2011年4月16日土曜日

ベクレルからシーベルトへの変換:実効線量係数は誰が決めたのか

実効線量係数は、各機関によって若干異なる場合もあるし、その化学状態によっても異なる。仮に正しい化学状態(つまり単体蒸気)を採用しても、その水溶物の経口摂取に関しての値は存在しない。これだけの事実を鑑みても、ベクレルとシーベルトを直接関係づけるのは、不確定要素がある。

では、一体全体、この係数はどうやって決めたんだろうか?こういう疑問が出てくるのは当然だと思う。(とはいうものの、政府機関やマスコミ、さらには多くの変換プログラムやネット上の情報サイトでは、この係数を鵜呑みにして利用しているようだが....というか、正確に鵜呑みにしてくれればまだしも、誤用している場合も多々見られる。)この情報を探り当てるのが、実は一苦労だった。

最初にヒントになったのが、文科省の委託事業(天下り事業?)の公益財団法人原子力安全研究協会(似たような天下り団体がたくさんあるような気がする...)の運営する緊急被曝医療研修のホームページにあった文。それによると、ICRPなる国際機関が存在し、そこで最初の議論があったらしい。日本の政府関係省庁/団体は、(若干の修正はあるとしても)基本的には、ICRPの結果を引用しているだけのようだ。

ICRP(International Commission on Radiological Protection)、日本語に訳すと「国際放射線防護委員会」というらしい。1928年創立で、事務局はスウェーデン(ストックホルム)にあるそうだ。この国際機関は、その議論内容や決定事項を冊子の形体で発表している。この本が実は有料で、しかも結構高価($110、今のレートで9000円ちょっと)なのが、ちょっとえげつない。研究費で買おうかとも思ったが、欲しいのはヨウ素131の実効線量係数だけなので躊躇した。東大の図書館にでも行けば見せてくれるかな、と思い直す。ちなみに、ICRPのサイト内で検索を掛けても文書の公表はしておらず、がっかりさせられる。見たいのは、この係数のデータが載っているICRP年次報告書第68巻(ICRP Pub.68)およびICRP年次報告書第72巻(ICRP Pub.72)である。


他の調べものをするため、ネット検索していたら、カナダ政府の健康庁(正式な名称は知らないが)のホームページに、ICRP Pub.72の結果の写しがあることを発見。さっそく、読んでみることにした。しかし、この表の写しが、またの混乱を助長しそうな書き方で閉口してしまった。(というか、私は実際混乱した。)

その理由は、このICRPの表には、化合物別の値が書いてなくて、その代わり年齢別の値が書いてあったからだ。それは、3ヶ月、1歳、5歳、10歳、15歳、そして成人の6パターンで、ヨウ素131の欄を見ると、成人の場合は吸入摂取は0.0074 (μSv/Bq)となっていて、これは文科省の委託事業(公益財団法人)のホームページと同じ値だった。経口摂取という欄はなく、代わりに外部被曝の場合の値が書いてあった。(これは単位も違うし、日本政府はこの値は完全に無視しているように見える。)

ちなみに、吸入摂取の場合、同じベクレルの放射能の影響を受けたとしても、1歳以下の子供たちは、成人の約10倍の線量を受けたことになるように係数は設定されていた。つまり、幼児の放射線リスクは大人の10倍だということだ。15歳以下の子供たちのリスクも、成人に比べるとオーダーが一つ上がっていて、凡そ数倍から10倍程度リスクが大きくなるように係数が決められていた。(体が小さいんだから、同じ量を摂取した時、影響が大きくなるのは当然だ。)

このように、統一性のあまりないように見える「実効線量係数」だが、どうやって「計算」されたのか、その概要がついにこの文書中に見つかった。(ちなみに、実効線量係数は英語でEffective dose coefficientという。)

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