2011年3月28日月曜日

ウラン235の連鎖反応の物理(2:遅い中性子と連鎖反応)

連鎖反応の出発点は、中性子をウラン核に「ぶつける」ところ。イメージとしては、石をぶつけて岩を割る、といった感じなのだが、そう簡単には問屋が卸さない。固くて割れ難い、というイメージではない。それはもっと不思議な現象で、「ぶつけてもぶつけても、なかなかぶつからない」というのが、この二つの粒子の関係。その理由は、単衣に量子力学に帰する。実は「夕焼けがなぜ赤いか?」という問いの答えに、この理由は近い。

夕焼けが赤い理由には、様々な要因が絡み合っていて複雑なのだが、中高校生向けに大雑把に教えるときは「空気中の酸素分子は、青い光だけをよく散乱し、赤い光は散乱しないから」と説明する。つまり、酸素分子にぶつかって跳ね返されることができるのは「青い光だけ」だ。これはレイリー散乱といわれる現象で、量子力学を使って説明できる。

同じく量子力学に従って、ウランに中性子を「ぶつけよう」と思っても、ある特別なエネルギー値をもった中性子しか「ぶつかることができない」。平たく言えば、やたらなスピードで中性子をウランにぶつけようと思っても、たいていの場合は、お化けのように透り抜けてしまう。暗号鍵のように、特別な数字のスピードで向かっていったときだけ、中性子はウランに「ぶつかる」ことができる。

詳細は避けるが、様々な物理的な理由により、連鎖反応できるのは、ウランといっても、その同位体の一つであるウラン235だけだ。ウラン235は天然ウラン中にわずか0.7%余りしか存在しない。残りの99%以上はウラン238という同位体で、これは連鎖反応してくれない。

ウラン235に「ぶつかる」ことができるのは、運動エネルギーが1MeV以下の、いわゆる「遅い中性子」(slow neutron)だけである。(より正確には、「ぶつかる」ことを「散乱」と物理ではいう。)なんらかの方法で、遅い中性子を作り、それをウラン235にぶつけると、核分裂がおきる。この核分裂は、トンネル効果によって勝手に(自然と)核分裂する「自発核分裂」とは異なり、(遅い)中性子を当てることで「誘発」された核分裂だ。

誘発された核分裂によって、ウラン235は、様々な放射線と核分裂生成物に分裂する。まずは放射線から。中性子線は2から3本。即発ガンマ線(prompt γ-rayという)を5本程度、遅発ガンマ線(delayed γ ray)は7本程度、そしてβ線を7本程度である。次に、核分裂生成物だが、遅い中性子による分裂では、まっ二つに均等に「割れる」よりも、アンバランスに「割れる」のを好む傾向がある。その質量分布は130と90付近。実際、東京の水道水を汚染したヨウ素−131は質量数が131だ。また、半減期が長く汚染が問題視されているセシウム−137は質量数が137。両者とも重い方の分裂破片(質量数130程度)に相当する。一方、軽い方の破片核としては、コバルト−60などが福島の事故現場で検出されている。

連鎖反応は、分裂後に中性子線が2本以上飛ぶことに起因する。つまり、最初の反応には遅い中性子を一つしか使わないが、最初の核分裂で中性子は2、3個に増える。例えば、3つ中性子が出たとすると、2段目の核分裂は3つのウラン235で起き、それぞれが3つの中性子を生むとすれば、全部で9個の中性子線が出てくることになる。3段目では27個、次は81個と、中性子の数は増加していく。N段目では3Nとなる。N=10で約5万9千、そして N=20で34億を突破し、これ以降は爆発的に核分裂は進む。これが連鎖反応だ。

1回のウラン235の核分裂によって放出されるエネルギーは200MeV余りである。これは物質の温度に換算すると、おおよそ2.4E12、つまり2兆4000億度に相当する。その上に、連鎖反応のN=20段目にもなれば、34億回以上の核分裂が起きる訳だから、とてつもない規模のエネルギーが解放されることになる。

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