2012年2月14日火曜日

二号機の温度上昇:熱電対

福島第一原発が爆発して以来、学部時代にやった実験が如何に大事だったか、何度となく思い知らされた。放射線、放射能、ガイガーカウンタやシンチレータの仕組み、γ線のスペクトルに光電ピークとコンプントンの山があること、さらには水酸化物の性質やアルカリ金属の性質、などなど...そして今回は、熱電対。

異なる種類の金属を張り合わせると、温度差によって起電力が生じる。逆に、回路に生じた電圧を測ることで、温度差を計測することができる。これが、原子炉の圧力容器に取り付けられた「温度計」のしくみだ。

学部時代にならった熱電対のしくみの直感的な理解はこうだ。温度差があるということは、物質内に平均的なエネルギー勾配があるということだから、物質中にある粒子は坂を転がるようにエネルギー勾配に沿って流れ出す。このとき、電子などの荷電粒子が一方方向に流れるように調整してやれば(これが多分異なる金属を張り合わせる理由だろう)、勾配の「角度」に応じた荷電粒子の移動が起き電圧が生まれる。この電圧差から温度差を知ることができると言う訳だ。

早野さんの情報によると、東電が使っている熱電対は「銅とコンスタンタン」の熱電対だという。これをT型と言うらしい。(早野さんの情報によると、これは東電の文書でも確認できる。48ページ。)コンスタンタンは銅とニッケルの合金。面白いことに、このT型熱電対の使用範囲を調べると「-200度から300度」となっていて、「低温測定に向く」とある。つまり、この温度計はもともと水温だけを測るように置かれている温度計で、メルトダウンした2000度から3000度近くの超高温物質の温度は測れない。

最初の頃の報道では、温度計の回路が断線して故障とされていたが、腑に落ちない。東電の資料から熱電対の概念図を見てみると、熱電対の回路を閉じて電流を流すようだ。この電流の大きさと、回路を閉じるときに挟んだ抵抗値を使って、オームの法則で電位差を計算していると思われる。
原子炉の温度計の概念図(東電の資料より)


もし、熱電対自体が断線したらどうか?この場合電流は流れないから、温度差は0つまり、温度計の目盛りは低温側にずれていくはず。高温側にぶれていくことはない。

熱電対の回路が生きていて高温側にぶれていく場合をつぎに考えよう。それは電荷移動、つまり電流がたくさん流れる場合だ。例えば、どろどろに融けた核燃料の塊が熱電対の先にあたり、温度差が急上昇する。このとき、荷電粒子の移動は激しいだろうから電流の値は急上昇するだろう。そして最後には測定限界を越えるが、較正が正しくなくなるというだけで電流は流れ続けるはず。ただし、核燃料と接している温度計の周りは、融けてしまうかもしれない。この場合は、温度計は最終的には壊れる。しかし、これは「断線」とは普通言わない。(ちなみに銅の融点は1000度強、コンスタンタンは1200度程度。)

断線しているという判断にどうやってたどりついたんだろうか?単純に考えれば、熱電対の開口端に外部電源を繋いでみたが、電流が流れなかったということか? でも、超高温の物体が熱電対の先についていれば、荷電粒子の移動を引き起こす熱勾配は相当急なはずで、外部電圧が弱ければ電流は流れない可能性もあるだろう。いづれにせよ、上で見たように、断線していれば低温側に値は狂っていくはずだから、今回の振り切れるという現象は説明できないように思う。東電の説明は、腑に落ちない。

実際の回路図。基本的には上の図と同じ。
まさか、記録計が壊れてるなんていってないだろうな?
(記録計が壊れてるなら、交換すればいいのでは?)

3 件のコメント:

enniethebear さんのコメント...

やはりKUZZILA先生もこの点を疑問に思っておられたのですね。

冷接点補正系が異常となる場合を除けば、センサー出力がハイインピーダンスになって表示値が増加することは“基本的には”ない筈です。

但し、素人の全くの当て推量ですが、センサーの入力を意図的にハイ側に高抵抗でプルアップしている可能性は否定できないような気がします。 これは、断線発生時に高温側(危険側)に指示値をシフトさせて注意を促すためです。

しかし、センサー・ケーブル系のインピーダンスは高々数百Ω程度でしょうから、NHKが報したように、抵抗が1.7倍になっただけであれば、このような警報が出るか否か?です。

ほかに、海水などの浸入により、系がハイインピーダンスになった場合、レベルが変化する可能性はありますが、先の1.7倍が今でも正しければこれはありませんね。

電検1種をお持ちの優秀な方が沢山おられるのですから、ほどなくスパッと解明して下さると思います。 素人の私が勝手な推測をするのは無益でしょしょう。 でも、まだ明快な説明がないのは腑に落ちないですね。

kuzzila さんのコメント...

コメントありがとうございます。

電気回路は高校生レベルの知識しかないので、技術的な側面を検討してくださる方がいてくださるのは心強い限りです。

今回の事故では「専門家」の力量不足が問題になっていますから、電気や情報、さらには機械工学系と細分化してしまった工学においては、むしろ「素人」の素朴な推測を寄せ集め、整理しながら真相に近づいていく姿勢は大事だと思います。その意味では、enniethebearさんのご意見は大変貴重です。これからもよろしくお願いします!

ファインマンがシャトルの事故を解析できたのも、彼が「素人」で、先入観を持っていなかったからだと思います。(同じ委員会にいたアームストロングは常にNASAよりで、役立たずだったようです。)

akira さんのコメント...

熱電対を測定しているのは電圧計
自分で熱電対と電圧計買ってどうなるかやってみれば?