2011年3月28日月曜日

ウラン235の連鎖反応の物理(0:枕段)

大学院入試のときに勉強して以来、久しぶりに連鎖反応の物理を復習してみた。連鎖反応というのは、原子力工学、あるいは核兵器開発にでも関わらない限り、純粋に教養範囲のテーマでしかなく、試験勉強のときも、あまりまじめにやらなかった。八木の教科書でも、最終章で簡単に取り上げられているだけだ。(とはいえ、そんなに疎遠な訳でもなく、大学時代の先輩の一人はT電力の原発で働いているし、英国での教え子の一人はAWEに就職した。実は、このときMI5から役人が来て、彼の性格や能力などについて色々尋問された....)

しかし、連鎖反応は、そもそも先の大戦中にドイツ、アメリカ、日本など世界中の物理学者が必死に研究した物理のテーマ(核物理)だ。もちろん、その動機は原爆開発だったわけで、かなり下心があったのは否定できない。

とはいえ、当時の物理学者にとっても、原子力発電は応用問題に過ぎなかったと思う。一方、工学者にとっては戦後直後の最大のテーマだった。このため、戦後生まれの物理学者は、連鎖反応は物理のテーマというより工学のそれだと思っている傾向がある。しかし、今やそうは言っておれない状況となったのは明らかだ。

福島の原発が事故を起こしたことで色々なことがはっきりした。放射能物質で汚染された国土で生きていかねばならないこと。原発はもう嫌だとは思うものの、計画停電で生じた混乱は事故死者まで出すなど、電気に頼った生活をどうしても捨てられないこと。さらに、化石資源の枯渇と地球温暖化問題のため、石油にはもう頼れないにも関わらず、原発以上の効率で、二酸化炭素を排出しない発電技術をまだ手にしていないこと。

これからの日本において、原子力を肯定するにも否定するにも、「連鎖反応」は国民が絶対に知っておくべき知識となったと思う。何も知らぬまま日本の将来を決めることは、「あみだくじ」で殺人事件の判決を出すようなものだ。

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