2011年9月10日土曜日

国民生活センターの「比較的安価な放射線測定器の性能」について:「ばらつき」について

前回からの続き

次のケースにいってみよう。セシウム137のサンプル線源を利用した、測定実験の結果が図5(および6)にある。これは、まさに大学の学部実験と同じ。まずは、結果の分析から入ろう。線源からの距離をうまくコントロールして、0.115, 1.05, そして5.16μSv/hとなるような状況を作る。これは線源に近づける程、線量が強くなる、という逆二乗則を利用している。セシウム137から出るガンマ線は0.662MeVと決まっており、これが四方八方にランダムに飛び散るので、それを測定しようと言う訳だ。近ければ、たくさんガンマ線が当たるし、遠ければ「密度」が低くなるので線量が低下する。

ALOKAおよびJB4020の結果をまとめると、

正しい値: 0.115  1.05   5.16
...................................................
ALOKA:  0.12    1.10   5.52
JB4020:    0.04    1.00   5.14    

となっている。ALOKAは意外に大きな誤差をもっているのが判る。一方、JB4020は 思いの他健闘している。傾向をいえば、低線量ではALOKAがよい結果を、逆に高い線量ではJB4020がよい結果を残している。中間領域では両者ともに、良い結果を残している。

もちろん、ここで報告書がいいたいのは「実際に直面するのは0.1μSv/h程度の状況であるから、安価なガイガーは役立たず」ということだ。

ここで、問題となるのが「ばらつき」の問題である。実はこの「ばらつき」の原因は、機械の性能に起因するというよりも、むしろデータ処理の方法の違いによることに今日気づいた。処理法を統一し、よりよいものにすれば、「安価な」ガイガーでも、低線量の状況を精度良く測定できると思っている。

注目したのは、「安価な」測定器にも関わらず、「ばらつき」の小さいDose RAE2である。これはCsIを用いたシンチレーションカウンターで、ALOKAのNaIシンチレーションカウンターと同じ機構で作動する。最初はそれが理由だと思ったのだが、よく調べるとそれだけが理由ではないことが判った。データの処理法が「積算法」だったのだ。積算法とは、スイッチを入れてから現在に至るまでの、総被曝量を測定する方法で、足し算してどんどん線量を貯めていく。時間も同時に計測していけば、その時点での時間平均も測定できる。Dose RAE2は積算量を時間で割っているので、揺らぎが小さいのだ。一方、JB4020は30秒毎に平均は取ってくれるが、30秒経ったところでそれまでのデータは捨ててしまう。つまり、直近の30秒平均だけを表示している。ちなみに、RD1503は直近160秒の平均値だ。

短時間の時間平均をとると、放射線のようなランダム現象の場合、そもそも線量値の揺らぎが大きいので、平均値自体も大きく揺らぐ。いっぽう、長時間平均を取ると、瞬間的に生じる大きな揺らぎは、大量に生じた平均値に近いデータの中に没してしまい、なかなか平均値を変化させられてなくなる。つまり、「ばらつき」は減って、値が落ち着く(収束する)。

自然放射線は、離散的に飛んでくるし、宇宙からのガンマ線や、太陽からのガンマ線の場合、またはラドンやカリウムといった天然のガンマ線など、放射線の種類に応じて、一個一個の放射線エネルギーは「ばらつく」のが自然だろう。ガイガーカウンターは、基本的には放射線の個数測定だから、一回一回の線量値がぶれるのは当然だ。一方、Dose RAE2やALOKAといったシンチレーションカウンターの様子をみると、ガイガーカウンタと違って、測定針や表示数値が大きく変化することはない。ゆっくりと動く。これは、ガイガーカウンタと違って、光電管で検知するのが、光子数の時間平均だからなんだろうと思う。つまり、放射線一個一個が検出器に飛び込む度にエネルギー変換をするのではなく、一定の時間内に検知した複数の放射線のエネルギーを平均して測定値としているということだ。ALOKAの時定数の設定値はだいたい30秒になっているから、30秒毎の光子数の積算値を利用して、線量を推定していると思う。

