2011年3月24日木曜日

東京の水道水の放射能汚染について

東京都の水道が放射能汚染された、という報道が流れた。

首相官邸のホーム頁によると、東京の金町浄水場の上水道の水は「210Bq/L」の放射能を持っているそうだ。(Bq/Lはベクレル/リットルと読み、一リットル中の水に含まれる放射能の強さの単位)

この放射能の原因物質は「放射性ヨウ素」とされている。この「放射性ヨウ素」というのは、どうも工学向けの用語らしいが、要は「131I」つまり「ヨウ素131」のことだ。ちなみに、物理では「β不安定なヨウ素同位体」ということが多いと思う。

またまた「買い占め」の問題が東京を中心に起きているそうだが、そもそもこの「210Bq/L」という値はどういう意味なんだろうか?

身の回りにある放射性の水といえば、ラジウム温泉の温泉水だ。人気のあるラジウム温泉が、どのくらいの放射能を持っているか調べれば、「健康にいい」放射能レベルが推測できるはずだ。ラジウム温泉とは、温泉水中のラジウムが放射崩壊(主にα崩壊)する際に放出するガンマ線により、体を暖めつつ湯治してくれる温泉、いわば「放射能健康温泉」なのである。)

ラジウムというのは、ヨウ素なんかよりはずっと重い元素で、ウランよりちょっと軽い程度。ヨウ素と比べれば、倍程度の重さがある。崩壊はα崩壊だから、ヘリウムの原子核を放出して、安定な元素へと変わっていく。その際、アインシュタインのE=mc2に従って、質量の一部がエネルギーに変わる。これがガンマ線(要は光エネルギー)となる。ラジウムはキュリー夫妻が発見した放射能元素の一つで、キュリー夫人がノーベル化学賞を受賞したのは、彼女のラジウム発見の功績に対するものだ。

さて、wikipediaによるとラジウム温泉などの「放射能健康温泉」のことを、日本では「放射能泉」と呼ぶらしい。その定義は「温泉1キログラム中に111ベクレル以上含む温泉水」となっている。温泉の密度は場所によって異なるだろうが、大雑把な近似として純水の密度、すなわち1g/cc、を用いると、温泉1キログラムは約1リットルと換算される。つまり、ラジウム温泉の温泉水は111Bq/L以上の放射能を持っていて、それが故に、湯湯治に向く、と政府(管轄は環境省らしい)にも認められているわけだ。

「ベクレル」というのは、そもそもは人名で、キュリー夫妻の先生であり、かつキュリー夫妻と一緒にノーベル物理学賞を受賞したフランスの物理学者アンリ=ベクレルのことだ。彼の業績を尊敬して、その名前を放射能強度の単位にしたという訳だ。同様の理由により、放射能の単位には「キュリー」というのもある。1キュリーは3.3×1010ベクレルである。キュリーの単位でいうと、「放射能健康温泉」になるには33.33×10-10キュリー/L以上あればよいことになる。

さて、全国の「有名」ラジウム温泉の放射能を見てみよう。とりあえず、google searchで引っかかったものを使ってみる。このリストの一番上にあるのが島根の池田ラジウム鉱泉で、その温泉の放射能強度は664×10-10キュリー/Lだというから、余裕で「放射能健康温泉」と認定できる。これをベクレルに換算すると、なんと2191(Bq/L)!!!新潟県の五頭温泉郷 (村杉温泉薬師乃湯)や、長野県のいいだ温泉(湯里湖)なども、同じ程度の放射能を持っている。極めつけは、山口県のふかたに峡温泉(清流の郷)なぞは、4217Bq/Lもある。


さて、東京の金町浄水から提供される水道水は210Bq/Lだから、その水を湧かして風呂にすれば、「放射能健康温泉」として認められることになる。しかし、その効能は、山口のふかたに温泉はもちろんのこと、島根、新潟、長野などのラジウム温泉よりも「はるかに劣る」(1/10程度)ということになろう。温泉水をガブガブ飲むことはそうはないから直接的な比較にはならないけれど、身近にこういう「放射能物質」があることを知っておけば、今回の「汚染」の意味するところは、ミネラルウォーターを買い占めるようなレベルではない、という結論になろう。


ところで、今まで空気の汚染の報道では「シーベルト」がよく出て来たが、今度の水の汚染に対しては「ベクレル」が使われている。その違いについての考察は次で。

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