2011年3月26日土曜日

福島原発の中性子線(自発核分裂からの寄与の計算)

前の考察に基づき、計算をはじめよう。
まず、福島第一原発で使用されている核燃料の規模を調べてみよう。核燃料はジルコン製の金属棒の中にまとめられていて、一本の棒の長さが約4m、半径が5mmだという。従って、その体積はπ(5.0/1000)2×4=7.5×10-5立方メートル。(これを7.5E-5と書くことにしよう。)

この燃料棒は束ねられて燃料集合体とされる。この燃料集合体には数十本の燃料棒が束ねられる。さらに、この集合体を数百個まとめて原子炉に格納する。東電のデータを見ながら、2号機の場合について計算してみる。(2号機は圧力容器が損傷、つまり原子炉に穴があいているのではと疑われている。)

2号機における燃料棒の束ね方は「9x9B」式で、72本が一組となって燃料集合体を形成している。その集合体が全部で548個分、原子炉に格納されている。したがって、原子炉内の核燃料の全体積は72×548×(7.5E-5) =3.0立方メートルと概算される。

ウランの密度は、おおよそ1.9E7(g/m3)だから、炉心中の核燃料の重量はだいたい3.0×1.9E7=5.7E7(g)となる。つまり約60トン。ウランの原子量は約238だから、60トンのウランは5.7E7/2.4E2=2.4E5モル、つまり、この数字にアボガドロ数6E23を掛けると、1.4E29個のウラン原子核が含まれていることになる。東電の資料によると、この内わずか2−4%がU-235だという。4%だと仮定すると、5.6E27個のU-235が原子炉には存在することになる。

ところで、U-235の半減期は約7億年。事故から今日まで約2週間、これを15日=0.5ヶ月と見なすとする。半月は1/24=4.2E-2(年)だから、崩壊したU-235の数は5.6E27(1-2-4.2E-2/7.0E8)=5.6E27×4.2E-11=2.4E17個、つまり10京個となる。

そのほとんどがα崩壊だが、わずかな確率で自発核分裂する。その割合はwikipediaによると、崩壊一回に対し7E-11だという。つまり、この2週間で2.4E17×7E-11=1.7E7回、つまり千七百万回の自発核分裂が起きたと推定される。さらにwikipediaによると、一回の自発核分裂で平均1.9個の中性子が放出されるというので、3.2E7個、つまり3200万個の中性子が、放射線として放出されたと推測される。

まとめると、事故当時、フレッシュな核燃料が原子炉に装着されたばかりだと仮定すると、この2週間で約3000万個の中性子が、自発核分裂によって放出されたと推算される。もちろん、事故当時は運転開始からしばらく立っていた訳で、実際にはこれよりは少ないはず。事故発生時の原子炉に、残っていたU-235が半分以下だったとしても、1000万個程度の中性子がこの2週間あまりで、自発核分裂を経て生成されたと思われる。一日あたりの平均とすれば、約100万個程度に相当する。(さらにU-238から発生する分も入れたら、もっともっと増えるはず。)

これらの中性子が原子炉の中で発生するならば、中性子捕獲断面積の大きい制御棒や、ボロン(ホウ酸)などに吸い取られてしまう。さらに原子炉容器の厚い壁に阻まれて、外部に漏れ出ることは、理想的には無いはずで、外部の検出器にはかからないはずである。

しかし、現実はそうなっていない。中性子線が微弱ながらも検出されている。よくないシナリオは、原子炉に穴が開き、そこから核燃料が漏れだしている場合だ。原子炉の外で、自発核分裂の中性子が一日に100万個も作られ、漏れた燃料が水たまりみたいな場所に偶然集まっているとしたら、それが臨界状態にいってしまう可能性がないとは言い切れないだろう。(その可能性はかなり低いだろうが。)

制御棒無しで臨界状態に達すると、爆発的な中性子線の増加が見られるはずで、それは現在起きていないのは明らか。東電のデータをみると、微弱な中性子線がほぼコンスタントに検出されているだけで、これは一定の割合で中性子を出す自発核分裂のシナリオによく合う。これはいいニュースだと思う。

しかし、連鎖反応の引き金となりうる中性子が、外部(外界)に出てきているのは、あまりよくない状況だ。大切なのは、この中性子線量がいきなり増えたりしないかチェックすることだ。

繰りかえすが、2号機は燃料が部分的にメルトダウンし、さらに悪いことに原子炉に穴が開いている可能性がある。外界(空気中)にはセシウムやヨウ素なども飛び散っている。早めに、燃料漏れの有無を確定し、有の場合はその場所の判別、さらに中性子線が問題ない場所から発生しているかどうかを調べる必要がある。放射能レベルが相当高くなってしまったようで作業は困難だろうが、早く解決すればするだけダメージは少なくなるはずだから。

(追記:アメリカの国立核データセンターNNDCのデータで自発核分裂の確率を確認したところ、Wikipediaのデータと系統的に100倍のずれがあることが判明。たぶん、打ち込みエラーだと思われる。)

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