大岡昇平の「武蔵野夫人」という小説を読んだ。時代背景は終戦直後。狭山丘陵を含む、野川周辺に広がる「国分寺崖線」に沿った地域、すなわち多摩川の河岸段丘地域の描写が興味を引いた。大岡昇平は地理/地学に興味があるようで、細かい科学的/地理的な説明が、風景の描写の中に混じっていて、なかなかおもしろかった。
人間の描写に関しては、話の筋が唐突に変わるきらいが目立つ。起きる事件に関しては、現代の観点からするとあまり目新しくない感じもある。ただ、50年ほど前の日本の姿を垣間みながら、そこに、それから50年後(つまり今)の日本文明の没落を予感させるような精神の荒廃、文化の絶滅などが記録されているように思えた。それを目の前に見ながら、自分ではどうにもできない焦燥感みたいなものを感じた。例えば、歴史書を読みながら「あーこんなことが起きなかったら良かったのに」と後悔する感じ、あるいはタイムとラベルしても目の前の事象に参加できず苛つく感じ、などに似ているかもしれぬ。
戦争はそれ自体が無意味だが、最低でも勝ち目の無い戦争は全力で阻止すべきである。その代償は少なくとも100年は続く。沖縄、北方領土も、戦争を起こした日本が払わねばならぬ代償なんだろう。その苦しみを、戦争を起こした人間及びそれを許した人間が引き受けないのは、本当に卑怯だと思う。
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