ウランの自発核分裂(Spontaneous fission)の確率は随分低い、と教科書(八木1971、新倉書店)に書いてあった。自発核分裂とは、文字通りウランが2つに分裂する現象。ウランの電荷は+92だから、二つに割れたら+46。これはパラディウムに相当する。(実際のウラン235の分裂では「非対称」に割れることが多く、セシウムやヨウ素、コバルトなどが生じる。)
自発核分裂は、量子力学のトンネル効果によって生じる現象で、原子核の構成粒子(陽子と中性子)を閉じ込めているクーロンバリアー(電磁障壁)を、いわば、お化けのように「すり抜ける」現象だ。核の電荷が大きい程、クーロン反発のため通り抜け確率は小さくなる。+2のα粒子は透過しやすく、+46のパラディウムは透過し難い。つまりα崩壊のほうが、自発核分裂よりも頻繁に起きやすい。
崩壊の頻度は、半減期(あるいは寿命)によっても記述できる。例えば、ウラン235(U-235)のα崩壊寿命はだいたい7億年。一方、U-235の自発核分裂の寿命はだいたい1京年(=一万兆年)。これは、自発核分裂より、α崩壊の方が大雑把にいって1000万倍ちかくも崩壊しやすい、ということを意味する。(Wikipediaのデータではさらに差は開いて1010倍=100億倍だとある。)
自発核分裂も、他の核分裂と同じように、分裂時に数個の中性子を出す。つまり、中性子線という放射線を放出するらしい。Wikipediaによると、その平均値は一回の核分裂につき約2個だという。一方α崩壊では中性子線はでない。出るのはアルファ線とガンマ線だけだ。
東京電力によると、地震発生時に原発は「自動停止」したという。この停止の意味は「連鎖反応を停めた」ということだ。連鎖反応(チェインリアクション)は、ねずみ算式に増える大量の中性子を生成する。この生成を制御できないと(というより意図的に制御しないのが)原子爆弾になってしまう。もちろん、爆弾原料に比べ、原発の燃料はU-235の割合が圧倒的に小さいため、爆弾にはなりえないが、それでも「臨界状態」へと陥ってしまう可能性がある。こうなると、高熱と強い中性子線が次から次へと漏れ出すような暴走状態となってしまう。原子炉は破壊し、最悪の場合、中身(放射性物質)が飛び散って周辺を汚染してしまう。原発で中性子線が観測されるのが良くない、とされる理由は、臨界状態になっている恐れがあるため、および、核燃料が原子炉から漏れ出ている可能性があるためだ。
今回の事故では中性子線が出ていることが原発敷地内で観測されている。出所が連鎖反応でないとすれば、自発核分裂しかない。上述したように、この分裂はU-235の場合は稀にしかおきない、と言われている。果たして、今回観測された中性子線は本当に連鎖反応、つまり臨界状態から出ているものではないといえるのだろうか?
原発の構造情報を頼りに、これまでに検出された中性子がすべて自発核分裂からのものだと仮定して、その数を算出してみよう。計算した結果があまりにも少ないとなると、それは検出不能のはずだから、今回検出された中性子は「連鎖反応」つまり「臨界状態」から出て来た中性子であるという結論となり、おそろしい事態を覚悟しなくてはならないだろう。一方、計算した結果が結構大きな数になっていれば、ある程度は検出されるだろうから、臨界になっていると決めつける必要はなくなり、ちょっとは安心できる。つまり、ある程度時間が経ったので、自発核分裂から出てくる中性子がそろそろ見え始めて来た、ということに過ぎないだろう。果たして、どっちに転ぶだろうか?頁を変えて、計算結果を示す。
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