本郷へ久しぶりに行く。昔のように根津駅で下りる。以前は、この地下鉄駅の階段は強い風が吹いていて上るのが一苦労だったが、改修されて階段部分の「穴」が広くなり、風が随分弱くなっていて、ちょっと驚いた。言問通りを上る。ここの歩道は狭いまま。大学関係者や地元のおじいさんおばあさんは結構ゆっくり歩く。逆に学生や会社員は早歩きなので、かならず坂のどこかで詰まり「渋滞」する。今回は、議論に熱中しながら、のろのろ歩く米国人らしき研究者の2人連れに行く手を阻まれる。「同軸ケーブルを伝わる電話信号とDSLのように、互いに干渉せず自由に歩行できる仕組みを、この歩道に組み込んでもらいたいものだ」と思い始めたら、前を歩いていたうちの一人が横によけてくれた。機械やシステムにないもの、それは人間の「思いやり」だろう。
ひょんなことから、学部生の宿題を手伝うことになった。共同研究者の一人が受け持つ輪講で、解けない問題があるので助けてくれ、というのだ。さすがの東大生でも解けない問題があると思うのか、それとも東大生のレベルが落ちてきたと思うべきか、それを見極めるのはちょっとおもしろそうだな、と思ったので喜んで引き受けた。問題とは、液滴の表面エネルギーの計算だった。
この問題は、結局、回転楕円体に変型した液滴の表面積を計算し、それを球からのずれを表すパラメータの2次まで展開すればよいのだが、以外と計算は煩雑で、しかもナイーブに計算すると係数がずれる。表面積を求める公式は調べればすぐ分かるし、微分積分の知識を応用すれば、大学1、2年生なら自分でも導出できるはず(まあ、1、2時間はかかるかもしれないが)。問題は、この公式を回転楕円体に当てはめたときに出てくるarcsineの展開法であった。
これを、単純に一次近似すると、とんでもない結果となる。数値計算して比べてみると、まあ悪くない結果にはなっているが、ずれはかなり大きい。問題はパラメータについての線形項の存在。こいつが誤差を増幅している。ということで、arcsineを3次近似(この関数はx=0周りで奇関数)してやる必要があるんだろう、と普通は考える。実際やってみたら、うまい具合に線形項が相殺して消えた。「やった」と思ったら、次の2次の項の係数が若干教科書の値からずれている。「ははーん、学生の諸君はここで力尽きたな」と直感する。確かにここまでの計算は結構大変で、かなり大きな整数の組み合わせでできた分数の、足し算引き算をするので、それが最後にきれいな数字に約分されるとは、なかなか思えない。
実は、arcsineの5次近似をしないと正解には辿り着けないのである。線形項が再び相殺するのは、キリストの奇跡を見るようである。1859/135とか1300/237などいった、めちゃくちゃな分数の足し算引き算のあと、きれいに相殺して0になるのである。同じようなことが、二次の項でも起きる。最後の最後に、すぱっと約分できて1/3とかきれいにまとまるのである。
今回、学生が問題を解くことができなかったのは、はっきりいって粘りがなかったからだ。ごちゃごちゃした計算のど真ん中であきらめてしまったんだと思う。効率重視の役人やら会社員ならともかく、研究者になるにはこれではいけない。「限界だ、もうだめだ」と感じたところから、本当の勝負が始まることを学んでほしい。この間のコヒーレント状態の問題なんかは良い例だと思う。まあ、これを20歳そこそこの普通の学生に要求するのは酷だとは思うんだが、東大生としてはちょっと物足りない感じがする。彼らも巷の学力低下の例にもれず、並のレベルに落ちたのかな?
0 件のコメント:
コメントを投稿