吸い込んだヨウ素131は分子I2である。この分子N0/2個が甲状腺に蓄積したとする。(つまり原子核の数でいうとN0個。)単位時間あたりに放出されるガンマ線量は次の式で与えられる。
dNrad(t)/dt = log2(N0/tp)2-t/teffここで、tp=8日(放射性崩壊の半減期)、tb=120日(代謝による生体半減期)、そしてteff=tptb/(tp+tb)が、二つの半減期を考慮した場合の有効半減期と呼ばれるもの。
これをヨウ素131の場合についてプロットしたものが次の図。
ヨウ素131の崩壊速度(単位は割合にしてあるが、 吸い込んだヨウ素の総数を掛けるとベクレルになる。) |
次のグラフは、上の結果をもとにして、吸い込んでしまったヨウ素131の何%が「総量として」体内で放射線を出すかを計算したものである。
ヨウ素131の全放射線放出量。ほんの2ヶ月で、 吸い込んだヨウ素131の9割が放射線を出してしまう。 |
崩壊半減期に比べて、代謝されて排出されるまでの時間(生体半減期)が長いため、体の中に取り込まれたヨウ素は、排出される前に、ほとんど放射線を出し切ってしまう。つまり、内部被曝は大きくなる傾向がある。放出が終わるまでわずか2ヶ月しかない。(2ヶ月目と3ヶ月目で値がほとんど同じ、ということは、体からヨウ素131が抜けてしまい、放射能がようやく無くなったことを意味する。)計算すると、最終的に、甲状腺に沈着したヨウ素の93.75%が体内で放射線を出してしまう。ベントの際のプルームを大量に吸い込んだり摂取してしまった人は、この「2ヶ月間」のせいで、甲状腺のDNAが損傷を受けてしまう。そして、この先30年間にわたって、甲状腺がホルモンをつくったり、細胞分裂を起こす度に、癌化した細胞を作り出してしまう可能性につきまとわれるのである。
一方、同じように吸い込んだセシウム137はどうだろうか?こちらは、崩壊半減期が30年と長いが、生体半減期は100日とやや短めである。こういう場合は、崩壊する前に体から放出されてしまう率が大きい。計算したものが次の図である。
セシウム137の全放射線放出量。3年(1080日)かけても、 吸い込んだ量の1%弱が放射線を出すのみ。ほとんどが、 放射線を出す前に対外に排出されてしまうからだ。 |
注意すべきは、この「弱い内部被曝」というのは、プルームを一回吸い込んだ場合だけの結論である。セシウム137は崩壊速度が遅いので、環境に残ってしまう。そのため、汚染が長期にわたり、食物や水によって、100年以上もの間、「長期の低レベル被曝」をすることになるのが問題となる。すなわち、別のモデルで分析しないと、正しい結果を導くことはできない可能性が高い。
ちなみに、「セシウム137による健康被害は、チェルノブイリでは認められなかった」と主張する医者や科学者がいるが、まだチェルノブイリの事故から25年しか経っていないことを、彼らは忘れてしまったのだろうか?その影響に対して結論を出せる程、まだ十分時間が経っているとはいえないのではないだろうか?
たしかに、一回の吸い込みだけを考えれば、セシウム137の影響は、ヨウ素131の1/100である。チェルノブイリの周辺のベラルーシで、甲状腺がんにかかった子供たちは、90年代半ばまでの10年間の合計で約400人だったという。単純計算で考えれば、セシウム137によって癌になった子供は多くて2、3人ということになるだろうから、「影響は無い」といえるのかもしれない。しかし、この状況は時間が経てば経つ程逆転する可能性がある。事故から200年経ったときに、被曝2世代目、3世代目の人々がセシウム137のせいで寿命が短くなる可能性は十分ある。
はたしてそうなのか?それとも、やっぱりセシウム137はそれほど怖くないのか?次の考察で考えてみたい。
3 件のコメント:
ストロンチウムも怖いですね。。。
ストロンチウム90....かなり面倒です。崩壊半減期は約29年で、生体半減期がおおよそ50年。骨に沈着すると言われており、その吸収率(沈着率)も考慮すべきでしょう。2つの半減期がおおよそ同じくらいなので、結構いいペースで放射線を浴び続けてしまう気がします。考察は近いうちに行う予定です。
お返事ありがとうございます<(_ _)>
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