2011年8月27日土曜日

内部被曝の調査:(2)放射線医学総合研究所の内部被曝量測定

放射線医学総合研究所(放医研)という国立研究所(形式上は独立行政法人)がある。天下って来ている理事の経歴をみると文科省管轄の機関らしい。ここが、保安院(経産省)の以来を受けて実施したという、ホールボディカウンタ(WBC)による内部被曝線量の測定結果が公表されている。

測定は福島県浪江町、飯舘村、川俣町の住民122人。測定日は6月下旬から7月初旬にかけて(つまり、被曝からおよそ3ヶ月後)。

この計測に関しては、詳細なデータは示されておらず、最高値のみが記されているだけだ。それによると、Cs-137/134の内部被曝量は、それぞれ最高で3800/3100ベクレルだという。誤差幅(エラーバー)が書いてないので、測定精度が良いのか悪いのか不明。(おそらく精度は悪いんだろう。)一方、ヨウ素131は検出されなかったという。

まず、ヨウ素131から。検出されなかったのは当然で、以前の計算によると、プルームなどを吸い込むなどしてヨウ素131を体内に取り込んでしまった場合、90日経つと体内におけるヨウ素131の放射能はほぼゼロになる。理由は2つあって、(1)代謝によって対外に排出されたから、および(2)半減期を大きく過ぎているので崩壊し尽くして消滅してしまったからの両方である。主に(1)の理由で少なくなっているならば健康被害は少ないが、(2)の理由であるならば甚大な健康被害を被った可能性がある。そこで、90日間に浴びた内部被曝を計算してみると、なんと吸い込んだセシウム131の数の90%以上にもおよぶ。つまり、(2)が主な理由であり、吸い込んでしまったヨウ素131はほとんど放射線を出し切ってしまい、そのほとんどが細胞に向かって放射されてしまったということだ。放射する前に運良く排出できたものは10%足らずであるから、内部被曝の観点から見て、ヨウ素131の放射能がいかに強烈かわかる。

今までの計算では、放射性プルームを吸入したとき、どの程度の量の放射性物質を吸入してしまったかのデータがなかった。今回の経産省の発表のおかげで、おおよその検討をつけることが可能となった。

ヨウ素131、セシウム134、セシウム137の3つの核種は、おおよそ同じ質量だから、ウラン235の核分裂による、それらの生成量はほぼ等しいだろうと仮定する。現に、WBCの結果によるとセシウム137と134の内部被曝の最高値はほぼ同じだ。(3800および3100ベクレル)。これらの数値の平均値に近い値3500ベクレルを、以下の計算では採用することにする。

次に、セシウム137の半減期が長いことを利用して、プルームに含まれていたセシウム137原子核の数の推定を行う。ベクレルというのは、一秒間に放出する放射線の数だから、要は放射能の強さだと考えてよい。時間tまでに放出した放射線の総数はNrad(t)=N0(1-2-t/τ)で与えられる。ここでτは半減期を表す。セシウム137の場合、半減期は30年だから、946,080,000秒に相当する。この値は3ヶ月に比べて随分大きい値なので、Nrad(t)のテイラー展開の1次までとってtで割り算すると、放射能の「強さ」が得られる。それは、ln2N0/τ(定数)となる。これが、セシウム137の内部被曝に由来する放射能3500ベクレルに等しいと置けば、プルームに含まれ体内に摂取してしまったセシウム137の量が推定できる。計算すると、それは約5×1012個となる。

最初の仮定に従えば、プルーム中のヨウ素131とセシウム137の数は同じくらいだと思われるから、ヨウ素131の数も5×1012個程度だっただろうと推定できる。(追記:保安院のデータを参考にすると、上記のように1/10となるから、5×1011個と修正される。)

3ヶ月の間に吸い込んだ内、おおよそ90%のヨウ素131が体内で放射線を出してしまったと考えられるから、浴びた放射線の総数は0.9×5×1012=4.5×1012個ということになる。

ここで、久しぶりにベクレルからシーベルトへ変換してみよう。計算を簡単にするため、ベータ線の影響は無視し、γ線だけを考慮する。またガンマ線の放射エネルギーは0.66MeVということで統一する。(これまでの考察が「凡そ」のデータに基づいているので、この程度の精度で十分だろう。)すると、この3ヶ月間で体内に放射されたガンマ線の総エネルギーは4.5×1012×0.66×(1.6×10-13) [単位はジュール]となる。成人男性だと考え、彼の体重を60キログラムだと仮定すると、7.92×10-3(単位シーベルト)、つまり約8ミリシーベルト(!)となる。 年間許容量の凡そ8倍の放射線をわずか3ヶ月で浴びてしまったことになる。大雑把な計算だし、ベクレルからシーベルトへ変換するのは不定性がつきまとうから、8倍という数字は不正確だとしても、おそらく年間許容量の数倍程度の放射線を、3ヶ月という短期間で大量被曝してしまったと思われる。つまり、6月末にWBCで測定して不検出だとされたヨウ素131は、すでに福島の人々の遺伝子を深く傷つけてしまった「後の祭り」だったということだ。(被曝してから数日以内に安定ヨウ素を服用してもらえば、ヨウ素131の甲状腺への沈着率が低く抑えられ、DNAの損傷も少なかっただろう。)

計算によると、ヨウ素131と一緒に放射性プルームに含まれていたセシウム137は、3ヶ月経った段階で吸い込んだ量の0.3%程度しか放射線を出していない。これは2.6μSvに相当する(3ヶ月間の被曝量)。この先2年間は放射線を出し続けるが、それでも全部で1%に届かない(0.9%)。つまり2年間で約5μSv、平均すると一年で3μSv足らずしか被曝しないことになる。汚染された食物を食べていなければ、3年もすればセシウム137は体から排出されてしまうので、ほぼ影響無しで切り抜けることが可能ということになろう。

つまり、WBCで測定すると、数百ベクレルの値がでるセシウム137のほうが、ヨウ素131より怖く感じるが、実際には逆で、既に無くなってしまったものほど恐ろしいということになる。とはいえ、セシウム137が2年ほどで体外に排出されていくかどうかをキチンとモニターしていく必要があると思う。二年経っても放射能を持ち続ける場合は、セシウム137をプルーム以外の経由で摂取してしまっていることを意味する。それは、おそらく食物や水の汚染が原因のはずだ。低レベル長期被曝の影響については、ここで考察してある




追記:保安院から最近出たデータによると、セシウム137の量はヨウ素131に比べておおよそ1/10だという。だとすると、上の試算で得られた3ヶ月で8ミリシーベルトという値は、修正されべきで80ミリシーベルトとなる(!!)。ものすごい被曝量だ。この値が過大評価だとしても、数十ミリシーベルトの被曝をした可能性は簡単には打ち消せないだろう。福島の子供たちの健康が憂慮される。(私の計算あるいは保安院のデータが、どこかで間違っておればよいのだが...)

追記2:安定ヨウ素剤を飲むべきだった、という医学者による報告があったそうだ。上記の通り、まったくもって同感だ。ものすごい量のヨウ素131を福島の人は吸ってしまった可能性がある。

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