、枠の右端が釘に当たっている場合に相当する。枠の長さは1だから、釘の打ってある位置から-1の場所に枠の左端が来る。一方、最大値は枠の左端が釘の位置に等しい場合に相当する。つまり、題意を満たすaの範囲は極値点の位置をt=t0とすると、t0-1 <= a <= t0 が答えになる。

次の問題はt=aが最大となるようなaの範囲を求めろ、というものだが、上の考察から放物線の左領域が関わっているのはすぐにわかる。しかし、a>0という制限があるので、あまり時間範囲を左領域奥深くまで持っていく事はできない。t=aは「枠」の左端なので、これが原点にある場合からスタートし、少しずつ右へずらしていくことを考える。極値点t0は1より大きい事が前の問題で判明しているので、この状態は明らかに題意を満たしている(つまりt=aが最大値を与える)。この状況は枠の右端が極値点t0に接しても変化はない。さらに枠を右にずらすと、枠の中心が極値点と一致したとき、t=aとt=a+1が同じ値を持つようになる。これは放物線の形状の対称性から自明なことだ。この位置より右にずらしてしまうと、対称性により、枠の右端の方が最大値を与えるようになってしまう。すなわちaの最大値は枠の中心がt0に重なった時である。その条件はa+1/2 = t0で、これを解けばaの最大値が求まる。

最後の2つの問題は、「物理的なイメージ」が湧けば簡単に解く事ができるが、機械的に解こうとすると、考え落としがないか不安になり、慎重に考察しすぎて時間が無くなっていくだろう。果たして本当に、出題者は「問題を物理的に解釈して欲しい」と望んでいるのだろうか?これは、過去問の系統分析を行えば判明するはず。もし今年の問題が特別「物理寄り」だったとしたら、それは出題内容が物理に偏っていたということになり、物理的な思考に慣れていない学生は気の毒なことになっただろう。

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