例えば、30秒内に2つのガンマ線が飛び込んで来たとする。一つが0.1μSv/hに相当し、一つが0.5μSv/hに相当するエネルギーを持っているとする。ガイガーカウンタの平均法では(0.1+0.5)/2 = 0.3μSv/hとなる。一方、シンチレータの場合は、0.1μSv/hのガンマ線が100個の光子を出すと仮定すると、0.5μSv/hのガンマ線には500個の光子が出るはず。この場合の平均は(100+500)/30=20個/秒。これを、0.02μSv/hに相当するガンマ線が「まんべんなく」降ってくるというふうに解釈する。次に、二つ目のガンマ線が0.5ではなく0.1μSv/hになったとする。ガイガーカウンターの平均値は0.1μSv/hになるが、シンチレーションカウンターは四捨五入して0.01μSv/hになる。揺らぎを計算すると、ガイガーは0.22μSv/hと大きくなり、シンチレータは0.016μSv/hととても小さくなる!(もちろん、実際にはシンチレータには較正を施してあって、上の計算に補正係数を掛けたり、足したりして表示値にしていると思うが、揺らぎが小さくなりやすいのは変わらないと思う。)

そこで、ガイガーカウンタの揺らぎを小さくするには、データ処理の方法をシンチレータのやり方に近づければよい、ということが思い浮かぶ。しかし、ガイガーでは光子は利用しないので、まったく同じ方法を採用するわけにはいかない。そこで、思いついたのが、積算平均である。

つまり、30秒や40秒で前の測定値を捨ててしまうのではなく、どんどん足し込んでいき、その時点での平均値を、積算値をもとに表示するのである。もちろん、機械のアルゴリズムを書き換えることはできないので、今までと同じように短時間平均値をメモし、それを後で数値処理する。このやり方で計算すると、測定値が一定時間の後、収束する様子がよくわかる。東京の自宅(東京の西部)で20分ほど測定した結果を下の図に掲げる。
積算平均値法で計算したJB4020とRD1503の測定値。
赤線がJB4020、緑がRD1503の結果。前者は5分弱で収束し、その値は0.11μSv/h。(零点補正すると0.07μSv/h) 一方、RD1503の収束は15分程かかり、その値は0.12μSv/h(零点補正して0.08μSv/h)。つまり、両者ともにほぼ一致した値が出るということだ。

国民生活センターの測定では、5分間の「暖気運転」をしてから10回測定するというから、最初の10分間のデータは使わず、その次の10点のデータをグラフから抜き出して処理すると、JB4020の測定値の平均値は0.109μSv/h、そして標準偏差は0.003μSv/h(!)となる。つまり、「ばらつきはほぼ無い」という結果となった。RD1503の場合も同じようにして計算すると、平均値は0.115μSv/h、そして標準偏差は0.005μSv/hとなった。これも「ばらつき」はほとんどない。

このように、ちょっと手間はかかるが、積算平均を用いて測定を行えば、「安価な」ガイガーカウンターでも、「ばらつき」の少ない測定は可能で、収束値に零点補正などの適切な補正を施せば、案外いい精度で測定できると思う。

つまり、先日の軽井沢の蕎麦屋の森での測定における問題は、収束の遅いRD1503に対し、測定時間が短すぎたのが、原因だったと思われる。次回は、この点に留意して再測定してみよう。

しかし、大枚はたいて買ったRD1503が、JB4020に収束速度で劣るとは、なんとも皮肉な結果となってしまった...これからしばらくは、RD1503とJB4020を併用して見たいと思うが、収束速度が遅いことが決定的となれば、RD1503を使う理由はなく、「早い引退」をしてもらうしかないだろう。がっくり。

「安価な」ガイガーが低線量で弱い、というのも、積算平均法と零点補正で確認してみない限り、ちょっと信じられないと思っている。もし、嘘ならば、国民生活センターの報告書は、当局の流したデマということになろう。なんだか、戦時中の戦況報告のようになって来た...

0 件のコメント: