2011年4月15日金曜日

ベクレルからシーベルトへの変換:化合物としてのヨウ素131の形

ヨウ素の化学的形態(化合物)によって実効係数が異なるらしいことを見てきた。そこで、ネットで検索を掛けて、それらしい情報をもっているものを探してみた。最初に出てきた2つのサイトが、多分、一番信用できそうだと判断。

まずgoogleで二番目に出て来た日立の原子炉設計に関わる特許の説明書を見てみよう。(ちなみに、日立は福島第一原発の4号機の製造者だ。)「発明の詳細な説明」の0003セクションを引用すると、
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術は、放射性ヨウ素化合物の主成分を単体ヨウ素Iとし、これが環境に放出されないように構成されている。

この特許は、原子炉から排出される排気ガスに含まれる放射性ヨウ素を「濾し取る」ための技術らしい。従来は単体ヨウ素の気体を排除するようなシステムだったが、この特許でヨウ化セシウム(恐ろしい!)などといった微粒子でも排除できるようになった、と強調している。

原子炉を作った本人がこう言ってるのだから、ヨウ素131がとる化合物の主成分は、単体のI2というのは間違いないだろう。ヨウ素の単体は融点113度程度、そして沸点が184度程、ただし昇華(固体から気体に一気に変化すること)しやすいらしいから、原子炉中では「単体の蒸気」に相当する。したがって、この蒸気が空気中の水分に溶け、雨となって降下するのが、おそらく汚染の主要メカニズムと思われる。(といっても、Wikipediaによると、水への溶解度はあまり高くなく、50度の場合100ccの水に約0.08グラム。)

googleで最初に引っかかったサイトも見てみよう。それは東芝の原子炉設計に関わる特許の説明書だ。(ちなみに、東芝は福島第一原発の3号機と5号機の製造者だ。)その「発明の詳細な説明」の0019セクションを引用してみよう。

【0019】ところで本実施例で使用する銀またはカドミウムの量は以下のヨウ素との反応を考慮すれば、ヨウ素が事故時に燃料中からI2 の形で全量放出されたとしても最大20kgであることから、銀,カドミウムいずれも18kg程度であればよい。


2Ag+I2 → 2AgI …(1)2Cd+I2 → 2CdI …(2)


この特許は、銀やカドミウムなどを利用して、放射性ヨウ素を粉粒体(ヨウ化銀やヨウ化カドミウム)に変えてしまおうという技術だ。微粒子であればフィルターで除去できる、というわけだ。上の化学式に、処理すべきヨウ素の化学的形態が記載されている。それは単体ヨウ素、つまりI2。つまり、ここでも原子炉内の放射性ヨウ素の化学的形態は「単体蒸気」が想定されていることが確認できる。

ところで、この東芝の特許は、メルトダウンが起きたり、電源が喪失したときでも、放射性ヨウ素が原子炉の外に飛散するのを防ぐための特許だと主張している。皮肉なことに、今回の事故ではこの特許はまったく無意味な存在だった。この特許文書の0011のセクションを以下に引用しておこう。

【0011】本発明は上記課題を解決するためになされたもので、何らかの事故時に原子力発電所の電源が確保できないような場合にも、ヨウ素の環境への放出抑制並びに炉心の再臨界を防止できる原子炉内構造物を提供するものである。

ヨウ素131は、主に単体蒸気の形で放出されることがわかった。それは、毎日新聞の記事が「ある意味、不正確」なことを書いていることを意味する。

前回の議論で見た毎日新聞の記事に再び戻ってみよう。それは、「1ベクレルの放射性ヨウ素(ヨウ素131のこと)は、経口摂取の場合0.022マイクロシーベルトに相当する」というものだ。これは、おそらく実効線量係数のデータに基づいて書かれた記事だと思われるが、その係数は、蒸気、ヨウ化メチル、ヨウ化メチル以外の化合物で異なっていた。そして、毎日新聞の値は、経口摂取の場合のヨウ化メチル以外の化合物に対応している係数になっていた。しかし、日立や東芝の特許文書を見る限り、この記事で採用された値は「トンチンカンなもの」だといえよう。その理由は2つ。まず、放射性ヨウ素は主に単体蒸気の形であるということ。次に、単体蒸気の場合、経口摂取に対応する係数は存在しないということ。


しかし、毎日新聞に同情する余地もある。それは、日本人がいま気にしているのは、水に溶けた単体ヨウ素であったり、ほうれん草に吸収された単体ヨウ素であったりするからだ。これらは単体ではあるが、蒸気ではない。とすると、吸入摂取にはあたらず、経口摂取を考えたくなるのは当然だ。しかし、どのデータをみても、単体ヨウ素の経口摂取に対する実効線量係数は存在しない。「どうすればいいんだ!」と叫びたくなる。この議論は更に続く

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