2012年1月21日土曜日

LB2045のジャーゴンの意味

専門用語がいろいろ出て来ており、よくわからなかったのでベルトールド(LB2045の販売製作会社)に問い合わせたりして、調べてみた。

まずはROI。LB2045の写真を見ると、右上にRoI-Dataという形で現れている。これはRegion of Interestの省略で、測定したガンマ線のエネルギー範囲のこと。この機械の初期設定では、セシウムの場合は、450keVから850keVの間に設定されたデータが(多分5番目に)入っている。このエネルギー領域のエネルギーをもつガンマ線の数を数えて、それをセシウムからの放射線とせよ、という意味だ。野尻先生の記号では、その数はN(ROI)となる。しかし、これはセシウムからのガンマ線の数を数えるという観点からすると、この値をそのまま使ってもセシウムの放射能の値は正確に計算できない。

その一番の理由は、バックグランドレベルの存在。機械を空にして測定しても、450-850keVのROIに含まれるカウントは0にはならない。自然放射線や機械自身の癖から生じるノイズがあるからだ。そのカウント数は野尻先生の記号を使えばN(BG)となる。ベクミルによると、このバックグランドレベルは毎朝測定して機械に入力してあるというので、客がLB2045を使うときには心配する必要は無い。つまり、自動的にN(ROI)-N(BG)の値をソフトウェアで処理しているということだ。(ただし、スペクトルの図自体には反映されているかどうかは不明。)

次に考えるべきは、カリウム40という天然放射能物質からの寄与だ。これは、土壌や食品に含まれ、そのガンマ線は1460keVのエネルギーをもつ。これが測定容器内の物質に含まれる電子と散乱(コンプトン散乱)すると、セシウムのROIに侵入してくる。この寄与をN(K)と野尻先生は表しているが、これはさっ引かないといけない。

ということで、まとめると、セシウムから出てくるガンマ線を勘定しようと思ったら、セシウム用のROIの中で、N(ROI)-N(BG)-N(K)を勘定する必要がある。しかし、450-850keVというROIが果たして、セシウム134、137のROIとして適当かどうかは考察する必要がある。

セシウム137から出てくるガンマ線のエネルギーは(正確にいうと、セシウム137がベータ崩壊してバリウム137の励起状態に壊変した後、その励起状態からバリウム137の基底状態に電磁崩壊を通して脱励起する際に出すガンマ線...文章で書くとかなり面倒くさい)、おおよそ660keV。

また福島の事故で特徴的なセシウム134から出てくるガンマ線は2種類あって605keVと796keV。

したがって、これらのガンマ線をLB2045が(光電ピークとして)直接捕捉できるのならば、セシウムのROIは600keV-800keVで十分なはずだ。ところが、LB2045のエネルギー較正は完璧ではないから、光電ピークの位置が若干上下にずれる。たとえば、ベクミルで測った他の人のデータをみるとセシウムのピークは10keV程度ずれている感じがある。とすると、余裕をもって590keV-810keVとしたいところだろう。さらに安心したいので、450-850keVと設定されているのだと思う。しかし、これだと、N(BG)やN(K)の揺らぎからくる誤差を多めに取り込んでしまう可能性もあるから、若干過大評価になるような気がする。

ただ、600keV以下450keV以上の部分は、むしろ入れた方がよいかもしれない。というのは、セシウムから出て来たガンマ線のコンプトン散乱がこの領域に行くからだ。コンプトン散乱した分だけ、光電ピークが下がってしまっているから、ここを足しこんでおくのは大切なことだ。しかし、それがN(BG),N(K)の揺らぎからくるのか、それともセシウムのガンマ線のコンプトン散乱からくるのかは、両者の値が同じ程度の時は区別が非常に付き難い。

次に、分解能について。LB2045のカタログを見てみると、「Cs-137の660keVのピークで7.5%(FWHM)」とある。まずは、FWHMって何? 調べてみるとFull Width at Half Maximumの略で、ガウシアンなどの分布の幅のこと。ガウシアンの場合はおおよそ2σに相当するようだ。(σは標準偏差。)次に、この文の意味だが、660keVの7.5%というのは約50keVになる。つまり、「LB2045では、Cs-137の660keVのピークがスパイク状にはならず、幅が50keVのガウシアンのような形になるよ」ということ。実際問題としては、Cs-137の660keVのピークとCs-134の605keVのピークは、約55keV離れているので、この2つのピークは完全には分離せず、混ざった形、いうなれば「ふたこぶラクダの背中」のような形となる、ということだ。ということは、LB2045では放射性セシウムの放射能はトータルでは測定できるが、Cs-134とCs-137を分離して測定するのはちょっと難しい、ということになる。(うまい解析法を適用すれば、ある程度は補正が可能だと思うが。)

それでは、実例をもとに結果を吟味してみよう。

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