2012年12月31日月曜日

時間反転操作と反ユニタリー性

Bellの不等式と並んで、J.J.Sakuraiの時間反転操作の章は、いつも理解するのに時間がかかり、そして、すぐに忘れる。さすがに今回は論文で使う事になったので、慎重に読んでいる。

反ユニタリー性...滅多に使わない、というか、久しぶりに耳にした。自分が使わないだけでなく、他人の論文や教科書でも出くわした事はない。J.J.Sakuraiだけに登場する(少なくとも私の場合は)。

ユニタリー変換...これは日常茶飯事の概念であり、量子力学の基本だ。ほとんどの対称性はユニタリー変換になっている。超伝導理論でよく使う、フェルミオンの準粒子基底への変換、ボゴリウボフ変換、もユニタリー変換だし、角運動量の理論で出てくる「回転操作」もそうだ。一言で言うと、ユニタリー変換というのは、内積を保存する変換のことだ。

反ユニタリーというのは、内積の絶対値を保存するという定義で、ユニタリー変換の反対というよりは、より広義に変換を定義したものというべきだろう。Sakuraiはさらに定義を拡張して、変換した後に、もともとの内積の複素共役になっているものを反ユニタリーと再定義している。一見抽象的で、「???」的な初期反応を示してしまいがちだが、この「複素共役」というところがとても大事で、この「無機質」で、純粋数学的な操作に、物理的な意味を持たせる企てだ、と理解すると納得しやすいだろう。

時間反転は反ユニタリー変換だ、というのが結論なんだが、複素共役の効果は、実は考えているベクトル空間の基底の選び方によって千差万別なので、基底がなにかよく見極めてから、時間反転の操作を定義しないといけないところが面倒くさい。つまり、うまく基底を選べば、時間反転操作もうまい具合に複素共役にできますよ、という話だ。これは、基底に依存しないユニバーサルな定義が可能な演算子や変換ばかりを習って来た「普通」の学生にはなかなか理解できないのだろう(私を含め)。

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