「黒体」って何かと問われれば、迷うことなしに「黒いもの」と答える。そこで問題が起きる。例えば、「太陽を黒体とみなすことができる」とか言われると非常に戸惑う。どうみても、黒く見えないから。似たようなことを感じている人は結構いるはずだ。
ネットで検索すると、笑っちゃうような答えが見つかったり、めちゃくちゃだとあきれる解説が与えられたり、オブラートに包んだようなはっきりしないことが書いてあったりする。これは、物理の教科書を色々読んでみても同じで、「黒体の謎」を明快に説明している本は、今まで皆無だった。
そこで、ファインマン物理学を読んでみることにした。ここにはきっと何かいいことが書いてあるだろう、と期待は高まった。しかし、残念ながらファインマンですら、うまく説明できないようだ。訳本の第二巻のブラウン運動の章を見ると、「黒というのは、われわれの見ている炉の穴が温度が0の場合暗くなるからからである」とある。そんなこと言われても、これではどうして6000度で輝く太陽が黒体なのかよくわからない。温度をゼロにしたとき太陽は黒くなるからと言われても、「あーそうか!」とはならない。
ファインマンを読んで思い出したのは、熱平衡という概念だ。黒体というのは、その内部が熱平衡になっている物体のことだ。熱平衡にある物体は、その個性を失い、温度だけで特徴づけられるようになる、というのを確か熱力学か統計力学で学んだのを思い出した。
もう一つ、気をつけなければならないのは、「黒体」と「黒体輻射」という2つの用語の使い分けだ。どちらも「黒体」を含んでいる訳だが、実はかなり物理的な意味は異なる。実は、「太陽は黒体だ」というのはあまり正しくなく(まったくの間違いではないとは思うが)、「太陽光のスペクトルは、黒体輻射の分布とみなすことができる」というのが正しい言い方だと思う。
黒体の厳密な定義を、明快に与えてくれる教科書を私は持っていない。そこで、ネットで調べることにした。黒体の概念は現代物理ではあまり利用しないので、現代の教科書にはあまり詳しく書いてない。むしろ、絶版になったような大昔の教科書の方が丁寧に書いてあるはずだ。そこで、Open Libraryを利用することにした。
このwebsiteは本当に凄い!著作権の切れた古い本のpdfが無料で読めるのだ!(もちろん、利用はアカデミックな用途に限る。)ニュートンのプリンキピアとか、光学とか、初めて現物(のスキャン)をみることができたのは、本当に感動した。「光学」にある虹の説明図は本当に美しい!(印刷して今度部屋に飾っておこう。)今回は、黒体輻射の公式を発見し、1918年のノーベル物理学賞を受賞したMax Planck本人が書いた教科書"The Theory of Heat Radiation"をダウンロードして読んでみることにした。オリジナルはドイツ語なので、これは英語への翻訳だ。しかし、この本はほんとうに素晴らしい!
ついに、黒体の正確な定義の書いてある本を見つけることができた。そして、それは黒体研究の第一人者本人の書いた本だから、これ以上正確な説明はないだろう。しかも、それはドイツ人と来ている。省略なしの精密な説明が列挙されていて、非常に分かり易い。
(つづく)
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