S〜c1Bという関係式が得られる。この式が意味するのは、この実効線量係数c1が、人体の呼吸循環システムの全ての情報を秘めているという建前である。
この式を使用するにあたっては注意点がいくつかある。
- 出てくるS(シーベルト)は50年間(成人の場合)の積算量であるということ。
- 吸い込む放射能物質の量B(ベクレル)は、50年間コンスタントに吸い込むという仮定が入ること。
- これは数値モデルを仮定して計算して得られた仮想的な結果(シミュレーション)だということ。(現実の生物、つまり人体を使った実験/臨床データはまったく使用されてない。)しかも、このモデルの仮定は「呼吸による摂取」であり、異なる摂取の場合は、さらに異なる複雑なモデルを作り上げなくてはならない、ということ。
文科省の委託事業が出している数字を見てみよう。吸入摂取に関する実効線量係数は0.0074マイクロシーベルト/ベクレルで、ICRPの値と同じ。つぎに、ICRPからは発表されてない(注:カナダ政府の文書を見る限りだが)経口摂取時の係数値は0.022マイクロシーベルト/ベクレルとなっている。この2つの数字、一見関係ないかと思っていたが、実は
0.0074 × 3 = 0.0222つまり、吸入摂取の値を綺麗に3倍すると、経口摂取の値となる(!)。更に、文科省とNPO団体の値はというと、吸入摂取と経口摂取の値は、綺麗な1:2の関係がある!こういう「奇跡」が起きた時、科学者が考えることは一つ:「なんか嘘くさい」である。
以下の記述は完全に私の想像であって事実とは限らない。しかし、幾分かの真実は秘めているはずである。
まず、ICRPの吸入摂取に対する実効線量計数は、結構大変な数値モデルを走らせて、ある程度科学的にに得られた結果というのは正しいだろう。もちろん、適用限界やら、誤差やらは多分に含むし、その定義もちょっと無理があるように思えるが、あくまで「近似」の範囲を理解して使っている限り「科学的」だ。
さて、この値を元に日本の基準値を決めようとした(官僚)組織があったとしよう。計算のあるところはそのまま利用できる。しかし、自分たちでは計算できないので、計算してないところをどう埋めたら良いか困ってしまう。そこで、口から飲み込むほうが、肺に吸い込むよりも、事態は重大だろうと予想をたてる。とはいえ、10倍、100倍まで差は開かないだろう、と「常識的な」勘を働かせる。そこで、2倍とか3倍とか、ちょっとだけ増やしてみる。1の次は2、2の次は3、という小学校の算数の考え方に近い。
しばらくたって、別の(官僚)組織が縦割り行政のため、似たような基準を(ダブって)つくることになった。この担当者は、化学のことは多少知っていたが、原子炉のことをよく知らなかったため、実際にはヨウ素の単体蒸気だけを考察すればよいものを、ヨウ素の化合物別に数字を作ることを思いついた。「どんな化合物でも飲み込んでしまえば、同じ効果になるだろう」と考え、経口摂取の値は委嘱団体と同じ値を使うことにした。そして、たいていのヨウ素化合物の吸入摂取は、経口摂取よりも影響が低いだろう、ということを踏襲し、3ではなく2で割ることに決定。(まったく同じ3という数字を使うことには抵抗感があったと見える。)ヨウ素単体、およびヨウ化メチルは気化した状態を想定し、「吸入摂取」の値だけをつくることにした....といった具合に適当に空欄を埋めていった。
以上はあくまでもフィクションであり、小説でしかないが、こういうことにならないように、自分で簡単に計算できるように、公式らしきものを導いておくのは、後々有用になるだろう。
3 件のコメント:
T大生の多くは「効率よく答えを出す」のがとても得意です。そして、骨のかかることや、無駄に見えることは極力さける傾向があります。この能力を磨かないと、試験時間内にたくさん解くのは難しいからです。
つまり(ひとに使われて)効率の良く回答する
「計算機」としての能力を磨いた結果、
権威が削ぎ落とした部分の持つ可能性にも考慮しつつ、苦しみながらも正答を導き出そうとする「人間}ではなくなった・・・と。
まあ、悪く言えばそうなのかもしれません。ただ、T大生も人間ですから、苦しんで答えを見つけている点は変わらないでしょう。ただ、無駄足や紆余曲折が少なくなるよう、よく訓練されているだけです。(ある程度は見習うべきことかもしれません。)
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