2011年11月14日月曜日

「原発のウソ」を読む

小出裕章著
「原発のウソ」
扶桑社新書(2011年6月)

京大原子炉の小出氏の講演やインタビューなどを再構成して本にまとめたもの。中央に無視され続けても、闘い続ける姿勢がネットで認知され、今ではもっとも信頼できる「科学者」の一人となった。私自身は、プルトニウムの同位体比率を調べていて、彼の存在を知った。メルトダウンの実情や再臨界の可能性など、東電が否定し政府がやっきになって打ち消した、様々な予言が的中していくことで、さらに有名になった。

この本にはそういう予言がいくつか含まれていて、そのほとんどが現実のものとなった。東電の発表した最初の収束工程表は実現不可能だろう、ということ。メルトダウンはメルトスルーになっているだろう、ということ。などなど。あまりにも周知のこととなってしまったので、前半に書かれているこういうことは、原発について考え始めた人じゃなければ、不要な内容だろう。

前半で役に立つのは、1999年に突然起きた東海村のJCO臨界事故の概説。あまり勉強していなかったので、興味深かった。死者は結局2人だったこと。そして、その死に方はすさまじかったこと。被曝当日は看護婦とお喋りして結構元気だった人間が3ヶ月ももたずに死んでしまったこと。そして、その死に方は、生体組織の再生不能からくる悲惨な状態であること。特に最後の部分は、外部被曝の急性症状の典型例として、よく理解しておく必要があるだろう。

この2人が浴びたのは、主に中性子線だと思う。臨界状態で発する青いチェレンコフ光を眼前で見たというのだから、間違いない。(この光は一種の衝撃波なのだが、目玉の中の水分中を駆け抜ける中性子線から発せられたはずだ、と聞いたことがある。恐ろしい!)中性子線は、いろいろある放射線の中でも最悪の放射線だ。事故に合った作業員の被曝量はだいたい10から20シーベルトで、瞬間的にこれだけ浴びたんだと思う。人間の致死量は8シーベルトと言われているので、それを証明する格好になってしまった。

エントロピーは常に増大する、というのが熱力学の第二法則。ということは、同じ部品を使い続けるシステムはいずれは壊れてしまう。だから、生体が長生きするために採用した方法が、使える部品でもどんどん取り替えて新品にしてしまうこと、つまり代謝だ。代謝が停まると老化が進む。代謝のスピードより、エントロピーの増加のスピードが上回ると、死へと突き進むことになる。

8シーベルトなどという高い線量の放射線を浴びると、DNAが破壊され、生体の再生が不可能になってしまう。しかし、この程度の線量では、生体そのものはまだ破壊されていない。心臓も動いているし、脳だって機能している。あくまで、再生のための機能、つまり遺伝情報が破壊されただけだ。だから、JCOの作業員は被曝直後も比較的元気だったのだ。

しかし、しばらくたって代謝が始まると、問題が生じる。代謝できないのだ。新しい細胞が作れないから、血液の交換、細胞膜の交換、粘膜の交換、ホルモンの交換、などなどいくら30代、40代のおじさんたちだって、必要な代謝というのは毎日たくさんある。その多くが不可能になってしまうと、エントロピーが上がり始める。例えば、太陽の紫外線で痛んだ皮膚を修復できない。たいしたこともないバクテリアに対して、免疫をつくることができない。活性酸素で痛んだ細胞の機関を修復できない。などなど、目に見えないレベルでの「補修」が停まってしまうのだ。皮膚だけでなく、内蔵、骨、血管、神経などが、壊れ始める。生体は壊れると細胞液が溶け出し、血液が漏れだす。いわゆる「腐った」状態だ。これが、生きながらにして発生するのだから、地獄の苦しみだろう。

