2011年3月25日金曜日

使用済み核燃料はなぜ熱くなるのか?

以前書いたように、「使用済み核燃料」は、通常の使用済み燃料と違って、まだ「燃える」ことができる。「燃える」というのは比喩であって、本当は「熱エネルギーを出す」という意味だ。ここに放射性核物質の怖さ(と同時に面白さ)がある。

ウランは放射性物質だから、放っておくと崩壊してなくなってしまう(より正確には別の原子核に変わってしまう)。この、ウランの崩壊形式には2種類ある。

主要な崩壊チャネルはα崩壊で、アルファ線とガンマ線という放射線を放出する。(アルファ線とはヘリウムの原子核のことであり、ガンマ線は高エネルギーの光子のことである。)ウラン235のα崩壊の寿命は7億年ほど。(これは、例えば、1キロのウラン235が500グラムに減るまでの時間に相当するので、半減期というべきかもしれない。)つまり、一個一個の原子核に着目すると「なかなか崩壊しない」ということになるが、たくさん集まって塊となった場合は「長い間ちびちびと崩壊し続ける」という意味でもある。例えば、0.2gのウランに含まれる原子核の数がだいたい1020個だから、一秒に一回
はα崩壊して放射線を出していることになる。

もう一つの崩壊チャネルは自発的核分裂(自発崩壊)といって、中性子線とガンマ線の2種類の放射線を出す。この中性子線は連鎖反応の引き金になることもあるので、注意が必要になる。今回の福島原発の事故でも、中性子線が漏れていることが報告(全部で13回)されていて問題視されている。その理由は「臨界状態」とか「連鎖反応」と関係しているからだ。連鎖反応を起こすには、中性子線が必要となる。

「使用済み」を考える前に、「使用前」を考えてみる。使用前のウラン燃料を「濃縮ウラン」というが、これは「連鎖反応」しやすいウラン235の濃度を人為的に高めたウラン燃料のことだ。ウラン235を使用していくと当然その濃度は減ってくる。その密度が「臨界密度」を越えて低下すると、連鎖反応しにくくなる。これが「使用済み燃料」である。福島原発では13ヶ月おきに燃料の1/4を交換していたようである。これは「完全に使い切ってから」捨てるというよりは、「効率が悪くなったら」捨てるという状況に近いだろう。つまり、使用済みの中に「燃えかす」はたくさん残っている可能性は高い

使用済み燃料では連鎖反応は起きていない。しかし、「燃えかす」のウランはα崩壊や自発崩壊しつづける。(これらの崩壊によってウランから「化けた」核物質はまだ放射能を持っているから)その結果、ガンマ線などの放射線が放出され続ける。冷却しなければ、どんどん熱が溜まり、数百度、あるいは数千度といった高温になってしまう。

緊急停止した炉心の中の状況も似ている。制御棒によって中性子が吸われ、原子炉から無くなってしまえば、連鎖反応は止まる。これが「核反応が止まった」と表現される状態だ。これにより、連鎖反応によるエネルギー生成は止まり、原子炉は冷え始める。が、今度はα崩壊や自発崩壊が始まり、ガンマ線が放出される。そのエネルギーが溜まってくると温度は再び上昇に転じる。これが「崩壊熱」と言われるもので、一号炉から3号炉までの燃料棒がメルトダウンしてしまった原因である。崩壊熱は水で冷やしてとる、というのがGE mark1のやり方らしいが、今回の事故ではそこが壊れてしまった。

追記:米国の国立核データセンターのホームページの表紙に、ウラン235とプルトニウム239の崩壊熱についての論文が貼付けられた。今回の事故を受けてのものと思われる。英語では崩壊熱のことを"decay heat"という。崩壊熱は、核分裂破片(fission fragment、といい、これは放射線の粒子も含む)の運動エネルギーとして飛散し、環境の熱エネルギーに変わる。つまり、原子炉やその周辺の施設を「熱する」ということだ。)

追記2:また、崩壊熱の危険性については、京都大学を始めとする研究者の間では30年以上も前から広く知られた問題だったようだ。

追記3:「燃えかす」の中には、連鎖反応の崩壊生成物もあることを、上の考察では無視している。たとえば、ヨウ素131やセシウム137などはベータ崩壊し、さらにはその後γ線も放射する。これらも、崩壊熱に寄与するので、崩壊熱は上記の見積もりよりもさらに多くなる。ただし、ヨウ素137の半減期は8日なので、一週間以上経過すると、その寄与は劇的に減ってくる。一方、セシウム137やウラン235、238の崩壊熱は延々と続く。


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