本の後半でいよいよ主題が登場し、ここで様々な「ウソ」が暴露される。
(1)温暖化には原発か?答えはNoだという。というのは、ウラン鉱石から核燃料を精錬する際に大量の二酸化炭素を排出してしまうからだ。また、原発自体を構成するコンクリートや鋼鉄の製造過程でも二酸化炭素はたくさん出るし、核燃料の運搬には化石燃料を使った船、自動車、鉄道などが利用される。また、原発から排出される余熱は、原発周辺の海水を平均で7度も上昇させるという。そういえば、昔、東海村の原子力研究所では、原子炉からの温水を利用してウナギを養殖していた。浜岡原発でもクエを温水で育てているそうな。どちらも高級魚だが、温水で育てると生育がよく美味しくなるそうだ。「原子力ウナギ」や「原子力クエ」は美味だったに違いない。しかし大切なことを忘れちゃ行けない。海水が上がると、気候システムが撹乱されてしまう。エルニーニョやラニーニャがそれ。最近は、この現象のせいで天変地異が頻発し、たくさんの被害が出ているし、死者も出ている。

(2)揚水発電は効率よいのか?答えはNoだという。子供のころ、揚水発電のCMがあった。「夜間に余った電力によって水をくみ上げ、昼間に水力発電を行い、電気を無駄無く使っています」とアニメーションで説明していた。なるほど、と感心したものだ。ところが、これもウソだという。まず、夜間に余るというならば、発電を止めてしまえばいいだろう。水力も火力もそういう調整はできるらしい。しかし、原発は一度動かすと一年以上は動かし続けないと効率が悪いそうで、昼も夜も、電気があってもなくても、とにかく動かし続けるのだと言う。つまり、揚水発電というのは、原発のためだけに考えだされたシステムで、揚水発電をやっていること自体が「エネルギーの無駄」なんだそうだ。これが本当なら、ハッキリいって電力会社に騙された!

(3)石油の枯渇に備えるためには、原発が必要?これもウソだという。ウランの埋蔵量は意外に少なく、この調子で世界が原発で発電続けると、石油よりも早く枯渇してしまうんだそう。それじゃ、もともこもないぞ!

(4)一番のウソは、多分これだろう。「日本の原子力技術は世界一」。これは、高木先生の本にも書いてあった。高木先生は、若い頃原子力産業の一員だったというから、その技術力の程度を内部からよく知っている。その人が、「日本の原子力技術は劣っている」と書いているんだから、本当なんだろう。

要は、敗戦国として核の技術を根こそぎ壊されてしまった分だけ、日本の原子力工学は遅れているのだという。欧米は原爆を作って、「利用できる」だけの技術がある訳で、核物質の知識、その利用法/加工法/処理法など、教科書に無いような細かいノウハウをたくさんもっているだろう。日本は、教科書に書かれていることしか知らない。いわば、自動車学校を卒業したばかりの若葉マークだ。そんな運転手にF1は操縦できないだろう。アメリカのプレッシャーもあって、説明書を読みながらF1をぶっ飛ばしてみるものの、その度にコースアウトして大破、中破しているような状態。だから、故障ばかりでなかなか動かなかったようだ。それでも、アメリカやイギリスから丸ごとコピーしてきた原子炉はなんとか「ふらふら」コーナーを曲がれる程度までには上達したそうだ。(しかし、「想定外」のカーブにさしかかった所で、大きくコースアウトし、大事故を起こしてしまった....)

そんな国が、原子力先進国のアメリカ、フランスなどが相次いで諦めた「高速増殖炉」を作るなぞ、気違いの沙汰だと思う。若葉マークの運転手がスペースシャトルの運転を任されるようなものだ。うまく行く訳ない。実際、初歩的なレベルで既に大事故を起こし(ナトリウム漏れ)、2兆円もかけて作った「もんじゅ」は1kwの電気も発電できぬまま、開発中止目前。(だからといって、動かせということにはならないことは、小出さんの本に書いてある。ナトリウム冷却の原子炉は、水で冷やせない!つまり、福島のようにイザとなったら海水で冷却、ということができないのだ。水をかけた瞬間にナトリウムと反応して大爆発してしまう!知恵の神である文殊菩薩に申し訳ない。)六ヶ所村の再処理施設も故障が多く、放射能漏れの事故もあるらしいし、なにより処理しきれなくなった放射能物質を太平洋に意図的に捨てているそうだ!(薄めてはいるらしいが...)。これも、管理技術の稚拙さ、レベルの低さから来ているという。

(5)核燃料サイクルや、プルサーマルも、実は破滅への「カミカゼ」のような状態らしい。長くなったので、ここでは割愛する。別の機会にメモる予定。

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